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111話 2度目の屋台です。

お待たせしました。

 その日の夜、ユウト、ナスト、そして学院生組は、こっそりと部屋を抜け出し、明かりも点さずリビングに集まっていた。

「(来たな)」

「(良いものが見れるって聞いたら普通に気になるだろ。)」

 ナストが言う通り、この状況はユウトの提案であった。

「(それで? いったい何が見れるんだ?)」

「(それは見てのお楽しみ)」

 そう言うと、ユウトは庭に出るように手招きした。

 こんな夜中に庭? と、不思議そうにするも、ユウトに促されるままに外へ出ると、そこには月明りに照らされながら、向こう側が透けて見えるほど薄い布を優雅に操りながら舞うヒメカの姿があった。

「「「「…………」」」」

 普段の外見詐欺はどこへ行ったと言いたくなるほどに優美。手足の指の先まで神経が行き届いていて、ベールさえ意のままであるかように、一瞬たりとも美しくない瞬間がない。

(テオやジェードも見られたら良かったんだけど、明日も早いし仕方ないか……)

 ヒメカに目が釘付けの4人を横目に見つつ、ここにはいない2人のことを考えるユウト。しかし、すでに身内であるのでまた見る機会はあるだろうと思いなおした。


「見て損はなかっただろ?」

 結局、一頻り見終えるまで目を奪われていた4人にそう話しかけるユウト。そのユウトに対して、全員が頷いた。

「「「すっごく綺麗でした!」」」

「……それは認める」

「ふふ、お褒めに与り光栄です」

「「「ぅわあ?!」」」「うおっ?!」

 気配無く目の前に現れたヒメカに、飛び上がる4人。感動が驚きに塗り替えられて違う意味で心拍数の上がった胸に手を当てた。

「姉さん、もういいの?」

「ええ。頭の整理は出来たわ。あとは……良ければ皆さんお手伝いをお願い出来ませんか? 悠は相手役をお願い」

 深夜であることもあり、申し訳なさそうにお願いをしてくるヒメカ。何を手伝えばいいのか聞いていないのに、つい了承してしまうのだった。

 その後、ユウトが敵役、カルロが護衛される役、ナスト、ギル、サントが護衛役、ヒメカが明かりと遮音結界以外の魔法禁止という条件付きの護衛される役であり護衛役でもあるという微妙な立ち位置で、ごく小規模ではあるが集団戦の訓練が3時間ほど続いたのだった。



「「おはようございます」」

「テオもジェードもおはよう。今日は私たちだけいつも通りで、他の人達は起きてきた順に朝食にするからよろしくね」

 翌早朝、ヒメカは短時間睡眠で問題ない人間であり、訓練後にポーション入りの湯船にもつかっているので疲れも残っていないどころかむしろ元気いっぱいお肌艶々で朝食の下ごしらえを始めていた。昨夜の夜間訓練を知らないテオとジェードも結界のおかげでしっかりと睡眠を取れた様子でいつも通りの時間に起きてきた。

「そうなんですか? わかりました」

「承知しました」

「ありがとう。スイとセキトバをお願いね」

 そう言って朝の仕事に向かうテオとジェードを見送ったヒメカは朝食作りを再開したのだった。


「おお。今日も朝から良い匂いがすると思うたらヒメカ嬢であったか」

「ニコライさん。おはようございます。昨夜も作業部屋で徹夜ですか?」

「うむ。一応急ぎの依頼は終わっておるが、目の前に道具も素材も揃っておるからのぅ。つい夜更かししてもうたわ」

「ふふ、気持ちは分かりますがあまり無理はなさらないでくださいね。目の下が黒くなっていますよ」

 以外にも、一番早く起きてきた(と言っても寝ていないだけだが)のはニコライであった。まだテオとジェードは厩から戻ってきておらず、ここにはヒメカだけであったが、空腹感と良い匂いに耐え切れずにやってきたようだ。

「すまんがすぐに食べられる物はないかのぅ。腹が減って仕方がない」

「かしこまりました。とりあえずお野菜のポタージュは出来ているのでお出ししますね。その間に他の物もご用意させていただきますので先にお召し上がりください」

「よろしく頼む」

 スープを配膳すると、手際よく朝食を作っていくヒメカ。途中でテオとジェードが合流し、さらにスピードアップしてニコライの腹を満たしたのであった。


 ニコライが満足して部屋へと戻った後、3人で朝食を取り、エルフの少女にも食事を持って行った後は屋台の準備をしながら夜更かし組が起きてくるのを待つ。

 ハンバーガーのパテを延々と作成しながら、庭に急増のかまどを数基作ってバンズも少し追加で焼くことにし、空いたかまどで別のパンも焼いていると、ぽつりぽつりと夜更かし組が起床してきた。

「皆さんおはようございます。ちょうどパンが焼き上がるところですよ」

 寝起きで空腹状態のところに焼きたてのパンの匂い。半分寝ぼけていた人も目をパッチリと覚まして着席し、ブランチをいただくのだった。



「いよいよ明日は屋台の日です。手伝ってくださる皆さんは明日もよろしくお願いします」

 夕方、姉弟達は商業ギルドで手続きを終えて、夕方の仕事を終えたジェードと合流して孤児院へ来ていた。

 手順確認として作ったハンバーガーは孤児院の子達の胃の中へ。そしてまだハンバーガーを食べられない年齢の子用にも別途作り、他にも紙やインク、手仕事に使えそうな物をまとめて寄付した。

 自宅にはテオが残ってくれると言うので、ニコラスとエルフの少女のことは気にしなくてもいい。

 屋台の練習と食事が終わった後、子ども達との交流をしていると、子ども達の中には計算や文字の読み書き、針仕事を始めたのだとヒメカ達に報告する子がちらほらといた。ジュディが悪戦苦闘している姿を見て少し躊躇っていた子もいたらしいが、やってみれば案外すんなりと覚えたのだとか。

「だからね、その、僕達にもお勉強教えてください! お願いします!」

 そう言って1人の少年が差し出したのは、計算練習をした紙束だった。まだ字を書くことに慣れていないせいで字はやや歪だし計算ミスも多いが努力の跡がとてもよく分かる。

 その子の後に続くように、私も、俺も、と、枚数に差はあれども、ほとんどの子が紙を差し出す姿に驚かされる。

 問題は院長や職員の先生方が出してくれるものの、中にはどんどん先へ進む子もいて、桁が多くなるにつれて先生方も少し自信がなかったため、ヒメカかジェードが来た時にでも相談してみようということなったそうだ。

「そういうことでしたら、後日、問題集とそれに対応する解答集、あとは家にある本を数冊お貸ししますね。写本作業はそちらでお願いします。計算問題は用意できるまでは添削済みの帳簿から問題を出すなどしてください。問題集は遅くとも一週間以内にはご用意出来るかと思います」

「ありがとうございます!」

 計算が得意組でサクサクと添削し終えて返却。中には光るものがある子が何人かいた。特に顕著だったのは、勉強を教えてくれと言ってきたテル君(7歳)。枚数も一番多かった。

 他にも字が比較的綺麗な子だったり、自分なりに分かりやすくしようとしたのか絵を描いている子がいたりと個性が出ていた。

「あ、ご、ごめんなさい……! 大事な紙なのに絵なんか描いちゃって……」

「あら、そんなこと気にしなくていいですよ。それにとても上手に描けています。あなたは絵が好きなのですか?」

「ぅ……その、はい……」

「謝らなくていいですよ。絵が描けるということはアドバンテージです。観察力が身に付きますし、本の挿絵だったり看板だったり、刺繍のデザインだったり、色んなところに絵は使われています。ですからけして悪いことではありません。それに、私も手が空いた時に今までに出会った魔物や採取物の特徴などを絵にして描き留めています」

 そういって今までに書いた(描いた)ものを取り出して見せるヒメカ。ヒメカは発想力はなくとも観察力はあるので見たままを描くのは得意なのだ。書いている文章は、相手の攻撃手段や討伐証明部位、弱点、素材になる部位、解体方法、採取方法など、とても冒険者らしい内容だが絵は絵。まだまだ種類自体は少ないが冒険者ギルドで閲覧可能な本よりも実用的な情報量が多かった。

「……わぁ」

「あ、あの! 冒険者って絵が描けないとだめとかありますか!?」

「いえ、これは記憶の整理と情報をまとめるためにつけているだけなので必須能力というわけではありませんよ。頭と体で覚える方が一般的です。文字は読めないといけませんけどね。依頼書が読めませんから」

 絵が好きな少女がヒメカの絵を見て控えめに感動していると、活発そうな少年が質問してきたのでそれにも答える。孤児院の子は孤児院を出たら冒険者になる子も多い。他にも冒険者について知りたい子が次々に質問を投げかけてくるので、現役冒険者組が分かる範囲で答えていく。

 基本的にはナストが答え、時々ヒメカやユウトが付け足す形だが、先輩冒険者が後輩に教えるような事はナスト、冒険者ギルドの実施している冒険者へのサポートや制度的な話はヒメカ、採取素材に対して冒険者視点だけでなく調合師視点でも話が出来るユウトの3人が教えるので、ベテラン冒険者でも知らないような濃い話が聞けたりした。

 あまり長々と居座るのも悪いということで、遅くならない内にお暇した一行は、明日に備えて早めに就寝するのだった。



 翌日、天気は快晴で気温は高めである。

 約束通り、『光の風』が朝から手伝ってくれた。昨日の夕方に街に戻ってきて、今日明日は休養と準備日で、消耗品を補充したり武器防具をメンテナンスに出したりするのだそうだ。今日は朝一で装備をメンテナンスに出してからここに来たのだと話していた。

「ヒメカの防具は一式作り直しだろ? 良ければ俺達がいつも行ってる所を紹介するぞ? 店主はちと変わっているがこの街で革防具を作るなら其処が一番だ。防具屋として看板を出してないから、知る人ぞ知るって感じなんだ」

「それはとても助かります! 予備の防具がないのは落ち着かないので出来れば早々に作りたいと思っていました」

 店主が個性的と聞いても、直感で大丈夫だと感じたヒメカは即返事をする。返事をした後に、ヤンの紹介ならば安心だし防具屋の看板を出していない店を見つけるのは大変だから、と、誰に向けて言い訳するわけではないが理由を後付けするヒメカだった。

「了解。明日向かったんでいいか?」

「はい。よろしくお願いします」

 とりあえず今日は屋台に集中だな、と、てきぱきと準備をする『光の風』の面々はその後、人手不足解消というだけでなく、とても良い働きをしてくれたのだった。

 高ランク冒険者だけあって護衛として以外にも、読み書き計算はばっちりだし、列整理もお手の物、顔も広いので立っているだけで防犯と呼び込み効果があった。孤児院の子も高ランク冒険者がいるというだけで安心して仕事に集中出来ていた。

「高ランク冒険者って凄いですね」

「いや、ハンバーガー自体大人気だし、なんかいつの間にかその辺の屋台と提携してパン単体を売ったり、飲み物を冷やすサービスしたり……何してんの??」

「そう言われましても……列が長くなり過ぎて周囲の店にご迷惑をかける前に少し分散させたかったのでご協力をお願いしただけですよ? 両隣が提携できそうなお店で助かりました」

 出店はまだ2回目だが、前回が繁盛していたこともあり、商業ギルドも比較的良い位置を割り当てしてくれたようだ。前日登録でここまで良い場所はなかなか無い。

 右隣が飲み物の屋台で左隣が串焼き屋。今日のような気温の日は飲み物が売れるが、魔法で冷やすことでさらに飛ぶように売れる。そして串焼き屋の方は安定して人気の屋台らしく、パンに串焼き肉を挟んで食べる方法をおすすめするとパンも串焼きも売れた。秘伝のタレがパンにしみ込んでおいしいと評判が評判を呼び、新規客とリピーターが続出。元々屋台のファンだった客も勿論買っていくので、両店主はニコニコである。

 両隣を巻き込んだのと、前回よりも店員を増やしているので忙しくはあるが無理なく交代でお昼休憩を取ることが出来、今回は食材を追加で用意していたこともあってなんとか夕方まで売り切れは回避できた。言い換えれば夕方に完売したのだが。

「あんなにあったのに全部売れちゃいました……」

「バンズは少しだけ売れ残りましたが、概ね完売と言っていいかと思われます」

「了解。姉さんとジェードは商業ギルドに報告よろしく。こっちは解体作業しとく」

「わかったわ。皆さんお疲れかとは思いますがもう少しだけよろしくお願いします」

 てんでバラバラであるがヒメカの言葉に了承の意を示す言葉が返される。とはいえ屋台の解体は冒険者組だけで十分だったのでサクッと終わらせた。

 ヒメカとジェードが戻ってきて解体した物を収納したら、子ども達を孤児院へ送り届け、そこで報酬を支払い、その後『光の風』の4人とも解散した。今回もしっかり利益を上げられたため、報酬には色をつけて渡していたのだった。だんだん魔物肉の在庫処分のためではなく、しっかり屋台の運営をしつつ利益を経営陣含め従業員全員に分配、という方向に舵を切っている気がする。そもそも、高価な食材が自力調達したものなので売れなくともリスクはほぼ無い。その上で、関係者全員やる気に満ちていて、雇用の機会も作っていて、経験と知名度も得られるのだから良い商売である。

 商業ギルドからは「もし次回出店する予定があったら、一週間前には手続きして人気の場所(場所代が割高だが客が集まる)に2店舗分くらい場所を確保して欲しい」ということを遠回しにお願いされてしまっているので、そのことについてはまた相談する必要があるが。


「今回も良く売れましたねー」

「屋台は予定ではあと1回でしたよね?」

「次もいっぱい作っていっぱい売ろうぜ!」

 帰り道、学院生達は多少疲れているがまだまだ元気で、すでに次回の屋台に思いを馳せている。そんなことを話しながら歩いていると、家に着くのは早かった。

「ん?」

 家のすぐ近くまで来ると、なんだか人が集まっていたので、それをかき分けながら家の前まで進むと、家の前に複数の男たちが体からプスプスと煙を出して折り重なるように倒れている姿と、それを見てあわあわとしているルーベンの姿があった。

『わぁ……』

 折り重なる男達はどうやら死んではいないようだが、防犯システムの効果に少し引いてしまう。そして、それを目の前で見させられたルーベンが可哀そうである。

「あら大変。すぐに衛兵さんを呼んでこないと」

「俺が行ってくる。姉さんはルーベンさんに事情を聞いておいて」

「分かったわ。皆、そういうことだからとりあえず家に入りましょう。倒れている人は家に不法侵入しようとした人達だから近づいちゃダメよ」

「「「はーい!」」」

「ルーベンさんもお話を聞きたいのでどうぞ中へ」

「え、あ、は、はい。お手数おかけします……」

 ちらちらと男達に視線を向けながらも、ルーベンはヒメカに促されるままに家の中へと入った。ドアの前に折り重なっていて邪魔だからと、ヒメカが自分の一回りも二回りも大きな男達を道路脇に軽々と投げ捨てたところは見なかったことにした。


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