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二人の話では、この世界は私のいる世界と同じ地球という星にあって、海と大陸があるそうだ。
ただ大陸は一つしかなく、そこに東西に分かれて二つの国が存在する。また、大陸の南の果てにはまだ見ぬ島がある、と信じられているけど定かではない。
二つの国はそれぞれの国内で小さな州に何百と分かれており、州ごとに統治されている。
国同士はいがみあい、数年に一度の割合で国境付近で小競り合いが起きてしまう。お互いがお互いの領土を広げようと、常に画策しているのだとか。
「我々がいるこの国はコラルータ。東西で言ったら東側の国だ。ほとんどの国民は、自分がどちらの国に属しているかは関心がないがな」
苦笑しながらソルテがこぼした。
州自体が小さな国という認識が強く、国は単にそれを取りまとめているだけと考えている国民が多いからだという。
また税金は州に対してのみで、国税は存在しない。州はその税収の一部を国に納めているので、当然国に対する認識が薄れてもおかしくない。
私たちが扉から出て、一番近い村にたどり着くまでに二人はそんな話をしてくれた。
扉は山の中腹にある洞窟の、入口付近に据えられていて、外からは見えない位置にあった。さらに小雨が降っているから視界もよくない。だから小屋の中から見たときに、こちら側がわからなかったんだ。
「あんなところに無造作に扉があったら、他の人が簡単に入れるんじゃないの?」
もし私が洞窟の中に扉とか、不思議な光景を見つけたら興味本意で開けてしまう可能性がむちゃくちゃ高い。
「はは、お前さっきまで扉見えてなかっただろ」
アルトが何言っているんだと笑った。
「え、じゃあこっちの人にも見えないの?」
「ああ、見えるのは担い手と託されし者のみだ」
「見えた。もう遅いから、今夜はあそこに泊まらせてもらう」
ソルテが山道を下った所に見えるいくつかの灯りを指差した。
こちらに来た時に瓶を手にしたままだった私を見て、ソルテが肩から下げられる紐つきの袋をくれていた。
瓶はそこに入っているけど、岩にぶつけるんじゃないかと気が気じゃなくて、結局袋に入った状態でがっちり握ってしまっている。雨で地面が濡れていることも合間って、何回かつまずいてしまい、その度に二人をハラハラさせたのは言うまでもない。
変に神経をすり減らしていたところに朗報だ。やっと休める。
安堵でいっぱいになりかけた私に、今度は別の緊張が押し寄せた。
こちらに来てから始めて他の人に会う。私の表情が堅くなったのを見て、ソルテに大丈夫だと頭を撫でられた。続いてアルトにも頭をポンポンされる。
「心配するな。あそこにいるのは、扉を守っている者達だ。事情をわかっていくれる。コージのことも知ってるぞ」
「おじいちゃんも来たことがあるの?」
「コージは何回扉閉めたかわからねえな。自分でそう作ったくせに、毎回ぶつぶつ文句言うんだ」
二人は祖父を懐かしんで笑いあった。かつて祖父も来たことがある場所。
そこに私もいる。
自然と顔がほころんだ。
村はぐるりと高さ2メートルほどの塀で覆われていた。入口は乗用車が通れるほどの幅を取った大きな扉と、人が一人が通れるほどの小さな扉が隣り合っている。小さな方の扉にはさらに小さな小窓がついていた。
ソルテが扉を三度叩くと、小窓から人が覗いた
。
「何用だ」
「夜遅くすまない、担い手だ。長に取り次ぎ願いたいのだが」
小窓の向こうにいた男性は、胡散臭げに目を細めてソルテからアルト、そして私に視線を移し顔を引っ込めた。向こう側でわいわい話しているのが聞こえる。
私は無意識に不安げな顔をしていたのか、アルトが肩を竦めた。
「まあいつもこんなもんさ。担い手は多くないからな」
しばらく待つとさっきとは違う男性が小窓から顔を出した。先程の男性と同じように目を細めた後、ハッととした表情で、
「ソルテ様・・・」
と呟くと、人用の扉を慌てて開けた。
開けてくれた彼は50代くらいの、眼鏡をかけて疲れた表情をした人だった。
彼はソルテとアルトにお辞儀をしてから、私が肩から斜めに掛けた袋を見てにっこりと笑った。目尻にシワが寄る。
「ようこそいらしてくださった。カオリ様で間違いないでしょうか」
「わ、私の事をご存じなんですか?」
まさか名前を知られているとは思わなくて、目を丸くする。
「コージ様のお孫様でしょう?お話はかねがねお聞きしてますよ」
そう話ながら、彼は私たちを塀の中に招き入れた。
遠くから見たときは、村だと思っていた塀の中には家が2軒しか建っていなかった。
茅葺き屋根に土壁。狭くはなさそうだけど、現代日本の家を見慣れた私にとってはとても古風に写る。
そんな家が、少なくとも2、30軒は建ちそうな敷地に、身を寄せ合うかのように隣り合って建っている。
いくつも見えていた灯りは篝火だ。
緊張していた私は騙されたような気分になって、二人を睨んだ。
確かにね、勝手に村だと思い込んだのは私だけどね。何で言ってくれないわけ。
「このような場所で申し訳ないです。昔はもっと人がいたんですがね、色々ありまして、今はこんなものです。こちらの家へどうぞ」
促されるまま入った家の中は、ちゃんと掃除が行き届いていてきれいだった。
扉を開けると土間を挟んでさらに扉が出てきて、少し驚く。
冬に寒くなる地方では、寒気を極力部屋に入れないよう、そういう構造になっているとテレビで観たことがある。
寒いのは嫌いじゃないけど、寒すぎないといいなあ。
白い皮張りのソファと木造の棚。壁も木造。暖炉まである。火は入っていないけど、こちらもちゃんと手入れされていてきれい。そのせいか、どれも外見と同じく使い込んでいるという印象があるけど、古いという印象はない。
ここはどうやらリビングで、部屋を通り抜けて奥の部屋がダイニングのようだ。さらに向こう側にキッチンが見える。
「気に入りましたか?」
私の顔が微笑んでいるのに気づいた眼鏡の男性はまた目尻にシワを寄せた。
カントリー調と言っても過言ではないこの部屋を見て、嫌いと言う人は少ないと思う。
「コージ様もここに初めていらしたとき、そんな顔をしていました」
私の笑みが深くなったのを目にした彼はも、シワを深くした。
「長殿、申し訳ないが一晩泊めていただきたい。さっきこちらに戻ってきたところなんだが、こう暗くては危険だからな」
「ええ、もちろんです。そのために我々はおりますので。どうぞお好きにお使いください。食事が必要でしたら、キッチンに用意してあります」
そう言うと彼は深々とお辞儀をして、家を出ていった。
「あ、あの人たちの家取っちゃっていいの?」
部屋を借りるだけかと思っていたのに、家ごと借りるなんて。
「ああ、最初に出てきた男と長以外に3人しかいないからな。問題ない」
「え、ここ5人しかいないの?」
「そうだ」
話ながらキッチンに移動した私たちは、濡れた服をかるく拭いてから、竈の上に乗っていた鍋からスープを戴いた。トマトと思われる野菜ベースのスープは優しい味わいで、他の野菜もたくさん入っていて満たされる。
アルトがどこからかパンを取り出してきて、こちらに寄越してくれた。そのままだと固すぎるけど、スープにつけるとほどよく柔らかくなって、美味しい。
て言うか、こんなに勝手にいただいてしまっていいのかな。
「気にするな。彼らは我々が来なければ仕事にならない」
もぐもぐしながら私が微妙な顔をしていたのに気づいたソルテがさらっと言う。
「仕事?ここって何の為にあるの?たった2軒しか家がないのに生活って成り立つの??あ、ありがとう」
アルトが無言で立ち上がり、ほとんど食べ終わっていたスープ皿を引き取って、もう一杯よそってくれた。
そういえば夕食を食べそこねていたっけ。どおりでお腹が減っているわけだ。
私のお礼に彼はうんと頷いた。
「俺たちはある少数民族の末裔なんだ。半分色が違うのが一番簡単な見分ける方法だな」
二人を交互に見て頷く。アルトは半分オレンジ、ソルテは深い青だ。
「あいつらは故郷を同じくする、同胞、というやつだな。同胞であり、同じ民族であり、俺たちの協力者である」
「協力者が何で必要なの?」
「俺たちは国に追われてるからさ。正確に言うと、瓶を持っている託されし者と、その担い手だな」
「何それ、まんま私たちじゃない」
口を開けたまま呆けた私に二人は重々しく頷いた。
「国の連中はその瓶が喉から手が出るほどほしいんだ。狙ってる」
アルトはそう言って、手にしていた木製のスプーンで私の腰辺りにぶら下がっている瓶を指した。
「ただの瓶じゃないの?」
「ああ。だからカオリ、絶対に俺たち以外にはそれを見せるな」
ありがとうございました




