14話 少女と自我を持つ人形
「お姉ちゃん達、早く起き上がってよ、それで夢見鳥と遊ぼ!」
……。
「……こ、これは現実でしょうか?」
目の前で起こっている事が信じられません、人形が自我を持って動き喋っています。もしやこれは夢なのでは? それとこうして人形が動ってホラーでしかありません、夢であってほしいです……そうだ夢、これは夢です! だとしたら現実に戻らなくては……すぐに悪夢から目覚めましょう。
「夢の中のリリカちゃん、お願いがあります……私を思いっきりひっぱたいて目を覚まさしてくれませんか」
「繭氏は何を訳のわからない事を言い出すデスカ? それにそんな酷いこと繭氏にしたくないデスヨ」
「いいからお願いします、今すぐ私の頬を叩いてください!!」
「――ヒィッ!? 分かりましたデスヨ!」
大声を出すと夢の中のリリカちゃんは私の頬を思いっきりビンタかましました……。しかもそれはもう見事なビンタで顔に普段しているメガネと一緒に私も吹き飛ばされる程です。
「うぅ……痛い――という事は、これはちゃんとした現実なんですね」
「大丈夫ですか繭氏」
「えぇ……大丈夫です。おかげで夢と現実の区別がつくようになりました」
「また訳のわからない事を言ってるデスヨ。けど繭氏、親友に対してこういった酷いことさせるのをもうしないで欲しいデスネ」
「分かりました」
「――あーっ!?」
ホッとしたのも束の間。私とリリカちゃんの光景を見て驚愕の声を発する人形がいました。
「金髪のお姉ちゃんがメガネのお姉ちゃんを思いっきり叩いたぁ!? なんでそんな事するの、いけないことなんだよそれ――メッ!」
「ち、違うデスヨ、これは繭氏に頼まれたからであって……」
「頼まれたからって人を叩いても良いの!?」
「うぅ……そう言われるとダメデスヨ」
「だよね、だからメガネのお姉ちゃんにゴメンナサイして」
「えーと、ううッ……繭氏ぃ〜!」
リリカちゃんが人形に説教をされて困り果て最後に私に泣きついて来ます。……まぁ説教される原因を作ったのは私なのでリリカちゃんを人形から庇いましょう。
「そこまでにしてください。リリカちゃんは私の言うとおりにしてくれただけなので悪くないです。それにえーと……あなたの名前は確か――」
「――私は夢見鳥だよ」
「そうですか。でしたら夢見鳥、リリカちゃんを許してくれませんか?」
「えぇ、なんでぇ? もしかしてメガネのお姉ちゃんは叩かれて嬉しい人なの?」
「えっと、違います(マゾの人の事を言ってるのでしょうか、だとしたら私は全然違います)」
「えぇ……本当かなぁ?」
「……(何故初対面でこんなに疑わられるのでしょうか?)」
その後、夢見鳥は飛ばされて床に落ちている私のメガネを拾ってくれて私の近くまで持ってきてくれました。そしてこの時、私は改めて彼女の姿をハッキリと認識する事ができたのです。
(よく見ると、夢見鳥という人形はなんて可愛らしくて守って上げたくなる容姿なのでしょう)
彼女を見て最初にそう感想を抱きました。だって彼女はタレ目で瞳はウルウル輝いています。そしてその瞳と顔を僅かに傾けるだけでキュンとくる表情です。それと真っ白な髪の毛と、同じく真っ白な肌は不謹慎かもしれませんが病弱な儚い少女のように見えて、彼女を構って世話をして上げたくなる気持ちがわきます。
あとはもう一つ気づいた事がありました。それはここに展示されている人形は全て西洋の体関節人形達なのに、夢見鳥――彼女だけは黒色の着物を着た和風の球体関節人形なのです。ですからその理由を聞こうとすると、彼女の方も私のある事に気がつき、先に疑問を投げかけてきました。
「ねぇねぇ、変な事聞くけどあなたはさっきメガネをかけてたお姉ちゃんで間違いないよね?」
「そうですよ」
「やっぱりそうだよね、けどメガネをしてないと別の子に見えるよ」
「そうですか……ですが私はメガネをしていてもしてなくても私です」
「……うーん?」
どうしたのでしょうか。夢見鳥はせっかく拾ってくれたメガネを中々私に返してくれずにウンウンと唸っています。正直視力が悪くて視界がボヤけるので早くメガネを返して欲しいところです。
「メガネのお姉ちゃんはお名前はなんて言うの?」
「真見繭です(そういえば先程から私をメガネのお姉ちゃんと呼んでますが……外見はあまり私と変わらない年齢の少女ですね)」
「マナミマユ?」
「言いにくかったら繭って呼び捨てでも構いませんよ(うーん、ですが先程から会話する限り少し幼稚な喋りですね)……もしかして実年齢は私より年下なをでしょうか?」
「うん、だったら繭って呼ぶね……えへへへ、繭ぅ〜」
「な、何でしょうか? (こんどは急に甘えた声になりましたね、少し背筋がゾッとしてきました)」
「このメガネ、没収しちゃうね」
「……えっ?」
夢見鳥はサッと私の大切なメガネを自分の懐にしまい込んでしまいました。それは流石にやめて貰いたい。せめてメガネケースに入れてくれないとメガネが壊れてしまう恐れが――。
そう注意しようとするとリリカちゃんが前に出てきてくれました。そして夢見鳥に向かって怒ってくれました。
「お前、繭氏に意地悪するなデスヨ、だからさっさとメガネを返してあげるデスネ!」
「イヤだよ。だって繭はメガネをしていない方がとっても可愛いから」
「コイツ……でもまぁ、その意見には同意スルネ」
「リリカちゃん?」
「あっ……ち、違いますデスヨ……ゴホン。やい人形――」
「――私は夢見鳥。だからそんな呼び方しないでよ金髪のお姉ちゃん」
「くっああ言えばこう言うとヤツデスネ……いいデスカ、私はリリカという名前デスヨ。だからお前も金髪のお姉ちゃんなんて呼び方するなデスネ」
ムムムムッ。
リリカちゃんと夢見鳥はお互いに顔を近づけて睨み合っています。そして今度は私の方を向くと、そのまま私の両方の腕をお互いの方へと引き寄せて引っ張り合いを始めました。
「夢見鳥、お前は何で繭氏にくっつくデスカ。さっさと離れるデスヨ!」
「リリカこそ繭にひっつかないでよ。今から繭は夢見鳥と遊ぶんだから」
「そんな事は許さないデスヨ、なんせ今日は繭氏は私とデートしてる最中デスネ」
「ちょっと二人とも落ち着いて下さい。それとまずは夢見鳥は私のメガネを返してください。それが無いと私はすごく困るんです」
そう訴えると夢見鳥ちゃんは私の腕をパッと離してくれました。ふぅ、これでようやく引っ貼られる痛みから解放です。あとは素直にメガネを返してくれるのを待つだけですね。
「いいよ、夢見鳥は意地悪な子じゃないから繭にメガネを返してあげるね」
「そうですか、ありがとうございます、本当にあなたはいい子ですね、よしよし」
「わわっ……えーと……えへへ」
「ちょっと繭氏、なんでソイツの頭をナデナデするデスカ。オカシイデスヨ!」
「だって何だかこの子は幼い雰囲気で可愛いですから、つい可愛がりたくなってしまいました」
「ガーン……そ、そんな……幼くて可愛い――それってロリコン――」
「――違います」
「ううッ……繭、お姉ちゃん」
「はい、なんでしょうか……――ハッ!?」
「ムッカアァアア! 繭氏はお前の姉じゃ無いデスヨ、それと繭氏もなんで姉という言葉に反応してるデスカ!?」
「さぁ、何でですかね」
実際に私の家族に妹はいません。しかし何故か夢見鳥を眺めていると彼女が私の本当の妹のよう認識してしまいそうになります。それほど彼女の幼い雰囲気は魅力的です。
「ねぇねぇ繭ぅ、本当に夢見鳥のお姉ちゃんになってくれない? そしたらメガネを返してあげるよ」
「ダメデス、繭氏はお前の姉にならないデスヨ」
「もうっ、リリカには聞いてないでしょ!」
「ウルサイデスネ、それにどっちにしろ繭氏の答えはもう決まってマスネ」
えっ。いつの間に私の答えは決まっていたんでしょうか。二人とも私の事を期待の籠もった目で見てきます。
「えーとですね……」 チラッ。
「……繭氏〜。(今日は私とデートデスから妹なんて作ってる暇ないデスヨ〜)」 ジト目。
「ううッ……えーと」 チラッ。
「……繭お姉ちゃ〜ん。(メガネがどうなってもいいのかなぁ〜)」 ミシミシ。
大変です。夢見鳥が私のメガネを壊そうと手に力を込めています……なるほど、脅しで交渉ですか……だとしたらこれで答えはこれで決まりました。
「残念です夢見鳥。私はそんな悪い人形の子を妹にしたくありませ」
「――あっ、えっ……えっ!?」
私が夢見鳥を拒否すると、彼女は信じられないと言った表情でショックを受けました。そんな彼女にリリカちゃんがさらに追い打ちをかけます。
「プギャー、ざまぁみろデスネ。繭氏に嫌われる事をして墓穴掘りやがったデスヨこのシスコン人形――」
「――リリカちゃん、そういった発言はいけません、リリカちゃんにも失望しました!!」
「えっ、繭氏!?」
「ヒック……ヒック……うええええん、夢見鳥はお姉ちゃんが大好きなだけなのに酷いこと言われたよぉ、うええええん!」
「リリカちゃん、夢見鳥ちゃんに言った事を謝ってください」
「あわわっ……えーと、ゴメンナサイです。流石に言い過ぎたデスヨ。デスからお詫びに私も夢見鳥のお姉ちゃんになってあげるデスネ」
「――あっ、別にいいよ。お姉ちゃんは繭だけで十分だから」
「なっ……やっぱこの人形ムカつくデスヨっ!」
「まぁまぁ、二人とも仲良くして……――そうです、せっかくなので三人で今日は過ごしましょう」
「えぇっ!? イヤデスヨ。二人っきりのデートが台無しになるデスネ」
「リリカちゃん、そう言わないでください。それによく考えれば夢見鳥みたいに自我を持っている人形は珍しくて滅多にお目にかかれないんですよ? もしかしたら他にも彼女のような人形がここには展示されているかもしれません、折角なので最期まで見て回りましょう」
「いやいや……夢見鳥みたいな人形が沢山いたら怖いデスネ」
「うぅっ……今度は夢見鳥の事を怖いって言う、うっううっ……うええええ――」
「……リリカちゃん?」
「わーっ、わーっ! そうデスネ、こんな珍しくてえーと……」
「じっー……(リリカは夢見鳥の事をなんて言うつもり?)」
「……そう、こんな珍しくてカワイイ人形他に居ないデスネ。だから一緒に過ごすデスヨ(棒読み)」
「わーい、ヤッター! リリカも夢見鳥の事を可愛って言ってくれた。だからギューってしてあげる」
「わわっ! 抱きつかなくても良いデスヨ。(フンッ……少しは可愛げのある人形デスネ)」
こうして私達は三人で人形の展示会を見て回る事にしたのでした。




