第2話:【全プレイヤーが敵(ターゲット)】
「……逃走、または、殲滅……?」
スマホの画面に表示された不吉な文字を、仁は二度見した。
だが、事態は彼の理解を待ってはくれない。
ガシャン! と背後の瓦礫が弾け、ビルの影から三人の人影が飛び出してきた。
「おい、見ろよ……あのアホみたいな装備量!」
「マジかよ、初期エリアにレアエネミー出現なんて都市伝説じゃなかったのか!」
現れたのは、仁と同じくこの世界に飛ばされた「プレイヤー」たちだ。
彼らは質素な革鎧や、小さな片手剣を手にしている。対する仁は、全身を重厚なタクティカル・アーマーで固め、背中には巨大な砲身と大太刀。その姿は、確かにRPGのボーナスボスにしか見えない。
「待ってくれ! 俺もプレイヤーだ! 敵じゃない!」
仁は慌てて両手を挙げようとした。しかし――。
『――敵対個体の接近を検知。迎撃シーケンスを開始します。』
「えっ、ちょ、勝手に!?」
仁の意志を無視して、左肩のマウントから小型の誘導ミサイルポッドが展開される。
「ちょ、止まれ! 止まってくれ!」
自動迎撃の嵐
シュ、シュシュシュッ!
白煙を引いて放たれたマイクロミサイルが、プレイヤーたちの足元で正確に爆発した。
「うわああああっ!?」
「なんだこの火力! ふざけんな、勝てるかよ!」
煙に巻かれた男たちは、命からがら路地裏へと逃げ込んでいく。殺すつもりはなかった。だが、システムは「最も効率的な排除」を選択しただけなのだ。
「はぁ……はぁ……。勝手に動くなよ……死ぬかと思った……」
『警告。全武装の自律駆動により、エネルギー(EN)が枯渇寸前です。』
スマホのバッテリー残量が、凄まじい勢いで「2%」まで減少している。
全部持ち(フル・アーセナル)の代償。それは、本来一人分ではないエネルギー消費量だった。
「まずい、このままじゃ……」
暗闇からの接触者
仁が膝をつきそうになったその時。
背後の暗闇から、カツン、カツンと乾いた靴音が響いた。
「なるほどね。バグの正体は、欲張りな初心者さんだったわけだ。」
「……誰だ!?」
振り向くと、そこには漆黒のコートを纏った一人の少女が立っていた。
彼女の手には、武器らしきものは見当たらない。ただ、その瞳だけがスマホの画面と同じ――深い「紅」に輝いている。
「その装備、そのままじゃ1分以内にあんたの魂ごと吸い尽くして『ガス欠』になるわよ。……助けてあげようか?」
「……条件は?」
少女は不敵に微笑み、仁のスマホを指差した。
「あなたの『全武装』の一つを、私に貸しなさい。そうすれば、このエリアの安全地帯まで案内してあげる。」
仁は迷った。だが、スマホの画面は無情にも残り**「1%」**を刻んでいる。
全ての武器が解除されれば、今逃げたプレイヤーたちが戻ってきて、なぶり殺しにされるのは目に見えていた。
「……わかった。貸せばいいんだな!」
仁が画面をスワイプした瞬間、背中の大太刀が粒子となって消え、少女の手に実体化した。
それと同時に、仁の身体を縛り付けていた異常な熱気がスッと引いていく。
「契約成立。……ようこそ、地獄の『バトルワールド』へ。レアエネミーの王様。」
少女は巨大な太刀を軽々と肩に担ぎ、赤黒い空を仰いだ。
その視線の先――廃墟の街のシンボルである東京タワーは、禍々しい巨樹へと姿を変えていた。




