↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
11/28

11.二人目の魔法少女②


「……いくらなんでも怪しい」


 部屋で一人、ロキはぼそりと呟いた。

 というのも、五日連続で早朝に、トリスがポーションをもらいにきているからだ。トリスの家は、見るからに裕福な家庭なので、乞食じみた理由ではないだろう。

 つまりトリスは、誰かにポーションを使用している可能性が高い。


(……お母さんが、あの乱暴そうなお父さんにDVを受けてるとかじゃないよな……?)


 トリスの父の乱暴な動作を思い出しながら、ありそうな話だと思った。

 考えていたら、だんだん心配になってきて、いてもたってもいられなくなる。

 ロキは衝動的に部屋を飛び出し、すぐ隣の豪邸――トリスの家を遠巻きに見た。

 

 今は夕方近い時間だが、空はまだ明るい。

 トリスの父親が帰ってくるまでは、まだ時間があるだろう。

 確かめなければ。

 ロキは意を決して豪邸の門に近づき、鐘式の予備ベルを鳴らした。

 

「はい。あれ、ロキさんじゃないですか」


「こんにちは、トリス。今、いい?」


「暇していたので、大丈夫です。何の用ですか?」


「い、いや……ちょっと、トリスに聞きたいことがあってさ。よかったら、中に入れてくれないかな?」


 もし家の中で何かが起きているなら、きっとここで断られてしまうだろう。

 しかし予想外に、トリスは何事もない表情のまま、あっさりとうなずいた。


「いいですよ。どうぞ」


「えっ、いいの……?」


「はい。いつもロキさんの部屋にお邪魔していますしね。まぁ、あれは元々ウチが管理してる建物ですけど」


 トリスはそう言って、門の扉を開けた。

 あっけなく通されて、拍子抜けしてしまう。

 色とりどりの花が植えられている広い庭を抜けて、玄関へ向かう。

 大きな家の中へ通された。


「お、おじゃましまーす……」


「身構えなくていいですよ。誰もいないですし」


「えっ、誰もいないの? お母さんは? それにお手伝いさんとかいないの?」


「母は働いていますし、お手伝いさんなんていませんよ。ウチは、たまたま不動産がうまくいった、小金を蓄えてるだけの庶民ですから。お茶を淹れますから、座っててください」


 トリスは相変わらず、そんな子どもらしくないことを言って、台所へ消えていく。

 言葉に甘えて、ロキは大きなソファに座らせてもらった。


 キョロキョロと広い部屋を見渡す。

 貧乏育ちだったロキにとっては、落ち着かないほど広い部屋だ。それに、整頓されている。

 しばらくして、トリスがティーカップとお菓子を持って、戻ってきた。

 ティーカップには、いい香りのするお茶が淹れられている。トリスはそれをテーブルの上に置いた。


「どうぞ」


「あ、ありがとう。いただきます。それにしても、綺麗な部屋だね……」


「そうですか? まぁ、うちは母が綺麗好きですからね」


 トリスは何でもないようにそう言って、ティーカップのお茶に口をつける。

 ロキもそれに続いて、お茶を一口飲んだ。お茶には詳しくないが、いい香りがして、とても美味しい気がした。


「そういえば、ロキさん。ボクに聞きたいことって何ですか?」


 たずねられて、ドキリとする。

 少し迷って、ロキは警戒させないように、へらりと笑った。


「トリスはさ、何か悩みとかないの?」


「は? 悩み……ですか。別にないですけど。まさか聞きたいことってそれですか?」


「う、うん。ちょっと気になってさ。お父さんは、優しい?」


「まぁ、たまに厳しいことは言われますが、許容範囲内です。いい父だと思いますよ」


 トリスの表情に嘘は見えない。

 本当に、幸せな家族という感じだ。


(じゃあ、どうして毎日、あんなにポーションを欲しがっているんだろう)


 らちが明かない。

 ロキは単刀直入に、たずねることにした。


「……僕が渡してるポーションは、何に使ってるの?」


 ロキの言葉に、トリスは少し驚いて、それからカップを置いて、息を吐いた。


「やっぱりそれですか。まぁ、気になりますよね」


「そりゃ気になるよ! 冒険者でもない街の住人が、ポーションを使用することなんて、ほとんどないんだよ。トリスには悪いけど、何に使っているのか教えてくれない限り、もうポーションは渡せないからね」


 弱気なロキだが、このときばかりはきっぱりと言い切る。

 するとトリスは、焦ったような表情を浮かべた。


「……うっ、じゃあ仕方ないですね。何に使っていたのか教えますよ。ボクの部屋に来てください」


 トリスは立ち上がって、部屋を出る。ロキは、トリスの後に着いていった。

 二階に上がって、突き当あたりの部屋。

 扉には『トリスの部屋』と書かれた、札がぶらさがっている。


「ここがボクの部屋です。中へどうぞ」


 トリスが扉を開けてくれたので、ロキは部屋の中へ入る。

 子ども一人にはもったいないほどの広い部屋だ。借りたロキの部屋の三倍はある。

 正面には勉強用らしき机。棚には、男の子らしい、スモールサイズの武器のレプリカが並べられている。

 部屋を見渡していたとき、ロキは部屋の隅にある、とあるものに気がついた。


「え、ちょっと! トリス、なにこれ!」


「ボクのペットです」


「ペット!? いやいや、だってこれは……!」

 

 ロキは振り返って、トリスに向かって叫んだ。


「スライムじゃないかッ!」


 そう。

 トリスがペットだと言ったのは、愛玩用に買われる動物ではなく、最弱モンスターのスライムだったのだ。

 よく見ると、スライムは、ガタガタとぷにぷにの身体を震わせて、怯えているように見える。目からも涙がぽろぽろと零れていた。


「ちょっと、トリスッ! このスライムどうしたのッ!?」」


「はぐれスライムです。少し前、虫取りをしに草原を歩いていたところ、一匹で歩いていたので捕まえました」


「つ、捕まえた!? トリス大丈夫だったの!?」


「はい。捕まえてすぐに、虫取り用カゴに入れましたし、何ともありません」


 何でもないように、トリスはそう言った。

 スライムは、最弱といえどモンスターだ。一匹といえど、一般人だったら怪我をしてもおかしくない。

 たまたま運がよかっただけだ。


「このスライムを、棒で叩いたり、突いたりすると面白いんです。スライムって、ぷにぷにしているでしょう。こうやって、叩くと、ぴょんぴょんって跳ねるのが面白くて。でも最近、すぐ弱ってしまうので、それでロキさんにポーションをもらいに行っていたんです」


「だ、だめだよそんなことしちゃ! スライムだって、モンスターなんだから!」


 衝撃の事実に、思わずロキは声を荒らげる。

 まさか怒られると思わなかったのか、トリスは少し驚いているようだった。


「……別にいいじゃないですか。冒険者は外でモンスターを殺しまくっているんでしょう? それに比べたらかわいいものですよ」


「スライムを心配をしてるんじゃなくて、トリスの心配をしてるんだよ! スライムだってモンスターなんだよ? 何かの偶然で、外に出て攻撃されたらどうすんの!? それに、モンスターに恨みを溜めると暴走するケースだってあるんだから!」


「今まで何ともなかったんですから、大丈夫ですよ。ほら、ロキさん。見てください。面白いんですよ。こうやって、木の棒でつつくと――」


 トリスがそばにあった木の枝を持ち、怯えるスライムを殴ろうとしたので、ロキは慌てて木の枝を勢いよく奪い、トリスの頬を軽く叩いた。

 ぺちり、と頬を叩く音が鳴る。

 ロキは、トリスをキッと睨んだ。


「駄目だって言ってるだろ!? このスライムは僕が逃がしておくからな!」


 ロキがそう叫んだのち、部屋がしんと静まりかえる。

 トリスはおそるおそる、叩かれた頬に手を添えて、身体をぶるぶるとふるわせはじめた。


「ボ、ボクを叩いたなッ!? 貧相なもやし野郎のくせにッ!」


「は!? もやし野郎!?」


「お、お前なんか、パパに言いつけてやるッ! 部屋を追い出してやるからなッ! うわああああんッ!」


 今まで冷静さはどこへいったのか。

 トリスは唐突に号泣して、ロキと突き飛ばし、部屋を出て行ってしまった。

 ガタガタと階段を下る音が聞こえて、玄関の扉が荒々しく開けられる音が聞こえる。

 家を出て、父親を呼びに行ったんだろう。

 

 ロキは、早くも住み家を失いそうになる危機よりも、もやし野郎と言われたことが地味にショックだった。

 自分の痩せた身体を見る。

 もう少し、肉を食べようと思った。


 改めて、スライムに向きなおる。

 天井が少しだけ空いている、透明なケースに入れられているスライムは、ロキを見てがたがたと身体を震わせている。

 これほど怯えているスライムは初めて見た。

 興味深くて、まじまじとスライムを見てしまう。


 ――そのときだった。


『―契約可能―』


 スライムの頭上に、そう文字が浮き上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。