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13話 少女と人形展示会


 休日――今日はリリカちゃんとデートの約束の日です。ですからリリカちゃんは朝からテンションがとても高くはしゃいでいます。一方私はというとテンションが低いです、何故なら……。


「――やったデス。今日は楽しみにしてた繭氏とデートデスヨ。しっかりお化粧して、それと可愛い服をコーディネートして出かけるデスヨ!」

「あの……リリカちゃん、だからと言ってこの格好は私は恥ずかしいのですが……」


 私はリリカちゃんから、白いフリフリのついたゴスロリな服を着せられていました。今まで地味な普段着しか着ていなかった私はこういった派手な服は初めてで、自分に似合っていないんじゃないかと不安なのです。だから今日はテンションが下がります。


ニヒト(ドイツ語の否定)! 全然恥ずかしい格好じゃないデスネ、繭氏のゴスロリは最高に可愛いくて似合ってマスネ。そう……例えるならまるで繭に包まれてるフロイライン――そう、繭氏だけに!」

「えーと……リリカちゃんの例えはよくわかりません。けれどちゃん似合ってるって言ってくれるなら今日一日この格好でも良いです」

「本当デスカー!? 私も今日は繭氏と色違いのゴスロリデスヨ。こうして今日はお揃いの服でお出かけできて嬉しいデス!」


 今日のリリカちゃんの格好は私と色違いの黒のゴスロリな服です。それを見た感想は金髪碧眼のリリカちゃんとゴスロリは相性が良いとしか言いようがありません。

 

「リリカちゃんはまるでお人形さんみたで可愛いですね……羨ましいです」

「フフッ繭氏にそう言ってもらえると私も嬉しいデスヨ。けれども今日は私よりもっと美しいものを見にいくデスネ」

「ええと、確か私達が今日デートで行くのが球体関節人形の展示会でしたね……」

「そうデスヨ、楽しみデスネ!」


 リリカちゃんが私をデートに誘った場所は球体関節人形と呼ばれる美しい人形の少女達が展示される展示会です。因みに球体関節人形とは、関節部分が球体になっている人形の総称でして、さらに詳しく言うと、私達が見に行く球体関節人形はアンティークビスクドールと呼ばれるもので、主にヨーロッパで流行した人形です。その為全ての人形が外国人の少女をモチーフにしたものです。


「繭氏、早速行くデスヨ」

「分かりました……けれどこの格好で大丈夫でしょうか?」


 一つ展示会のに行く前に懸念事項があります。それは私達の学院は服装に厳しいのです。しかも休日でも服装に厳しくてチェックが入ります。ですから私達学院の寮生は外出する際に寮にいる当直の先生に服装をチェックしてもらわなくちゃいけない決まりなのです。それで私とリリカちゃんは当直の先生に服装と外出の許可を貰いに行くのでした。


 ……。


「……あなた達、もしかしてその格好でお出かけなさるおつもりですか?」

「はい……(やはりこの格好は無理なんでしょうか)」

「ほぉ、そうですか」

「ドウデスカ先生、繭氏と二人でこのお揃いの服可愛いデスカ?」

「………」


 当直の先生は服装に特に厳しい事で有名な家庭科の女性教師です。その先生が鋭い視線でじーっと私達を観察しています。私はそれに威圧されビクビクしてしまいますが、一方のリリカちゃんはニコニコしながら先生の観察の視線を受け入れています。正直その空気の読めない感じにヒヤヒヤしますが同時に羨ましさも感じます。私もそれくらい楽に毎日過ごしたいものです。


「――あなた達!」

「ひぅ……(あぁっ、やっぱり先生に注意されます)」

「――なんて可愛らしい格好なのかしら!?。 二人ともお願いがあるのだけれど二人並んで今からお写真を撮っても大丈夫?」

「もちろんデスヨ、その代わり外出許可を貰いますネ」

「ええ、いいわよ」

「ヤッタデス。繭氏早速お写真を撮りましょうネ」

「……ええっ!? (まさかこの格好での外出許可が出るとは)」


 服装点検問題無し。絶対にこんな目立つ格好はアウトだと私は思いました。なので一応先生に本当に外出していいのかもう一度伺うと、普通に許しを頂きました。そして先生曰く可愛いデザインだからなのとゴスロリが自分の趣味にあっているから許可を出すと平然と言うのです。それでいいのでしょうか……。


「私、普段から服装に厳しいと生徒の間で噂でしょう?」

「そうデスネ、先生は厳しくて怖いと繭氏も言ってマシタ。私も普段からそう思うデスヨ」

「リリカちゃんそんなハッキリと言っちゃダメです――って、あっ……これは違うんです先生!」

「良いのよ真見さん、事実ですから……でもね、私今は家庭科の先生だけど、若い頃は服飾やデザインを勉強して好きでこういう服を作る仕事に就いていたの。だからそのせいで生徒達には服をちゃんと着させて魅了を引き出してあげたいって気持ちが強くなっちゃうの。それでついつい普段から厳しくなっちゃうのよね」

「そうなんですか。知らなかったです」

「うん、だから今日あなた達の格好を見てすごくちゃんと服を着て自分達の魅了を引き出せているから驚くと同時に嬉しく思ったわ。しかも中々ゴシックロリータを着こなすのは難しい事なのよ? すごいわあなた達……因みにその服はどこのメーカーの服かしら?」

「違うデスヨ先生。この服は私の手作りデスヨ」

「なんですって!? そう……だったらシュバルツさん。あなた中々良いセンスをしているわ。だから本格的に服飾をしてみないかしら、全部私が教えてあげるから放課後に家庭科部に来ない? そこで服も制作する活動もしてるし、私も顧問だから面倒を見てあげるわよ」

「本当デスカ!? 嬉しいデスヨ……けれど放課後に活動すると……」


 急にリリカちゃんが寂しそうな表情で私の方を見ます。いったいなぜでしょう。


「繭氏……私が放課後家庭科部に居ても大丈夫デスカ?」

「大丈夫ですよリリカちゃん。私は放課後にリリカちゃんが居なくても一人でやっていけます。そこまで寂しがり屋じゃありません(ムカッ……リリカちゃんは私が一人で何もできないとバカにしているのでしょうか)」

「――あぁもう、そうじゃ無いデスヨ!」

「じゃあどういう事ですか?」

「そ、それはデスネ……あぁもう、恥ずかしくて言えないデスヨ!」

「あらあら、真見さんは鈍感ねぇ」

「私が鈍感ですか……でしたら先生、リリカちゃんが何を言いたいのか解説してください」

「わわっ、せ、先生、言っちゃダメデスネ!」

「うふふ、大丈夫よシュバルツさん、真見さんには言わないわ、それにこういうのは自分で気が付かないとね」


 全くこのやり取りの意味が分かりません。私はいったい何が鈍化なんでしょう。


 ………。

 

 その後、結局リリカちゃんの家庭科部に入部するかどうかの話はまたいつでも決めていい事になり、私達は外出の許可を貰う事ができました。あとはそうそう……。


『いいですか二人とも、今日はあなた達は目立つ格好をしているんです。ですから危ない所に行かないこと。それと最近は女の子がトラブルに巻き込まれる事件が多いようでテレビでもこの付近であなた達ぐらいの女の子達が失踪する事件が発生していますから気をつけください……あともう一つ気をつけることは外の男性には十分に注意しなさい! なぜなら変態の男性が出没してるそうよ』


 ……というふうに先生が私達に念を押しました。けれど大丈夫だと思います。何故なら私達は人形の展示会に行くだけなのですから、まさかそのような人が集まって来る場所に変な人がいるわけが在りません――。


 ……。

 

 ――そう思ってましたが。変な人がいました。


「……へぇ、なる程な。うちにある人形も綺麗な美少女だけど、ここにある人形もどれも綺麗で良いなぁ……でへへっ」


 球体関節人形の展示会場についた途端、この展示会の場に似つかわしくないミリタリーファッションの男性がいました。しかもこの男性はムキムキの筋肉身に纏った大男でしかもさっきかニヤニヤしながら何かをブツブツ言いっています。


「繭氏、変態らしき人物が会場にイマスヨ」

「……そ、そうですね」

「私、あの変態に注意しますネ!」

「だ、駄目です。もし注意してあの男性が怒って何かをしてくれば私達を助けてくれる人はいません!」

「うっ……ソウデスケド」


 おそらくお客さんが沢山いると思って行った会場には実際には私達と、このムキムキの男性を除き、警備員や受付の人も居ません。完全フリーの誰でも出入り自由な展示会場です。何と不用心な展示会でしょう。


「あぁもう、なんかあんな変で目立つ格好の人がここにいるのが気に食わないデスヨ」

「リリカちゃん。その言葉はブーメランですよ、私達も十分目立つ格好です」

「何を言うですか繭氏、ここはヨーロッパの格好をした人形の展示会デスネ。そして私達はそれに合わせたゴシックロリータの服装デスヨ。だから目立って居ても変じゃ無いデスヨ!」

「えーと………そうなんですかね、少し違うような……」

「もう私我慢出来無いデスネ。だからあの男に文句を言って追い出すデスヨ。ちゃんとティーピーオーにあった格好で出直して来るべきデスネ」

「あっ……リリカちゃん、待ってください!」


 確かにリリカちゃんの言うとおりです。アンティークなヨーロッパの球体関節人形がずらりと並ぶ中に私達ゴシックロリータな格好な私達と、ミリタリー風のムキムキな男性――どちらがこの展示会に居てもおかしくないかと問えば、おそらく殆どの人が私達の方が居てもおかしく無いと答えるでしょう。だけど……そういった理由であの男性を追い出して良いのでしょうか。よく見た所あの男性は純粋にこの展示会の人形に興味を持っているように見えます。

 

「――ちょっとそこの兵隊姿の男、ここはお前のような格好のやつが来るところじゃないデスヨ!」

「――ムッ、敵意を感じるな」

「――エッ?」


 リリカちゃんが声をかけると男性はリリカちゃんを無視してボソリと呟きました。それに対して私は恐怖をいだき始めました。けれどもリリカちゃんは動じずにまた男性に声をかけます。


「ちょ、ちょっと、敵意って何デスネ、それは私達に行ってる事デスカ!?」

「リリカちゃん、もうこれ以上は言わないほうが――ヒッ!?」

「んっ……何だ?」


 男性がリリカちゃんの言葉にやっと反応して振り返った瞬間、私とリリカちゃんは思わずお互いに肩を抱き寄せあった状態で固まってしまっていた。何故ならこの男性は視線は鋭く何時でも人を倒してしまいそうな雰囲気を醸し出していたからです。今までこのような恐ろしい雰囲気の男性にあった事や見た事もありません。そしてさらにこの瞬間、出掛ける前に先生が注意した言葉が頭に思い浮かぶのです。


『外の男性には十分に気を付けなさい』


 あっ……こういう事なんですね先生。ごめんなさい、私達先生から十分に注意を受けていたのに、トラブルに巻き込まれそうです。


「えーと……何で君達泣いてるの…………あっ、そうか。そりゃそうだよな、俺みたいなのがいたら怖がるのも無理ないね」

「うっ……うう、(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――)」

「俺がここにいるはなんだか悪いみたいだね、安心してもう、帰るから……ごめんね」

「ぐすっ……ううう、(ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……えっ、帰ると言いました? だとしたら私達を襲わない?)」


 男性は私とリリカに対して申し訳ない態度をしながら展示会場を去って行きました。これで私達は助かったのでしょうか……いえ、そもそも私達は何かをされたのでしょうか。ただの勘違いだったのでは……。


「繭氏……さっきの人怖かったデスヨー!」

「うん……とっても怖かったですねリリカちゃん。私今でも震えが止まらないくらいです」

「私も震えが止まらないデスネ……それと、私、繭氏を危険に晒す所でした。ごめんなさいデスネ、うええええん!」

「リリカちゃん、泣かないでください、もう大丈夫てすから」


 男性がいなくなったあとも私達は二人で肩を抱き寄せあって慰め会いました。


『泣かないで、お姉ちゃん達』


「えっ……今さっき誰か何か言いました?」

「ハイ、確かに聞こえた気がするデスヨ」


 私とリリカちゃんに聞こえるハッキリした大きさで、子供の女の子の声が聞こえてきました。しかし周りを見渡しても会場には私とリリカちゃん以外に誰も居ません。不気味です。


「あの、リリカちゃん……来たばかりですけれど帰りませんか」

「キ、奇遇デスネ……私もそう思ったデスヨ。せっかく来ましたけど帰るデスネ。流石に誰もいないのに女性の声だけが聞こえるのは怖いデスヨ」

「……ここにいるよ?」

「「―――、―――ッッ!?」」


 思わず私はリリカちゃんは抱き合った状態で床に転けて、声にならない悲鳴を上げて腰を抜かしちゃいました。


「もぉ、お姉ちゃん達何でそんなに驚くの? 夢見鳥は別にお姉ちゃん達に悪さをするつもりは無いのに」

「えっ、ええ……エエエエエッ!? 嘘です、そんな……」


「「人形が動いてます!」デスヨ!」


 思わず二人同時に同じ事を叫んでしまいます。しかしそんなことにお構いなしに人形は私達に近づいて言葉を発するのです。

 

「えへへ、私の名前は夢見鳥、ここのお人形だよ。お姉ちゃん達、せっかくだから夢見鳥と遊んでよ」

「……えっ?」


 どうやら人形は私達に遊びを求めて来たようでした――。

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