第十四環 赤魔力の水
あれから1時間以上走っている気がする。
そろそろ息も上がりそうだ。
少しスピードを落として走っていると、ナビがア!と声を上げる。
「到着デース!」
俺はゆっくり止まって、息を整えつつ、辺りを見回す。
「ふぅ・・・水は、なさそうなんだが?」
「アレー?」
おい・・・と声を出そうとすると、何か匂いがする。
スンスンと嗅ぎながら、匂いの方へ行ってみる。
ちょっと歩いたところに、ホカホカと湯気を立てる温泉があった。
「ア!水アリマシタネー!」
「水・・・といえば水だが・・・」
目の前に広がる温泉を見る。
ユラユラと揺れる水面、さらさらと心地のいい風と共に揺れる、少し赤や黄色になってきた木々・・・。
そして・・・温泉の独特な香り。
ここだけ見れば、いい旅館の露天風呂にでも来たような気分だ。
「チョット アツソウデス! 気ヲ付ケテ クダサーイ!」
「ああ、わかってるよ、案内ありがとう」
ナビのハーイ!という元気な声を聞きながら地図を閉じる。
俺は温泉に触れないように、魔力測定と温度測定をした。
「・・・赤魔力の温水だな、魔力色が赤1種だけなら、魔力温泉ではないな」
「濃度も・・・魔力温泉と言うには足りない」
「・・・だがこの濃度なら、冷ませば菜園に使えるな」
そう言いながら、俺は温水を汲んで帰ろうとしていた。
その時、後ろからガサガサという音が聞こえる。
野生生物か!?と思い後ろを振り返ると同時に、聞いたことのある声が聞こえた。
「あーー!この前のお客さん!」
「!!・・・行商人か」
「こんなところで会うとは!さてはお客さん!私を探していましたか!」
「いや違う」
さっと行商人の言葉を否定しつつ、俺は温水を汲む作業に戻った。
「あれ?温泉なんて持って帰って、ご自宅で楽しむんですか?」
「いや、野菜を育てる水として使うんだ」
「なるほど!ならお客さん!この自動魔力スプリンクラーはいかがです!?」
行商人は待ってましたとばかりに商品を見せてきた。
「こちらのスプリンクラー!この箱になっている部分に、魔力鞄などで圧縮した状態の液体をいれると、なんと自動で撒いてくれる優れものなんです!」
「へぇそんなものもあるんだな。だが今それがいるほど、菜園は広くない」
「では!将来菜園がもーっと広くなった時のためにどうです!?」
「いや、今はいい」
そうですかー、と残念そうに行商人は商品をしまった。
「今日は俺も荷物が多くなるから買わないぞ」
「以前お買い上げいただいた魔力鞄をお使いなのに!?」
「・・・そうだ!」
「んぅう、わかりました。では、また次お会いした時は、何卒ご贔屓にーー!!」
そう言いながら行商人は荷車に乗って去っていった。
それを見送って、俺も早く帰ろうと急いで温水を汲んだ。
…
小屋へ帰って、前回まで赤の季節の野菜を植えていたところに、また赤の季節の野菜の種をまく。
そしてそこに、今日とってきた温水を十分に冷ましてからかける。
魔力を測定し、土に含まれる魔力を調べる。
「・・・やっぱり赤魔力が少し増える・・・と」
測定結果は思った通りだった。
ふと顔を上げると、空はもうすっかり赤くなっていた。
黄の季節になると、少し日が暮れるのも早くなったと感じる。
俺は小屋に帰り、夕食の支度をしようとする。
今日は少し疲れたから、簡単なものにしよう。
俺は前に住んでいたところから、魔力鞄に詰めて持ってきていた冷蔵庫を開ける。
中には昨日作ったカレーが保存容器に入っていた。
それを確認し、米を早炊きにセットして先に風呂に入った。
ホカホカと身体を温めてくれる風呂に、今日の温泉を思い出す。
「そういえば、ゲンキ環では医療用以外の魔力温泉にも入れるのかな」
魔力温泉は様々な魔力色が混ざっていること、そして濃度の基準がある。
国の基準をクリアしたものだけが、医療用の魔力温泉を名乗れる・・・のだが、
疲労回復にも良いので、源泉に水をたしたりして、濃度を下げたものがある。
それが、娯楽用魔力温泉だ。
これがあると、多少の疲労はさっぱり吹き飛ぶ・・・らしい。
ただ扱いが非常に難しいので、ゲンキ環以外で娯楽用魔力温泉をうたっているところは、大体効果がとても薄い・・・とミレル環の先輩が言っていた。
そんなことを思いながら風呂からあがり、夕食の準備をする。
カレーをダイクさんから買ったレンジで温め、皿にご飯をよそう。
チーンという音と共に温まったカレーを、ご飯にかければ・・・。
カレーライスの完成だ。
「いただきます」
やはり、カレーはうまい。
パクパクと食べ進め、ご馳走様をして、残ったご飯を保存容器に詰め、夕食の片づけをする。
レンジを買っておいて正解だったな・・・。
そうして就寝の準備と、今日のことをノートにまとめ、俺はゴソゴソと寝袋に入り、眠りについた。




