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17.楽しいダンジョン攻略!①

 


 冒険者ギルド『黒龍(こくりゅう)(まくら)

 ロキは、スイと二人で冒険者ギルドを訪れ、壁に張られているダンジョンリストを眺めていた。

 各地に発生しているダンジョンは、ギルドを通さずとも自由に攻略できる。しかしギルドには、分かっている範囲でのダンジョンマップや、ランクごとのリストがあるため、それを見に来ていた。

 

 剣士(けんし)のレイラが仲間に加わり、現在のパーティは3人。

 欲を言えば白魔導士(ヒーラー)が欲しいところだが、とりあえず3人でレベルの低いダンジョン攻略を試してみようと思ったのだ。

 ダンジョンはGランクからSランクまで設定されている。

 しかし、必ずしもランクと難易度が直結しない場合があるところが、ダンジョンの難しいところだった。


「うーん、どこのダンジョンがいいかな。最初だし、Dランク以下にしようかな……」


『Dランク? つまんないわね。どかーんとSランクに行きましょうよ』


「うん、死んじゃうからね?」


 肩に乗っているスイを一蹴して、ロキは壁を眺め続けた。

 スイはほぼ非戦闘員のため、攻略はロキとレイラが中心となる。なのに、なぜスイはここまで自信があるのかロキには謎だった。


「あのぉ、ロキさん……さっきから、誰としゃべってるんですか……?」


 受付嬢のエマにおそるおそる尋ねられて、ロキは慌てて口をつぐんだ。

 スイの声は、同じ魔法少女である、ロキとレイラにしか聞こえない。それをつい忘れて、スイと話してしまうのだ。


「な、何でもありませんよ。えっと、ほら。最近、よく天からのお告げが聞こえるんです」


「て、天からのお告げが……!?」


「はい。今振ってきたお告げはですね、ダンジョン攻略はDランク以下にすべし、って声が聞こえてきたんです。だから、Dランク以下のダンジョンを探していた所なんですよ」


「ああ、ロキさん……ルーラさんのパーティをクビになったのがショックで、ついにおかしくなってしまったんですね……」


 ロキが適当に言った言葉を聞いて、エマは心底気の毒そうに、ロキを見た。

 自分の嘘も悪かったかもしれないが、もう少しオブラートに包んで欲しいと思った。


 そのとき、ギルドの扉がばたんと大きな音を立てて開けられる。

 ロキは嫌な予感がして、振り返った。


「おはようエマッ! 今日も可愛いわね! 男臭いギルドに咲く、一輪の花のようだわ! ――って、ロキじゃない。あんたまだギルドに用があるの?」


「……いいでしょ。僕だって、冒険者なんだから」


 聞きなれた高飛車な声。

 そこにいたのは、元パーティのリーダーであるルーラだった。

 相変わらず嫌味な表情を浮かべたまま、ルーラはつかつかとロキの元に歩み寄ってくる。


「あんた、まだ冒険者をやるつもりなの? あんたみたいな冴えない錬金術師が、一人で冒険者をやるなんて、時間の無駄よ。二流品のポーションでも売って暮らした方が、まだマシだわ」


「……ルーラには関係ないだろ。僕は、冒険が好きなんだよ」


「もちろん関係ないわ。あんたがどこで野垂れ死のうともね。それで、今度はダンジョン攻略ってわけ?」


 ルーラは馬鹿にするようにそう言って、ロキの目の前の壁に張り出されているダンジョンリストを眺める。それからすぐに、噴き出すように笑った。


「ふふ……っ! ちょっと、ロキ! ここに張り出されているのは、Dランク以下のダンジョンばかりじゃない。あんた、そんな低レベルのダンジョンに行くつもり?」


「うるさいな、ほっといてよ!」


「わたしたちとパーティを組んでいたころは、Aランクのダンジョンに行っていたのに、落ちたものね!」


 ルーラはどうして、もう関係のない自分につっかかってくるのだろう。

 ルーラは有名人だ。そのせいで、嫌でも目立ってしまう。

 その証拠に、ギルドにいる冒険者たちは、みんなロキを見て、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべたり、笑ったりしていた。


『なにこのオンナ。すっごく感じ悪いわね。ロキ、変身してボコボコに殴りなさいよ!』


「……そんなことできないよ。それに、変身するところは見られたくないんだから」


 ロキは小声でスイに答える。

 ルーラはやっと、ぴょこぴょこと動くスイに気がついたらしく、怪訝そうにスイを見た。


「えっ、あんたスライムなんてペットにしてるの!?」


「だから、ルーラには関係ないだろ! もうほっといてよ」


「Dランクのダンジョンに、スライムをペット……あんた、本当に落ちるところまで落ちたわね……」


『ちょっとロキ! このオンナ、あたしを馬鹿にしているわよ! スライムがどれだけ高尚な存在か、早くこのオンナに分からせてあげなさいよ!』


「スイ、ちょっと黙っててくれる?」


 真剣に怒りたいのに、スイの言葉で気が抜けてしまう。

 そうこうしているうちに、ルーラはふんと鼻を鳴らして、すぐそばの受付の前に移動した。

 

「エマ。ギルドからの依頼のダンジョン攻略を受けるわ!」


「わぁ、ルーラさん! 当ギルドからの依頼、受けていただけるんですか。助かりますー!」


「早い方がいいから、今から行くわ。地図をちょうだい」


「はーい! 依頼のダンジョンは、この街からすぐ近くにあるシヤハの森から、さらに5kmほど離れた先の崖に発生したダンジョンです。現在のダンジョンのランクはCです」


 エマの言葉に驚いて、受付に広げられた地図を見る。

 この街からさほど離れていない場所にある、Cランクのダンジョン。

 そんなダンジョンを攻略するなんて、ルーラにしてはめずらしいと思ったのだ。

 ロキがルーラのパーティにいたころ、ルーラはCランク以下のダンジョンを馬鹿にしていて、BランクかAランクのダンジョンしか攻略していなかった。


 そんなロキの疑問に答えるように、ルーラは笑った。


「もちろん、ただのCランクじゃないわ。このダンジョンはね、発生してからまだ一週間も経っていないの」


「たった一週間……? それでCランクか……」


 ルーラが何を言いたいのか、ロキにも分かった。

 ダンジョンは、突然、何の前触れもなく出現する。詳細は不明だ。

 だが出現した際、最初は必ずGランクに設定されている。これはギルドが定めているランクではなく、どのダンジョンの入口にも、必ずランクが示されているのだ。

 そして長い時間が経つにつれて、じわじわとダンジョンのランクが上がっていくのが普通なのだが、たまに発生してから日が浅いにも関わらず、急激にランクを上げているダンジョンが存在する。

 それが、ルーラが攻略しようとしているダンジョンだろう。

 こういったダンジョンは、のちに攻略不可能になるレベルまでランクが上がってしまうケースが多く、そのためギルドが発見次第、優秀な冒険者に攻略させて、消滅させるのが定石だった。

 

「生還率が3%を切っているのよ。街からも近いし、早く消さないとね」


「生還率3%……って。それ、ルーラ大丈夫なの?」


「は? あんたそれ誰に言ってるの? Cランクのダンジョンなんて、余裕に決まってるでしょ。あんたに心配されるまでもないわ」


 ロキの心配の言葉に、ルーラはそっけなく返した。

 それから嫌味な笑みを浮かべて、ロキを見る。

 

「でも、攻略報酬はAランクより上なの。何たって、ギルドから攻略金がもらえるからね」


「命あってのお金だよ。本当に気を付けてね」


「だからあんたに心配される筋合いないわよ。あんたはせいぜい、Dランクのダンジョンで、しょぼいお宝でも取ってくるといいわ!」


 ルーラはそう言い残して、エマから地図を受け取り、冒険者ギルドを出て行ってしまった。

 これから、どこかで待機しているパーティのメンバーと合流して、ダンジョン攻略に向かうのだろう。

 ルーラは強い。

 だけどなぜか、ロキの胸はざわざわと不安で揺れていた。

 嫌な予感が拭えなかったのだ。


「ロキさんは、どのダンジョンに行くんですかー?」

 

 エマに声をかけられて、再び壁に張られているダンジョンを眺める。

 少し考えて、ロキは壁を指した。


「このFランクダンジョンにします」


「え、Fランクですか……? そんなところに、マトモな宝はないと思いますけど」


「最初だから、これぐらいでいいんです。じゃあ行ってきます!」


 ロキはそう言って、冒険者ギルドを出る。

 そのダンジョンは、ルーラが攻略しに行ったダンジョンの、すぐ近くにあるダンジョンだった。



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