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21.ヒストリアのひとりごと


 あたしの名前は、ヒストリア・リーツ。

 Sランク冒険者であるルーラ・ラプツェルのパーティに所属している女剣士だよ。

 剣術のランクはS。

 はっきり言って、めちゃくちゃ強いよ。

 黒髪ツインテールの美少女だし、この美貌と強さで、毎日とても楽しい。

 天はあたしに一物も二物も与えてしまったらしい。


 三日前、あたしたちパーティは、冒険者ギルドからの依頼で、とあるダンジョンに潜入し、死線を切り抜けた。

 最下層でSSランクモンスターの『鬼』が出現したときは、本当にもうだめかと思った。

 だけど、突然現れた謎の美少女軍団が、私たちを助けてくれたのだ。

 そして。

 ……あれからずっと、ルーラちゃんの様子がおかしい。


「モコモフ様……あなたのことを思うと胸が苦しくて、頭がおかしくなりそう……どこにいるの? 愛しい天使様……」


 ルーラちゃんはあれからずっと、こんな感じで遠くを見ながら、ひたすらポエムを呟いている。

 ヤバイでしょ?

 あの豪傑で不遜なルーラちゃんはどこに行っちゃったの?


 宿屋の扉からこっそり様子をうかがっていると、ルーラちゃんは立ち上がって、ふらふらと外に出ていってしまった。どこかへ出かけるみたい。

 こっそり後をつけると、着いた場所は街の広場だった。

 中心には噴水があり、町の人々でにぎわっている。

 ルーラちゃんは、広場に咲いていた花を一輪ちぎって、噴水前のベンチに座った。

 それから花びらを一枚ずつ千切っては、噴水にそっと入れていく。


「モコモフ様は私を、好き、嫌い、好き、嫌い……好き……」


 なんかヤバイ光景を見てしまった。

 あれはあかん。重傷すぎる……。

 たしかにあの子――白金髪の美少女、モコモフちゃんは、めちゃくちゃ可愛かった。

 ルーラちゃんのドストライクだろうなって感じがしたよ。でもまさか、ここまでルーラちゃんの心を乱すとは思わなかった。

 っていうかルーラちゃんって、ただの美少女好きかと思ってたけど、ガチでそっち系だったの……?

 恋愛対象女の子なのかな? 

 知りたくなかったなぁ、それ。

 これから一緒にお風呂とか入りにくいじゃん……。


 まぁそれはともかく。

 ここでのぞき見ていたって、埒があかない。

 私は大きく息を吸って、ルーラちゃんに話しかけることにした。


「あれ、ルーラちゃん! こんなところで何をしてんのー?」


 偶然を装って明るく声をかけると、ルーラちゃんは物憂げな顔を上げた。

 

「あ、ヒストリア……おはよう。散歩をしていただけよ」


 ルーラちゃんは、ぎこちなく笑ってそう答える。

 いつもの強気のルーラちゃんも可愛いけど、今の儚げな雰囲気を漂わせているルーラちゃんもいい。

 恋する乙女オーラ全開ってかんじ。


 私はにこっと笑って、ルーラちゃんの隣に座る。

 下から覗きこむように、ルーラちゃんを見上げた。


「ね、ルーラちゃん! 今から、気分転換に軽い依頼でも受けにいかない?」


「今から? 二人でってこと?」


「だめぇ? 軽いDランクとかの討伐でいいからさ。私もう、三日も動いてなかったから、身体が鈍っちゃったんだよねー」


「もちろん、いいわ。行きましょうか」


 ルーラちゃんは微笑んで、立ち上がった。

 やっぱりいつものルーラちゃんじゃない。いつもなら「Dランクなんて嫌! BランクかAランクに行くわよ!」って言うもん。

 

 私たちは二人並んで、冒険者ギルド『黒龍(こくりゅう)(まくら)』に向かった。

 到着して中に入ると、そこには見知った顔がいた。

 私は手を振って、明るく声をかける。

 

「あ、ロキちゃんだー! おっはよー!」


 ギルドの依頼を眺めていたのは、ついこないだまで一緒のパーティにいた、錬金術師のロキちゃんだった。

 ロキちゃんは、Aランクの美少女錬金術師、メアリーちゃんが入ったことで、ルーラちゃんにクビにされてしまった可哀想な男の子だ。

 追い出されてから、ロキちゃんはすっかりルーラちゃんが苦手になってしまったようで、いつもそそくさと逃げてしまう。

 だけど今日。

 ロキちゃんは目を見開いて驚いて、慌てて駆け寄ってきた。


「ルーラ! それにヒストリアも! 身体はもう大丈夫なの?」


「――は? 何の話よ」


 ルーラちゃんは、あたしの前に立って、ギロリとロキちゃんを睨んだ。

 あ、いつものルーラちゃんに戻った。


「え? あっ、その……例のダンジョン攻略が大変だったって聞いたからさ……」


「……もうその話が広まっているのね。そうよ、あんたの言うとおり私の実力が足りなくて、死線をくぐったわ。最下層には、SSランクのモンスターがいて、まるで勝てる気がしなかった。でも殺される寸前に、とても素敵な方に助けて頂いたのよ」


 ルーラちゃんがそう言った途端、ロキちゃんの表情が引きつった。


「す、素敵な方……?」


「ええ。とても強くて美しい方々だったわ。……特に私を抱き上げてくれた少女は、奇跡のような愛らしさだった。透きとおるような白い肌、白金色の髪。まるでお伽噺に出てくる天使のようだったわ。もう一度、あの方に会ってお礼をしたい……」

 

「へ、へぇ……」


 ロキちゃんはなぜか、目を泳がせていた。

 肩に乗っているペット(?)のスライムは、身体を震わせて笑っている。

 どうしたんだろ? まぁいいけど。


「と、とにかく無事ならよかったよ。じゃあね、ルーラ! それにヒストリアも!」


 そう言い残して、ロキちゃんは逃げるように、ギルドを出て行ってしまった。

 うーん。相変わらずロキちゃんは、人が良すぎる。あんな風に追い出したあたしたちを、心配してくれることがすごいよ。

 ルーラちゃんは男嫌いだから、ロキちゃんのことをずっと疎ましがっていたけど、他のメンバーは、別にロキちゃんのことを嫌いじゃなかった。良い子だったし。

 女のパーティに男を入れるって、実は修羅場に発展するケースが多いから鬼門らしいんだけど、その点、ロキちゃんは無害だった。


「……ヒストリア、ごめんね」


 突然、ルーラちゃんに謝られて、驚いて顔をあげる。

 ルーラちゃんは悲しそうな表情をして、うつむいていた。


「ちゃんと、謝れていなかったでしょう。あのダンジョンで、私は判断を誤って、みんなを危険な目に遭わせてしまったわ」


「えっ、そんなの謝らなくていいよ! CランクのダンジョンにSSランクのモンスターがいるなんて、誰も予想できないし、ルーラちゃんのせいじゃないよ」


「……ううん。私がもっと強ければ、あのダンジョンだって攻略できたかもしれないのに……」


「もう何言ってんの! ルーラちゃんらしくないよ!」


 あたしは声を荒らげて、ルーラちゃんの両手をぎゅっと握った。

 ルーラちゃんは驚いた表情で、あたしを見る。


「確かに“鬼”に対して、ルーラちゃんは何もできなかった。でもそれは、ルーラちゃんだけじゃない。あたしだってそうだったよ! みんな弱かったの。ルーラちゃんだけじゃなくて、みんなちょっぴり、うぬぼれてたんだよ!」


「ヒストリア……」


「だからさ、ルーラちゃん! もっと強くなろっ! あたしたちは、Sランクでとどまるような存在じゃないでしょ? あの鬼より強くなって、そしたらまた、あのダンジョンに攻略に行こうよ!」


 笑ってそう言うと、ルーラちゃんは微笑んで、大きく頷いてくれた。


「そうね……どうかしてたわ。私、もっと強くなる。ステータスを全て、SSランクにするぐらい、強くなるわ。勇者になるのは、この私なんだから」


 ルーラちゃんは顔をあげて、きっぱりと言った。

 うん、いつものルーラちゃんの顔だ。

 やっぱりあたしは、そっちのルーラちゃんの方が好きだな。


「そうと決まれば、Dランクの任務なんてやってる場合じゃないわ! ヒストリア、今から二人でAランクの任務に行くわよ!」


「え、Aランクにするの……? せめてB……」


「だめよ! 死線をくぐってこそ、経験値は得られるんだから!」


 ルーラちゃんは嬉しそうに言って、受付に受注しに行ってしまった。

 うわぁ、しかも、Aランクモンスターのベルフェゴールの討伐依頼を受注してる。

 軽くほぐしにいくような依頼じゃないじゃん……。

 ちょっと、気合い入れすぎちゃったかも。

 

 ルーラちゃんは、薄紫色の髪をなびかせて、振り返る。

 その姿は、どこまでも高貴で美しい。

 ギルド中の男の視線を、釘付けにしている。


「さぁ、行くわよ、ヒストリア!」


 自信満々にそう言って、ルーラちゃんはギルドの扉を開け、外に出て行く。

 その後ろ姿を眺めながら、あたしはもう何度目かも分からない決意をした。


 絶対に、ルーラちゃんを勇者にするんだ、ってね!




三章おわり。次から次章です。

また仲間を探します。

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