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鏡の檻のアスタリテ  作者: 汐の音


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18/21

18.大会本戦と怪文書

〜前話までの主要キャラ②〜

挿絵(By みてみん)


エアリエル・ディアブロ:ディアブロ伯爵家の遠縁、ファロー子爵令息だった。伯爵家の養子となり、アスタリテの義弟となる

ファビアン:レーゼ王国第二王子

ビアンカ・ポーレット:ポーレット侯爵令嬢

ハディート・ギュナス:ギュナス将軍子息

ライドール・パーン:パーン伯爵令息



 その後、剣術本戦はつつがなく進んだ。結果はハディートが優勝。シュラトは奮闘して四位となる。一年生でありながら好成績だ。


 運営本部に戻ったふたりは、ちゃっかりアスタリテの隣で寛ぐカルマににじり寄り、〝男の話し合い〟なるものを始めそうになったが、あえなく阻止された。ビアンカが、「そういうのは終わったあとにしてちょうだい」と叱りつけたからだ。


「それより――」


 運営本部のテントから出てきたビアンカは、ちらりと観客席を見渡す。

 すり鉢状に外周が高くなるよう配置された席で、生徒たちは魔法戦の開始を待って大騒ぎ。ざわめきやお喋りは最高潮に達し、いささか痺れを切らした感さえある。

 ビアンカは、ふうと息を吐いた。


「せっかく終わったところを申し訳ないのだけど、ハディート、シュラト。あなたがた、観覧席の裏通路を回って来てくださる? 不届きな賭けの胴元なんかが出現していないか、見てきてほしいの」

「承知しました」


 ハディートは恭しく一礼した。シュラトとも目礼を交わしたビアンカは、アスタリテとカルマに視線を流す。


「あなたたちは魔法戦出場者の控室へ。問題があればただちに教えて」

「わかりました」


 アスタリテは頷き、カルマは面倒そうに立ち上がった。


「でもさ。ファビアン殿下もいらっしゃる空間で起こる、問題って何? 待ち時間が長い理由は進行状況の調節ってこともあるし」

「それならいいの。でも――万が一ということがあるもの」

「……万が一?」


 椅子から立ち上がり、さっとスカートの裾を直したアスタリテが首を傾げる。

 ビアンカは伏し目がちにみずからのケープをめくり、制服の胸ポケットから一枚の紙を取り出した。


 それはそっけない、どこにでもあるカード。

 ただし。


〝偽リノ覇者ニ 制裁ヲ

 イト高キ御方ニ 贄ヲ 捧グ〟


 まるで何かで印字したような無機質な文体。不吉な赤錆色のインクで記された怪文書だった。



***



「よくあることなのですか?」


 生徒会メンバーは、キャメルブラウンのケープが目印である上、顔が知れ渡っている。大会運営員の腕章がなくとも、闘技場のなかは隅々まで入れた。出場者控室もそのひとつだ。アスタリテを伴ったカルマは、主語を伏せてファビアンに問いかけた。――同じ部屋に、生徒会と関わりのない一般生徒があと二名いる。


「ああ、毎年ってわけじゃないが。特定生徒の熱烈な信奉者(ファン)や、大がかりな賭けを実施する輩はたまにいてね。そういう手合いは勝者をコントロールするため、あの手この手で干渉してくる」

「まぁ……」


 アスタリテは口を押さえた。

 なるほど、こういう裏事情は記録に残らないのだと実感する。

 ファビアンは、ひょいと肩をすくめた。


「だから、その文書も何らかの揺さぶりのためだろうと、ビアンカと話していた」

「ご存知だったのですね」

「それは、こう見えて今期生徒会長なのでね」

「――殿下、お戯れもほどほどに。アスタリテ嬢、カルマ、ご苦労でした。『出場者に問題はなし』と、ビアンカ様にお伝えください」

「畏まりました」

「了解、パーン先輩」


 それまでファビアンの傍らに黙って立っていたランドールの泰然自若な様子に、アスタリテはホッとする。たしかに、他の出場者たちは魔力を安定させるために瞑想をしたり、落ち着いて過ごしていた。


「聞き取りに応じてくださいまして、ありがとうございました。皆様のご健闘を応援しています」

「こちらこそありがとう。――カルマ? 寄り道せずに彼女を送るんだぞ」

「もちろんです。……おっと、始まりそうですよ」

「! あっ」


 急に室内の明かりが落ち、アスタリテは声を上げた。窓から見える闘技場の空が、紗をかけたように暗くなっている。反対に地上では、ひとりのローブをまとった人物が火と水の魔法を駆使して巧みに光の華を咲かせていた。会場はおおいに沸いている。演者は魔法教師のコレル・アローだ。


「すごい」

「ここ数年、後半開始前にああやって教師が演目を行うのが常になっているんだ。今年はアロー先生か。行いはアレだけど、流石だねえ」

「ええと……そうですね」


 アスタリテは曖昧な相槌を打った。ファビアンの善意の皮肉が地味に刺さる。

 立場上、本当はコレルを擁護をしたい。さりとて秘密が多すぎて、なかなか表立っては庇えない。

 悶々と花火を眺めていると、控室のドアがノックされた。誘導係の生徒が初戦を行うふたり――ライドールと、もうひとりの男子生徒を呼ぶ。


「やれやれ、やっと出番か」

「ふふ、そのようですね」


 行ってきます、と一礼するライドールを見送り、アスタリテとカルマもその場を辞した。





 が、まさか。


「うっ」

「?? どうした、アスタリテ嬢」


 石の通路を渡り、本部のある闘技場の正面ブロックに向かう前にふらりと酩酊感がアスタリテを襲う。


(どうして今? ベーゼ、リッテ……)


 霞む視界。傾ぐ体をすばやく誰かが支えてくれた。

 そのひとの声も遠のく。


(ああ、カルマ様だ)


 不覚にも、アスタリテは内なる魔女に体を明け渡した。







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