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13.二人目の仲間、レイラさん①


『へぇ、なかなか賑やかね。あたし、ニンゲンの街なんて、初めて見たわ!』


 暴れるスライムに、一晩かけて説明した翌日。

 ロキの肩に乗っているスライムは、上機嫌そうに言った。

 二人は今、街に来ている。スライムが人間の街を見てみたいと言ったからだ。


「……ちょっとスイ。モンスターの姿であんまり動かないでよ。目立つだろ?」


『別にいいじゃない。こんなものをつけて、ロキのペットのふりをしているんだもの。誰も気にしないわ!」


 ロキは、仲間になったスライムのことを『スイ』と呼ぶことにした。

 スイが、こんなものと言ったものは、スイの頭に飾られている、赤色の小さなリボンのことだ。

 街に出る前に、ロキが手早く服の切れ端で作ったもので、人々を警戒させないようにつけたものだ。


 最弱と言えども、スライムはモンスター。

 そのままの姿で街に出たら、モンスターに免疫のない街の人々に恐れられる可能性が高い。

 しかしこれなら、たとえ街の人に見られても、手なずけていることの証明になる。スイを畏怖の対象として見る人間が、ぐんと減るはずだ。

 その予想は大当たりで、街の人たちはスイを見ても、騒いだり怯えたりすることはなかった。

 

『ねぇ、ロキ! おいしそうな食べものがあるわ。あれはなに?』


 スイは、並んでいる屋台の一つを見て、はしゃいだ声をあげた。


「あれは、串肉だよ。動物の肉を焼いて串に刺してあるだけ。っていうかスライムって、あんな人間の食べものを食べるの?」


『わたしたちモンスターは基本的に悪食よ。何だって食べるわ!』


 スイはドヤ顔でそう言った。

 ちなみに、なぜモンスターの姿のスイと普通に話せるのかというと、なぜか意思疎通できるようになっていたからだ。魔法少女スキルと関係があるのだろうが、詳しいことは分からない。

 そして、スイの声は今のところ、ロキ以外の誰にも聞こえない。

 そのため、傍からみたら、ロキが独り言を言っているように見えるため、すれ違う人々から、よく不審な視線を向けられていた。


『んーなんていい香り! もう我慢できないわ! ロキ、一つ買ってちょうだい! 今すぐよ!』


「えぇ……もーしょうがないなぁ……」


 仕方なくロキは屋台に近づいて、串肉を1本買う。銅貨5枚だ。

 大きな肉が5つついている串を受け取って、スイの口元に近づける。スイは口を大きく開けて、大きな肉を一口で食べた。


『これは……すごくおいしいわ! ロキ、もう1本買ってちょうだい!』


「だめだよ。今は少しでもお金を貯めたいんだから」


『ケチね! 大体、みみっちくケチってないで、さっさとダンジョンに行けばいいじゃない。昨日の話だと、高ランクのダンジョンを攻略すれば、大金が一発で手に入るんでしょ?』


「そりゃ、いつかはそのつもりだけど、僕ら二人じゃまだ難しいよ。せめて、強いアタッカーが一人はいないと」


 ロキはそう言って、串の肉を一口かじった。

 じゅわっと甘い肉汁が口の中いっぱいに広がる。肉など久しぶりに食べたので、あまりのおいしさに感動してしまった。

 もう一口食べようとしたが、スイが残りの肉をあっという間に食べてしまい、結局一口しか食べられなかった。

 

『――ん?』


 そのとき突然、スイが不審な声をあげる。

 直後、スイが変身した。

 薄い光と共に、緑髪のおさげの美少女が現れて、街の人たちは驚いたようにスイを見る。

 世界には、多種多様なスキルがあるので、騒ぎになることはないが、目立つことには変わりがない。


「ちょ、ちょっと、スイ! こんなところで変身しないでよ!」


 慌ててロキが声をかけると、スイは空になった木の串をボリボリと食べながら、遠くに座っている町人を真っ直ぐに指した。


「――ロキ。あのオンナ、絶望の気配がするわよ」





*****


 ――ああ、苦しい。

 胸が苦しくて、頭がおかしくなってしまいそうです。

 これからわたくしは、どうやって生きていけばよいのでしょう。さきほどから、涙があふれて、止まらないのです。

 

 わたくしは、恋をしておりました。

 それはとても甘美な、はじめての恋でした。

 身の程を知らない恋だということぐらい、分かっておりました。

 彼は全ての女性を魅了するような絶世の美青年で、とても優しく、強かった。わたくしなどが恋心を抱くことすらおこがましい。そんな存在だったのです。

 

 彼は、Aランクの冒険者でした。

 恋は人を変える。この格言は本当なのだと身をもって感じました。

 なにしろ、一日中部屋に閉じこもって、本を読んでいたわたくしが、彼に近づくために、剣の修行をはじめたのですから。

 幸いなことに、わたくしには才能がありました。

 努力と合わさって、剣術の腕はめきめきと上がっていき、剣術のスキルがAランクにまでなったのです。

 そして、彼の元へ行き、必死に頼み込んで、パーティに入れて頂きました。


 彼のパーティは、彼以外、全員が女性でした。

 それも、わたくしとは違って、みなさまは、とても魅力的で綺麗な女性でした。


 彼に近づいて分かったことがあります。

 それは、彼は外から見る印象ほど、誠実ではないということでした。

 というのも、彼の女癖はとても悪く、パーティメンバーの女性、全員に手を出していたからです。

 毎夜毎夜、仲間の女性や、街の女性に甘い声をかけては、部屋に招いておりました。

 きっと、わたくしも彼に呼ばれる日が来るのでしょう。

 けれど、わたくしはそれでもいいと思っておりました。

 彼になら、利用されてもよいと。

 

 しかし、彼はわたくしを部屋に呼ぶことはありませんでした。

 もしかして、魅力がないのでしょうか。

 そう心配になったわたくしは、昨日、勇気を出して、彼にたずました。


「どうしてわたくしだけ、お部屋に呼んで頂けないのでしょうか……?」


 このとき、わたくしの声は震えていました。

 はしたなくて、恥ずかしくて、死んでしまいそうでした。

 彼は少し驚いたように目を見開いて。すぐににっこりと、その精悍な顔で困ったように笑いました。


 途端に、焦りと悲しみで、気持ちがみるみるあふれました。

 彼を好きだと思う気持ちがあふれて、止まりませんでした。


「あなたのことが、好きです……わたくしを、あなたの恋人にしてください……」


 あふれた気持ちは止まりませんでした。

 気づいたらわたくしは、彼にそう告げておりました。

 彼は驚いた表情をしたあと、何も言わずに立ち去ってしまいました。

 


 そして今日。

 つい先ほどの出来事です。


「――レイラ。悪いが、お前をこのパーティから外させてもらう」


 彼は、冷たい瞳をして、わたくしにそう告げました。

 目の前が真っ暗になりました。

 彼がわたくしの告白をどう感じたのか、正確には分かりません。

 しかし間違いなくあれが原因で、良く思われなかったことは確実でした。


 そのあとのことは、あまり思い出せません。

 小さな声で彼に謝り、わたくしは宿を飛び出しました。

 そして今、広場で一人、涙を流しているのです。

 

 通りすがる人々はみんな、一人泣いているわたくしを、不審な目で見ておりました。

 慰めてほしいわけではありませんが、悲しくなりました。

 世界中で、わたくしは一人きり。

 そんな錯覚に陥るほど、孤独に感じました。


 そのときでした。


「あの、大丈夫ですか? 気分でも悪いのですか……?」


 そう声をかけられて、わたくしは顔をあげました。

 そこには、15、16歳ほどに見える、男性がおりました。

 その方は、着用している白衣のポケットから、綿のハンカチを取り出して、わたくしに差し出しました。



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