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冒険者と破壊者と 2

 女神が鎌を振りかぶったままレイスに飛びかかっていく。

 レイスは突っ込んでくる女神との間合いを詰め、すれ違いざまに女神の脚を切りつける。

 切りつけられた女神の傷口から黄色の液体が流れる。

 レイスは着地する女神の背後に向き、再度突進、背中に一撃を加えるつもりだったが、振り返った女神によって弾き返されてしまう。

 剣を弾き落とされ、無防備になったレイスの目の前に女神の掌がかざされる。

 掌から火炎が噴射、炎がレイスの頭を包む。

 瞬時に顔を背けたため直撃は免れたものの、火がレイスの髪に燃え移りレイスの髪を焦がし始めた。

 火を払うためにレイスは地面を転がる。

 「ぐぅうう…!」


 女神は転げ回るレイスに向かって鎌を振り下ろした。

 回転し、ブレる景色の中に女神の姿を一瞬捉えたレイスは間一髪鎌の一撃を避ける。

 しかし、続けて二発、三発と鎌が振り下ろされる。

 レイスは体を回転させそれらを回避、四度目に振り下ろされた鎌を足で跳ね上げてレイスは逆立ちから反転、剣を構え直す。

 「隙が見当たらぬ!なんと機敏な動きかっ!!」

 「わしに隙が無いのではない。貴様が弱いのだっ…」

 女神の左手から業火の火球が発射される。

 二度目の火球にレイスは臆さなかった。

 飛んでくる火球を待ち構え、間合いに入った瞬間一刀両断する。

 「二度も同じ手を、くっ…!!」

 一発だけだと思い込んでいたレイスに続けて火球が飛んでくる。

 レイスは剣を振り、連発される業火の火球を撃ち落とす。

 「ぬん!甘いわっ!!」

 五つ目の火球を叩き切ったところでレイスは背後の気配に気付く。

 慌てて振り向くレイス。

 「遅いぞ」

 焼けた鉄の如き熱を帯びた女神の左手がレイスの首を掴む。

 

 「ぐあああああ!!」

 レイスの首の皮が焼ける。

 苦しみ藻掻くレイスは、両手剣をダガーへと変化させ、女神の左手を切り落とした。

 束縛から開放された体が地面に落ちる一瞬にレイスは女神の体を蹴りつけ一気に距離を取る。

 「がっはっ!!」

 皮膚から伝わる熱で器官に火傷を負ったレイスの呼吸が乱れる。


 その時、首の傷を撫でるレイスを囲むように無数の光の玉が現れた。

 「これは、ルルディ様…」

 光の温もりでレイスはそれがルルディの魔法なのだと確信した。

 小さな光の玉がレイスの体に密着し、体に溶け込んでいくと、熱で焼けた肌が瞬く間に癒えていく。

 レイスは今しがた火傷を負ったはずの首に手を当てた。

 「…治っている。ありがとうございます!ルルディ様!!」

 レイスは神殿の入り口を背に、振り向かずに言った。

 

 「…回復魔法か?なぜ貴様がそれを使える」

 女神は神殿の入り口に立つルルディを睨みつける。

 「あなたに教える必要は無いわ。レイス!やっちゃいなさい!!」

 レイスが雄叫びと共に女神に突っ込んでいく。

 女神が髪を更に激しく燃え上がらせると、くちばし鎌の口が開いた。

 女神は四枚の刃を持つ姿に変わった鎌を振り、駆け込んでくるレイスに対応する。

 上下に分かれた四枚の刃で挟み込むようにしてレイスに鎌が振られる。

 レイスはくちばしの間に剣を立て、上顎に位置する刃を受け止めた。

 しかし、くちばしがレイスを挟み込もうとして閉じていく。

 「ぬうううう…!!」

 それを防ごうと腕を挟み込み、下顎部分の進行を抑えるレイス。

 レイスの予想以上に閉じる力の強いくちばしは、レイスが腕に着けている小手を歪ませ、少しずつ腕にめり込んでいく。

 

 その時、一発の矢がレイスを越えて女神の頭に命中した。

 「貴様…!!」

 女神の頭に突き刺さった木の矢が燃え上がって炭になる。

 女神が気を逸し、くちばしの力が弱まった一瞬にレイスは後ろに飛び退き、間合いを取り直した。

 「ルルディ様!!」

 レイスが矢の飛んできた方向へ目を向けると、そこにはカーバンクルの大荷物の陰で弓を構えるルルディの姿があった。

 「レイスっ!私もこれであなたを援護するわ!!集中して!!」

 真っ直ぐ女神を見つめながらそう言うルルディの表情を見て、レイスは覚悟を決めた。

 

 「ルルディ様!白金をこちらへ!!」

 レイスの声に応じてルルディが白金をレイスの方へ投げる。

 ルルディとレイスの中間辺りにそれは落ちた。

 ルルディが二発目の矢を射る。

 矢が女神に向かって一直線に飛んで行く隙にレイスは白金を拾い上げ、一気に魔力を込めると、白金の塊は緑の光を帯びた一枚の布のようにひらりと舞い、レイスの体を包んだ。

 輝く白金はレイスの体に纏わりつき、やがてそれは緑の輝きを持つひと繋ぎの全身鎧へと姿を変えた。

 その最中、女神が左手を天に向ける。

 すると、天に向けられた左手から赤い霧が吹き出し、中庭を覆う雲のように頭上の少し高い所に満ち始めた。

 霧が徐々に中庭を覆っていくと、それより低いところにある空気が蒸化し、レイスたちの周囲に白い霧が立ち籠める。

 「くそう!これでは何も見えぬ!!」

 視界を防がれ、女神の姿が見えなくなったレイスはルルディの元へ駆け寄る。

 「ルルディ様!!」

 荷物の陰で蹲っているルルディを視界に捉えたレイス。

 その時、背後から霧に紛れて女神の一撃がレイスを襲う。

 視界の悪さで反応が少し遅れたレイスは、避けきれず背中を切られ、その衝撃で前のめりに転げた。

 

 「レイス!」

 ルルディが目の前に突然現れたレイスに近付く。

 「ルルディ様!」

 再び振り下ろされた鎌の殺気に気付いたレイスは直ぐ様ダガーを両手剣へと戻し、それを弾いた。

 女神が霧の中からゆっくりと姿を現す。


 「そうやって護り合うことでしか強者に立ち向かうことができない。貴様らはやはり弱いのだ。弱者を喰らいそれでも尚…。生命の冒涜、と貴様は言ったな。これが冒涜ではないというのか?他の生命を得ながらこれほどに弱い、これこそが生命への冒涜ではないのか!!」

 そう叫ぶ女神の左手から高熱の赤い閃光が放出される。

 閃光は、ルルディが盾にしていた荷物を燃やし、辺りの地面を斑に焦がした。


 「燃えて消えよ、貴様らのような者は元に戻った世界には不要だ」

 赤い閃光をまとめあげた火球は先程の五倍はある程の大きなものだった。

 一度まとまった火球は、次の瞬間には毛糸玉が解けるように炎の渦を成し、女神の掌で踊っている。

 「死ね…」

 炎の渦が女神の掌から飛び出し、二人を囲む。

 灼熱の渦に巻かれたルルディとレイスは逃げ場を失い、ただ焼かれていく。

 「ああああああ!」

 「ぐぬああああああ!」

 二人の悲鳴を聞く女神の頬を一粒の涙が伝う。

 空気を取り込み、激しさを増していく炎の渦。

 

 そして、二人の悲鳴が止んだ。

 

 「ふふ、ふははは、ははははは!!!ただのこれしき!炎にすら劣る貴様らは繁栄すべきではなかったのだ!!これが真の世界の姿!!強者のみが生き、強者として全ての生命が育まれる世界!!」


 ドンッ!!!!!!


 空から落ちてきたものが地面にぶち当たり、轟音を鳴らす。


 おおおおおおおお!!!!


 すると、強烈な咆哮と共に強風が巻き上がり中庭に充満する炎の霧もろとも吹き飛ばした。

 霧が晴れたその時、頭上から一本の光線が降り、女神に突き刺さる。

 「くっ!!」

 次の瞬間、肩から射抜かれ地面に串刺しにされた女神を黒く染まった巨大な拳が襲う。

 「ぐおおっ!!」

 拳は無防備な女神の脇に衝突し、吹っ飛んだ女神は中庭の壁に叩きつけられた。

 

 「…主様、今のはアインでしょうか?」

 「きっとまた何かと融合したんだ…。あの姿から察するに恐らく、ボルドラだろう…」

 巨人の後から地面に降り立った青年は、悲しそうな目で女神を見つめる。

 「ところで主様、あれは…?」

 巨人の女が見下ろす先には亀の甲羅のような形のぼんやりとした輝きを放つ半球がこぶの様に盛り上がっている。

 「…あの輝きは、回復魔法!?ミカエラ、あれの中に誰かがいる。何があったのかはわからないが、奴に襲われていたんだ…」

 青年がこぶを見て言う。

 

 壁にめり込んでいた女神の体が宙に浮き、壁から離れる。

 女神は視線の先にいる巨人とローブの青年を炎を閉じ込めた赤く輝く瞳で睨みつける。

 「お前はもうアインでも、ボルドラでもないんだな…」

 青年は地面に着地し、鎌を振り回す女神に向かって言った。

 

 「フィス・プロノイア、そしてその従者ミカエラ…」

 女神は依然、凶悪な目つきで二人を睨みつけている。

 「…僕達がわかるのか?」

 「当然だ、世界の膿めが。その憎き顔を忘れるはずもないっ!!」

 女神が炎を引きずりながら高速で青年を襲いかかる。

 それに対し、フィスは瞬時に分厚い氷の壁を出現させ、女神の進行を防いだ。

 しかし、女神の高速の鎌捌きで分厚い氷の壁がばらばらに崩されてしまう。

 後ろに飛び退いた青年が女神の足元から氷柱を立ち上げ、女神を打ち上げると、待ち構えていたミカエラが再び女神に拳を叩きつけた。

 女神は巨人の一撃を鎌で防ぐが、その力で壁面まで飛ばされていく。

 吹き飛ぶ最中、女神は空中で身を翻し、壁を蹴ると再び青年に突っ込む。

 女神の突進を防ぐため、フィスはローブのポケットから取り出した二枚の銀貨を女神に向けて投げつけた。

 しかし、女神はそれを鎌で弾き、左手を青年にかざすとそこから火柱を放出。

 青年が向かってくる火柱を飛び退いて回避すると、彼の後方にいた巨人の小手から青い砲弾が発射される。

 女神に向かって一直線に飛ぶ三発の砲弾。


 女神はその全てを鎌で切り刻むと、空中で方向転換し、青年に向かって行く。

 フィスを射程に捉えた女神が彼に向けてくちばしの大鎌で横薙ぎに振り付けると、彼はそれを光の棒で受け止めた。

 「お前は何者だ…。生物内融合体は記憶を持たないはずだぞ…」

 「貴様に答える必要はない!!」

 くちばし鎌の口が開く。

 「なんだって!?」

 突如開かれたくちばしに撥ね退けられ姿勢を崩した青年に向かって女神が鎌を引きつける。

 「主様!!」

 鎌の一撃をフィスはかわしきれず、それによって脇腹をざっくりと切られてしまった。

 「ぐっ!」

 青年は脇腹を庇ったまま崩れ落ちる。

 傷口から血が溢れ、赤い血溜りを作りだす。

 「こんのやろおおおお!!」

 激昂した巨人は青い光を纏った足で会心の一撃を繰り出した。

 鎌を引きつけたことで防御が間に合わない女神は、巨人の一撃をもろにくらう。

 凄まじい衝撃を受けた女神は片足が千切れ、鎌を持っていた右腕も吹き飛ばしながら神殿の壁に激突する。

 

 「主様っ!!」

 「ミ、ミカエラ…。かなり深くやられた…!この出血は少し、まずい」

 傷は内蔵まで達していた。

 フィスが吐血する。

 

 「どいてっ!!私が助けるわ!!」

 

 

 






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