第五環 喜び
あれから俺は、ほぼ菜園にかじりついていた。
そして4日ほどたった朝。
ついに・・・というには早すぎるが、野菜が収穫の時を迎えた。
「本当に早かったな・・・」
そう呟きながら、俺は手始めにトマトを丁寧に収穫する。
魔力量の計測をし、データを取ってから籠の中へ。
それから次々に慣れない手つきで収穫・計測を進める。
収穫していくたびに、切れ味のいいハサミがサクッと野菜を茎から切り離す。
土からメリメリと音を立てて、たくさんのジャガイモが顔を出した。
それらを1つ1つなるべく土を落としながら計測し、籠へ移す。
「・・・よし、これで全部か」
初めてにしては・・・といっていいのかもわからないほど、短い期間だった。
しかし、この野菜たちを収穫できる程度に、育てきることができた。
少しの達成感と安堵を胸に、俺はハカリに野菜を渡すため、ミレル環へ向かった。
…
ミレル環に着き、早速ハカリの元へ向かう。
「ハカリ!見てくれ!できたぞ!」
ハカリが少し慌てながらこっちに来る。
「ジン!もう少し早く連絡してから、きてくれないかな!」
それからハカリは、まじまじと籠の中の野菜を見る。
「これが・・・ほんとにできたんだね・・・」
「ああ・・・前のお礼もあるから多めに受け取ってくれよ」
「じゃあありがたく。3つずつもらってもいいかい?」
「もちろんだ」
ハカリに野菜を渡す。
ハカリはそれを大事そうに、持ってきた箱へと入れている。
「最初の1歩っていうのかな?案外早くできちゃったね」
ハカリが優しく笑いながら言う。
俺はなぜだか少し照れくさくなった。
「まあ・・・早すぎたな」
「しかしなんでこうも早い?ずっと考えてたが、俺にはわからないままだ」
「うん、僕らの方でもまだ詳しくはわからないよ」
ハカリが少し考えている。
「何か・・・やっぱり地中からの魔力が・・・」
「・・・いや、憶測で語るのはよくないね、やめよう」
「それでもまあ収穫サイクルが早いのは得、と考えよう!」
「また違うものが出来たら、持ってきてくれると嬉しいな?」
ハカリがニヤリと笑いながら言う。
「ああ、わかってるよ」
「だが、次も同じものを植える」
「同じように育てば・・・まあそれはなってみてのお楽しみかな」
俺もハカリに緩く笑いながら言い、それから少し話して、ミレル環を後にした。
…
そして俺はイチバ環へ野菜を持っていった。
「オロシ姉さん!」
少し離れたところにいるオロシ姉さんに声をかける。
「おや!ジンじゃないか!」
「その野菜・・・まさか、もうできたとかいうんじゃないだろうね?」
「・・・そのまさかだよ、オロシ姉さん」
俺がそう言うと、オロシ姉さんは目を丸くした。
そんなオロシ姉さんは初めて見た。
俺はちょっと驚かせることができて、うれしいと感じた。
「アッハッハ!なんだいもうできちまったのかい!」
「なんでかは知らないが、やったじゃないか!」
「さあさ!それじゃあうちで買い取らせてもらおうかね!」
オロシ姉さんが俺が持つ野菜を見て、値付けを始める。
「いや、今回は―――」
「ジンがちゃんと研究しながら作ったもんだろ?」
「それなら魔力量だって、普通とは違うんじゃないかい?」
「・・・なんでわかるんだ」
そりゃアタシの勘さ!と言いながら豪快にオロシ姉さんが笑う。
俺が持ってきたものの、こんな素人の野菜、本当にいいんだろうか。
「はいよ!これが今回のお代だよ!」
「おわ!っと!」
オロシ姉さんから急に渡されたズシッとした袋。
中を見るとkanがぎっしりと入っていた。
「オロシ姉さん!こんなには貰えない!」
「フフッジンのお祝いも兼ねてさ!あ!ちょっとそこの旦那!」
オロシ姉さんが男性のお客さんを呼び止める。
「おお姉さん、どうした?」
「これ!新しくそこの子が作ったトマト!」
「魔力量が普通のとはちょいと違うんだってさ!一緒にどうだい?」
「お!いいのか?ラッキーだな!じゃあ味見させてもらおう!」
オロシ姉さんがトマトを半分に切って男性に差し出す。
2人の口に運ばれるトマトを見て、俺は不安と期待が入り混じる気持ちになる。
もぐもぐと口を動かす2人を、固唾を飲んで見守る。
「んん!こいつはうまい!それになんだか身体がホッとするな!」
「ホントだねぇ!ジン!アンタやっぱり良いもの作るじゃないか!」
「アタシの目に狂いはなかったね!」
美味しいと喜んでいる2人を見て、俺はたまらない気持ちになった。
「・・・ありがとう」
そう、口に出すので精いっぱいだった。
たった数日しか育てていないが、それでも初めて作ったものを『うまい』と言ってくれた人がいる。
そのことに、心が嬉しさと温かさでいっぱいになった。
男性はその間にオロシ姉さんから俺の育てた野菜を少し買っていた。
「まいどありー!またきなよー!」
「おう!今日はいいものに出会えてよかったよ!またな!」
男性はひらひらと手を振って人ごみの中に消えていった。
「・・・ちょっとは自信、ついたかい?」
「ジンの作った野菜が美味しかったから、あの人は買ってくれたんだよ」
「これからも、まだまだ頑張りな、よ!」
オロシ姉さんに、背中をバシッと叩かれる。
背筋が伸びる。
ああ、もっとたくさん作って、たくさんの人に喜んでもらえるようにしよう。
研究も、もっと解明できるように頑張ろう。
そんな思いを胸に、オロシ姉さんにお礼を言い、山への帰路についた。




