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パーティと破壊者と

 ミカエラの足の陰からルルディがフィスに駆け寄る。

 「だ、駄目だ!君の魔力じゃ昇華を起こしてしまう…!」

 「…大丈夫。疲れて動けなくなるかもしれないけれど、死ぬほど魔力を使ったりしないわ」

 ルルディはそう言ってフィスの傷口に手を当てる。

 ルルディの掌が輝き、光の靄を発生させると、みるみるうちに割かれた脇腹の傷口が塞がっていく。

 フィスの傷口が完全に塞がると、ルルディは力尽きて倒れてしまった。

 「き、君!大丈…」

 「ルルディ様!!」

 倒れたルルディに駆け寄るレイス。

 「レ、レイス・アイザック!じゃあ、この子は…」

 「ルルディ様!ルルディ様!!」

 レイスにはフィスの声が聞こえない程興奮している。

 「ミカエラ、お前の杖をこの子にあげてくれないか?」

 フィスがミカエラを見上げて言う。

 「もちろんです!さあ、これを」

 ミカエラが腰に携えた一本の杖をフィスに渡す。

 ミカエラから受け取った杖を倒れたルルディの胸に抱かせ、フィスが杖に魔力を送り始めた。

 すると、からみ合ってねじれた形をしていた杖は光る糸となって解け、ルルディに体に巻き付いていく。

 

 巻き付いた光の糸がルルディに溶け込む。

 「え、ま、まさか!!」

 「これは…」

 「ルルディ様っ!!」

 杖に込められた魔力を吸収したルルディを見た一同が驚愕する。


 「う…うーん」

 気を失っていたルルディは魔力を補充したことで目を覚ます。

 「ルルディ様!そ、そそそのお姿は!?」

 ルルディの傍らで慌てふためくレイスが言う。

 「レイス…。もう大丈夫、心配いらないわ。…ありがとう、あなた達が助けてくれたのね」

 ルルディがフィスを見、ミカエラを見上げる。

 しかし、巨人の目線はルルディを向いてはおらず、神殿の入口方向に集中している。

 「主様を助けてくれてありがとう。でも、話は後だよ、ルルディ」

 「行くぞっ!ミカエラ!!」

 

 フィスとミカエラが神殿の方角、体を取り戻した女神に向かって行く。

 フィスは走りながら両手を合わせ、雷魔法を発動させる。

 すると、強烈な破裂音と共にうねる雷撃が女神目掛けて放出された。

 女神は両手を雷撃に向けてかざし、雷撃の軌道をねじ曲げる。

 女神から反射した雷撃がミカエラの方へ飛んで行く。

 ミカエラはそれを右腕の小手で受け、青く鋭い刺へと変化させると、女神に向けて拳を振り下ろす。

 「ちぃっ!!」

 女神はミカエラの拳を飛び上がって回避する。

 女神を捉えるに至らなかったミカエラの拳が地面に当たると、土が抉れ、芝が舞い上がった。

 宙に舞う女神の両手から二発、業火の火球が発される。

 二発の火球が同時にミカエラに向かって飛んで行く。

 「ミカエラ!下がれ!!」

 フィスの掛け声に応じてミカエラが火球から後ろ跳びに距離を取ると、フィスは右手で光、左手で闇の魔法を同時に発動、ミカエラと火球の間に景色を映す透明の膜を発生させた。

 二つの火球を映し出す鏡のような効果を持つそれに目を向けた女神の目の前に突如火球が現れ、衝突する。

 「ぐっ!」

 女神に衝突した火球は破裂し、その強烈な爆風で女神が仰け反った。

 「こんのやろおおお!!」

 ミカエラは飛び上がり、ドロップキックを繰り出す。

 「あっつ…!!」

 ミカエラの両足がぶつかる寸前、女神は炎の帯を彼女の両足に巻きつけた。

 女神は脚の自由を失ったミカエラをフィス目掛けて投げ飛ばす。

 するとフィスは、飛んでくるミカエラ目掛けて銀貨を一枚放り投げる。

 投げられた銀貨は霧散し、膜となってミカエラの巨大な体を受け止めた。

 魔法膜によって受け止められたものの、態勢が整っていないミカエラを女神が追撃。

 炎を鞭のようにしならせてミカエラを襲う。


 「させんっ!」

 

 ミカエラに突進する女神の前にレイスが立ちふさがり、炎の鞭を断ち切った。

 「雑魚共がっ、また群れるか!」

 女神が叫ぶ。

 「助かったよ、レイスさん」

 「無論。ルルディ様を救ってくれた礼だ、金髪の女戦士よ」

 そう言ったレイスがミカエラに手を差し伸べた。

 「二人共っ!何かしてくるぞ!!」

 女神が宙で体を捻り、徐々にその速度を増していくと、女神の体に炎の帯が絡みついていく。

 女神は足、胴、腕、頭と炎に飲み込まれる。

 完全に体を炎に包み込まれた女神が両腕を広げると、体表面を炎が揺らめく首のない巨大な鳥の姿へと変わった。

 炎の巨鳥は空中でひと羽ばたきすると、強烈な熱風を巻き起こした。

 すると、一瞬にして辺りの草花が枯れてしまった。

 「主様!ルルディ!こっちに!!」

 女神の羽ばたきで起こされる、吹き荒れる熱風から二人を守るために体を丸めてフィスとルルディを抱え込むミカエラ。

 熱波でミカエラの背中が焼けていく。

 「くそっ!」

 フィスはミカエラの背を覆うように厚い氷の壁を召喚するが、それはすぐに溶けて薄くなっていく。

 

 「でえいっ!」

 レイスが炎の巨鳥に斬りかかる。

 熱風に怯まず、電光石火の足捌きで駆け込んだレイスに気付けなかった巨鳥は、不意の一撃で片翼を切り落とされた。

 切り落とされた翼は火の屑となり消滅、バランスを崩した巨鳥は地に落ちた。

 それを見たレイスが追撃を試みるが、落ちた巨鳥の周囲が激しいく燃え上がり、近付くことができない。

 「レイス!下がっているんだ!!」

 熱風がやんだことを確認したフィスがミカエラの陰から飛び出し、親指を立て、ボタンを押すような仕草をする。

 すると、中庭全体が大きく揺れ、地の底から地鳴りが起き始めた。

 次の瞬間、轟音と共に巨鳥を中心に火の囲いもろとも地の底から破裂し、地面が吹き飛ぶ。

 爆風で、土砂と火の屑に混じって業火の巨鳥が打ち上げられた。

 無防備に片翼をばたつかせ宙を舞う巨鳥を視界に捉えたレイスが飛び上がる。

 「おおおおおお!」

 飛び上がったレイスが両手剣を力いっぱい振り上げ、巨鳥に攻撃。

 

 「何っ!!」

 振り上げられたレイスの剣が巨鳥の爪で止められる。

 巨鳥はその反動を利用し更に高いところに飛び上がると、体を回転させ、女神の姿に戻った。

 

 「おのれっ!膿共が…!!」

 憎々しげにそう言った女神は、鋭い目つきで地上にいる四人を睨みつけると左腕を再生させ、右手を天にかざす。

 すると、中庭の隅に転がっていたくちばしの鎌が口を開き、悲鳴のような鳴き声を上げた。

 「…!」

 フィスが鎌の方に視線を向けると、鎌は意思を持ったようにふわりと宙に浮き、高速に回転を初め、レイスの方へ飛んで行くのが見えた。

 「レイスっ!!」

 フィスの声に振り返ったレイスに回転する鎌が襲いかかる。

 「ぬんっ!」

 間一髪、レイスは剣で鎌の攻撃を弾き上げた。

 弾かれた鎌は回転したまま女神へと飛んでいき、そしてその手元に収まった。

 

 鎌を受け止めた女神が開かれた鎌の口の中に手を突っ込む。

 すると、そこから気味の悪い生肉をかき混ぜるようなぐちぐちという音を鳴らしながら粘つく緑色の液体を絡みつかせた白い塊が取り出される。

 ぐったりとしたその白い塊には無数の手足が体中に生えており、通常の生物とは明らかに様子が違う。

 「何だあれは…」

 フィスが呟く。

 

 「エウリス…、目を覚ませ」

 女神がその白い塊を目の前に掲げ、そう言った。

 「エ、エウリス…だと?」

 「カーバンクル!!まだ生きているのか!!」

 レイスが叫び、続ける。

 「青年よ、あれが元凶ぞ…!!あれこそがボルドラに術を掛け、太陽の女神と融合させた張本人!!鎌に喰われ、死んだとばかり思っていたが…」

 「何だって!?エウリスがなぜ、そんな…」

 「詳しくはわかりませぬ。しかし、太陽の女神と陰で融合の研究をし、化け物を作り上げたのは奴らに違いない!」

 フィスは唖然として女神を見上げる。


 「うえっ、ち、朕はまだ生きているのです?め、女神のもの、お前朕をどうするつもりですか…」

 ぐったりとしているエウリスが女神を見て言う。

 「貴様と融合する…。貴様の力をわしによこすのだ」

 女神がエウリスを見つめる。

 「つ、強くなってそうするですか…?」

 「くだらぬことをぬかすな…。わしが欲しいのはただの強さではない。欲しいのは世界を元に戻す力、くだらぬ思想を植え付けられたヤーフールの子を殲滅する力だ」

 そう言ってエウリスを見つめる女神の瞳は、燃え盛る炎とは違う冷たさを宿していた。

 女神がエウリスに手をかざす。

 すると、女神の掌から溶けた蝋に似たとろりとした一粒の液体が溢れ落ち、それはエウリスに染み込んでいった。

 「やめるです!やめるです!!」

 エウリスは体中に生えた手足をばたつかせて女神に抵抗するが、女神はそれを無視し、顔の半分を裂くほどの大口を開けてそれを口に入れようとした。

 その時、女神の腕を一本の矢がかすめる。

 弓を構え、二発目の矢を射ろうというルルディをちらと見ると、女神はエウリスを丸呑みにした。


 喉を膨らし、胸を通り、エウリスは女神の腹に収まる。

 女神の腹が膨れ、それが収まった瞬間、女神の全身が黄色い閃光を放ち、辺りを照らしだす。

 ボルドラとの融合の時と同じく、ぐねぐねと目まぐるしく形を歪ませていく女神。

 光る塊となった女神が徐々に膨張していく。


 「くそっ!皆、一旦ここから離れるぞ!!」

 フィスがそう叫び、四人は神殿の外に飛び出す。

 「主様、あれ、どんどん大きくなっていってます!」

 膨張を続ける女神を見上げたミカエラが言う。

 膨れ上がる光の塊は、ついに地面に達し、異様な形を作り始めた。

 「…何よ、あれ」

 「な、なんという巨大さ…!!」

 

 光がはじけ飛ぶ。

 ボルドラと融合しエウリスを取り込んだ女神は、もはや生物ということすら似合わないとてつもなく巨大で異様な姿へと変貌した。

 胸が露わになった体の脇から十本もの腕を生やし、全身から羽毛を生やした超巨人は、燃える長髪をなびかせ、その巨大な緑色の瞳で四人を見下ろす。

 

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