第三環 大工さん?
ハカリを見送り、俺は空を見上げる。
もう夕陽の赤が滲み始めている。
「そういえば、小屋の中を見てなかったな」
俺は小屋に向かって歩き出す。
ドアの前に来たところで・・・気付いた。
「ドアノブが・・・ない!」
ないものを考えても仕方ないので、俺はドアを・・・外す!
ガタンッ!!
そこそこ大きな音と共に、あっけなくドアは外れた。
外れたドアを横に避けつつ、中を覗いてみる。
「・・・うわぁ」
思わず声が出るほど、小屋の中は想像以上に酷い有様だった。
雨風が凌げればいいと思っていたが・・・
これは多分・・・無理だ!!
幸い寝袋はあるので良かったが、さすがにこれはどうにかしなければ・・・。
「そういえば、ダイクさんなら、どうにかできるかな・・・」
「・・・明日また街に行くか・・・」
なんとも言えない気持ちになりながら、俺は寝袋を比較的まだきれいな場所に置く。
身体を寝袋に滑り込ませ、思ったより酷い小屋から目をそらそうと、夢の中へ落ちることにした。
…
朝日も上がりきらないくらいの時間に目が覚めた。
俺は外水道で顔を洗い、菜園に水をやりつつ数値を測る。
「やっぱり少しずつ緑魔力の数値が増えてるな・・・」
測定器をしまいつつ、日が照らし出したこの場所の空気を吸う。
「スーー・・・ハーー・・・」
まだ鬱蒼としているところだが、やはり山だからだろうか、空気がうまいように感じる。
「まだ早いから、普通の靴でゆっくり行くか」
俺はこの酷い小屋とサヨナラするために、街にいるダイクさんのところへ行くことにした。
…
街に着くと街の環施設が集まる広場の噴水前に、見たことがある大男がいた。
「おはよう、ダイクさん」
大男・・・ダイクさんが振り向く。
俺を見た途端、ニッと笑顔を浮かべるダイクさん。
「おお!ジンじゃねぇか!」
「久しぶりだなぁ!どうした?」
「どうしたって、ダイクさんこそどうしてここに?」
俺は探していたから丁度よかったが、なぜここにいるのだろうか?
「俺がなんでここにいるかって?最近は街でなかなか家建てるやつもいねぇからな!」
「暇で仕方ねぇから、ここでなんか仕事がねぇか探してたんだ!」
ボリボリと頭を掻きながらダイクさんが言った。
「あーまあこの街に新しく住む人も、なかなかいないもんな」
この街はどちらかというと・・・まあ田舎だろう。
だがこの街にも有名なムスビ環という施設がある。
ここから見えるその場所に目を向けると、そこにはもう長い行列ができている。
しかしこの人たちはムスビ環の用事が済めば、さっと帰ってしまう人がほとんどだ。
「で?ジン、今日はどうしたんだ?」
「オロシから聞いたぞ!牧場を始めるんだってな!」
「なんかあったのかぁ?」
ちょっと不思議そうな顔で、ダイクさんが俺に尋ねる。
「それが・・・古い小屋があって使えると思ったんだが・・・」
「中が想像以上に酷かったんだ・・・」
肩を落としながら俺は言った。
「おぉ、そいつは困りもんだな!そこに住むんだろう?」
「よし!俺が何とかできるか見てやる!行くぞ!」
「え!いいのか!?」
すでにズンズンと山へ歩き出しているであろうダイクさんを慌てて止める。
「おぉ!そら行くぞ!案内してくれ!」
「わかった!ありがとう、行こう!」
ダイクさんと2人で山を登り、小屋に戻った。
…
「・・・よくこれに住もうと思ったなぁ・・・」
ダイクさんがちょっと引き気味に言う。
「うぅんこれは1回、ダメなとこ崩すしかねぇな!」
「・・・あぁ!なんてこったあ、魔力鞄を噴水前に忘れてきちまった!」
魔力鞄とは、魔力で生物以外のものをアームで掴み、圧縮して鞄に入れられる便利な道具だ。
「俺の魔力鞄に建材がギュってなって入ってるからよぉ!すまんが取ってきてくれねぇか?」
「その間に俺はこいつを崩してるからよぉ!」
「わかった!急いでとってくる!」
俺は靴を、ハカリからもらった魔力靴に履き替え、全速力で街に行き、鞄を見つけ、また戻ってきた。
「ハァ・・・ハァ・・・ダイクさん・・・ハァ・・・取ってきたよ・・・ハァ・・・」
「おぉ!?大丈夫か?やけに早いがそんなに急いでくれたのか!悪いなぁ!」
「じゃあ俺も急いで・・・ああ!手抜きはしないぞ!俺はそこはきっちりやるからな!」
「久しぶりの建築だぁ!腕が鳴るなぁ!」
ダイクさんはニコニコ笑顔で腕を回している。
「ちょっとあぶねぇから、どっかで暇つぶしててくれ!」
「わかった!ありがとう、ダイクさん!」
小屋をダイクさんに託し、俺はこの山を見てまわることにした。
「・・・まさかこの山を丸ごと買うことになるとはなぁ・・・」
俺たちがやっていた実験は、土にこの土地とは別の魔力色を流す、というものだった。
きちんと使用許可はとっていた。
なぜこの山まで影響がでてしまったのか、まだわかっていない。
「・・・思ったより広い山だな・・・」
木々の間から柔らかな日差しが差し込む。
自然が豊かなところだ。
俺は手で日差しを遮りながら上を見る。
空を自由に、まるで泳いでいるかのように飛んでいる鳥が見えた。
さらさらと優しく風が俺を撫でていく。
「いいところだな・・・」
これが森林浴か、と思いながらしばらく山を見て歩いた。
だいぶ歩き回ってからダイクさんのところに戻る。
「え!?」
「おお!戻ったか!どうだーすごいだろう!」
自慢げなダイクさんの声だ。
俺は目を丸くする。
目の前には・・・きれいな小屋が建っていた。
「え!?ダイクさん!?もうできたのか!?」
あまりにも早いダイクさんの仕事ぶりに、思わず聞いてしまった。
「おう!建材はもう加工済みだったしなぁ!ちょいちょいっとしたらできちまった!」
ガハハハハ、と豪快にダイクさんが笑っている。
見違えるようにきれいな小屋に思わず感嘆が出る。
「それじゃあお代をもらおうかな!」
「こんなにきれいになるなんて・・・ちょっと待ってくれ!」
まさかここまでしてくれるとは思わず、いくらぐらいかかるか聞いていなかった。
少し焦っている俺を見て、ダイクさんが笑い出した。
「ガッハッハ!あぁすまんすまん!意地悪しちまったか!」
「今回はお代はいらんぞぉ!久々の仕事だった!」
「小屋でもなんでも建てれたのは嬉しかったぞぉ!ありがとなぁ、ジン!」
ニカッと笑いながらダイクさんが言う。
「・・・いいのか?」
「ああ!構わん構わん!」
「だが!次からはしっかりお代は頂くぞ!」
「・・・ありがとう、ダイクさん」
俺の背中をバシバシ叩きながらダイクさんがガハハと笑う。
「お前さんも・・・あー、ここで牧場するのは大変だなぁ」
「もし菜園を増やしたり、ちょっとした家具が欲しくなったら俺に言えよ!」
「俺も仕事は欲しいからな!ギブアンドテイク?ってやつだガハハハ!」
「それじゃあ、俺はもう帰るぞ!ジン!頑張れよぉ!」
バシンと最後に俺の背中を叩き、仕事を終えて風のように去っていくダイクさんの背中が、とても、広く見えた。




