107話 心強い味方が出来ました。
長らくお待たせしてしまいまして申し訳ありません。
また更新を再開していきたいと思います。
エルフの少女を預かった翌日。ユウト達はニコライを待っていたのだが、ニコライではなく配達人がやってきて、「ニコライ様は急な予定が入ったため、今日の調合教室はキャンセルさせてほしいとのことです」と伝えられた。配達人は荷を運ぶのが本業だが、副業で伝言サービスも承っているので、ニコライはそれを利用したようだ。直接言いに来なかったところを見るに、本当に急用だったのだろうと察せられる。
学院生達は残念そうにするが、案外切り替えが早く、今日は課題に取り組むというので、ユウトは冒険者ギルドへ行ってオビギュの迷宮の情報を集めることにした。
「現在調査中ですが、魔物の数が少し増えているとの報告が上がっております」
ユウトにそう言う受付嬢は、ユウトがダンジョンへ向かってくれないかと少し期待するような目をした。ただでさえ上級迷宮なので通行許可を出せる人数が少ない上に、魔物も環境も面倒な条件が重なっている迷宮なので進んで行こうとする冒険者が少ないのだろう。
ユウトは調査任務終了時に、直前に登録していたオビギュの通行許可がギルドカードに登録し直されている。
「パーティメンバーがラトローの調査に行ってるので」
「そうですか……」
受付嬢は残念そうに眉尻を下げるが、ユウトとしても素材採取にもってこいの場所なので行くこと自体は問題ないが今はタイミングが悪い。
(出来れば姉さんと話したい所だけど……そうだ)
「あの、うちのメンバーだけでも予定を切り上げることは出来ませんか?」
「その……、普通ならば冒険者の自由裁量にお任せするところなのですが、ヒメカ様は参加者唯一の魔法士なので明言が難しく……申し訳ありません。ギルドとしても早期解決を図りたいところなのですが、事が事ですので、ユウト様のパーティメンバーには当初の予定通り、本日を含めてあと3日は調査に参加していただく可能性が高いと思われます」
実際には巻き気味で調査が進んでおり、1日早く戻ってこられそうなのだが、その情報が冒険者ギルドに来たのはユウトがギルドを出た後だった。
「そうですか……わかりました。ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ申し訳ありません。オビギュの迷宮に関して何か分かりましたら掲示板にてお知らせすると思います」
「了解しました」
ラトロー程大規模ではないが、冒険者ギルドも調査はしているようなので、ユウトはそちらに任せることにした。
(一応、姉さんには昼休憩を見計らって伝えに行こう)
ユウトの方でも備えとしてポーションの調合をしておこうと一度家に帰ったのだった。
「すまんがしばらく泊めてもらえんだろうか?」
昼にヒメカに会いに行ったユウトが、そのあとずっと家で過ごしていると、丁度夕食の用意を終えてさて食べ始めようとしていた時分に来客があった。やってきたのは、申し訳なさそうにしながらやや疲れのみえる顔をしたニコライであった。
「ええと、部屋は空いているので構いません。とりあえずこれから夕食なので中へどうぞ」
学院生組が来る時に客室は整えてあるし、テオとジェードが使っていない客室も毎日掃除してくれているので、すぐに使える。
(エルフのこともニコライさんなら知られても問題ないだろ)
ニコライを迎える気であるユウトはリビングへ通し、夕食の席で事情を聴くことにした。
「実は今日緊急で会議があってな。わしも一応議員なもんで出席せざるを得んかったのじゃが、会議を終えて帰ってみると家の中が荒らされておったんじゃ。幸い、門外不出のレシピや高価な素材等は持ち歩いていたんじゃが、作業場が重点的にやられたようで、重ね重ねスマンが作業場と道具を貸してもらえんだろうか?」
会議とは、マルズの代表とも言える議員が5人と、各ギルドの代表が集まってマルズに関する事案を話し合うのだが、今日の緊急会議は当日の朝に呼び集められ、何を話すのかと思えば、すでに冒険者ギルドが動いているラトローの迷宮の閉鎖とそれによる影響についてだったのだとか。
たしかにラトローの迷宮を閉鎖することで影響はあるが、緊急会議を開くほどの事ではなく、冒険者ギルドも調査をしながらも採取や討伐を行い、街へ流しているのだから問題視される謂れはない。しかも、緊急会議を言い出したのは各ギルドの代表ではなく議員だという。緊急会議は国からの命令、または、3名以上の、議員ないし各ギルドの代表が連名で招集を求めれば成立するが、それが行われるのは余程の重要案件の時しかない。皆、本業が忙しいのだから当然である。さらに、招集者にギルドの代表が一人もいないことも珍しい。
そのような事情だったため、緊急会議に呼ばれた面々は終始渋面で、特に冒険者ギルドのギルドマスターは青筋を浮かべていたとか。元とはいえSランクまで上り詰めた男の威圧はなかなかに応えたらしく、一部の面々は顔を青くさせて震えていたらしい。
(ラトローのこともだけど、オビギュの異変も報告を受けていて忙しいだろうに……)
「それは大変でしたね。調合室は自由に使っていただいて構いません。俺も調合室ですることがあるので、それが終わればお手伝いしましょうか?」
「おお、それはありがたい! 納期が近いものがいくつかあって、徹夜を覚悟しておったのだ!」
早速仕事に取り掛かろうとするニコライだが、まだ食事中であることを指摘され、しっかりデザートまで食べてからユウトを引っ張っていった。
その日の夜、エルフの少女とその見張り役のテオ以外は、調合室でニコライの手伝いをするのだった。
「お……終わったぁ……」
まもなく朝日が昇る頃、ギルとサントは眼をしょぼしょぼさせながら調合室の机や床に突っ伏した。
彼らは主に簡単な下処理や分量を指定通りに量る作業をしていたのだが、一番小さな薬さじの半分の誤差が許されない作業の繰り返しに、神経をすり減らしながら、ただ黙々と作業を続けた。
「お疲れ。あとはやっておくから朝食まで仮眠したらどうだ?」
「ぅぅ……すみません。じゃあちょっとベッド借ります……」
「ありがとうございます……」
2階の客室まで行く気力がないのか、調合室にある仮眠用のベッドに身を寄せ合って眠る2人。ユウトはその2人の後ろ姿を見送りつつ、計量したものを薬にする作業があるので作業台に向き直った。
ちなみに、ジェードは朝の仕事があるので昨夜日付が替わる前に就寝させており、今はテオと共にスイとセキトバの世話をしているはずである。そしてニコライとカルロが何をしているのかというと、魔道具の修理と製作であった。ニコライは調合師でありながら、魔道具技師でもあったのだ。
「カルロは寝なくて大丈夫なのか?」
「はい!」
ユウトがカルロに軽く声をかけるが、カルロは睡眠欲よりも好奇心の方が勝っているようで、楽しそうにニコライの手伝いをしていた。
ニコライの魔道具技師としての仕事のほとんどは魔石の交換なのだが、その時に点検もするので魔法陣を可視化するのだが、カルロは食い入るように眺めてはメモを取っている。
「カルロ坊、3番の魔石をとってもらえんか?」
「はい! えっと……これですね!」
「うむ」
テオとジェードが呼びに来るまで作業は続き、朝食をとって、また作業に戻る。本日中に納品しなければならないものはすでにできているので、昼前にニコライが納品に行ったのと、昼食後に警備の人がやってきてニコライに話を聞きに来た以外はずっと作業の一日であった。
「皆、本当に助かった。ささやかだがこれは今回の給金じゃ。受け取ってくれ」
一人一つ、硬貨の入った袋を手渡すニコライ。急な案件だったこともあり、作業量に対してやや多めの額をニコライは出してくれた。ギル達はおもわぬ収入に中身も確認せずに喜んだ。
ニコライが一応中身の確認を、と言って初めて中身を確認したギル達は、今度はその額に目を見開き、せわしなくニコライの顔と袋に視線を行ったり来たりさせている。
「あ、あの……金貨が、その、3枚も……」
「(絶句)」
「……」
てっきりお小遣い程度だろうと思っていたギル達は、声も手も震えている。
「そうは言っても、魔道具1つでおぬしらに渡したものすべてを合わせた額の何倍にもなるしのぅ。緊急ということもあって多少は上乗せしておるが、まあ妥当な額じゃろう。ああ、もちろんユウトの分には場所代と奴隷っ子の分も入れておるからの」
「こちらもあの子のことを黙っていてもらってますし、貴重なレシピを見せていただいたし、気にしなくていいんですが……でもありがたく貰っておきます。ジェードにも後できちんと渡しておきますし。……ところで、ニコライさんが魔道具技師だということは姉には黙っておいた方がいいですか?」
「ん? いや、別に伝えても構わんぞ。そもそも魔道具技師が職を秘密にするのは、需要に対して職人の数が少なすぎるからじゃ。この街は魔道具が出るダンジョンが近いこともあって、魔道具技師も比較的多い方じゃがそれでも全く間に合っておらん。じゃから、ヒメカ嬢が仕事を請け負ってくれるなら歓迎するぞ? 仕事はいくらでもあるからの」
「伝えておきます」
「うむ。頼んだぞ」
満足そうに頷くニコライ。
「ああ、そうじゃ。少しばかり小耳に挟んだのじゃが、ユーベル・ゲーアマンが奴隷っ子の行方を探しておるらしい。あれでも一応大商会のトップだけあって、この街のいたる所に目や耳がある。あやつの耳に入ると問答無用で仕掛けてくるじゃろう。重々気を付けるようにの。このくそ忙しい時を狙って緊急会議を開かせたり、わしの家を襲撃したのもおそらくあやつの嫌がらせじゃろうて。あやつはそういう奴じゃ。なんなら、あやつの鼻っ柱をへし折ってもらっても構わんぞ。その時はわしも微力ながら手伝わせてもらおう」
悪い顔で笑うニコライに、内心引き気味のユウトだが、有益な情報提供と協力の申し出に感謝した。
「こちらとしては、あまり事を荒立てずにやり過ごせればと思っていますが……もしかしたらお願いするかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「任せておけ!」
個人的な鬱憤も大いに含まれているだろうが、これほど頼もしい御仁もいないだろう。
ユウトは心強い仲間を手に入れた。




