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110話 懐かれました。

「というわけで帰ってきた」

 ユウト達の待つ家に帰ってきたナストは、ユウトと別行動中の出来事を共有していた。ヒメカは、何よりもまずはお風呂と言い、帰ってきてそのまま風呂場へ直行したのでこの場にはいない。

「俺達の方はそんな感じだったけど、お前はお前で色々起きすぎじゃね?」

「俺からアクションを起こしたわけじゃない。あと、絶対に情報を漏らすなよ」

「わーってるって! さすがに言ったらヤバいってのは俺でも分かるっての!」

 文句を言いつつも、とりあえず酒には気を付けようと気を引き締めるナスト。マルズに来てからは冒険者業が忙しかったのと、この家の料理が美味しくて酒がなくとも何も思わなかったし、飲む相手がいない酒はあまり飲む気がしないだけで、別に酒が嫌いなわけじゃない。

「とりあえず姉さんが来たら例の人を紹介する。けどナストとは相性が悪いかもしれないからそこだけ頭に入れておいてほしい」

「あー…………努力はする」

「基本的には2階の空き部屋で生活させてるから」

 話に一区切りついたところで、お風呂上りですっきりした様子のヒメカが合流。エルフの少女と一度顔合わせをすることになった。



「……なにこれどういう状況???」

「……分からない」

 顔合わせをしに来たはずのヒメカとナストだったのだが、部屋に入ってすぐは相変わらずのふてくされた態度で出迎えたエルフの少女。そして第一声は「誰よこの女!」である。

 ヒメカがユウトに「もしかしてこういう感じ?」と聞くのでユウトは頷いた。

 ちょうど見張り番だったジェードがエルフの少女を注意するも、効果は薄く、その間ヒメカは少し考えて普段は抑えている魔力を開放した。すると、エルフの少女は一瞬ビクリと体を震わせた後、何故だか頬を赤く染め、ヒメカに対して従順な態度を取るようになったのだ。

「姉さん、説明」

「相手の魔力を気にしているようだったから魔力を抑えるのをやめてみたの。でも、私より本人に聞いた方が確実だと思うわよ?」

 そう言ってヒメカがエルフの少女に質問を投げかけると、驚くほどすんなりと、そして圧倒的語彙と描写力でヒメカの魔力を褒め称える言葉が返ってきた。あまりにも長かったので、途中でヒメカが止めたが、本人はまだまだ言い足りない、という表情であった。

「とりあえず魔力量が多ければ多いほど好意を持たれるということでいいですか?」

「はい!」

「なるほど」

 ヒメカが短くまとめると、元気な返事がきた。エルフの少女の素直な反応に他の面々は少し戸惑うが、話が進まなくなるので気にしないことにした。

 エルフの少女が言うには、ヒメカの魔力量はエルフの中でも上位と言えるほどに魔力量が多く、エルフの里へ行けば求婚者が絶えないだろうとのことだ。エルフにとっては種族よりもまず魔力量のようだ。

「あの、生まれたての赤子のように純粋無垢でありながら老練のエルフのごとく洗練された濃密で豊潤な魔力の持ち主であらせられるお姉さま! 可能であれば御名をお聞きしたく存じます! そして、出来ることであれば私の主になっていただけないでしょうか! お姉さまのご命令であれば、たとえどんな汚辱にまみれようとも必ずご命令を遂行させていただく次第です!」

「ここへ来てからのあなたの態度は聞き及んでいます。この家におられる方々は我が家のお客人。そして、現在あなたの仮の主人は私の弟です。あとは言わなくとも分かりますね?」

「……は、はい……大変申し訳ありませんでした。これからは心を入れ替えて皆様に尽くさせていただきます」

 笑みを浮かべながらも、きっちりと指導するヒメカ。すでに自分を下に置いたエルフの少女は素直に頭を下げたのだった。

「あと私の名前はヒメカです。おそらくあなたの方が年上でしょうし、お姉さまはやめてくださいね」

「……! はい! ではこれからはヒメカ様とお呼びさせていただきます!」

「そうしてくださると助かります」

 まさに飴と鞭。名前を教えるだけで飴になるのかは疑問だが、少女としては十分ご褒美のようだ。途端に表情を明るくして深く頭を下げた。

 とりあえず、当初の目的である顔合わせは終わったからとエルフの少女を部屋に残して退室した4名は、リビングへ戻ることにした。監視役のジェードも一緒なのは、少女の様子見をする為である。



 4人がリビングに戻ると、ちょうどテオと学院生組がいたので、お茶をすることになり、全員でのんびりしていると、ニコライがふらふらとおぼつかない足取りで現れ、椅子に座ると大きく息を吐きながら背もたれに体重を預けた。

「おはようございますニコライさん。随分お疲れのようですが昨夜も無理をなされたのですか?」

「お? おお、ヒメカ嬢。ヒメカ嬢も帰ってきていたのだな。気づかなんで申し訳ない。一昨日からお邪魔させてもらっておる」

「いえいえ。ようこそいらっしゃいました。事情は弟より聞き及んでおりますのでお気になさらず。すぐに朝食を用意しますね」

「ヒメカ、俺も!」

「承知しました」

 ヒメカとテオが同時に席を立つと、ナストも手を挙げて朝食を食べたいというリクエストがあった。一応、帰りの馬車に乗る前に軽く食べているが、ナストはもう小腹が空いたようで、ニコライに便乗して食事を取るようだ。ユウト達はヒメカ達が帰る前に済ませているので今飲んでいるお茶だけでいいようだ。

 テオが2人分の朝食を用意する間、ヒメカは疲労回復効果のあるハーブティーを用意して先に出すと、ニコライは一口飲んで目を見開いた。

「おお……これはいいのぅ。疲れがよく取れる上に味も香りも良い」

「ありがとうございます。薬草を数種類ブレンドしてあります。甘味が足りない場合はこちらのはちみつをどうぞ」

「ではそちらも試して……なるほど、こちらも良い。調合師や薬師が小遣い稼ぎにブレンド茶を作ることはあるが、ここまで効果が高く、味が整っているものは無い。良い腕をしている」

 ニコライが飲み干したタイミングで、テオが食事を運び、お茶だけ飲んでいた人もブレンド茶が気になったようで、全員もう一杯いただくことにした。



 お茶会はニコライの睡魔をタイミングに解散となり、さっそく屋台の準備にとりかかることにした。

 屋台を一部改装し、バンズを大量に焼き上げ、具材も焼き工程の直前まで済ませる作業を延々と続け、時間停止機能付きのマジックポーチへ放り込む。

 準備日が1日増えたことで予定よりも増産できるかと思われたが、残念ながら調味料が切れてしまったため、計画していた量を少し超えたくらいで一時作業をストップして、材料集めにオビギュの迷宮へ姉弟が向かうことになった。とりあえず壊れたマントの代わりだけ製作してすぐに出発することにした。ついでに迷宮の様子を見られればという目論見もある。防犯をがちがちに固めた家の中にいれば安全なので、帰りは明日の朝の予定である。

「その前に教会に寄ってからにする?」

「そうね……時間停止するみたいだし、寄ってもいいかしら?」

「了解」

 まだ閉門を気にする時間でもないため、方向転換して教会へ向かう。



 教会へ赴くとオズバルドが姉弟を歓迎したが、今回はあまり時間がないからと些少のお布施を渡して神像へお祈りを捧げると、神像から視界を覆いつくすほどの光が溢れた。

≪ふむ。思ったより早かったのぅ≫

「お久しぶりです。色々と言いたいことはありますが、まずは感謝を。マジックポーチや言語もですが、特に調味料の複製を可能にしていただいて助かっています」

≪!? ど、どうしたのじゃ? おぬしがワシにそのような態度を取るなど、体調でも悪いのか!?≫

「いや、私とて感謝くらい普通にしますけど? というか、やはり神様のおかげだったんですね」

≪う、うむ。とはいえ、膨大な魔力と引き換えじゃがな。当たり前じゃがこちらの世界の物は複製できないようになっておるぞ≫

「知っています。というか、だからこそ気づいたと言えます」

≪そうか。それで本題じゃが、すでに弟に聞いておると思うが追加報酬をやる。願いを言ってみよ≫

「願いは弟と同じ物でお願いします。それと質問なのですが、魔物の氾濫の具体的な日とそれを防ぐ方法はありますか?」

≪ステータスを隠すスキルじゃな。……よし、付いたぞ。それで、氾濫についてじゃったな。確実にこの日とは言えぬが少なくとも半月~1か月以内には起きるじゃろうな。あの迷宮は溜まりすぎた魔素を魔物という形で排出しているだけじゃから、今からおぬしらが大量に迷宮の魔物を狩ってももう間に合わんじゃろう。今日から毎日狩ったとしてもせいぜい数日遅らせる程度じゃろうな。それでもというならば、最下層の魔物を狩るのが一番効率が良いとだけ言っておこう≫

「そうですか……ありがとうございます」

 さらにおまけとして、時間停止機能付きの魔法鞄の作り方と教えて貰えたヒメカ。シャルム神は時間と空間を司る神らしく、得意分野だからと意気揚々と説明していた。それとは別に、無意識とはいえ神託を拒否していたことへのお小言も貰ったが、とりあえず教会でお祈りする時だけは拒否しないように意識するということにしたヒメカであった。無意識で拒否するならば、意識する機会を設けようということのようだ。

 用はもう済んだとばかりにヒメカの意識が現実に戻ると、今まさにユウトが祈りを捧げようとしていたため、ヒメカもそれに続いてお祈りを捧げた後、教会を出た。

「長々と話した後なのに時間が経っていないととても不思議な気分になるわね」

「分かる」

 そんなことを話しながら冒険者ギルドで許可証を発行してもらったその足でオビギュの迷宮へ潜るのだった。



 姉弟が街に戻ったのはその日の閉門間際。

 すでに攻略済みの2人は目的の物がどの階層にあるのかも知っているし、すべての転移陣を使用可能なため、効率的に採取をすることが出来た。ついでとばかりに同階層で採取できる他の物も採取していたのは秘密である。

 その後は、一度だけ最下層のボスを討伐してから街へ戻ってきたのだった。

「キマイラ2体目だけど、どうしよう? 売る?」

「……いや、今は保管しておいて、氾濫後に売るのが良いかもしれない。ラトローの迷宮が調査中な上に、オビギュの迷宮に異変があるから、これ以上の騒動を起こすのはちょっと……」

「……そうね。前回行った時よりもオビギュの迷宮の魔物と採取素材が増えていたことも伝えないといけないものね」

 おかげで短時間での採取で大量の成果が得られたのだが、冒険者ギルドにとっては頭が痛い案件だろう。だからといって報告しないわけにはいかないため、さっさと冒険者ギルドで報告して帰宅したのだった。



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