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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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5-4 フンババ

 七メートル緑色の巨人フンババの木の幹のように太い足首に、深紫色をした破魔鋼の片刃の大斧を叩きつける。


 強撃じゃないけど、身体強化状態の私にとって手加減抜きの一撃。


「はあ?」


 思わず驚愕の声が出てしまった。


 なにしろ、破魔鋼の大斧の刃がフンババの足首に触れていない。


 七層からなるバリア、光輝メラムだったか?


 強力すぎる。


 正直、少しだけ舐めていた。


 破魔鋼の大斧には、防御力低下や魔力暴食の能力があるから、メラムを一層くらいは破れると思っていたのだ。


 破魔鋼の大斧の斧頭部分に広がる血管のような赤い線が強く輝き、貪欲に魔力を食らう。


 でも、メラムを突破できない。


 フンババの魔力で形成された光の装甲メラムを、破魔鋼の大斧に備わった魔力暴食の効果で、急速に貪るけど、それ以上の復元力で押し返されてしまう。


 それに、魔力暴食の効果で強制的に奪った魔力が流れて混んでくるけど、どうにも気持ち悪い。


 フンババの魔力の特性なのか、私の体内の魔力とあまりにも馴染まない気がする。


 けど、足は止めない。


 素早く後退して、振り下ろされるフンババの空間を粉砕するような拳を避ける。


 雑な攻撃だ。


 動きも、狙いも力任せ。


 洗練された要素は皆無。


 それでも、フンババは強いし、速い。


 ブリュンヒルデを中心としたヴァルキリーたちが、絶え間なくフンババを攻撃しているから、フンババの注意力が散漫になって動きがさらに雑になっている。


 それから、三十分ほど私たちと、ブリュンヒルデたちで、フンババを攻撃しているけど、一番外側のメラムすら突破できない。


 つまり、フンババはノーダメージ。


 とはいえ、無意味だったというわけじゃない。


 フンババがまとうメラムの特性が少しわかった。


 おそらく、メラムは一定以上の威力で攻撃し続ければ破壊できる。


 でも、現状は一番外側のメラムも破壊できていない。


 それは、メラムには回復能力があるから。


 一定以上のダメージを受ければメラムは破壊できるけど、そのためには一定の速度で回復するよりも多くのダメージを与えて壊すしかない。


 理屈はわかる。


 問題は、実行できるかだ。


 それに、フンババのまとうメラムはダメージを受けているときに回復はしない。


 極論だけど、一定の間隔で絶え間なく攻撃し続ければ、ダメージを累積させてメラムを破壊できる可能性がある。


 そのことを、四人で共有するけど、ブリュンヒルデたちには言わない。


 というか、言ったところで言葉が通じるかわからないし、なによりブリュンヒルデたちは敵の敵であって、味方というわけじゃないのだ。


 それはともかく、フンババ相手には攻撃力だけじゃなくて手数も重要になる。


 だから、破魔鋼の大斧を収納袋にしまい、代わりに破魔鋼の大鉈を二つ収納袋から取り出し双剣スタイルに切り換えた。


 余裕があるときに破魔鋼の大鉈を二つ作った過去の私を褒めたい。


 ……まあ、わざわざ一つで十分なはずの破魔鋼の大鉈を二つ作ったのは、大鉈の二刀流とかカッコいいよなとか、実に下らない理由だけど。


 手数だけならフレイ鋼の鉈だけど、一撃の威力が足りないから破魔鋼の大鉈を選ぶ。


 ただ、この戦闘スタイルは難しい。


 なにより、大鉈が片手で振り回すことに向いていないのだ。


 けど、そんな大鉈も身体強化をしてれば、動きに多少のぎこちなさはあるけど、問題なく戦える。


 そう、やることは分かっているのだ。


 絶え間ない連続攻撃。


 これだけだ。


 フンババとブリュンヒルデたちの位置を動きを確認。


 フンババの攻撃で、ヴァルキリーが一体吹き飛び、ブリュンヒルデが反撃の一撃を加える。


 それに合わせてハルルフェントの矢と、チャルネトの闇属性の魔法が飛び、続くようにハイラムが青い大剣をフンババに叩きつけた。


 フンババのメラムがわずかに揺らめく。


 フンババの攻撃でハイラムが後退して、私が前に出て左右の手に持った二つの破魔鋼の大鉈を連続で切りつける。


 フンババのメラムがさらに大きく揺らめいて、いけるかと思ったけど、フンババが突如、その場で跳躍して攻撃を回避したのだ。


 跳躍時間は一秒から二秒程度。


 でも、そのわずかな時間でフンババのメラムは完全に回復してしまった。


 回復するバリアとか、面倒すぎる。


 けど、フンババは絶対に勝てない相手じゃない。


 それよりも、私は気になることがある。


 どうにも、ハイラムの動きが悪い。


 ぎこちないというか、全体的に違和感があるのだ。


 でも、ハイラムが戦闘で手を抜いているという話じゃない。


 ただ、避けるタイミングや攻撃のタイミングが、最適から明らかに外れいているのだ。


 けど、ハイラムが作為的に手を抜く理由はない。


 …………いや、違うか。


 ハイラムだけじゃない。


 ハルルフェントやチャルネトの動きも微妙にキレがないし、ブリュンヒルデたちの立ち回りも変な感じがする。


 ……なぜだ?


 いや、周囲の全員の動きが変?


 …………逆か?


 私にだけなんらかの作用があるから、フンババに対して動けるのか?


 私にあって、他の仲間たちにないもの…………もしかして。


「殿下、フンババとはギルガメシュ叙事詩でどんな魔物でした?」


 フンババの注意がブリュンヒルデたちに向いた瞬間に、素早く後退しながら私はハイラムに疑問を投げかけた。


「どんな? 強力な魔物だが?」


 不思議そうに告げるハイラムの言葉を、もどかしく思いながら私は聞きたいことを正確に口にする。


「えっと、そうじゃなくて、フンババは植物と関係がありますか?」


「……なに? ああ、確かに、フンババはレバノン杉の森の番人だったが?」


「やっぱり……フンババは、植物系の魔物。激しく動き回っているけど、バロメッツやトレントイーターと同じか」


 つまり、伐採スキルが通用する。


 一気に、勝利への道筋が見えた気がした。


「フンババは、植物系の魔物です」


 私の言葉に、ハルルフェントが迅速に反応する。


 ハルルフェントが、放つ矢に火をまとわせたのだ。


 たったそれだけで、フンババは余程火が嫌いなのか、ハルルフェントの警戒するようになった。


 意識的に伐採スキルを起動させると、さらにフンババがよく見える。


 フンババを観察しながら、ハイラム、ハルルフェント、チャルネト、ブリュンヒルデたちの位置と状況を把握して頭に情報を刻む。


 この中で一番フンババの動きが見えているのは私だ。


 だから、私が全体の連携を調整する。


 けど、状況は厳しい。


 何度か、フンババの一番外側のメラムを壊せそうだったけど、ダメだった。


 原因は分かっている。


 一つは、ブリュンヒルデたちと私たちが効率的に連携できないからだ。


 味方じゃなし、相手は魔物だから、意思疎通ができなくて当然だけど、そのせいで決定的なチャンスを逃している。


 そして、もう一つが、フンババの脅威は、巨体でも、攻撃力でも、堅牢なメラムでもなく、その体からは想像できない高い機動力ということだ。


 一秒で数十メートル移動する。


 それも、気まぐれに回避したり、ランダムで攻撃する相手をフンババは決めるのだ。


 下手に合理的じゃないから、フンババの動きは読みにくい。


 ゲームのようなヘイトコントロールは通用しないから困ってしまう。


 ただ、フンババは植物系の魔物なのだ。


 理屈の上なら、一人相打ちが成立する。


 机上の空論にならないといいけど。


 姿勢を崩したヴァルキリーを助けるために、ブリュンヒルデがフンババの前に立ちはだかる。


 これは困る展開だ。


 ヴァルキリーはともかく、強力なブリュンヒルデがここで退場されるとマズい。


 戦線がダメになる可能性もありえる。


 だから、比較的狙いやすく、左右から挟みやすそうなフンババの足首に左右から一気に破魔鋼の大鉈を振るう。


「クソっ!」


 私は慌てて後退する。


 フンババの体当たりから、四肢による連撃がくるけど、


「ファイス!」


 ハルルフェントとチェルネトに、ブリュンヒルデの援護により、なんとか回避には成功した。


 でも、気分は最悪だ。


 正直に言おう。


 侮っていた。


 伐採スキルが通用するとわかり、一人相打ちが可能なら、勝てると皮算用をしていたのだ。


 どうしようもない愚か者と言いうしかない。


 けど、一人相打ちの発動は可能だと、伐採スキルが告げている気がする。


 そもそもだけど、私の相打ちはフンババを狙うのが正しいのか?


 もちろん、これは攻撃対象をブリュンヒルデに変更するということじゃない。


 フンババにはバリアのようなメラムがある。


 私の攻撃はメラムに命中したのであって、フンババじゃなかった。


 ……なら、メラムがすべてなくならないと、フンババに相打ちで攻撃することはできない?


 ……いや、伐採スキルは発動していた。


 ただ、相打ちが成立しなかっただけ。


 …………なんだ、それだけの話か。


 なら、相打ちが成立するまで、試行錯誤を繰り返すだけだ。


 それに、フンババは破魔鋼の大鉈二刀流の試行錯誤をするのに向いている。


 理由はあのメラムだ。


 破魔鋼の大鉈が、魔力暴食の能力でメラムから魔力を奪い、私の魔力を回復する。


 身体強化時の魔力消費を日蝕の腕輪だけだとカバーしきれないけど、メラムから奪った魔力があれば事実上魔力切れは起こらない。


 一度、大きく呼吸をして、それで自分の集中が一段上がったと思い込む。


 周辺の状況、フンババの動き、メラムの状態を脳裏に羅列。


 自身の魔力、体力、肉体、装備に問題を確認。


 起動している斧スキルと伐採スキルを強く意識する。


 左右から破魔鋼の大鉈でフンババの足首を挟み込むことを、二十繰り返して成功はない。


 でも、無意味じゃない。


 一人相打ちが成立するための条件を満たしていないだけだ……多分。


 とはいえ、これは難しい。


 そもそもメラムというよくわからないバリアに相打ちを成立させるのが難しいのに、困った変数が私の頭を悩ませる。


 変数その一は、動き回るフンババだ。


 フンババが動くと、表面に展開されているメラムもわずかに変化する。


 他のものにとってはなんの意味もないささいな変化だ。


 けど、私にとっては、そのささいなメラムの変化すら読まないといけない。


 そして、もっとも大きな問題である変数その二は仲間とブリュンヒルデたちの攻撃だ。


 誰かがフンババを攻撃するたびに、メラムにわずかなさざなみが起こり変数となる。


 どちらもメラムの防御力には影響しない変化で、通常なら誰も気にしない。


 でも、私の相打ちを成立させるためには、メラムのささいな変化も重要となる。


 ある程度の長期戦も覚悟していたけど、それは難しい。


 なぜなら、残りのヴァルキリーが六体に減っていいるからだ。


 ヴァルキリーたちは、フンババに無残に頭をかじられ、容赦なく踏みつぶされ、淡々と殴り殺された。


 厳密にいえば、ヴァルキリーもたまたまそれぞれの都合で共闘しているだけで、仲間になったわけじゃない。


 だから、ヴァルキリーたちが死んで心が痛むとかの話じゃない。


 もっと現実的に、戦力減が痛いのだ。


 仮に、ブリュンヒルデたちがフンババに全滅させられれば、一人相打ちを成功させられても勝ち目は薄い。


 ヴァルキリーたちは必要なのだ、勝つために。


 さらに、フンババに破魔鋼の大鉈を振るうこと二百。


 大鉈の双剣スタイルの要点が分かってきた。


 大きく重い武器を左右の手で操るのは、普通の鉈の双剣スタイルの術理とまったく違う。


 体幹と軸を意識しながら、遠心力を味方にする。


 そして一番肝心なのが、一人相打ちのような左右から大鉈で対象を挟み込むような動作の時は、重心を引くことが重要となるとわかってきた。


 左右の大鉈の重さと長さから生み出される遠心力に、振り回されるどころから、意識的に加速させ、フンババに振るうごとに精度を上げていく。


 ブリュンヒルデの攻撃が、フンババのメラムに揺らぎを生む。


 私のなかに、怒りも焦燥もない。


 フンババのメラムに揺らぎが生まれるのは、現状だと当たり前。


 メラムに凪の静けさを期待する方が傲慢だろう。


 ただ、ただ、観察して、見極めて、理解する。


 伐採スキルが告げるのだ。


 一人相打ちは成立しうると。


 難易度が高いだけ。


 それは、偶然かもしれない。


 それでも、私にはその一瞬が見えた。


 フンババを覆うメラムの揺らぎが理解できたのだ。


 導かれるように、通常よりもフンババに対してさらに一歩間合いを詰めて、次の瞬間には身を引き左右の破魔鋼の大鉈を叩きつけた。


 拡散するけど眩しくない光の炸裂と、ガラスが砕けるような崩壊色の悲鳴を響かせ、七層のメラムの一番を外側を私の相打ちが破壊したのだ。


 一度、フンババから離れて、大きく息を吐く。


 頭が冷静になったと思い込み、達成感で浮つきそうになる心を抑え込む。

次回の投稿は9月25日金曜日1時を予定しております。

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