14.二人目の仲間、レイラさん②
「あ、ありがとうございます……」
わたくしは、差し出された白いハンカチを受け取りました。
誰かと話すような気分ではありませんでしたが、こんなわたくしに声をかけてくれた、優しいお方の善意を無下にしたくなかったのです。
そのハンカチで、こぼれる涙をぬぐいました。
顔をあげると、その男性は、なぜかまじまじとわたくしを見ていました。
「本当だ、契約可能になってる……」
そんなことを呟いたので、言葉の意味が分からずに首をかしげました。
するとそのお方は、はっとした表情をして、にこっと笑いました。
「あ、すみません、何でもありません! それよりも、どうしたんですか? 僕でよければ、話を聞かせてください」
そう言われて、戸惑いました。
好きな人に嫌われて、パーティから追い出されてしまった。
本当なら、こんな恥ずかしいこと、誰にも知られたくありません。
しかし、わたくしは誰かに縋りたかったのだと思います。見ず知らずのこのお方になら、話してもよいかもしれないと思いました。
わたくしは、ことのあらましを、全て話しました。
そのお方は、わたくしの話を、笑わずに聞いてくれました。
「……それは、とても辛かったですね」
話が終わった後、小さな声で呟かれました。
その言葉に、胸がじんと温かくなって、再び泣いてしまいそうになるのを、必死でこらえました。
「僕もつい先日、所属していたパーティをクビになってしまったんです。なので、お気持ちは分かります」
「まぁ、あなたも? 一体どうして……」
「……パーティのリーダーが可愛い女の子が好きだったんです。なので、男という理由で、クビになってしまいました。まぁそのときは、すごくショックでしたけど、今はもう戻りたくないですね……」
「そう、だったんですか……」
女性好きのリーダーにクビにされたという、思わぬ共通点に、親近感を抱きました。
一見、何の悩みもなさそうに見える、ほんわかしたこのお方も、きっと辛い思いをされてきたのでしょう。
「申し遅れました。わたくし、レイラ・アップルと申します」
「僕は、ロキ・フェイズと言います」
「ロキ・フェイズ……? どこかで聞いたことがありますわ。もしかして……ルーラ・ラプツェルのパーティの錬金術師ではありませんか……?」
思い出してそうたずねると、ロキと名乗った男性は、気まずそうに目を逸らして、乾いたように笑いました。
「はは……そうです……よくご存じですね……」
「ええ。ルーラさんのパーティは有名ですから。そうだったのですか、ロキさんはルーラさんのパーティから追い出されてしまったのですね……」
Sランク冒険者のルーラさんのパーティはとても目立っていました。
リーダーのルーラさんを中心に、メンバーは可愛く優秀な女性ばかりで、わたくしが思いを寄せている彼も、ルーラさんのパーティを邪な目で見ていたので、よく覚えています。
華やかな女性ばかりの中にいる平凡なロキさんは、たしかにとても悪目立ちしていて、追い出されたのも分かるような気がしました。
本人には言いませんけれど。
「……あの、レイラ……さん。実はあなたに声をかけたのは、お話ししたいことがあって……」
「わたくしに話、ですか……?」
ロキさんの言葉に、首をかしげました。
心当たりは全くありません。なにしろ、わたくしとロキさんは、お会いしたのがこれがはじめてなのです。
ロキさんは言いにくそうに、口をよどませながら、わたくしをまっすぐに見ました。
「……実は僕、ユニークスキルを所持しているんです。そのスキルは……えっと、簡単に言うと、他者を変身させることによって、スキルが二段階強化、さらに、ユニークスキルをランダムで付与するものなんですが……」
ロキさんの言葉に、驚きました。
そのユニークスキルが本当なら、強いというレベルではありません。
何しろ、レベルを1つ上げるだけでも、血のにじむような努力が必要なのです。
それを二段階強化。さらにユニークスキルもついてくるなんて、普通ではありえないスキルでした。
「そ、そんな奇跡のようなスキルがあるんですか……? 本当に……?」
「はい。……けれど、誰でも変身させられるわけではないんです。厳しい条件があって、当てはまる方を探していました。するとレイラさん。あなたが条件に当てはまる方だったんです。だから、僕はあなたに声をかけました」
「わたくしが、その奇跡のようなスキルの条件に、ですか……?」
「はい。えっと……詳しく説明するのが難しいので、今見せますね」
ロキさんはそう言った次の瞬間でした。
突然、光がロキさんを包んで、わたくしは思わず目を閉じました。おそるおそる目を開けると、そこには、とてもかわいらしい女性がおりました。
わたくしは驚いて、立ち上がりました。
白金色の艶やかな髪に、白い肌、大きな瞳。
お洋服もその可愛らしい顔立ちに合う、とてもすてきなものでした。
「こ、こんな姿ですが、ロキです……」
白い女性は、心底恥ずかしそうにそう言いました。
「ロキさん!? あなたがですか!?」
「はい。変身すると、なぜかこのように、少女の姿になってしまうのです。この姿の状態を魔法少女というのだと、Sランクの鑑定士に教えていただきました。この姿だと、所持スキルが二段階強化、さらにユニークスキルが付与されます。ちなみに、変身は自分の意志で解くことができますから、安心してくださいね」
白い女性はそう言うと、再び身体を薄い光が包み込みます。先ほどまで話していたロキさんの姿がそこにはありました。
わたくしは、あまりにも唖然として、しばらく何も言えませんでした。
「あの、レイラさん。どうでしょうか……? 僕は今、一緒にダンジョンを攻略してくれる仲間を探しています。なので、レイラさんが僕の仲間になってくれると、とてもうれしいのですが……」
ロキさんは、控えめにわたくしにたずねました。
わたくしの心は、一瞬で決まっておりました。
断る理由なんて、ありません。
「――ロキさん。わたくしを『魔法少女』にしてください」
ロキさんの目を真っ直ぐに見て、そう言いました。
ロキさんは嬉しそうに目を輝かせて、無邪気に笑いました。
よく見ると、可愛らしい方だなと思いました。
「わぁ、ありがとうございます! じゃあ早速、レイラさんを『魔法少女』にしますね!」
再びロキさんが変身して、少女の姿になりました。
白い両手をわたくしに真っ直ぐに突き付けて、目を閉じます。
その姿は、とてもきれいでした。
まるで、おとぎ話に出てくる、天使のようでした。
「レイラさんよ、魔法少女になれー」
ロキさんが可愛らしい声でそう言った、瞬間でした。
凄まじい光が、身体中を包み込みます。さきほど、ロキさんが変身したときの比ではない光です。
目を開けていられなくて、両手で顔を覆いました。
「よし、できました。わぁ、レイラさん、とっても美人ですよ!」
ロキさんの声に、おそるおそる目を開けました。
視界に入った自分の格好に、驚いて言葉を失いました。
赤みがかった茶色の髪は腰に届くほど長く、少量の毛束で左右に三つ編みがされています。
上は、茶色のビスチェで胸元に白いフリルがあしらわれており、肩からえんじ色のマントが伸びていました。
下はとっても短い、青色のプリーツスカート。そして、太ももまである長い、茶色のロングブーツを履いています。
自分の目では確認できませんが、帽子もかぶっているようでした。
「レイラさん。鏡見ますか? どうぞ」
白い少女姿のロキさんは、手鏡を渡してくれました。
そこに映っていたわたくしは、とても美しい、大人の女性の姿でした。
宝石のように輝く、大きな青色の瞳がそこにはありました。
「これが……わたくし……ありがとうございます……本当に、何て言っていいのか……」
「気に入っていただけたのなら、よかったです。それで、レイラさんは、えっと……僕とパーティを……」
「はい。わたくしでよければ、あなたのパーティに入れてください。……けれどその前に、やりたいことがあります。……最後にもう一度、この姿で、彼に会ってきてもよろしいでしょうか?」
わたくしは震える声で、ロキさんにたずねました。
もちろん彼に、自分が元仲間のAランク剣士、レイラだと明かすつもりはありませんでした。
ただ最後に一度だけ。
彼を忘れるけじめとして、会いたい。
そして、わたくしのことをどう思っていたのか、聞きたいとそう思ったのです。
ロキさんは、何だそんなことですか、と笑いました。
「はい、かまいませんよ。でも、おひとりで大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません」
「何かあったら、僕を頼ってください」
ロキさんは少し心配そうな表情を浮かべてそう言いました。
信頼できる、とても良い方だと、そう感じました。
それからわたくしはロキさんと別れて、冒険者ギルドに向かいました。
最後に、彼と会って、話をするためです。
レイラさん回は残り二話です。
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