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異世界転移した、そして  作者: 汐琉


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アレクセイ

タイトル通りです。アレクセイサイドの話です。



 アカリという名の異世界から召喚された少年と出会ったのは、牢の中だった。


 異世界から勇者召喚をしようとする王に止めるべきだと進言した結果、丁重に牢へと放り込まれた俺の目の前に現れた異世界の少年。


 異世界から喚ばれた勇者がいきなり牢へと放り込まれるという、まさかの登場を決めてくれたのが、アカリだった。


 思いがけない出会いに大笑いした俺も悪いが、アカリは穏やかそうな見た目に反して意外と毒舌だった。


 口調はそこまで砕けておらず丁寧なのだが、サラッと毒を吐いたり、俺をからかってきたりする。


 アカリはそんな面白い少年だった。


 牢へ入れられた理由も、王が気付かないでいて欲しいであろう事をグサグサと的確に指摘したせいで。


 本人も「異世界に来てテンションが上がって口を滑らせました」と、反省していた。


 あくまでも口を滑らせた事だけを、だが。


 アカリはテイム系のスキルがあるのか、モンスターであるホーンラットとも仲良くなり、名前をつけて可愛がっていた。


 ステータスを見せてもらうと、身体能力の数値は同年代の平均より少し上程度だったが、貴重なスキルを複数持っていた。


 これに関してはアカリが特別な訳ではなく、異世界人特有のものと伝えられている。


 そんな異世界人がたくさん得られ、今頃王はほくそ笑んでいるだろう。


 自分を冷静に見てくる邪魔者がいなくなり、騙しやすいであろう子供達ばかりを前に。


 そうして熱弁を振るったのだろう。


『魔族は悪だ』


『奪われた我々の物を取り戻して欲しい』


『君達だけが頼りなのだ、異世界の勇者達』


 耳に心地良い言葉だけ(・・)を吹き込み、おだて、持ち上げ、煽っていき、素晴らしい力を持つ捨て駒(ゆうしゃ)の完成だ。


 まぁ、アカリによると「たぶん数人は王に騙されたフリをしてるだけだと思います」という話だ。

 

 いきなり全滅という最悪な展開はなさそうで何よりだ。


 アカリはついつい馬鹿正直に疑いを口から出してしまったため、こうして牢へ放り込まれてしまったようだが……。



 どうせならとアカリからは異世界の面白い話を聞かせてもらった。



 堅苦しい話は色々と残されていたが、どんな生活をしているかなんてのはほぼ伝わっていなかったからな。



 ラノベやマンガやアニメ? だったか、今現在アカリ達が置かれている状況が、仮想を描いた娯楽作品としてあるというのが面白かった。



 もしかしたらだが、はるか昔に召喚された者が奇跡的に元の世界へ帰る事を成し遂げ、伝承などで残したのかもしれない。



 そんな仮説を脳内で立てながら、俺は一気に賑やかになった牢内の生活を楽しんでいた。



 そんなある日、差し入れのチーズの中に入れられたメモにより、魔物の襲撃に見せかけて騒ぎを起こして俺を奪還する計画が実行に移される事を知った。



 勇者が召喚されてしまった今、俺はこのままここで飼い殺されるか、速やかに処刑されるかするだろう。


 その前に連れ出してくれる気らしい。


 この奪還計画に関しては想定の範囲内だが、心残りというか悩ましい事が一つだけある。


 別に『王を説得出来なかった!』なんて事を今さら言う気はない。


 俺を悩ませているのは、向かい側の牢の中でのんびりとホーンラットと戯れている少年だ。


 俺がいなくなった後、一人で寂しいんじゃないか?

 俺を逃がしたんじゃと難癖をつけられて、ひどい目に遭わされるんじゃないか?


 心の中でもっともらしいそんな言い訳をしたりもしたが、本音はただ一つ。



 俺は、この面白い少年と離れるのが嫌だった。



 アカリにここを抜け出す話をする前に、アカリの同級生達の近況を伝えてみる。



 顕著な反応はそこまで見せなかったが、少しホッとしてはいたようだ。



 あまり交流がなかったとしても、気にはなるんだろう。


 だが、これぐらいの反応なら、俺の誘いに乗ってくれるかもしれない。



 結果、少し迷いはあったようだが、外の世界を見てみたくないか? という言葉が効いたのか、アカリは笑顔で頷いてくれた。


 ホーンラット達を連れて行っても良いかと問われたので、もちろん構わないと伝える。


 ホーンラットは索敵や陽動にもってこいだと思ったのは、アカリは秘密だ。


 いつの間にか、アカリはホーンラットに名前をつけていたようで、白い方を『カザハナ』黒い方を『セイヤ』と呼んで、一緒に行きましょうと声をかけていた。


 どちらも聞き慣れない言葉だ。きっと、アカリのいた世界の言葉なんだろう。


 意味を聞きたかったが、想定外に迎えが早くなってしまったため、聞きそびれてしまった。




 そして、その意味をアカリの口から聞く機会は──永遠にこなかった。




 迎えが予定より早くなった理由。



 それは、俺の奪還計画を察知した王が、勇者として喚んだ子供達に対人の実戦経験を積ませるため、追跡班として投入しようとしている事が分かったためだった。



 もうバレているならと堂々としてやるとばかりに何かを破壊する音が牢の中へも届き、俺は用意してあった鍵で俺とアカリの牢を開け、アカリを連れて脱出を開始する。

 俺達の足元には二匹のホーンラットが寄り添い、彼らが呼び出したのか通常の毛色をした複数のホーンラットが索敵や陽動をしてくれる。

 そのおかげもあり、予想以上に順調に抜け出し、合流ポイントである裏庭へとたどり着けたのだったが……。



 そこで待っていたのは、俺の迎えだけではなく、俺の迎えと睨み合うアカリと同年代の少年少女達。


 俺の迎えは、男ばかり五名。


 対する少年少女達も、人数としては五名……少し離れた所にもう一人いるようだ。



 アカリは攻撃態勢にある彼らを見て困惑し、彼らはアカリを「逃げ出すのか」「空気読めなさ過ぎたろ」と責め立てる。

 おとなしそうな少女だけが、小さな声で「まだ間に合うよ」と心配そうに囁いていたのが印象的だった。



 一人だけ集団から少し離れた位置にいる少年は、無言のままやたらと俺を睨んでいる。

 もしかしたらだが、アカリと仲が良かった友人か何かだろう。

 俺がアカリをさらう悪人にでも見えてるのか。


 そもそも、王は俺の事を彼らになんと説明しているのか。



 魔族と内通している悪人あたりだろうが、どうでもいい。



 ここで俺が王の本性を語っても、信じる者は少ないだろう。



 正義がどうのこうの宣って酔っている彼らに、今、俺の言葉は届かないだろう。



 そう判断して、アカリだけを連れて逃げる、そのつもりだった。



 俺の隣には彼らの知人であるアカリがいる上に、彼らはまだ人殺しなんてした事のないただの学生、そう思って油断していた。



「お、俺は、勇者になるんだ! 特別なんだぁ! 太郎みたいな陰キャ野郎とは違うんだ〜〜っ!」



 そんな絶叫が聞こえ、咄嗟に振り返ろうとしたが、それより早く隣にいたアカリが俺の名前を呼びながら俺を突き飛ばした。



「アレク!」



「っ!?」



 地面を転がった俺の視界に映ったのは、血走った目でこちらを睨みつけて絶叫しながら、両手を前へ突き出した少年。

 あんな奴彼らの中にいたか? と聞きたくなるような目立っていなかった少年だ。



 その少年が……俺を攻撃した。



 勇者特有の特殊なスキルだったのだろう。



 俺を迎えに来ていた奴らも反応出来ていなかった。



 反応したのはアカリだけ。



 アカリは、ちらりと俺の方を見て、俺が無事だと確認すると──安心したようにふわりと微笑んで、その口からゴボッと大量の血を吐き出した。



「アカリ!」

 


 地面へ向かって糸が切れたように倒れる体を、駆け寄って何とか受け止める。



 彼ら──少年少女達の方から悲鳴やら罵倒やら色々な声が聞こえてくるが、俺はそれどころではなく。

 抱き止めたアカリの状態を確認すると、すでにその命の灯火は消えようとしているのが明らかだった。

 黒い服を着ていたせいで一瞬わからなかったが、胸辺りに大きな穴が空き、血の染みがみるみるうちに範囲を広げていく。

 光を失っていく瞳には、今にも泣きそうな情けない表情の俺が映っている。


「あ……れく……そとへ……」


 弱々しく、だが微笑んで、アカリは何かを喋ろうとしていたが、俺は必死にアカリを制する。


「アカリ、喋るな! 誰か、治癒魔法を!」


 俺の叫ぶ声に少年少女達の集団から一人が建物の方へ走っていったのは、そういうスキルが使える人間を呼びに行ったのか。



 それを思い出せたのは、全て手遅れになった後で……。



 俺を迎えに来ていた奴らが駆け寄って来てくれたが、俺の腕の中のアカリを見て、揃って悲痛な表情で大きく首を横に振った。



「アレクセイ様……すでにお亡くなりです……」



 嘘だ……俺が口にする前に、少し離れた場所からこちらを窺っていた少年少女達の方から「嘘だ!」と悲鳴のような声が複数聞こえた。


「……残念だが、胸に穴が空いて生きていられる人間はいない」



 言葉を失っている俺に代わり、迎えに来てくれていた俺の悪友が少年少女達へ向けて、落ち着いた声音ではっきりとアカリの状態を伝える。



「君達の友人は、そこの少年の何らかのスキルによって殺されたんだ。そして、この世界に治癒魔法はあっても、死者を蘇生させる魔法は存在しない」



 その言葉は少年少女達へ向けたものか、冷たくなっていくアカリを抱いて呆然としている俺へ向けたものか。



「死者はきちんと弔ってやらないと、アンデッドとなり生者を襲う。彼をそんな化け物したくはないだろう?」



「…………わかっている」



 口から出せたのは、その一言だけ。



 動かなくなったアカリを抱いて立ち上がり、仲間達と共に歩き出す。

 少年少女達の方からはすすり泣く声だけと、低い声で「嘘だ」と繰り返しているのが聞こえてくるだけで、俺達を止めようとする者はもういない。


 しかし、ゆっくりもしていられない。


 すぐに追手がかかるだろう。


 今度は投獄ではなく、確実に俺を殺すための。


 用意されていた馬へアカリの体を抱いたまま跨る。


 迎えに来てくれた全員から物言いたげな眼差しが向けられているのはわかっていたが、今は何も話す気にならなかった。




 その後、かなりの距離を馬で駆け抜け辿り着いたのは、見晴らしのいい崖の上だ。

 見下ろす先には美しい草原が広がっている。

 この草原はあたたかい季節になると美しい真っ白な花が咲き、一面を埋め尽くす。


 アカリに見せてやりたいと思っていた風景だった。



「アレクセイ様」


 アカリを抱いたまま動かない俺に、痛ましげな表情をした悪友が声をかけてくる。


「……わかっている」


 そう、わかってはいるんだ。もう別れを告げなければいけない時間だと。


 俺は命令して魔法で穴を掘らせ、血さえ付いていなければ眠っているようにしか見えないアカリの体を横たえる。


「アレクセイ様、ここは私が……」


 俺を気遣う悪友へ首を振り、俺はアカリを焼き尽くす(とむらう)ための呪文を口にする。


 一気に燃え上がった青白い炎は、あっという間にアカリの全身を包んで灰へと変えていってしまう。


 それを他人事のように眺め、俺は首から下げた小さな袋をギュッと握りしめる。


 中に入っているのは、アカリの遺品として切り取った彼の黒髪だ。



 アカリの体は、衣服も含めてすぐに燃え尽きてしまい、残ったのは穴の中の僅かな灰だけ。


 その僅かな灰を土の下へと埋め、そこへ簡素な木の墓標を建てる。


 あえて何も文字は刻まない。


「アレクセイ様、彼は……」


「友人……友人だったんだ」



 この込み上げてくるドス黒い感情を誰へ向ければいいのか。



 攻撃して来たアカリの同級生?



 いや、叩くなら根本だろう、アカリ?


『そうですよ、アレク。腐った部分は全て取り除かないと他も腐るんですから』


 脳内のアカリへ語りかけると、穏やかそうな顔をして口の悪かった彼が楽しそうに笑って答える。



 やっぱり、これが正解なのだと嬉しくなって俺は笑って宣言する。





「──俺は、あの愚王を殺す」




 ──あぁ、何処かでナニカが壊れる音がした。

いつもありがとうございますm(_ _)m


アレクセイ、静かに壊れてしまいました。


これから先、アレクセイの心の中にはずっとイマジナリーなアカリが住んでると思います。


ヤンデレ……になるのかな、これは。


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