25.出張!隣町の誘拐事件④
翌日の夜。
日はどっぷりと暮れて、街灯の少ない街は闇に包まれていた。
予定通り、ロキとレイラのみ魔法少女姿に変身し、スイはスライムの姿のまま、ロキの肩に乗っている。
エドワードは、木製のハシゴを持ってきていた。屋敷内への侵入に使うのだろう。
ロキたちは、エドワードの後を追い、この街のギルド長――アーロンの屋敷へと向かった。
「着いたぞ。ここがアーロンの屋敷だ」
「ここですか? うう、広いなぁ……」
ロキは思わず、うんざりとした表情でつぶやいた。
エドワードに示された屋敷は、とてつもなく大きかった。レイラの家を見たときも驚いたが、さらにその3倍はある。入口の門は厳重に閉じられ、門番が二人左右に立っている。強行手段をとれば、侵入することぐらい造作もないが、騒ぎにはなってしまうだろう。怪我人を出してしまうかもしれない。
「エドワードさん、どうしますか? 門番を気絶させますか?」
「いや、その必要はない。言っただろう。侵入ルートがある。こっちだ」
物陰に隠れながら、中腰で屋敷の周りを移動する。
やがて止まったのは、屋敷の裏側にある壁だった。上の方に鉄格子がついた小さな窓がある。
「あの窓から中へ侵入できる。中は倉庫で、誰もいないはずだ」
「でも、鉄格子が付いてますよ。壊せないことはありませんが、音で気づかれませんか?」
「それなら心配ない。あの鉄格子の中二本は、毎日少しずつ削って壊しておいた。だから、簡単に取り外せる」
エドワードはそう言って、壁にハシゴを立てかける。
ハシゴを上ぼり、鉄格子を引っ張ると、言った通り簡単に取り外すことができた。
窓は人一人がギリギリ通れるぐらいの大きさだ。まず、細身だが一番身体の大きなエドワードが、身をよじりながらも何とか中へ侵入する。
それから、ロキやレイラも続いて、屋敷に侵入した。
中は、エドワードの言った通り、倉庫のようだった。
使っていない備品などが山積みに保管されており、物置になっている。埃もうっすらとかぶっているため、あまり人が近寄らない場所なのだろう。
「では作戦開始だ。ここからロキくんは、単独で行動してほしい。ロキが混乱させているうちに、俺とレイラちゃんでリリーを助けにいく」
「……まぁ、やってみます。レイラさん、危なくなったら逃げていいですからね」
「あら、わたくしなら大丈夫ですわ。ユニークスキルの“ステルス”がありますもの。ロキさんに少し目を向けていただければ、簡単に抜けられると思いますわ」
そうだ。
レイラには姿を消すことができるユニークスキル“ステルス”がある。リリーの元へ行くことは容易だろう。
……なら、別に自分が囮になって混乱させる必要は全くないのでは。
そう思ったロキの心を読むように、レイラはにっこりと笑った。
「このスキルは姿は消せますが、音や臭い、実体そのものは消せません。ですから、ロキさんが目を向けさせてくださると、とてもやりやすいです。もし危ない目に遭ったら、すぐに助けにいきますから、安心してくださいね」
レイラは、楽しそうに言った。
普段は優しく常識人なレイラだが、今は何だかこの状況を楽しまれているような気がしてならなかった。
「うう、じゃあ行ってきます……」
『シャキッとしなさいよ、ロキ! あたしがいるんだから、何も心配はいらないわ!」
何の自信があるのか、スイはきっぱりとそう告げる。
手をひらひらと振るレイラに見守られて、ロキは倉庫の扉をそっと開けた。
広い廊下には赤い絨毯が敷かれていて、人の気配はない。
ロキは抜け出して、廊下に出た。
忍び足で廊下を進みながら、曲がり角で壁にぴったりと身体を寄せる。覗き込むと、使用人らしき男がうろついていた。
(うう、正面突破するしかないのかな……)
うろつく男たちの様子をうかがっていた、そのときだった。
「――君。見ない顔だな。こんなところで何をしている」
肩をぽんと叩かれて、勢いよく振り返る。
反対方向から来た、使用人の男の一人だった。
目が合うと、男は目を見開いて驚き、顔を少し赤くする。
「う、うわ……っ!」
突然話しかけられたことに驚いて、ロキは思わず、鞄から煙幕を取り出し、それを思い切り投げつけてっしまった。
辺りに白い煙が充満する。
「ゲホッ、ゲホッ! な、何だこの煙は……!」
「見知らぬ少女が何かを投げたんだッ! すぐに捕まえろッ!」
「あっ、いたぞ!」
ロキの行動は、悪手だった。
煙幕の煙のせいで、辺りは騒ぎになりはじめて、大勢の使用人たちがロキを追いかけはじめてしまったのだ。
「ひぃぃぃいいいッ!」
『ロキ、あんた何やってんのよ! こんなときこそ、色仕掛けをするのよ!』
「こ、こんな状態で、できるわけないだろッ!?」
スイの言葉を一蹴して、ロキは走り続ける。
しかし、囲い込まるように経路をふさがれ、逃げ道がなくなってしまった。
「う、わ……っ!」
使用人の一人に飛びかかられて、地面に倒れこむ。
すぐに後ろ手を掴まれ、拘束されてしまった。
「……おじょうさん、この屋敷に何の用だ? 迷子というわけではなさそうだが」
優しい口調で尋ねられて、少し緊張感が薄くなる。
やはりこの姿だと、油断してくれるらしい。
ロキは何とか振り返り、出来る限り警戒させないように、にっこりと笑う。
すると、目の前の男は頬を赤くして、拘束する力が少し弱くなった。
「と、突然すみませんでした。実はぼ……わたしは……その、アーロンさんに用があってここに来ました! アーロンさんに、会わせて頂けないでしょうか?」
口から出まかせの嘘を言うと、使用人は顔を見合わせた。
*****
「おぉ……! 人気がなくなったぞ。ロキくんは、うまくやっているようだな」
「ロキさん……ああ、おいたわしい……無事だといいのですが……」
「レイラちゃん。なんか、うれしそうだな」
「ごほん。気のせいですわ」
レイラは、にっこりと笑ってそう言った。
エドワードは、首をかしげつつも深く気にしないことにした。
「レイラちゃん、ユニークスキルを発動してくれるか」
エドワードの言葉にうなずいて、レイラは“ステルス”を発動させた。
二人の姿が消えて、人気の少なくなった大階段をゆっくりと上っていく。
時々見張りがいたが、息を殺せば難なく通ることが出来た。
やがて最上階に着き、奥の扉の前に立つ。
エドワードはうなずいた。ここが、リリーの捕らえられている部屋なのだろう。
「いくぞ、レイラちゃん」
「はい」
エドワードはそっと扉に手をかけて、開けた。
部屋は豪華な家具が設置されており、とても広い。監禁というには、丁寧な対応をされていたようだ。
中心にはベッドがあり、女性が物憂げな表情で座っていた。長い茶色の髪は少しウェーブがかっていて、緑色の大きな瞳は宝石のように輝いている。誰もが目を引くような美人だった。
突然開いた扉に驚いたのか、不思議そうな視線を向けている。
「リリー! 俺だ! エドワードだ!」
「あ、ちょっと! エドワードさん!」
エドワードは勝手にレイラの手を離し、透明だった姿を現した。
長い睫に覆われた、大きな緑色の瞳が驚いたように見開かれていく。
「エドワード……? ああ……嘘、本当なの……?」
リリーはゆっくりと立ち上がり、震える声で呟く。
エドワードはそんなリリーに向かって、にっこりと笑った。
「君を助けにきたんだ!」




