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いくら歩いても、どの道を曲がっても、同じような町並みが続いていて同じところをグルグル回らされてるんじゃないか?
と疑問に思ったところで、長老さんがふとこちらを振り返った。
「不安かい?」
思わず頷いてしまった。
「不安はええよ。生きてないと感じられない。そうじゃな、強気もええし優しさもええ。よく覚えておきなさい」
長老さんの言いたいことがよく理解できなくて、首をかしげる私を彼は面白がり声をあげて笑った。
「フォフォフォ、そうかわからんか。安心せいな、その内わかる」
小雨はシトシトと降り続き、足下の地面を濡らす。踏み固められた地面はぐちゃぐちゃとぬかるみはしないものの、滑りやすい。何度も足を取られそうになる。
そうして彼は何故か機嫌良く私たちの前を歩いていく。
もう何度角を曲がったかわからなくなった頃、いきなり目の前が開け、10メートルほど離れた先に壁が現れた。壁は20メートルぐらい高さがあって、入ってきた時の物と同じ物だとわかる。
さらにその壁づたいにしばらく歩くと遠くに門が見えてきた。
「このまま進めばたどり着けるじゃろ、道中どうぞお気をつけください」
ソルテとアルトを交互に見てから、長老さんは意味ありげに頷いた。
「ああ、騒がせてしまってすまなかった」
「いえいえ、それが世の理。気にしないで下さい」
長老さんはうんうんと嬉しそうに頷いて見せた。しわしわの顔がさらにしわしわになっている。
「お前さんもな、くさくさせんと前を見てな」
彼は私の肩を何度も揺さぶってからしわしわになった顔をさらにさらにしわしわにした。
励まされてるのはわかる。でもなんだかよくわからなくて、とりあえずお礼を言っておいた。
「コージに似ておるの、フォフォフォ」
いきなり祖父の名前を出されて目を丸くしている私に、彼はいたずらが成功したみたいなお茶目な顔をした。
「祖父をご存じなんですか?」
「知っとるよ。最後に会ったのはもう何年も前じゃけど、あれは良い御仁じゃった。お前さん、名は何という?」
「かおりです」
彼はそうかと微笑んで、首からジャラジャラと下げていた数珠を一つ外し、さらにばらした珠を差し出した。
「カオリ、一粒で悪いがの。これを持っていきなさい、御守りじゃ」
私が遠慮する間もなく手に押し付けられたその一粒は濃い緑色で、何かの宝石のようだ。透かすと結晶の層が見える。
「・・・ありがとう」
なんだか高価そうな物を戴いてしまって、申し訳ない気持ちになりつつお礼を言った。
「祖父はどんな人でしたか?」
「そうか、何も話さずにいなくなったんじゃなあ」
一瞬目を見開いた長老さんは悲しそうに微笑んだ。
「儂の口から聞くよりも、この先を歩けば自分で確認できる。その方がええよ。心配せんでもその機会はたくさんある。悲しいことになあ」
やっぱり言われてることがよくわからなくて、首をかしげる私を長老さんはまたフォフォフォと笑って見送った。
「それ、すげえ貴重な物だから無くすなよ」
右手に持って中の結晶の層を角度を変えながら眺めていたら、横からアルトが覗きこんだ。
「何で出来てるんだろ、何かの宝石?」
私の質問にアルトが肩を竦める。
「さあ、お守りはお守りだろ。紐に通して首にでも掛けとけ」
渡された紐を素直に受け取って穴に通し、首に掛ける。
なんだかわからなくても、とりあえず悪い物でも無さそうだし、これで何か良い事が起きるならまあいいか。
家々の壁と、街の壁の間を通り抜けている間、住人らしき人がそこかしこで顔を覗かせていたけど、もう私たちを引き留める人はいなかった。
門まであと10メートル程、という地点まで近づいたときに家はいきなり途切れた。どうやら門を中心に、そこだけぽっかり切り取られたかのように家は建てられていないらしい。剥き出しの土が異様に目立っている。
あまり人が来ないのか、踏み固められてはいなくて、ぐちゃぐちゃと足下で音がする。
雨が降っているだけでも気が重いのに、さらに不快な気分になる。
門は昨日入って来たような大きな物ではなかった。観音開き、という点では同じだけどこちらは木製で明らかに軽そうだ。
高さも3メートル程しかない。
「お通りですか?こちらは憂いの門です」
門の前には門番らしき人が二人立っていた。
らしき、というのは二人が戦えそうもない雰囲気を醸し出していたから。
私の勝手なイメージだけど、普通門番って無理やり通ろうとする人を時には戦って押し止めたりするためにいると思ってた。
でも二人はシャツ、ネクタイ、スーツと三拍子揃っていて、更に袖にカバーまでしちゃってたりする。事務室から今まさに出てきました。というような姿だ。
もちろん剣とか銃とか物騒な物を持っている様子はない。
この街はこの門をこの人たちに任せていていいの?
「止めるか?」
ソルテが挑戦的に言った。
あ、もしかしたら拳法の使い手なのかもしれない。弱いと見せかけてすっごく強いとか。ありえる。
「無理やり通られるなら止めはしません。私共は見て見ぬ振りをしますので。怪我なんてしたくもないですし」
「えええ?!それでいいの?!あ」
思わず突っ込んだら一斉に全員の目がこちらを向いた。心なしかソルテの目は冷たく、アルトの目は大笑いを堪えているように見える。
ひどい。
門番さん二人もなんだか面白そうな顔をしている。
皆してひどい。
「この街は初めてですか?見習いの方」
「・・・はい」
穴があったら入りたい気分で体を縮めてみる。
「そうですか。コルネリアは住民が出ていくのは厳しくチェックしますが、旅人が出ていくのは全く止めません。だから一つの場所に定住されない担い手様方も止めないのですよ」
「すみません、わざわざ説明していただいて・・・」
「いえいえ、色々質問出来るのは見習いの内だけです。どうぞ、良い担い手様になってくださいね。おい、開けろ」
担い手に連れられている見習いだから、将来の担い手、という図式がすぐに浮かばなかった。私が目をパチクリしている間に門番さんが声をかけた外の人が門を開ける。
「ご存じとは思いますが、最近この辺りにクトルフォスが出ているという話を聞きます。どうぞお気をつけて」
クトルフォスってなんだろう。
そう疑問に思っている間に外へ促された私たちの背後で門は閉められた。外にいた門番さんも中の人とほとんど同じ格好で、私たちに礼をする。
「行こう」
一度彼らと門に向かってお辞儀を返して、私たちはまた歩き出した。
ありがとうございました。




