第7話 もう一度やってみたい
ラウルとの稽古が始まってからも、母上と魔力を動かす練習を続けていた。
掌の中の魔力を感じ取って、少しずつ指の先へ送る。分からなくなったら、また探す。初めは付け根までだったむずむずが、この頃は指の先まで来ることがあった。
でも、雷はまだ一度も出ていない。
その日の午後も、僕は訓練場で右の掌を見ていた。
「母上。今日は、ここまで来た」
左手で、人差し指の先を示した。
「先まで動いた感じがするのね?」
「うん。今も、ここにある」
「それなら、今日は外へ出してみましょうか」
「雷?」
「ええ。ほんの少しだけね」
僕はすぐに的を見た。真ん中には、母上の雷が当たった黒い丸が残っている。
あそこに、僕の雷を当てる。
母上は立ち上がると、的の周りを見渡した。僕も見たけれど、誰もいない。マルタは母上に言われて、僕たちより後ろのテーブルのそばへ下がった。
「ここで見ております、奥様」
「ええ。そこで見ていて」
母上は僕の右後ろにしゃがんだ。僕が腕を上げると、肘を下から支えてくれる。
人差し指を的へ向けた。
「手の中にある魔力を、少しだけ指の先へ送ってみて。私が出した雷を思い出して、あれを自分の指から出すつもりでね」
「これくらいの?」
左手で、親指の爪を見せた。
「そうね。でも、跡の大きさは今は気にしなくていいわ。まずは少しだけ出して、止めるところまでやってみましょう」
「止めるのも?」
「ええ。私が声をかけたら、指先へ魔力を送るのをやめるの。光が消えるまでは、指を的へ向けたままにしてね」
僕は右手を見た。
指に力を入れるのと、魔力を動かすのは違う。母上に教わったように肩を下げ、指の力を抜いた。
掌の中を意識すると、さっきの感じが分かった。そこから、人差し指の方へ。付け根を通って、その先へ少しずつ動かしていく。
「……先まで来た」
「的を見ても、分かる?」
目だけを的へ向けた。
指の中に、まだある。前は、的を見ると分からなくなったのに。
「分かるよ」
「ええ。では、少しだけ外へ出してみて」
母上が出した、白い雷を思い出した。
指の先から、的へ。
手の中にあるものを全部送ろうとせず、先の方へ、少しだけ。
ぱちっ、と音がした。
僕の指先が、白く光った。
母上の雷よりずっと細い光が、的まで伸びた。的に当たったところがちらちらと光っていた。ぱちぱちと音が続く。
「で、出た……!」
「アルヴィン、そこで止めて」
僕は的を見つめたまま、指先へ魔力を送るのをやめた。
光が切れた。
ぱちぱちという音も止まった。僕は指を的へ向けたまま、母上の言葉を待った。
「ええ。もう、手を下ろしていいわ」
母上が肘から手を離すと、僕は腕を下ろした。そこでやっと母上の顔を見た。
「出た! 僕の指から出たよ!」
「ええ、出せたわね!」
「的まで行った!」
「ちゃんと届いたわ。自分で止めることもできたわね」
母上の声も、いつもより弾んでいた。
僕は右手をひっくり返して見た。掌にも指にも、光は残っていない。でも、意識を向けると、手の中にはまださっきの感じがあった。
「母上、雷は消えたのに、手の中にはまだあるよ」
「ええ。雷を止めるのは、外へ出す分を止めることなの。体の魔力を全部なくすわけではないのよ」
「さっき、送るのやめたら、消えた」
「ええ。その感じを覚えておきましょう」
指は痛くなかった。ぎゅっと力を入れなくても、さっきの光は出た。
「僕のも、母上と同じ雷?」
「同じ霆嵐の雷よ。私から継いだ力を、あなたが自分で使ったの」
僕は的を見た。
母上と同じ雷を、僕も出せたんだ。
「焦げたかな」
「一緒に見に行きましょう。まだ触らないでね」
母上と台へ近づいた。
黒い丸の少し下に、細い線ができていた。周りの木より濃い茶色で、先の方だけ黒い。
「ここ?」
「ええ。今、あなたの雷が当たったところよ」
「丸のとこ、狙ったのに」
「少し下だったわね。でも、的には当たったでしょう?」
うなずいた。初めて母上の雷を見た時は、指を伸ばしても何も出なかった。今日は、ここまで届いた。
右の人差し指を見て、それから細い線を見た。
母上の跡とは、違う。これは、僕がつけた跡だ。
「母上、これ、残しておいて」
「この的を?」
「うん。初めて雷を当てられたから」
「ふふ。分かったわ。次の練習でも、この的を使いましょう」
僕は後ろのテーブルへ顔を向けた。
「マルタ! 出たよー!」
「はい、坊ちゃん。こちらからも見えましたよ」
「僕の指から、ここまで!」
母上の跡ではなく、その下の細い線を指した。
マルタは少し身を乗り出してから、うなずいた。
「その跡、あとで近くで見せてくださいね」
「うん! あとで一緒に見よう!」
僕は母上を見上げた。
「母上、もう一度やってみたい!」
「いいわ。戻って、もう一度準備しましょう」
母上の手を取って、台から離れた。元の場所へ戻ったら、まず手の中を確かめる。それから、少しだけ指の先へ。
またあの光を見たくて、僕は母上より半歩先を歩いた。




