↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
武門侯爵家の嫡男 ~二つの血を継ぐ貴族の一代記~  作者: HATENA 
第一章 名を得た若君

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/13

第4話 母上の指先

 父上と稽古をした次の日の午後、今度は母上と訓練場へ向かった。


「母上、今日は雷?」

「ええ。楽しみにしていたでしょう?」

「うん! 僕も出してみたい」


 母上とつないでいた手を離して、先へ走った。


 昨日、父上と練習した場所を通り過ぎる。訓練場の奥には、砂を敷いた石の台が置かれていた。その上に、厚い木で作った的が立ててある。


 僕は的を指して、母上の方へ振り返った。


「これに当てるの?」

「そうよ。アルヴィン、こっちへ来て。私の横で見ていてね」


 母上のそばへ戻った。後から来たマルタは、母上に言われて僕たちの後ろへ下がり、通路の脇に立った。僕たちと的の間には、誰もいない。


 母上が右手を上げた。


 人差し指が、的の真ん中を指している。僕もそっちを見た。


 ぱちん、と音がした。


 白い光が指先から的へ走り、すぐに消えた。僕が口を開けたまま見ていると、母上は手を下ろした。


「えっ、今の!?」

「見えた?」

「見えたけど、もうない!」


 指と的を交互に見た。母上の指は、さっきと同じだ。


 的には、黒い跡ができていた。真ん中の、小さな丸い所だけが焦げている。


「あそこ、黒くなってる」

「雷が当たった所ね」

「指から、あそこまで?」

「ええ。ちゃんと見ていたわね」


 母上が僕の隣にしゃがんだ。


「今のは弱くして出したの。それでも、あの的を焦がすくらいの力はあるわ」

「もっと大きいのも出せる?」

「出せるけれど、ここでは使わないわ。台だけで済まなくなるもの」


 僕は台の後ろまで見た。母上はあの小さな所だけに当てたけれど、大きくしたら、その後ろにも届くらしい。


「僕のも、あれくらいにする」

「そうね。雷を小さく出すには、使う魔力を少なくするの。今日はまず、自分の魔力を感じて、手の方に集めてみましょう」


 僕は右手を上げ、母上と同じように指を伸ばした。


 母上の手が、僕の肘を下から支えた。


 的の黒い所を狙う。母上の雷は、ここから出た。僕にも同じ力があるんだから、出るはずだ。


 指先にぐっと力を入れた。


 何も出ない。


 今度は腕にも力を入れた。それでも、指は光らなかった。


「アルヴィン。そんなに力を入れなくていいのよ」

「でも、出ない」

「今は出さなくていいの。まず、手を楽にして。このまま、指を少し曲げてみて」


 言われたとおりにすると、ずっと伸ばしていた人差し指が少し痛かった。


「力を入れすぎていたでしょう?」

「……ちょっと」

「ふふ。早く出したかったのね」


 うなずいた。あんなふうに光が飛ぶところを、僕の手でも見たかった。


「手に力を入れるのと、魔力を手に集めるのは違うの。今度は的を見なくていいわ。自分の手を見て」


 僕は掌を上にした。


「魔力って、どこにあるの?」

「体の中よ。普段は気にしていなくても、そこにあるの」

「父上が言ってた、体を強くするの?」

「ええ。それと同じ魔力を、今度は自分で動かしてみるのよ」


 母上の人差し指が、僕の手首に触れた。そのまま、ゆっくり掌の真ん中へ動く。


「この辺りにある魔力を感じてごらん。指は動かさなくていいのよ」


 母上の指が離れた。


 僕は掌を見つめた。筋が何本かあって、指の下には丸く膨らんだ所がある。でも、雷になりそうなものは見えない。


「見えないよ」

「目で探すんじゃないの。手を見ていなくても、指を曲げたら、曲がったのが分かるでしょう?」


 人差し指を曲げた。


「分かる」

「今度は動かさずに、手の中へ意識を向けてみて。すぐに分からなくても大丈夫」


 指を戻した。母上は僕の肘を支えたまま、待っている。


 手の中。指よりも、もう少し下。


 そこを意識していると、掌の奥に、かすかに何かがあるような気がした。母上に触られた時とは違う。表側じゃなくて、もっと中の方が、むずむずする。


「母上、ここ……」

「何か感じた?」

「中が、変。むずむずする」

「痛い?」

「痛くない。なんか、動いてるみたい」


 母上は僕の掌を見てから、顔を見た。


「今感じているものを、人差し指の方へ動かしてみましょう。手には力を入れないでね」


 掌の中から、指の方へ。


 母上がなぞった所を思い出した。さっきの感じが、少しだけ指の付け根へ寄った気がする。


 僕は的を見た。


 今なら出るかもしれない。


 指をまっすぐ伸ばしかけると、母上が声を掛けた。


「まだよ。今、どうなっている?」


 もう一度、自分の手へ意識を向けた。


 さっきの感じが、よく分からなくなっていた。


「……なくなった」

「どこにあるか、分からなくなったのね」

「的を見たら、分からなくなった」

「それなら、今は手の方を確かめましょう。雷を当てるのは、まだ後でいいの」


 母上が、僕の伸ばした指を軽く曲げた。


「母上は、的を見てたのに」

「私は、手を見ていなくても魔力を動かせるの。あなたは今、自分で探しているところでしょう?」


 さっきは、母上の指からすぐに雷が出た。僕はまだ、どこにあるかも分からなくなる。


 的を見るのをやめた。


 今度は、母上に支えてもらわずに手を上げた。肩を下げて、指を少し曲げる。掌の中へ意識を向けると、さっきのむずむずする感じが、また少し分かった。


 そのまま、人差し指の方へ。


 急に出そうとせず、少しずつ。


「……ここまで」


 左手で、右の人差し指の付け根を示した。


「そこまで動いた感じがしたのね?」

「うん。でも、ここから先は分かんない」

「ええ。どこまで分かったか、覚えておきましょう」


 母上は立ち上がった。僕も手を下ろす。


「今日はそこまでにしましょうか」

「雷、出なかった」


 自分の指先を見た。母上と同じようにしたのに、光も音も出ていない。


「でも、初めは何も分からなかったでしょう?」

「今は、ちょっと分かる」

「それなら、次はそこから始められるわ。私にも、どんな感じがしたか教えてね」


 母上が僕の右手を取った。


「今日は腕にも力を入れていたから、少し休ませましょう」


 指を曲げたり伸ばしたりしても、もう痛くなかった。さっき感じたものも、手を下ろしているとよく分からない。


「あの的、近くで見てもいい?」

「見るだけならね。まだ触らないで」


 母上と一緒に台へ近づいた。


 焦げ跡は、僕の親指の爪くらいの大きさだった。周りは元の木の色のままだ。あんなに離れた所から、ここだけに当てたんだ。


「母上、真ん中だ」

「真ん中を狙ったもの」

「僕も、ここに当てたい!」


 的に触れないよう、少し離して指した。


「そうね。出せるようになったら、ここへ当てる練習もしていきましょう」


 僕は右手を見た。掌の中から、指の付け根。その先まで動かせたら、母上みたいに雷を出せるかな。


「マルタ、母上の雷、見えた?」


 通路へ戻ると、マルタがうなずいた。


「はい。的に当たったところも、よく見えましたよ」

「これくらい、黒くなってた!」


 爪を見せると、マルタは的の方を見た。


「まあ、そんなに小さな跡だったのですね」

「僕も、あそこに当てるんだ」


 母上が隣で笑った。


「その前に、魔力を動かす練習よ」

「うん。指の先まで」


 僕は人差し指を立てた。母上がその先へ、自分の指をそっと合わせた。


「ええ。ここまでね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。