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空瓶  作者: 菜河
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同じような屋台が並ぶ中、さらに街の中心に向かって歩くと広場が現れた。

丸く作られた広場には中央に噴水があって、噴水の周りには人工的に作られた池らしきものもあった。

赤煉瓦でぐるりと囲まれた池には、今は水は入っていないし噴水の水も出ていない。

噴水の下には彫刻があって、体に布を巻き付けた髪の長い人(多分女性だ)が空に向かって手を広げている。という姿を象ったものだ。

目は開いているけど、眉は歪められて悲壮感漂う顔になっている。


見ていてあまり楽しい気分にはならない彫刻だな。


ぼんやりとそんなことを考えた。

広場に面している建物は、全部中心の噴水に向かって入り口が設けられている。広場からは6方向に向かって放射状に道が伸びて、それぞれの先はどうなっているのかよく見えないけど、私たちが歩いてきた道とそうかわりはないように見えた。

「こっちだ」

アルトは6つある内の1つ、一番狭い道を選んで歩き出した。道にはすぐに階段が現れて、それを登っていく。傾斜がそんなにある訳じゃないから、一段一段は高くないけど、地味に疲れる。

前方にずっと続いている階段を見てげんなりしているところでアルトが立ち止まった。


階段の右側に表れた扉の前で呼吸を整える。アルトは一回だけノックをして、取っ手に手をかけた。中からの応答もないうちに扉を開けたことに半ば唖然としてしまう。


「アルト、よく来たね」

扉の向こう側に垂れ下がっていた布を押しやり、中に入った。中は薄暗くてよく見えない。

入ってすぐのところに座っていた男性が私たちを見るとやわらかく微笑んだ。

アルトやソルテみたいに頭に布を巻いている。

「それ、取って大丈夫だ」

アルトに促されるまま被り物を取って、布越しではない彼を見る。

彼は複雑ながら織り上げている高そうな絨毯の上に胡座をかいて座っていた。私たちと同じような動きやすいフード付きの服を着ているけど、頭に巻いた布をしっかり止めていないのか、端を左肩にだらりと垂らしている。


「カオリ、で間違いないかい?」

彼の後ろには壁があるし、彼自身が目の前に見えているのに彼の声は100メートル先から聞こえてくるように霞んでいて、思わず目を丸くした。本当に彼が話しているのか疑わしくなる。

「イリヤラ、ふざけんな」

訝しげな顔をしていた私を見たアルトはため息をついた。

「おまえいいかげん大人になれっつってんだろ。人からかって遊んでんじゃねえ。怒るぞ」

見ると心底呆れた、というような顔をしたアルトと目があった。

「カオリ、こいつは俺たちの仲間でイリヤラだ。さっきの話し方は一発芸みたいなもんで、他人をからかうときに使う」


何それひどい。


「えー、何で言うかなあ」

途端にさっきまでの微笑みを引っ込めて、眉を八の字に下げた上口を尖らせた彼は肩に垂らしていた布を弄んだ。

「僕なりのお近づきの印だと思ってほしいんだよね。霞の声・・・なんて久しぶりに出したし、楽に話せるわけでもないのにさあ。アルトこそ、もう少し子供心を大切にした方がいいよ。あと、間ね、間。僕の歓迎が台無しだよ台無し。ひっどいね」


なんだろう、とりあえずイラッとする。


イリヤラは弄んでいた布を今やブンブンぐるぐる顔の横で振り回している。

そこをアルトが殴った。

殴った、と言っても、ポカッと頭を叩く程度のものだったけど。

「てめえ、いいかげんにしろよ。本当に怒るぞ」

「いったいなあ、殴らなくたっていいじゃん」

頭をさすりさすりイリヤラはアルトに非難の視線を向けた。

「ねえ、カオリもそう思うでしょ。明らかに緊張してるカオリを慮っての行動だよ。何で僕が怒られるのさ。大体ねえ、もう既に怒ってるでしょ。そういうの事後報告っていうんだよ、知ってる?」

「うん、とりあえず初対面で失礼だとは思うけど、一発殴っていい?」

遮らないと永遠に話していそうなイリヤラの言葉に割り込んで、溜め込んだ鬱憤を晴らしてみようかな、とか考えてみる。

アルトは私の言葉にニヤリと口の端を歪めた。

「止める理由はねえな」

「何それ!横暴!横暴だよ!何考えてるんだよコージの孫は。コージの方がまだ紳士的で大人だ。さては君アルト贔屓なんだな。理解できない。こんな、言葉遣いも礼儀もなってないひよっこが・・・」

途中祖父の名前が出てきたけど、それに気を向ける間もなく言葉は止まらない。呆れて物も言えないってこういうことを言うんだな。なんて、大変失礼なことを言われていると自覚しながら考えた。

「そもそもね、扉があったらノックするでしょ。ノック。さっきの一回じゃノックなんて言わないよ。そういう基本的な事が身に付いてないのに何で君が先に色落ちするのさ・・・」


色落ち?


不意に出てきた聞き慣れない単語を疑問に思ったところで、ゴツン!とバシン!が合わさった音がした。

ゴツンはアルトがイリヤラの頭を盛大に殴った音。

バシンはいつの間にか部屋に入ってきた女性が、持っていた書物でイリヤラの横っ面を盛大に叩いた音だ。

「おうアルト、相変わらず気が合うねえ。お前さんのそういうところ、あたしゃ気に入ってるよ」

さっき私も殴っていい?とか聞いたけど、もちろん(そこまで)本気じゃなかった。だから、アルトが本当に殴ったことに驚いた。口をぽかんと開けて目を見開く程度には。


でも、良い気味だ。





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