表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移した、そして  作者: 汐琉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/8

本日3話目です。流血表現注意で!


これでまぁ一区切りとなります。

 緊張からほとんど眠れなかった俺は、相当ひどい顔をしていたようだ。



「決行は夜だ。もう少し寝てろ」



 朝顔を合わせたアレクから、開口一番、こんな言葉をもらうぐらいに。



 お言葉に甘えて、もふもふな抱き枕となってくれている風花を抱きしめて、出て来たばかりのベッドへ戻る。

 晴夜は何か用事があるのか、風花とちょんっと鼻を突き合わせて挨拶のような事をしてから穴の中へと消えていった。

 夜までにはちゃんと戻ってきてくれるはずだ。

 そんな事をぼんやりと考えながら、俺は再び眠りに落ちる。



 不思議な夢を見た気がした。



 けれど、起きた瞬間には忘れていて。



「もうすぐ迎えの合図が来る頃だぞ」



 少し寝過ぎたのか、困ったような呆れたような顔をしてアレクが向かいの牢の中で笑っていた。

 早めの夕食というか、かなり遅めの昼食というか、どちらでも良いが腹ごしらえをしておく。

 風花にパンを食べさせていると、穴から晴夜が帰って来たので晴夜にもパンと、今日は小さなリンゴ的な果物が付いてきていたのでそれもあげてみる。

 二匹共美味しそうにもぐもぐしている。可愛らしい姿を見ていると少し緊張が解ける。

 食事を終えた二匹を抱えてもふもふしていると、遠くからゴォンという音が聞こえて建物が揺れたのが足裏から伝わってくる。


「バレたからって堂々としすぎだろう……」


 なんだ!? と怯えたりする間もなく、アレクが嘆きの声と共に、手で顔を覆って天を仰いでいたので、なんか状況を察してしまった。


 ずいぶん派手だが、今のがアレクの言っていた合図だろう。


 俺の腕の中にいる二匹も動じる事もなく毛繕いをしているぐらい落ち着いた感じで俺達の脱獄開始の鐘は鳴ったようだ。



 アレクが動じていたのはほんの数秒で、すぐ立ち直って牢の扉を開ける。

 いつからかはわからないが、アレクの牢には鍵がかかっていなかったらしい。


 ガバガバ過ぎると思う、色々と。


 目を見張って固まる俺に、悪戯っぽく笑うアレク。


 いつからこの計画は練られていたのか。


 もちろん俺の方の鍵も用意されていて、久しぶりに牢の扉が開かれる。


「アカリ、行くぞ」


「はい、行きましょう、アレク」


 いい笑顔と共に差し出される手──特に握る必要は感じなかったので、スルーして牢から出る。


「ちょ、待てよ!」


 追いかけて来たアレクによって、背後から頭をグシャグシャに撫で回される。


「……思ったより柔らかいな」


「アレクは近くで見てもイケメンですね」


 妙な照れ臭さを感じてしまい、それを押し隠した俺は、そんな軽口を返してアレクと並んで歩き出す。


 このまま何事もなく、アレクと二人で外へ出る。


 そして、壁の外の世界を見てみたい。



 ──決して主人公なんてガラじゃない俺のささやかな目標だった。




 アレクの道案内と風花と晴夜の活躍のおかげで、俺達は誰にも見つからず建物の外へ出られた。

 そこにはもちろんアレクの仲間達の手引きもあったが、風花と晴夜の活躍ぶりが予想外過ぎた。



 二匹が「「ちゅっ!」」と一声高らかに鳴くと、あちこちからホーンラットが集まってくる。

 前にアレクが言っていた通り、集まって来たホーンラットの毛色は濃さの違いはあっても全員茶色だ。

 体も風花達より少し小さく、毛皮の色味もあって余計ハムスター感が強い。


 明らかに大きいのを気にしなければ。


「ちゅちゅっ!」


「ぢゅっ」


 風花と晴夜の一鳴きで、集まったホーンラット達が今度は四方八方へと走り去る。

 なんだったんだと思っていたら、建物のあちこちから悲鳴や驚きの声が聞こえてくる。


「……もしかして、彼らに陽動を頼んだんですか?」


 驚いて足元の二匹へ問いかけると、それぞれ程度の差はあるがドヤ顔をして俺を見上げて頷いた。


「スキル名は見た事ないものだったが、アカリのそれはテイマー系のスキルのようだな」


「そうみたいですね。ありがとう、風花、晴夜」


 アレクの言葉に頷きながら、ドヤ顔をしている二匹を撫でてお礼を伝えた。


 ホーンラット達の陽動はかなりの効果があったらしく、ほんの少しハラハラする場面はあったがほぼ何事もなく建物から脱出出来てしまって、正直肩透かしを食らった気分だ。



 ──なんて不謹慎な事を考えてしまったのが、フラグになってしまったかもしれない。



「いた!」



 裏庭らしき所へ出た俺達へ向けてまるで敵でも見つけたような声を発したのは、年若い少年の声。

 現れたのは兵士でも騎士でもなく見覚えのあり過ぎる顔触れの集団だった。

 服装はこちらの世界の物へと変わっているが、ほとんど毎日見てきた相手の顔を見間違える訳がない。


 そう、追手として俺達の前に立ち塞がったのは俺のクラスメイト達だった。


 アレクのいう迎えであろう面子と睨み合っていたが、俺達の姿を見るとクラスメイト達は揃ってバッとこちらへ視線を向けてくる。


「やはり勇者達を出してきたな」


 アレクはこの展開を予想していたのか、動揺した様子もなく呟いて、ちらりと横目で俺の方を見る。

 その視線の意味するところを察した俺は、アレクにだけ聞こえる声量で本音を伝えておく。


「……説得しろとか言われても無理ですから」


 まだ昨日手紙を送った友人がいてくれれば話は違ったが、あいにくと立ち塞がったメンバーの中にその姿はない。


 立ち塞がったメンバーは、なんちゃってチャラ男な原田とその友人達……名前は覚えてないがよく原田と一緒につるんでいた奴だ。

 それと学級委員の笠井はるか。彼女とは、普通の学生生活ってぐらいの会話をする程度の付き合いはあった。

 彼女は真面目を絵に描いたような子だから、俺があまり孤立しないように気にしてくれていたんだと思う。

 俺が兵士に連れられて行く時にも、あの二人以外でわかりやすく心配そうにしてくれていた数少ないクラスメイトだ。

 彼女だけならワンチャン話を聞いてくれたかもしれないが、その前で原田達が吠えているから無理だろう。

 全員の顔を見ていた訳ではないが、他のクラスメイトは俺が連れて行かれた時、気にしていなかったり、あからさまに笑っていたりしていた。

 もちろん、心配そうに見ているクラスメイトも少しはいたが、あれは自分が同じ目に遭うかもと心配して……なんてさすがに捻くれ過ぎか。


 とりあえず、そんな面々が脱獄中の俺とアレクの前に立ち塞がった訳で。


 説得は俺の話術じゃ無理だろう。


 今も、原田が「逃げるなんて空気読めなさ過ぎだろ!」と声を張り上げ、笠井以外が「卑怯者!」「犯罪者の仲間になったのか!」とか追従するように叫んでいる。

 笠井だけは心配そうな表情で小さく何かを口にしていたが、他の面子の声でかき消されてしまう。


 少し離れた位置に一人、遠目でわかりにくいが人影が見える。服装と体格的にクラスメイトの誰かだろう。

 なぜかアレクを睨んでいる気がする。


 どうやらクラスメイト達の反応からすると、あの王はこちらを悪者を仕立て上げて、クラスメイト達に俺達を追い立てさせているらしい。


 確かにアレクが嘘を吐いているって可能性は大いにある。けれど、俺は自分の見てきたアレクを信じたい。


 そんな気持ちを込めて隣に立つアレクを横目で見やると心配そうに俺を見ていたので、大丈夫の意味を込めて頷いてみせる。


 アレクは微笑んで頷き返してくれ、睨んでいるクラスメイト達をスルーして俺を伴って迎えの方へ歩き出す。


 アレクはきっと俺のクラスメイト達が躊躇いなく人間を傷つけるなんて出来ないだろう、そう判断したのだ。

 俺と話して、俺の世界を知ってくれて、クラスメイト達を『平和な日本という国で暮らしていた暴力なんて知らない優しい子供達』だと思ってくれたんだ。


 俺もそう思っていたよ。


 いくら特殊な力をもらって、おだてられたとしても、いきなりそれを人を傷つけるために使えなんて言われて出来ない。


 そう思っていたのに。



「お、俺は、勇者になるんだ! 特別なんだぁ! 太郎みたいな陰キャ野郎とは違うんだ〜〜っ!」



 そんな訳のわからない事を叫びながら俺達の前に飛び出して来たのは……とっさに名前を思い出せないぐらいの関係性のクラスメイトの男子だ。


 原田の名前を口にしたって事は、陽キャになりたい組の一員なんだろうとか考えられたのは、思わず「アレク!」と叫んで動いた後で。


 こんな主人公みたいなのは俺のキャラじゃなく、ただ『クラスメイト』なんだからためらって止まってくれるのではないかという希望的観測というか計算が頭の隅にはあった。


 でも、そんなのは甘い考えだったと思い知らされる。


 自らの胸を貫いたナニカのもたらした、激しい痛みと、熱さで。


 最後の気力で視線を動かして突き飛ばしてしまったアレクの無事だけを確認して。


 俺はゆっくり倒れていく。


 地面へ倒れる前に、誰かに抱きとめられた。きっとアレクだ。


 目も耳も。全て遠くなった感じに、もう死ぬんだなと、どこか冷静な自分が呟くのを心の声を聞きながら、口元は微笑んでいた気がする。


 まさかこんな形での退場になるとは思わなかった。


 クラスメイト達は…………友人達がいれば大丈夫だと確信があるので、俺は心配しなくてもいいよな。


 ただ──ラノベの主人公にはなれなくても、アレクと異世界を見て回る約束は守りたかった。


 それが心残りだ。


 きっと、とても面白く、楽しかっただろうに。


 倒れる俺を抱きとめてくれたアレクを見上げる。


 どんどん暗くなる視界の中、余裕あふれる大人そのものだったアレクの泣きそうな顔が見える。



「あ……れく……そとへ……」



 せめてひと目でも壁の外が見てみたかった。



 異世界はどんな風景だったんだろう。



 アレクが話してくれた色んな場所を見てみたかった。



 不思議と、日本へ帰りたいとは、思わなかった。



 こうして俺の──間宮灯としての短い異世界転移は終わりを告げたのだった。























 ──そして、




「オギャー」



 俺は産声と共に新たに世界へ転生する(うまれる)

いつもありがとうございますm(_ _)m


こんな終わりを迎えてしまう異世界転移でした。


この後、ちょい重めな感じになるアレク視点と、蛇足が1話あっての完全な一区切りとなります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ