12.二人目の魔法少女③
突然浮き上がった文字を見て、ロキは首をかしげる。
「契約可能……? まさか、このスライムを魔法少女にできるってこと……じゃないよな?」
たしかにこのスライムは心底おびえきっていて、絶望しているように見えなくもない。
ロキのユニークスキルは『魔法少女生誕』――生き物を魔法少女にできるスキルだ。
しかしまさか、モンスターであるスライムをも魔法少女にすることができるのだろうか?
ロキは深く考えずに、とりあえず試してみることにした。
モコモフに変身して、スライムに向かって両手を伸ばす。
「うーん、どうやってやったらいいんだろ? まぁいいや。スライムよ、魔法少女になれー」
適当にそう呟いた途端だった。
突然スライムの身体を、まぶしいぐらいの光が包み込む。それは、ロキがはじめて魔法少女になったときと、全く同じだった。
スライムを閉じ込めていた透明なケースが、ぱりんと割れる音がする。
やがて、スライムを覆っていた光が収束していく。
おそるおそる目を開けたロキの目の前には、少女がいた。
緑色の髪は、左右に三つ編みになっていて、胸ぐらいの長さだ。髪留めには、スライムのアクセサリーがついている。
瞳は、髪と同じ緑色。
薄茶色のパフスリーブのシャツに、黄緑色のカボチャパンツを履いている。靴下はなく、足元は茶色のショートブーツ。
突然現れたその少女は、大きな瞳をうるうると濡らしながら、ロキを真っ直ぐに見ていた。
「あれ、あたし……」
「え。まさか、君、スライム……?」
ロキが謎の少女と対面していたとき、突然ドタドタと階段を上ってくる音が聞こえた。
それからすぐに、バァンと派手な音を立てて部屋の扉が開かれる。
部屋に入ってきたのは、家主であるトリスの父親とその背に隠れたトリスだった。
「てめぇ! トリスを殴ったって……あれ? あのもやし野郎は? え、き、君たちは誰だ?」
乱暴に荒らげていた声が、一瞬で収束し、トリスの父親は、まじまじとロキと少女を見ている。
ロキは、魔法少女姿になっていることを思い出して、焦って立ち上がる。
「す、すすすみませんッ、勝手にお邪魔しています! あ、あああの、僕たちはえっと……そうだ! ロキさんの友人なんですけど……!」
「ロキ? あの冴えないもやし男のことか?」
「も、もやし……。は、はいそうです! ごめんなさい、すぐに出て行きますから!」
散々な言われ様に傷つきながら、少女の手を引いて、慌てて出て行こうとする。
ロキの友人であろうと、これでは完全な不法侵入だ。このままでは、人を呼ばれて、捕まってしまうかもしれない。
しかしそんな焦りに反して、トリスの父親はにっこりと笑った。
「いいよいいよ、気にしないで! まったく、どこ行ったんだろうな、あのもやし野郎は! まぁ、ゆっくりしていってよ! お茶でも飲む?」
浮かれた声でそう言われて、ロキは少し引いてしまう。
「い、いえ……帰ります……」
ロキは思った。
美少女は、本当に人生がイージーなのだなと。
***
「うわあああんっ! 怖かったよおおおおお!」
あの後、ロキは緑髪の少女を連れて、部屋に帰った。
明日、どうなるかは分からないが、今のところ部屋を追い出される気配はない。
緑髪の少女は、未だ少女のままのロキの腹に顔をうずめて、号泣していた。
鼻水や涙で、ロキの服はぐちゃぐちゃだ。しまいには服で鼻までかみはじめて、引いてしまう。
そして、やはりこの少女は、トリスが捕まえたスライムだった。
先ほど嗚咽を漏らしながら、本人がそう教えてくれたのだ。
どうやら、ロキのスキルは人間だけでなく、魔物に対しても効果があり、言葉も話せるようになるらしい。
「ぐす……っ、ロキって言ったわね……モンスターであるあたしを助けてくれるなんて、ありがとう。ロキは命の恩人だわ……」
「い、いや、たまたまだよ……っていうか僕の服で鼻をかむのはやめてくれる?」
本当にたまたまだった。
スライムを救うつもりなどなく、深く考えずに適当に試してみたら、魔法少女になってしまっただけだ。
「ねぇ、君は……」
「君なんて呼び方はやめて、ロキ。名前をつけて呼んでほしいわ」
少女姿のスライムが、うるうるした瞳でそう告げる。
「……じゃ、じゃあ、スライム。後で説明するけど、僕は君に、人間の少女にする力を付与してしまったんだ。念じない限りは変身しないから、今ならただのスライムとして野生に帰れる。君がよければ外に逃がしてあげるけど、どうする?」
そう言うと、スライムはとんでもないとばかりに首を振った。
「今さら、あたしの家族には会えないわ! ロキ、これからもあなたのそばにいさせて」
「い、いいの? 僕、仲間を集めているから、それはうれしいけど……。あ、じゃあ、スライムのユニークスキルを調べなきゃ」
「ゆにーくすきる? なにそれ、人間のたべもの? おいしいの?」
「食べ物じゃないよ。その姿になると、唯一無二のスキルがランダムで取得できるみたいなんだ。すぐ調べるからちょっと待っててね」
ロキはそう言って、『鑑定』スキルを発動させる。
魔法少女姿のままのロキは、鑑定のAランク持ちだ。スライムのユニークスキルの詳細まで分かるだろう。
スライムの周りに、文字が浮き上がってくる。
魔法少女素質感知:U
■絶望している生きものを感知できる。
体術 :C
白魔法:E
「わ、すごい! 絶望してる生き物を感知するスキルだって! スライムが協力してくれれば、仲間集めがずいぶん楽になりそうだよ!」
「よく分からないけど、あたし、ロキの役に立てそうなの? だったら、すごくうれしい!」
スライムは、ぴょこぴょこと、緑色のおさげ髪を揺らしながら、嬉しそうにそう言った。
スライムと分かっていても、可愛い少女の姿だ。
ロキは少しドキドキしてしまう。
「スライムさえよかったら、これから協力してくれるとうれしいな。あ、ちなみに元の姿には簡単に戻れるからね。こうやって軽く念じれば、元の姿に戻るよ!」
ロキはそう言って、元の姿に戻る。
その瞬間、スライムは目を見開いて驚いて。
「ぎゃあああああッ! 人間の男ッ! あんた誰よッ! ロキはどこに行ったのッ!?」
「ぶッ!」
ロキをおもいきりぶん殴り、ロキは部屋を転がった。
ロキはこの後、暴れ続けるスライムを取り押さえて、全てを説明するのに一晩中かかった。
<魔法少女ステータス②>
魔法少女すらいむ / スライム♀
身長:158cm
体重:44kg
83/58/80
スキル
魔法少女素質感知:U
■絶望している生きものを感知できる。
体術 :C
白魔法:E




