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103話 お仕事します。

 時間は巻戻り、早朝。ヒメカとナストがギルド前に到着すると、すぐに受付を済ませて集合場所で他の冒険者達を待っていた。ユウトが用意した余剰分のポーションもその時に受付で買い取ってもらうと、職員はヒメカの手を握りながら感謝を述べ、すぐに担当者に連絡。すでに用意して置いたポーションとは分けて箱詰めし、馬車に積みこんだ。

「よっす! 今回はヒメカが参加してくれるんだな。よろしく頼むぜ!」

「ヤンさん。こちらこそよろしくお願いします」

 ギルド専属パーティの悲しいところで、調査依頼継続中の『光の風』は、まとめ役ということもあってこうして顔を出している。

「つっても昨日は魔法士がいないからってんで1日休めたけどな。ナストも他何組かも同じだし文句は言えねぇさ」

「ナストさんは受付嬢に釣られて、ですけど。昨日、イザベラさんが来たので」

「あー、イザベラに頼まれたんじゃあ仕方ねえなぁ。なんたって美人だし」

「ですよね!」

 うんうんと頷くヤンに、ナストは全力で同意する。

「ナスト君だっけ。残念だけどイザベラちゃんは恋人がいるわよ~?」

「ええ!?/まじで!?」

 ナストの背後から気配を消しながら現れたマリベルが、ナストの肩に肘を掛けながら衝撃の事実を告げる。何故かヤンもショックを受けているが。

「あんな美人で仕事熱心な子に恋人がいないわけないでしょ」

 マリベルは驚く男二人に呆れたように溜息を吐く。ヒメカも知っていたのか、ニッコリと笑顔を浮かべていた。

「ヒメカも知ってたのか!?」

「まぁ……。ですが、ギルド職員の中では有名な話だそうですよ?」

 下調べって大事ですねー、と、のほほんとした返答が戻ってくる。

「でもまだ恋人だし俺にもワンチャン!」

「結婚も視野に入れた真面目なお付き合いらしいですよ?」

「それ以前に、恋人がいると分かってる女性を口説こうって……ないわ」

「「うっ」」

 マリベルがガチトーンで言うと、またもヤンが流れ弾に被弾している。

「ちくしょう……何で俺には恋人が出来ないんだ……」

「元気だせよナスト……俺も絶賛募集中だ……」

「ヤンさん……!」

「ナスト……!」

 慰め合う男2人。そしてそれを苦笑いで見る女性達。

(ヤンさんってモテないんですか? Aランク冒険者ですし、ギルド専属パーティのリーダーだし、他の冒険者にも慕われる良い人なのに……意外です)

(そういうわけじゃないんだけど惚れる相手がねぇ……既婚者だったり恋人持ちだったり仕事一筋だったり、とにかく恋愛に発展しない相手にばかり惚れるの。で、自分に好意がある女の子には気付かないっていう)

(……そういう人でしたか)

 本人はモテないと思っているモテ男、ヤン。そして気付けナスト。目の前の男は敵である。

「ま、それはいいとして。今回の依頼、結構大変だけど大丈夫? ヒメカちゃんは唯一の魔法士だから特にキツイわよ?」

「一応弟から話は聞いているので。足を引っ張らないよう努力します」

「そこは心配してないけど……本当にキツい時はちゃんと言うのよ。ヤンに言うのがアレだったら私に言いなさい。出来る限りフォローするわ!」

「ありがとうございます」

 持前の姉御肌を発揮するマリベルは、そろそろ参加者が集まってきたから、とヤンを引きずって行った。どうやら出発前にリーダーとしての挨拶があるらしい。前回参加のユウト達は途中参加のため知らなかったようだ。

 既定の時刻となり、ヤンとギルドマスターの挨拶が終わると、全員、用意された馬車に乗り込んだ。

 馬車はギルド側で割り振られたので『光の風』とは別の馬車になる。ヒメカとナストの他に4人パーティが2組一緒だっただが、例の大乱闘を知っているので魔法士でもヒメカの事は認めているそうだ。そのパーティメンバーであるナストは魔法士ではないし、持前の気安さもあり、すぐに打ち解けることが出来た。



 ラトローの迷宮に到着すると、まずはボス部屋調査組と採取組に別れる。同じ馬車だった2組は採取組で、街の肉や素材類不足解消のためにダンジョンに潜るそうで、軽く手を挙げて別れた。

 『ヴェルメリオ』が調査組へ合流すると、その中の1組から鋭い視線が、2人、特にヒメカに向けられた。後ろにいる2人をわざわざ睨むのだから、明らかに意図的である。年齢は全員ナストより年上に見えるが比較的若いパーティである。

(おー、怖。ヒメカあいつらに何したんだ?)

(残念ながら何も。というか、見たことがない人達です)

(じゃあヒメカというより魔法士を嫌ってるってことか)

(もしかしたら実害を受けた人達なのかもしれませんね)

 怖いといいつつ全く怖そうにしていないナストと、相手を冷静に分析するヒメカ。

 すぐにヤンの掛け声があったので、その不快な視線はなくなった。



 ヤンが、ダンジョンを駆け下りる脚力自慢グループと、ボス部屋前で待機してボスと戦闘するグループの振り分けを発表。ヒメカに鋭い視線を送ってきたパーティは全員戦闘組で、長時間行動を共にすることは回避できた。

 しかし、補助魔法の掛け直しが必要な以上移動にも同行、ボスの魔法対策もあるのでヒメカは両グループに強制参加。ナストはそれに付き合うことになるので、戦闘組の作戦会議には参加しなければならない。

 午前中は綿密な打ち合わせがヤンを中心に行われ、高ランク冒険者ばかりと言うこともあり、会議はスムーズに進んだ。

 確認事項は全て共有し、そろそろ昼食にしよう、と会議を終わろうとした時、ずっと静かにしていた例のパーティが動いた。

「あの、魔法士が必要なのは分かりましたけど、この女、本当に使えるんですか?」

「防具は良い物のようだが、とてもCランクとは思えない」

「……弱そう」

「…………」

「Cランクが本当だとしても亜種相手は難しいのでは?」

 そのパーティは全員Bランク。というか戦闘組はヒメカを除いてBランク以上だ。その中にCランクで魔法士が混ざることが我慢ならない様子。

「相手の魔法攻撃には魔法で対抗するのが現時点で一番確実な方法だ。無論、魔法士がいないと仮定した戦闘も試すが、死者を出さないためには保険は必要だろう」

「その保険が保険になるのかって話です」

「あ゛? さっきから聞いてりゃてめぇっ!」

 パーティメンバーをコケにされたナストが勢いよく立ち上がり抗議するが、件のパーティは全員どこ吹く風で、声を荒げるナストを嘲笑する始末。

「ナストさん、ここは喧嘩をする場ではありません。それに、働きを見ていただければおのずと答えは出ますから」

 ヒメカが止めると、ナストさんは少し冷静になって座り直す。しかし、それでもまだ不機嫌そうではある。

「魔法士様は随分と自信があるようで」

「口だけじゃないといいがな」

 捨て台詞を吐きながら、5人は連れ立って席を立った。食事はギルドが用意してくれているので、その列に並ぶようだ。勿論、自分達で用意しても問題ない。

 一連の流れを静観していたヤンは、軽くため息を吐きながら、昼食後から作戦開始だと告げて解散させた。



「何なんだあいつら!」

「まあまあ。それより昼食をどうぞ」

 あまりにも腹が立ったので5人組とは離れたところに腰を下ろすナスト。しかし、ヒメカは気にせず昼食を用意する。今日はベーグルサンドにオムレツ、サラダ。ベーグルサンドはおかわりし放題。具は、ナストの好きな肉系からスイーツ系まで幅広く取り揃えている。

「いや、お前もちょっとは怒ろうぜ? 馬鹿にされて悔しくないのか?」

「言われたことが事実ならば自分の力量不足を嘆きます。事実でなければ何も思いません。同じ依頼をこなす仲間ですから円滑な関係を築けるならばそれに越したことはないと思いますが、正直、仕事に支障がなければどうでもいいです。どうせ今回限りの付き合いですし」

「ぇぇー……」

 あまりにも割り切っているヒメカに、ナストは自分が子どもっぽいだけなのかと不安になってくる。

「それよりもナストさん。私の為に怒ってくれるのは素直に嬉しいですが、個人感情で無駄に会議を長引かせるのは良くないと思います。時には悪意を受け流す柔軟さも必要ですよ」

「ごめんなさい」

 普通に注意されたので素直に謝る。しかし、ヒメカを侮辱されたことは許せないので後悔はしていない、と顔に書いてある。すると、「まあ、そんなナストさんだからパーティを組んでいるわけですが」というデレが返ってきて、照れるナストだった。

「美味しそうな昼食ね」

「マリベルさん。と、皆さんも」

 声を掛けたのはマリベルだが、他の『光の風』のメンバーも勢ぞろいでやってきた。手にはギルドが用意した昼食の乗ったプレート。

「さっきは止めなくて悪かったな。あいつら、例の魔法士集団の被害者でな。事情が事情だから俺も上手い言葉が見つからなかったんだ……」

 ヤンはナストの隣に座り、困ったように頭を掻く。他の3人もヤンに続いて円になるように腰を下ろして昼食を取り始めた。

「いえ、あの、俺もあの場で感情的になってしまったので……スミマセン」

「仲間をバカにされたんだ。怒って当然だと思うし、他の奴も分かってるさ」

「そうそう。むしろあそこで喧嘩にならないヒメカちゃんみたいなタイプの方が珍しいって」

「確かに。しかし、まだ実力を見てもいないのにあの態度はどうかと思うぞ」

「感情は理屈じゃないからな~。まあヒメカの腕を知ればあいつらも黙るっしょ」

「数日前まで仕事で街を離れていたみたいだしね。戻ってきたら急に周りが魔法士に対して態度を軟化させたから混乱してるんでしょう。フォローするって朝言ったばかりなのにごめんなさい」

「大丈夫です。私は気にしていませんから」

「…………本当に気にしてないの?」

「はい」

 返事をしてベーグルを頬張るヒメカ。マリベルはじっと観察するが、味の考察を始めたヒメカに、考えるのを辞めた。

「なあ、ところでそのパンちょっとくれないか?」

「あんたはもう少し気にしなさい!」

 ベーグルサンドをねだるヤンの頭はとても良い音がした。

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