第四環 職人の技
ダイクさんを見送り、俺は小屋へと入ってみることにした。
「俺は、本当に周りの人たちに恵まれたな」
そう思いながら、ドアを開けてみた。
「!すごいな!」
まずドアを開けると、目に入るのは台所。
そしてその前には2人くらいなら一緒に食事ができそうなテーブルがある。
「これで携帯食ともおさらばできるのか!」
嬉しさを噛みしめながらテーブルを見る。
よく見るとテーブルの端に見事な草花の意匠がある。
「ダイクさん凝ってるなぁ・・・」
そして、部屋を見渡す。
するともう一つドアがあることに気が付いた。
「・・・まさか!」
ドアに駆け寄り、急いで中を確認する。
「風呂!・・・トイレ!・・・ダイクさんは神か・・・」
思わず顔を手で覆う。
心の中で親指を立てるダイクさんの幻影が見える。
感謝の念が止まらない。ダイクさん、ありがとう。
俺はそっと手を合わせ、ダイクさんへの感謝を念じる。
そして台所の方へ戻ると、外に続くドアの横に、丁寧に畳まれた寝袋を見つける。
「畳んでくれてる。ダイクさん几帳面だからなぁ」
ダイクさんの心遣いに、思わず口元がほころんだ。
「さて・・・早速風呂に入るか!」
ウッキウキで風呂場に向かう。
頭と身体を洗い、湯船にゆっくりと浸かる。
「ふぅ・・・」
疲れがお湯に溶けていくようだ・・・これが極楽か。
研究研究の毎日で湯船に浸かることもあまりなかった日々だった。
久しぶりにゆっくりと風呂を楽しみ、しっかりと掃除も済ませて部屋に戻る。
「暑いな・・・ちょっと浸かり過ぎたか」
外に出て、俺は夜風に当たる。
昼よりひんやりとした風が俺の身体を冷ましてくれる。
空を見上げると、山だからか星がきれいに見える。
「・・・きれいだな」
星々を指でなぞりながら星座を探した。
「俺も・・・この輝く星たちみたいに・・・」
言いかけて、やめた。
俺は少し感傷的な気分になりつつ、小屋に戻った。
台所をみて、また気付いた。
「食材・・・買ってないな・・・」
がっくりと肩を落とす。
俺は仕方なく鞄から携帯食を取り出す。
「いただきます・・・」
きちんと椅子に座り、少し悲しくなりながら携帯食をモサモサと食べた。
「ご馳走様でした・・・」
片づけをして、俺は今日のことをノートにまとめ、寝る支度をした。
「明日は、また街に行って、食料も買って・・・」
湯船にゆっくりと浸かったからか、すごく眠い・・・。
俺は寝袋に入り、猛烈に襲い来る眠気に、身を任せた。
…
そして、日の出とともに目が覚める。
最近は青の季節に比べて日の出が早くなってきた。
俺は朝の支度をして、菜園に向かう。
「・・・はぁ!?」
俺は目を疑った。
芽が・・・出ている。
いや、芽どころではない。
これはもう苗くらいになっている。
「カメラ!!録画!!」
俺は急いで機材を設置した。
「なんでもう芽が!?というか色々早くないか!?」
「この土地自体が、やっぱりなにかあるのか?」
「そうだ!ハカリに連絡・・・」
俺はポケットを探るが・・・ない。
「通信機・・・ミレル環だ・・・」
思い出した俺は、魔力靴を履き、全力で駆けだす。
「どうして俺はこんなにもマヌケなんだーーー!!!」
朝の静かな山に、俺の声が空しく木霊した。
…
まだ早朝にミレル環に着くと、正面ドアが開いていない。
俺は裏口にある魔力感知板に乗り、裏口のドアを開ける。
魔力感知板とは、建物の住人などが魔力を登録すると、その板に乗るだけで、自動で鍵が開く仕組みだ。
便利で、防犯面でも優秀なので、開発されてからすぐ、各家庭でも取り付けられるようになった。
「ハカリ!」
「あれ?ジンおはよう、こんな朝早くにどうしたんだい?」
「菜園でもう芽が出たんだ!悪い!急いで帰る!」
えぇ!?と驚いているハカリの声を背に、俺は通信機と予備メモリを引っ掴んで、ミレル環から勢いよく帰った。
そして菜園に張り付き、魔力計測しながらデータを記録していく。
「魔力の上昇自体は、昨日までと変わらない・・・」
「ならなんでここまで成長が早いんだ・・・?」
疑問を抱えつつ、データと映像をハカリに送る。
するとそう時間が空かずに、ハカリから連絡がきた。
「ジン!データも見たけどこれどういうこと!?」
「こんなに早いことあるの・・・?」
困惑したようなハカリの声。
無理もない、俺もまだ混乱している。
「とにかく、俺はこのまま観察を続ける」
「データは逐一送る。そっちでも調べてくれるか?」
「わかった、データ待ってるよ」
「ああ、それじゃあ」
・・・この謎は解明できるのか。
少しの不安と期待に似た何かを感じながら、俺は菜園の観察を続けた。




