表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/89

4-23 ハルバードと大斧

 羽根飾りの付いた兜に、白銀の鎧を装備した身長二メートルの美女ヴァルキリーの上位種が、憤怒の表情で青緑色のフレイヤ鋼製と思われるハルバードを振り回してくる。


 上位種の攻撃は美しくて見惚れてしまいそうだけど、足さばき、重心移動、軸の回転の連動が雑だ。


 だから、そこを突く。


 とはいえ、それは上位種の致命的な隙というわけじゃない。


 上手に活用すれば生存の道を辛うじて拾えるという心細いもの。


「すぐに私の仲間が他のヴァルキリーを倒すから、それまで君の雑な攻撃をさばき続ければ私の勝利は確定する。余裕ですね」


 実際のところ、余裕など皆無。


 けど、この安い挑発は目の前の上位種には有効なようだ。


 美しい顔を怒りで歪ませた上位種は、正面から突進してきて、暴風のようにハルバードを振り回す。


 駆け引きやフェイントなどない、素直で直線的な一撃。


 でも、それは見惚れるほど鋭く、一切を破壊するように重いけど、その上位種の攻撃は次の動きを想定していない。


 一撃としてみれば最適解でも、次の動きを考えれば最適といえなくなる。


 だから、私は上位種にとって最も嫌な位置を取り続けて、上位種が最も力を発揮できないタイミングで破魔鋼の大斧を振るう。


 けど、結果は危うい拮抗どころか、私が無様に弾かれる。


 私は二十メートルほど弾かれ、関節に痛みが走り、いくつかの骨が折れたんじゃないかと錯覚してしまった。


 上位種の攻撃を迎撃しただけで、それほどの衝撃を受けたのだ。


 でも、上位種はよそ見をしないで、私を執拗に狙う。


 ありがたい。


 他のヴァルキリーと上位種が、連携されるとマズいから、現状は想定通りだ。


 ただ、予想以上に、私がもたないかもしれないと、内心でかなり焦っている。


 全身をまとわりつくように流れる冷汗が気持ち悪い。


 上位種の雑な隙はみえているのに、それを勝機につなげることができない自分が、どうしようもなく情けなくて悔しくなる。


 五回、十回と上位種は私を吹き飛ばすけど、どこまでも私だけを狙う。


 私のなかで焦燥の炎が大きくなる。


 ……想定外だ。


 私の肉体へのダメージが予想以上にデカい。


 上位種の攻撃を迎撃するたびに、破魔鋼の大斧を握る手から力が抜けていき、関節が悲鳴のような痛みを訴えてくる。


 完全に、上位種のパワーを見誤っていた。


 このままだと、あと数合で私は死ぬだろう。


 上位種を見すえながら、自分の身体能力を強化する。


 身体強化の影響で、破魔鋼の大斧を振りかぶる動作ですら違和感が大きい。


 現状だと、自由自在に手の延長のように破魔鋼の大斧を扱うのは無理だ。


 けど、身体能力を強化しないと、上位種の攻撃を迎撃することすらできない。


 見惚れるような上位種の動きに合わせて踏み込み破魔鋼の大斧を振るうけど、私の攻撃のタイミングと移動がズレてしまう。


「クソが!」


 イラ立ちが口からこぼれる。


 自分自身を制御できない。


 上位種のハルバードと破魔鋼の大斧がぶつかった瞬間、私は数十メートル吹き飛ばされる。


 周囲の木の幹に着地すると、魔力で作られた光の槍が飛んでくる。


 体勢が悪いから、光の槍を破魔鋼の大斧で迎撃するのは不可能。


 横に跳躍して回避しながら、腰からベルセルク鋼の手斧を引き抜き、上位種に投擲する。


 残念ながら、手斧は簡単に上位種に防がれてしまった。


 でも、私が体勢を立て直す一瞬を稼ぐことには成功している。


 上位種を見つめながら状況を分析していく。


 私はかなり無様に吹き飛ばされていたけど、実のところ悪くはない。


 肉体へのダメージだけを考えれば軽微。


 私の隙とか、体勢が崩れるとか、色々問題はあるけど、身体強化なしでやるよりはかなりいい。


 もちろん、余裕なんて皆無だ。


 薄氷の生存。


 ……けど、楽しい。


 正確にはハルバードだけど自分より上手な斧の使い手と、私は身体強化の習熟をしながらやり合える。


 ……実に有益で楽しい。


 まあ、次の上位種の一撃で死ぬかもしれなけど、それはそれだ。


 私はどこまでも斧を極めることを楽しむ。


 上位種の動きを、斧スキルで詳細に分析。


 自身の動きと比較。


 同時に、身体強化による誤差も修正。


 自身の動きが良くなったと、思い込む。


 上位種の位置と動きから、最適な迎撃のタイミングで破魔鋼の大斧を振るう。


 青緑色の軌跡を深紫色の軌跡が交差して、私があっけなく吹き飛ばされる。


 でも、心にあるのは歓喜。


 絶望なんて皆無。


 なぜなら、成長したから。


 第三者からみれば、ささいな成長だろう。


 けど、そんなことは関係ない。


 私は確かに、身体強化をわずかに使いこなし、破魔鋼の大斧を振るう精度が上がっている。


「私に、もっと見せてくれ!」


 自然と私は笑いながら突進して、上位種の重心と軸とハルバードを振るう動きのズレるタイミングで仕掛ける。


 力任せで雑になりそうな自分自身の動きを制御できると言い聞かせて、自身の重心、軸、指の一本の動きにまで研ぎ澄ませていく。


 それでも、二十回以上吹き飛ばされて、五回は死にかけた。


 今、私が生きているのは偶然だ。


 でも、私から笑みは消えない。


 それどころか、まるで恋でもするかのように、胸が高鳴りときめいている。


 まあ、正確には上位種じゃなくて、上位種の斧に関する技術にだけど。


 上位種の持ちうる技術のすべてが欲しい。


 そして、少しわかったことがある。


 上位種の動きのチグハグさを表現するなら、アクションゲームで最適の美しい攻撃モーションをするキャラを下手なプレイヤーが動かしているような感じだろうか。


 だから、ゲーム的にいうなら、コンボがつながらないし、立ち回りが状況とかみ合っていないから、なんとか私は死を回避している。


 一合ごとに吹き飛ばされても、私の視線は常に上位種から外れない。


 上位種の一瞬一瞬の動きを、斧スキルと自分の積み上げてきた経験で分析して自身に落とし込む。


 けど、足りない。


 届いていない。


 だから、簡単に吹き飛ばされる。


 上位種のハルバードを振るう術理も、自身の身体強化に対する理解もまるでダメ。


 でも、それだけだ。


 身体強化された私の体は、何度吹き飛ばされても、斧を振るうのに支障は出ていない。


 ……つまり、この逢瀬を続けられる。


「……ヴァルキリーが一体、倒されたな」


 私の口から出た言葉にわずかに棘が混じってしまった。


 それどころか、舌打ちすらしそうになる


 魔力の反応から、ハイラムがヴァルキリーの一体を倒したとわかる。


 味方が有利だという朗報だ。


 けど、私のなかにあるのは、上位種との時間が終わってしまうかもしれないという身を焼くような焦燥にも似た恐怖。


 上位種が、一瞬だけ視線を他のヴァルキリーたちへ向けた。


 上位種にとっては、ただの状況の確認でしかない。


 そもそも、魔物に仲間意識があるのかもわからない。


 ある意味でチャンスだ。


 勝機というには弱いけど、上手に活用できれば流れを変えられるかもしれない。


 でも、そんな駆け引きは私の頭のなかにはなかった。


 ドロッとした黒い怒りの感情に突き動かされる。


 …………いや、これは怒りじゃない。


 荒れ狂うような醜い嫉妬だ。


 目の前で戦っている私よりも、上位種が別のことを優先したから、醜く嫉妬している。


 魔物を相手に、嫉妬とか、私は子供か、と言いたくなってしまう。


 とはいえ、状況と私の心は一致している。


 全力で、上位種の視線と意識を私に引き戻す。


 破魔鋼の大斧を振りかぶる。


 身体強化で感覚がズレると訴えてくる内なる甘えを黙らせて、どこまでも修正して、修正して、修正する。


 上位種の見せた斧の術理を分析して、斧スキルで自分の動きに反映。


 突進から、強撃で破魔鋼の大斧を振るう。


 慌てて反応する上位種が、わずかに驚愕の表情を浮かべる。


 拮抗は、刹那。


 すぐに、私は吹き飛ばされた。


 けど……見えた。


 わずかに、届いたのだ、私の到達していない未知の領域に。


「……もっと、もっと、見せて!」


 さらに、五合。


 拮抗は一秒になる。


 馴染んで、理解できた。


 身体強化を。


 身体能力の上限が上昇するというよりは、下限から全体が引き上げられるような感覚。


 だから、どうしても、体を制御する感覚にズレがあった。


 でも、理解できたなら、あとは修正するだけ。


 二十合、拮抗する時間が徐々に長くなる。


「完璧じゃないけど、身体強化が分かってきました。それに、身体強化のおかげで、通常の自分だったら不可能な動きも実行可能。わかりますか? 動きとして最適だけど、身体能力が足りなくてできなかった動きって、あるんですよ」


 私は燃え上がる心で、静かに上位種を見つめる。


「……だから、全部、君にぶつけるから、受け止めて下さい」


 ある意味で、前世を含めて私にとって、もっとも情熱的な言葉かもしれない。


 刃を交えるごとに、相手を理解して、相手という存在を自身とする。


 ……まあ、斧の扱いに関してだけだけど。


 さらに、五十合。


 上位種の術理が、理解できるようになってきた。


 そして、現状の私だとどうやっても再現不可能だと。


 けど、ハルバードを扱う術理は理解できて、私が努力すべき道しるべにはなった。


 もっと、欲しい。


 貪欲に、上位種の術理のすべてを吸収したいと、焦がれるように願ってしまう。


 常に、上位種を視界の先に捉え続けて、斧スキルと自身の積み重ねてきた経験で動きを読み、立ち回りとタイミングで有利に動く。


 基本となる身体能力で上位種には遥かに及ばず。


 斧の扱いでも、私に比べて上位種はステージが違う。


 私は身体強化に慣れて、斧への理解も深まって、上位種との差は確かに縮まった。


 けど、縮まっただけだ。


 上位種の背中に追いついたわけじゃない。


 指先が触れたかもしれない程度。


 小手先の技術で、騙し騙しでなんとかしているだけだ。


 まあ、心はわき立つようにハイになっているから、自身の死を恐れる悲壮感はない。


 むしろ、たかが、死ぬ危険のために、この技術に触れ合う機会を逃す方が嫌だ。


 自身の命を軽視しているわけじゃないし、死を見くびっているわけでもない。


 ただ、私にとって、目の前の上位種の斧を扱う技術にはそれだけの価値があるということ。


 青緑色のハルバードと深紫色の大斧がぶつかり合って物騒に響く二重奏。


 どこまでも心地よく、耳を傾けていたいのに。


 その瞬間、私の心から熱が引いていく。


 まるで、手のひらを返したように。


 簡単にいうなら、私は白けてしまったのだ。


 上位種と私は、ある意味で斧スキルでつながっていた。


 でも、突然、そのつながりが断たれてしまったのだ。


 私のなかにあったのは、戸惑いじゃなくて理解。


 上位種の武器はハルバード。


 簡単にいえば斧と槍の複合武器で、状況に合わせて斧と槍の使い分けができる。

 

 つまり、上位種はハルバードを槍として使おうとしているから、私は斧スキルで上位種の動きを読むことができなかった。


 大切な絆が断たれたような喪失感と寂寥感におそわれる。


 そして、斧スキルで読めない上位種のハルバードによる刺突によって、私が手にしていた破魔鋼の大斧が吹き飛ばされってしまった。


 まあ、そもそも論として、上位種は魔物で、私に対して殺意以外の感情などなく、大斧とハルバードのぶつかりあいも楽しんでいたわけじゃないだろう。


 だから、そこに他意などなく、上位種はただ効率的に状況的に槍としてハルバードを使うのが最適だから、そうしただけ。


 ただ勝手に、私が盛り上がって楽しくなっていただけでしかない。


 けど、今の私に心のなかには、上位種に対してなぜか冷めた気持ちしかない。


 なぜだろう?


 これがいわゆる前世で聞いたカエル化というやつだろうか?


 それはともかく、状況を終わらせる。


 確かに、上位種の槍を振るう動きは斧スキルだとわからない。


 でも、それは私が上位種の槍攻撃に対処できないことを意味しない。


 なにしろ、斧スキルで動きが読めないということは、つまりその瞬間にハルバードを槍として使うことがわかるということでもある。


 そして、通常の槍と違いハルバードを槍として使う場合の攻撃方法はほぼ刺突。


 上位種の攻撃のタイミングと方法がわかるということ。


 あとは、自分のなかに蓄積された戦闘経験を活用して判断すれば対処は可能。


 上位種の武器が普通の槍なら対処は不可能だし、ハルバードを斧として使い続けていたら、私に勝ち目はなかった。


 わざと、緩めに握っていた破魔鋼の大斧が、私の手から吹き飛ぶのは予定通り。


 私はそれに合わせて、一歩踏み込み、左右の腰に吊るしたフレイ鋼の鉈を引き抜き、上位種の鎧で覆われていない両腕の部分を切断。


「ギャアアアアーーー」


 叫び声をあげる上位種が左右の二の腕の切断面から赤い血を吹き出しながら、魔法の光の槍を構築。


 フレイ鋼の鉈で迎撃は無理。


 間合い、姿勢、状況から回避は不可能。


 死地。


 冷汗が全身から吹き出す。


 死神の足音が聞こえた気がする。


 けど、突如、上位種の頭が吹き飛んだ。


 魔物とはいえ、美女の頭が目の前で砕け散るのはなかなかグロい。


 上位種の飛び散った血と眼球が私の顔面を叩いて、生き残ったという安堵よりもなんとも微妙な気持ちになる。


 そして、私の命を助けた、弓を構えたままのハルルフェントを見れば、なぜか私を睨みつけているのだからわからない。


 近寄ってきたハルルフェントは不機嫌そうに、


「裏切者」


 とだけ言って沈黙した。


 私はハルルフェントのなにを裏切ったというのだろう。


 まったくわかならない。


 ただ、笑っているハイラムと、困った表情のチャルネトの様子から、第三者から見たら自明のことのようだ。


 まあ、落ち込んでいたハイラムが一時的にでも笑顔になって良かったと思うことで、私は現実から目をそらす。

次回の投稿は7月31日金曜日一時を予定しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ