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104話 調査任務は順調です。

 夜になり、3回ほどボスに挑戦したところで本日の調査任務は終了となった。

 冒険者達が陣を張るのはダンジョン入口前。この辺りに強い魔物はいないので、見張りは採取組が交代でする手筈になっている。

「あー……腹減ったー……」

「すぐ用意しますね」

「ヒメカぁ、俺にもー」

「だからあんたは他所様の物をねだらない! ヒメカちゃん達の分がなくなるでしょうが!」

 上からナスト、ヒメカ、ヤン、マリベルの順である。昼食の時は、ヒメカの好意で『光の風』全員ご相伴に預かっているが、ヤンの遠慮の無さにマリベルは無言で拳骨を落としたのだった。

「元々多めに持って来ていますし、材料もあるので作れば問題ないですよ。それに食べる物がなくなればギルドの配給をいただきますから大丈夫です」

「ほら!」

「ほらじゃない!」

 すっかりヤンの保護者になっているマリベル。自由な息子を持って大変そうである。

「(ヒメカ、飯足りなくなりそうなのか?)」

「(大丈夫です。さすがに参加者全員を賄う量はありませんが、自分達と『光の風』の皆さんに分けても足りる計算です。それに、いざとなれば一瞬で自宅に戻れますから)」

 少し不安になったナストがヒメカに耳打ちするが、心強い返答に胸を撫で下ろす。

 一安心したところで、ナストの腹の虫が鳴いたので、すぐさま全員座れる場所を探して腰を落ち着け、夕食を取り出した。

「ヤン、マリベル、夕食を持ってきた」

「ヤンの分は多めに盛ってきたから感謝していいぞー」

 エーランドとミストが2つずつトレーを持って来て、それぞれヤンとマリベルに手渡した。ヤンの分はミストの宣言通り大盛りである。

「…………ヒメカの料理がいい……」

「我侭言うな」

 エーランドがバッサリと却下したことで、ヤンは渋々配給食を食べ始める。言っておくが配給食がマズイわけではない。むしろ、「士気向上のためには美味しい食事が必要」というギルドマスターや副ギルドマスターの方針で、予算を多く組まれているし職員の中でも料理が得意な者が作っているので美味しい。

「それなら夕食を交換しますか? 私もギルドの食事を食べてみたいですし」

「本当か!?」

「いえ、全部は要りません」

 ヤンが食べる量では多過ぎる、と、ヒメカは皿を取り出して必要な分だけ取り分けた。代わりに、酢豚・ラーメン・餃子、お好みで中華丼も追加できるがっつり中華メニューを出す。

「苦手でしたら違うのを出しますので遠慮なくおっしゃって下さい」

「「はーい!」」

 ヤンとナストが声を揃えて良い返事をすると、ためらいなく酢豚を口に放り込んだ。

「「…………美っっっ味!!!」」

 ヤンとナストを横目に見ながら大げさだなあと思いつつ、ヒメカも「いただきます」と手を合わせてから夕食を食べ始める。

(うん。美味しい)

 珍しく食の進んだヒメカは、全てを食べた後、スープを貰いにギルドのテントへ向かった。



 翌朝、ヒメカは魔力が充分に回復したのを感じながら体を起こす。隣には、ナストではなくマリベルがふかふかの布団で気持ちよさそうに眠っていた。

 昨夜、同性同士の方が気楽だろう、と、マリベルの提案にナストが賛成する形で、ナストは『光の風』のテントで寝る事になったのだ。人目のある場所でその話をすることで、牽制の意味もあるのだろう。よそ者の『ヴェルメリオ』はともかく、『光の風』に敵対する冒険者はこの街にはいない。

(まだ早いけど起きようかな)

 目覚めすっきりで二度寝する気分ではなかったヒメカは、マリベルを起こさないように身支度を整えてテントから抜け出した。

 テントが密集した場所から少し歩くと、少し開けた所で早朝訓練をしている冒険者がいた。その中にはヒメカを敵視していたパーティの1人がいて、ヒメカを見るなりあからさまに顔を歪める。

「チッ……何でてめぇがここに来んだよ」

 本人は小声で言っているつもりだろうが、普通にヒメカの耳にまで届いている。あわや一触即発かと周囲にいた他の冒険者の方がヒヤヒヤする状況だったが、ヒメカがノーリアクションで静かに距離を取り、ストレッチを始めたために何も起きずに済んだ。



「おい」

「……何でしょうか?」

 ヒメカが木剣での訓練に移行して少しした頃に、肩に剣を乗せたまま男が近づいてヒメカに声を掛けてきた。ヒメカは気に入らないのならば無視すればいいのに、と思いながらも、わざわざ話し掛けてきた相手を無視する性格でもないので、手を止めて男と目を合わせる。

「何で魔法士が剣の訓練なんかしてんだよ」

「魔法が役に立たない状況はいくらでもありますから」

「………………そうかよ」

 それだけ言うと、男はまた離れて自身の訓練を始めた。ヒメカもまた、男が側から離れると木剣から使い慣れた細剣に持ち替えて訓練を再開。

 ヒヤヒヤしながらもさりげなく様子を伺っていた周囲は混乱した。

(((何だったんだ今のは……???)))



「ヒメカちゃん! 起きたらいないから心配したじゃない!」

「申し訳ありません。あまりにも気持ちよさそうでしたので時間までそっとしておこうと思いまして」

「たしかにあの敷物は凄かったわ。野営なのに凄く快適だったもの」

 訓練を終えてテントに戻ってきたヒメカは、すでに起きていたマリベルに抱擁付きで心配された。目を覚ました時にいるはずのヒメカがいなかったので、今から探しに行こうとしていたのだとか。

「ところでどこに行っていたの?」

「すぐそこの開けた場所で剣の訓練を。他の冒険者の方もいたので安全だと思いまして」

「そう……それならいいわ」

 ヒメカは見た目だけなら庇護欲をそそるため、つい、マリベルも口を出してしまったようだ。周囲の見張りは他の冒険者がしてくれているし、離れた場所へ行ったわけでもなく、他の冒険者が訓練している場所で訓練するなど、安全マージンは確保していたのでそれ以上は言われない。

「今日は一日中調査だけど魔力と体力は大丈夫?」

「どちらも万全の状態です。昨日より速いタイムが出せると思います」

「それは心強いわね」

 ユウトより魔法が得意だと自称するヒメカは、その言葉通り、ユウトの時よりも速いタイムで、なおかつ、冒険者の負荷も少なく走破することが出来た。

 その事で新たに発見したのだが、走破するタイムが早い程ボスが強くなる仕様になっている可能性が出てきたのだ。

 今日はその検証のために、ヒメカの魔力と集中力が続く限り延々と走り続ける予定。誰が言い出したか、ヒメカくらいならば担いでいても補助魔法さえあれば時間内走破は可能だろう、と。ボス部屋での検証が残っている限り、誰かに担がれてでも参加させられることになっている。

(本当に誰が言い出したのか……)

 ナストは今日、戦闘グループに組み込まれることに確定しているので、自動的にヒメカを担ぐのは他の冒険者である。強制参加に不満はないが、お人形の如く運ばれるだけの存在になるのだけは遠慮したいヒメカであった。

 朝食を取りながらミーティングが行われ、1本目は時間内で無理のない程度に流し、2本目で最速を目指すことが告げられ、その最速タイムを基準に、約30分刻みで走破時間と強さの関係を検証するらしい。

「一番足が速いのはデリックだな。2本目はヒメカと2人だが頼んだぞ」

「了解。まあ、ヒメカ1人の方が速い気がするけどね」

「アホ。ヒメカが離脱したらどうやって検証を続けるんだよ。お前は万が一の保険だ保険」

「分かってるって。出来る限り頑張るよ」

 脚力自慢グループ唯一のAランク冒険者で、グループリーダーでもあるデリックは肩を寄せながら答えた。デリックはギルドからの指名依頼により参加している冒険者で、戦闘グループとしても十二分の実力者だが、マルズの冒険者の中でも飛び抜けて足が速く体力もあるため招集された。

 同じAランク冒険者同士、ヤンとも知り合いで軽口を言い合うが、仕事はきっちりする人間であることをヤンは知っている。速さと安全を両立させながら最下層まで来ることだろう。

「そういうわけだからよろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくお願いします」

 少し距離があったので握手はないが、デリックとヒメカは言葉を交わした。

 その後も打ち合わせは続き、1日の流れを共有したところで一時解散となった。



 その日の調査は順調そのもので、ヒメカとデリックは1時間27分の最速記録を叩き出したし、時間と強さの関係性についての仮定は正しかった。区切りは1時間毎で、3時間台より2時間台、2時間台より1時間台のミノタウロス亜種の方が魔法の威力が上がる。ただし、防御力は差がないという検証結果であった。検証数は決して多くはないが、閉鎖を長引かせたくないギルドとしては、これで一つの結論として、後は閉鎖解除後においおい検証していくことにしたようだ。

 そしてヒメカにとってはこれが一番重要だが、無事、他の冒険者に運ばれることなく1日を終えることが出来たのだった。

「もう調査任務を切り上げてもいい位の達成感です」

「「「「それはダメ」」」」

「……冗談です」

 若干残念そうに微笑むヒメカは、今日も『光の風』のメンバーと食事を共にしている。勿論、ナストも一緒である。他の参加者と交流しなくてもいいのか、というツッコミはすでにした後であり、顔見知りばかりだから必要ない、と返ってきた。

「というか、亜種発見の報告から日数が経っているのに、こいつら以外の魔法士がいないのは何でですか? 他の冒険者ギルドに要請は出しているんですよね?」

「あー……いや、それはだな……」

「ちょっと前まで、例の件と無関係な魔法士も追い出しちゃったからそれでちょっと噂になっているのよ」

「冷遇されると分かっているから近郊の魔法士は誰も来たがらない」

「「自業自得じゃないですか」」

「「「「面目ない……」」」」

 ナストとヒメカの口から正直な感想が出る。しかし、『光の風』をこれ以上詰め寄っても仕方がないのでヒメカは話題を変えることにした。

「ですが、予定通り調査が終わりそうで良かったです」

「皆のおかげで前倒し出来てたし、今日は挑戦回数が多かったからな」

「でもそう考えると、本来なら今日か明日で終わりだったのよね」

「新事実発覚で1日しか時間取られなかったのは幸いだろ。普通なら少なくても数日、下手すりゃ数週間は取られるし」

「もしかしたら私のせいかもしれません。最長で5日間しか参加しないと言っておいたので」

 今日が2日目なのであと3日ですね、とヒメカは言う。

「なるほどな。それでギルド職員が頭を悩ませていたのか」

「何か予定があるの?」

「屋台を5日後に出そうということになっています。準備もありますからそれ以上は延ばせないんですよね」

 話題は次回の屋台に移り、どんなものを売るのか、どこでやるのか、という話をすると、『光の風』の面々は興味を示した。

「5日後なら……行ける!」

「でも長蛇の列が出来そうよね?」

「前回はそうですが、今回もそうとは……」

「出来ると思います! ついでに夕方には売り切れてる可能性が高いです」

「やはりか……では万全を期すために朝から並ぶか」

 ハンバーガーを手に入れるための作戦会議を真面目に話し合う『光の風』とアドバイザーのナスト。

「そんなに確実に欲しいのならバイトしますか? 1日銀貨5枚しか出せませんけど、ハンバーガー5個と冷えた飲み物を昼ごはんの賄いとして提供します。朝の設営から手伝っていただけるなら朝食もお付けします」

「「「「のった!!」」」」

 到底、Aランク冒険者を雇えるような賃金ではないにもかかわらず、『光の風』の4人はそれで引き受けるという。気さくではあるが、やはりAランク冒険者の風格があるので、立っているだけで犯罪を防げそうである。

(いいのかなー……)

 ナストが微妙そうな顔をしているが、ヒメカはあっさり「ではよろしくお願いしますね」と約束を取り付けて、集合時間や仕事内容の話を始めてしまった。予定が入ったら伝言だけしてもらえればキャンセルOKという緩い契約内容である。

(まあ本人達がいいならいいか)



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