表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/39

パーティと巨神と

 ンーーーーーーー……


 唄うように透き通った声を上げる巨神。

 両脇の十本の腕を揺らがせ、大口を開けると、黄色い光の輪を幾つも吐き出した。

 光の輪は、空気を震わせることもなく、ただしんとして四人に向かってくる。

 

 「避けろっ!!」

 

 フィスが叫ぶ。

 その声に応じてフィスとレイス、ミカエラとルルディのふた手に分かれて光の輪から距離を取る。

 光の輪が地面に衝突。

 すると、光の輪が触れた部分だけ土が消え、光の輪は地面の中を無音のまま通り過ぎて行った。

 「あ、主様!今のは一体…!」

 ミカエラが驚愕して呟いた。

 フィスは地面の抉られたような掘り跡に視線を落とす。

 抉られた地面には爆発したような形跡も、焼かれて焦げたような形跡も見当たらず、よく切れる刃物で切られた物の断面のように綺麗に整っていた。

 「消えている…?ま、まさか!!」

 巨神から再び吐き出された光の輪はミカエラとルルディに向かって進んで行く。

 「かの領域!その光の輪は領域そのものだ!触れたら怪我じゃ済まないぞ!!」

 ルルディはだんだんと近づいてくる輪を見極めると、飛び退いて距離を取る。

 再び女神が大口を開く。

 フィスは女神の口の前、輪の軌道上に闇と光の混合魔法を設置した。

 本来ならば、鏡の様に向かってくるものを映し出し距離を反転させる混合魔法だが、光の輪が当たった瞬間、破裂音を鳴らし弾け消え、光の輪はその後何事も無かったかのように進行する。

 フィスは続けて光線を発射するが、光線が光の輪に当たるとそれをすり抜け、空に向かって飛んで行き、更に闇の球を投げつけるが、今度は光の輪に当たった瞬間に霧散し消えてしまう。

 

 「くそっ!魔法が効かない!」

 フィスとレイスは飛び退いて光の輪を避ける。

 「光の輪は防ぎようがないと?」

 レイスが呟き、フィスが頷く。

 「恐らく、光と闇以外の属性はそこの地面のように消えてしまうはずだ。それに、光と闇も効果が無いとなると、あれは距離を取ってかわす他ない…。そして、僕ら固定的な存在は触れたら最後、かの領域に飛ばされるか何かして存在が失くなってしまう」

 フィスの話を聞いたレイスが息を呑む。

 「存在が、失われる…」

 「そういうことだね…。…レイス、属性は?」

 フィスの質問に対し、レイスは沈黙する。

 「…大丈夫、ちょっと失礼するよ」

 フィスはそう言うと、レイスの胸に手を当てた。

 フィスに手を当てられたレイスは、体の内側から何かを引きずり出されるような感覚がした。

 「な、何を…?」

 「レイス、君の魔力を少しだけ貰ったんだ。これを練って君の属性を調べる」

 そう言ったフィスの手が緑色の光を帯びている。

 「何だ、これは…」

 フィスはその初めて感じる魔力を練り上げたが、何も起こらない。

 

 そうして二人がやりとりしている間にも巨神から光の輪が横一列に発射される。

 幾つもの輪が重なり、ぴんと張った鎖のようになって四人に向かう光の輪。

 四人は前方に走りそれを回避するが、間合いが詰まった途端、体をくの字に曲げて四人を見下ろす巨神の十本の腕が蠢き、火球、雷撃、氷塊、かまいたちがそれぞれの腕から放出され、四人を襲う。

 魔法の雨を確認したミカエラが足に魔力を込め、地面を思い切り踏みつけると、爆音がし、地面に刻まれた半円のヒビから、ミカエラとルルディを囲む土の壁が屋根となって立ち上がった。

 その土管を真っ二つにしてひん曲げたような土の壁に様々な魔法が次々にぶち当たる。

 「何なのよあいつ…。神殿にも化け物がいて、レイスが死にかけて…!突然、いっぺんに…何でもかんでも起きすぎよ!」

 「…ごめん、ルルディ。あの時わたしがアインにちゃんととどめを刺していれば!」

 そう言ったミカエラは悔恨の表情で俯いた。

 「…あなたは、あの人は一体何をしてきたの?」

 ミカエラの肩にそっと手を置いてルルディが言う。

 ミカエラはルルディの目をじっと見つめて、話し出す。


 「主様とわたしは、世界の均衡を守る仕事をしてきたの。…管理局、世界の生物や文化、魔法もアイテムもそれら全てを監視、補強することを行う秘密機関。その中でも特に秘密性の高い仕事、モンスターデザイナーがわたしの主、フィス・プロノイアよ。彼は冒険者のレベルアップと野生生物の強さとのバランスを保つために生み出されるモンスターを根本から作り出すことができるの。ルルディ、スピアスという刺嘴鳥を知ってる?」


 「刺嘴鳥…。もしかしてそこの草原にいた?」


 「そう、あの子も主様がデザインしたモンスターよ。昔、あの草原には四足歩行の獣類モンスターが多く生活していたんだけど、見通しが良いために冒険者達のレベルアップのための狩場になってしまってモンスター達が激減してしまったの。それを察知した管理局から主様に依頼があった、それで考えられたのがスピアス。だから、広い草原の中でも擬態せずその姿を隠すことができるよう、肉眼で捉えづらい細長い体と空を飛ぶ時に背筋ではなく、全身をバネのように使いその反動で空中を跳ねるように瞬時に高速移動できる身体的特徴を主様は考えたの。…そうやって主様は幾つも新しいモンスターを作り出してきた」


 「それがあの女神が言っていた管理局の…」


 「モンスターデザイナーとして仕事をするひとは少し特別なの。簡単に言うと、生物としての成り立ちが通常とは逆、肉体ができてから心が生まれるのではなく、心そのものが体を持った形の生き物。元々肉体を持たなかった三賢人の自我の欠片、実体化した固定領域。主様は目に見えない世界という概念そのものが実体化した姿なの。だから、誰よりも世界を愛しているし、理解している。…もしかしてアインもそうなのかもしれない、主様はそれがわかっているから彼女を止めたいの…。主様は自分が正しいなんて思っていない、アインの言う世界だって正しい、そう思っているんだよ…」

 

 ルルディはただ黙ってミカエラの話に耳を傾けていた。


 「わたしは、主様の好きな世界ならどんな世界だっていい。でも、それでも主様はアインを止めようとしている。だから、主様に力を貸して!ルルディ!」

 ルルディの考えは、ミカエラの話を聞く前から決まっていた。

 「…当然よ。ここは私が生まれた世界だもの、管理局がどうとか、世界の均衡がどうとかそんなのわからない…。でも、まだまだ知らないことがあるの、もっと沢山経験したいの。だから、私はレイスと旅をすると決めた…。見たことのない生物、知らない街、不思議な道具…。私は、あなた達が守ってきたこの優しい世界が好きよ?」

 ルルディはそう言って微笑む。

 主が守る世界が好きだと言ったルルディ、ミカエラの中に渦巻いていた迷いが消えた。


 「わたしは何があってもこの世界を守る。あなたが好きだと言ってくれたこの世界を、主様と一緒に守り続ける!!」


 魔法の雨を受け続けた土の壁が崩れる。

 「ミカエラ!」

 フィスの呼び声にミカエラが振り返ると、突然フィスから闇の玉がフィスから発射され、ミカエラとルルディを吹っ飛ばした。

 ミカエラが体が飛ばされる最中、もう一度フィスを向いた瞬間、自分の足元ぎりぎりのところを光の輪が通り過ぎて行く。

 「ミカエラ!油断するな!!」

 「はいっ、主様!」

 「攻めるぞ!」

 フィスは巨神の真正面を陣取ると、二枚の銀貨を巨神の両脇に設置、光柱を発生させた。

 十本の手から魔法を連射しようとしていた巨神は脇から伸びた光柱に突き飛ばされ、放たれた魔法は空へと発射される。

 両腕を突き上げられ、仰け反る形で体制を崩した巨神の胸に三発の矢が射られた。

 三本の矢は渦を巻きながらまとまり、太い光の矢となって巨神の胸につきささり、巨神は完全に体制を崩し仰向けに倒れる。

 この時を待っていたミカエラは、飛び上がり右の拳に魔力を込める。

 連続して鳴る鐘を叩くような音と共にミカエラの拳が紫の光を帯びていく。

 「おらああああ!!!」

 ミカエラは、紫炎に包まれた拳に自分の体重と落下速度を載せて強烈な一撃を放つ。


 キャァァァァァァァァァ!!!


 ミカエラの拳が胸にめり込み、黄色の液体を撒き散らし、腕をばたつかせながら悲鳴を上げる巨神。

 悲鳴は鼓膜を突き破らんばかりの高音で辺りに響き渡る。

 「ああっ!!」

 拳を叩き込んだミカエラも、それを下から見ていたフィスとルルディも耳を抑えて鼓膜を守ろうとしている。

 その時、いつの間にか女神の後方に構えていたレイスが倒れこんでくる巨神の喉目掛けて大きなランスに変化させた剣を投げ飛ばした。

 光の尾を引きながら一直線に飛んでいったランスは見事巨神の喉に直撃、それを貫く。

 

 グェッ……


 喉を貫かれた巨神の悲鳴が止み、巨大な体は地面を砕き大量の砂埃を巻き上げながら倒れ込んだ。

 巨神の胸からは黄色の液体が溢れ、貫かれたことで首が半分もげている。

 「こんのやろおおおお!!!」

 倒れて首をもがれて動きの鈍くなった巨神の上に乗っているミカエラが連続で巨神の体を殴り続ける。

 ミカエラの拳が打ち付けられる度、巨神の体は砕け、飛び散り、黄色の液体をまき散らした。

 最早自力で動くこともなく、拳が当る度に体をびくつかせるだけの巨神。

 

 「ミカエラ!!もう止めるんだ!」

 「いえ、そうはいきません!こいつは、こいつはそんなに簡単に死にません!ここで、今ここでこいつを完全に一片も残さず壊します!!」

 ミカエラはそう言うと一層激しく、咆哮を上げながら巨神を殴り続ける。

 拳が振り下ろされる度、ミカエラの体が黄色く染まっていく。

 「…ミカエラ、もう、止めるんだ」

 フィスがミカエラに語りかける。

 もう、巨神の体は原型を留めていない程ぐちゃぐちゃに壊されていた。

 全身から黄色の液体を垂れ流し、肩で息をしているミカエラ。


 「こ、これで終わったの?」

 ルルディが呟く。

 「諸悪の根源が全て混ざり合った姿がこやつなのだとすれば、もう、終わったと考えても…」

 レイスは腕を組み、目の前に転がる巨大な死体を見つめて言う。

 「あ、主様…」

 ミカエラは全身にかかった液体を拭いもせず、フィスに視線を送る。

 フィスは息絶えた巨神の体にそっと手を当て、少しの間黙っていた。

 

 静寂が辺りを包む。


 「もう、終わったんだ。これで…もう」

 フィスが立ち上がり顔を上げた。

 「ほ、本当に?本当に終わったんですか!?」

 「ああ」

 「終わった…、本当に終わったんですな?」

 「ああ」

 「やった、やったのね私たち!もうわけのわからない化け物に怯えることはないのね!?」

 「ああ、そうだよ」


 俯いたまま三人の質問に答えるフィス。

 「…アインの企みは潰えた、そして、管理局も。世界に手を加える者はいなくなった、世界はこれで…これでいいんだ、きっと」

 そう言ってフィスは顔を上げる。


 「うっ」

 

 息を漏らし、地面に崩れ落ちる。

 

 「主様っ!!」


 「そ、そんな!!」

 

 「誰ぞ!!」

 レイスはフィスの胸を貫いた矢が飛んできた方向を振り返る。

 レイスの視線の先には、天上の灯が差し始めた薄明かりの中、赤く輝く二つの瞳だけが良く見えていた。

 

  

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ