24.出張!隣町の誘拐事件③
「絶対に、嫌だからなッ!」
宿の部屋にロキの声が響く。
普段、ほとんど声を荒らげることのないロキだったが、今はどうしても声が大きくなってしまう。
なにしろエドワードは、男であるロキに、アーロンを誘惑して足止めしろと言っているのだ。
「え、駄目なのか? いい作戦だと思ったんだが……」
まさか断られると思っていなかったのか、エドワードは困惑したように首をかしげた。
その反応に、さらにロキは憤慨する。
「当たり前だろ! 万が一、お、おおおお襲われたらどうするんだよッ!?」
リアルに想像して、思わず泣きそうになってしまう。
すると、肩に乗っているスイが、首を振った。
『そんなこと、ありえるわけないでしょ。その服、脱げないんだから』
「あっ、そうだった。って、そういう問題じゃないよ! 僕は男なんだから、気持ち悪いだろ!?」
「別に、ロキくんは何もしなくていいんだぞ。アーロンは女好きだから、勝手に足止めになるからな。時間をかせいでくれるだけでいいんだ」
「そ、そもそも、僕がやらなくたっていいだろ!?」
『あたしは絶対にやらないわよ。人間のオトコなんて大嫌いなんだから。それにレイラにも、そんなことさせられないでしょ?』
スイにそう言われて、言葉に詰まる。
スイはともかくとして、レイラにこんな役をさせられないのは、確実だった。
いや、そもそも、こんな作戦をしなければいいのだ。
このパーティなら、下手な小細工など使わなくても、人一人連れ戻すぐらい、簡単だ。
「ロキさん」
今まで黙って話を聞いていたレイラに名前を呼ばれて、ロキは顔をあげる。
優しいレイラは、きっと助け舟を出してくれるのだろう。
そう思った。
「とてもいい作戦だと思いますわ。覚悟を決めましょう」
しかし予想に反して、レイラはきっぱりとそう言った。
その表情は、どこか楽しそうに笑っていて。
「え、あ、はい……」
レイラに言われたとなれば、ロキはもはや、何も言えなかった。
*****
「……そもそも、どうしてリリーさんは、さらわれたんですか? まさか美人って理由だけで?」
改めて明日の作戦について考えていたとき、ふと気になってロキはたずねる。
エドワードは、首をふった。
「もちろんそれが一番の理由だろうが、他にも理由がある。彼女はこの街で有名人だった。それが災いしたんだろう」
「有名人、ですか?」
「ああ。彼女は、とても優秀な白魔術師で、この街でよく、けが人や病人の回復をしていた。聖女と呼ばれ、街の人々からとても慕われていたよ」
白魔術師と聞いて、ロキは反応する。
パーティに欲しいと思っていたスキルの一つだったからだ。
「ランクはどれぐらいなんですか?」
「聞いて驚くなよ。Aランクだ」
「Aランクか……結構、すごいですね」
「はッ!? 結構どころか、めちゃくちゃすごいだろうがッ! Aランクだぞ、Aランクッ!」
エドワードは興奮したように言ってくる。
元パーティメンバーのレイスが、Sランクの白魔術師だったので、薄い反応になってしまった。
たしかに、Aランクでも十分すごい。
ルーラのパーティにいるメンバーが異常すぎるだけなのだ。
『ねぇ、ロキ。そのオンナ、無理矢理、結婚させられそうになっているぐらいだから、絶望してるんじゃない? あわよくば仲間にできるかもしれないわよ』
肩に乗っているスイが、そんなことを言ってきたので、ロキは苦笑いした。
「いやいや、人の婚約者を勝手に仲間にできないでしょ……」
『ふーん、そういうものなの? ってことは結局、収穫は金貨5枚だけか。ま、それだけあれば十分よね。串肉のプールで、食べ泳ぎするのが今から楽しみだわ!』
「しないからね?」
ロキは呆れたように言った。
「……? ロキくんは独り言が多いな。まぁ、そんなことはどうでもいい。そうだ! ついでだから、俺とリリーの出会いについて話をしてやろう!」
「いえ、それは全く興味がないのでいいです」
「遠慮しなくていいぞ! さっきも言ったが、俺は元々冒険者をしていた。しかし、とある依頼中にAランクのモンスターに襲われて、重傷を負ってしまったんだ。何とか街に帰ったものの、もはや死ぬのも時間の問題だった。そんなとき、白魔法で助けてくれたのが、リリーだったんだッ! 俺はリリーに猛烈なアタックをして、リリーもそれに答えてくれた!」
「……へー」
エドワードは興奮したように話をはじめ、ロキは雑な相槌をうつ。
生まれてこのかた、恋人が出来たことがないロキにとって、他人の惚気話など聞きたくなかった。
そんな様子のロキを見てか、レイラはくすりと笑って、口を開いた。
「エドワードさん。そのお話は明日、リリーさんを連れ戻してからにいたしましょう。それより明日の作戦について、話しをしませんか?」
「そ、そうだったな! 明日の作戦だが、まず侵入経路についてだ。正面突破はしなくてもいい。事前に屋敷への経路だけは確保してあるから、その道を通ろう。侵入したら、二手に分かれる。ロキくんは、屋敷内を混乱させてほしい。ロキくんが足止めしている隙に、俺とレイラちゃんでリリーを助けに行こう! 以上だ!」
「え、作戦ってそれだけ……?」
あまりに漠然とした作戦に、ロキは心配になってくる。
エドワードの方は、レイラがいれば大丈夫かとは思うが、それより自分の身が心配でならなかった。
逃走用のアイテムの準備を万全にしておこうと、そう思った。
『ロキ。あたしが着いていてあげるから、心配しなくていいわよ! あいつ、あたしのこと、ただのペットだと思ってるみたいだし』
「あ、うん……じゃあ一応、お願い……」
『一応って何よ!』
どうやら同じ魔法少女しか、スライム姿のスイの言葉は聞こえないようだ。
スイの提案をありがたく、受けることにした。
その後、ぼんやりとした作戦のまま解散となった。
エドワードは情報収集に向かい、レイラとスイは早々に眠った。
ロキは、アイテムの精製をしてから、朝がくるまでの2時間ほど、眠った。




