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本編後半部、一気に3話投稿となります。
こちら1話目です。
地下牢に入れられて十日以上経った。
ホーンラットはすっかり懐いてしまったようで、俺達以外の人間の気配を感じると姿を隠してしまうが、それ以外は俺のそばにぴったり張り付いて離れない。
それどころか俺の言葉をちゃんと理解してるらしく、アレクとちょっとした物のやり取りが出来るようになり、今は本を貸してもらってこの世界の文字を習っている。
アレクは天才というやつのようで、一度読んだ本の内容は全て頭の中へ入っているそうだ。
なので「何ページの何行目の〜」とか質問すると、すぐに答えが返ってくるので便利だ。
ちなみにホーンラットによる物の運搬方法はというと、この牢の鉄格子はギリギリ俺の頭が出ない程度の幅という、上手くしたら抜けられね? と突っ込みたくなるものなので、ホーンラットなら余裕で出られたのだ。
そこそこ力もあるので、本を前足で持って引きずりながらも、よいしょよいしょと運んでくれたのだが、とても癒やされる光景だった。
それはアレクも一緒だったようで、ホーンラットの奮闘を向かいの牢の中で微笑ましげに見つめていた。
たぶん、俺も似たような顔をしていたかもしれない。
アレクのおかげで順調にこの世界の文字を読めるようになってきたので、ベッドに寝転がってアレクから借りた本を読んでいたのだが、ふと疑問を抱く。
普通、牢の中に本なんて持ち込めるものだろうか、と。
そう思った瞬間、そういえばと思い出すのは、日本でも刑務所で本を読む事ができるという特集番組だったかの一幕だ。
気の回し過ぎというか、疑い過ぎだったかもしれない。
高そうな予感しかしないアイテムを身に着け、身分の高い者が入れられるという牢にいるのは、ただアレクが金持ちかそこそこ身分が高いからなんだろう。
そして、ただこちらの世界でも同じように差し入れで本を読む事が出来るだけで──。
そう考えながらアレクのいる牢を見た俺は、ゆっくりと瞬きを二度する。
牢には不似合いなふかふかのベッドに腰掛けたアレクは、赤ワインらしき瓶に口をつけて直飲みしながら、大きなチーズの塊をナイフで削っていた。
優雅さには欠けるが、牢の中とは思えないその姿に、一度打ち消したアレクに対する疑問がさらに膨らんでいくのだった。
「ほら、お裾分けだ」
結局思考を放棄して読書へと戻っていた俺は、アレクから声をかけられて顔を上げる。
いい笑顔をしたアレクが鉄格子越しにこちらを向いていて、少し小さくなったチーズの塊をこちらへ見せてくる。
「投げるぞー」
ホーンラットを使う手間すら面倒だったのか、呑気な掛け声と共に野球ボール大になったチーズの塊が俺の牢の中へと放り込まれる。
おっとっととなりながらも、なんとか受け止めた自分を誉めたい。
「ありがとう、ございます」
受け取ったチーズは、プロセスチーズぐらいしか食べた事のない俺には正直口に合わなかったが、何とか数口かじる。
だが、次の一口がなかなか進まない。
口内の味を誤魔化すのにガブガブと水を飲んでいるとちょうどいつものホーンラットが穴から顔を出す。
チーズと言えばネズミというのは短絡的過ぎるかもしれないが、チーズの塊を見せると目をキラキラさせて手を伸ばしてくる。
ちらりとアレクの方を窺うと、仕方ない奴だと言わんばかりの表情で頷いているので、遠慮なくホーンラットへチーズを与えていく。
さすがに残り全部はあげ過ぎだとチーズを半分にしてホーンラットへ手渡すと、抱え込んで美味しそうに食べ始める。
残った半分を何とか食べようと気合を入れていた俺は、ふと視線を感じた気がしてホーンラットが出て来た穴へ視線を向ける。
何処まで続いてるかわからない深く暗い穴の中から、二つの青い光が覗いている。
おそらくだが、目の前にいるホーンラットの仲間の瞳だろう。
「友達を連れてきたんですか?」
チーズを食べているホーンラットへ問いかけると、ホーンラットは何言ってるんだ? という風に首を傾げてから穴の方を振り返り……目を見張って驚いた表情をする。
「ヂュッ!」
「ヂュッ」
威嚇なのか怒りなのかは不明だが、いつもより低い声でいつものホーンラットが一鳴きすると、さらに低い声が応えて、声の主がゆっくりと穴から出てくる。
いつもの白いホーンラットとは違い、新たなホーンラットの毛色は艶のある黒一色。先ほど見えていたのはその真っ青な瞳の色だったらしい。
二匹の共通点は額に生えた角ぐらいだ。
「色違いですね」
思ったままに呟いていると、向かいの牢の中で何かの紙を読みながら横目でこちらを見たアレクが、
「言い忘れたが普通のホーンラットは茶色の毛並みだ。そいつらは、変異種と呼ばれる通常の個体より強いホーンラットかもしれない」
とそんな説明をしてくれた。
「この子達は、強さに代わりに頭の良さとかなのかもしれませんね」
「確かにそうだな」
アレクとホーンラット達についての推測をしながら、黒いホーンラットにもチーズを与える。
最初は警戒していたようだったが、白いホーンラットが美味しそうにチーズを食べる姿を見て、黒いホーンラットもチーズを食べ始めてくれた。
白と黒、並んでチーズを食べる姿は、二匹になって可愛さ二倍だ。
相当な冷血漢じゃない限り、これは可愛いと言うだろう。
さらに数日が経ち──。
黒いホーンラットは白いホーンラットよりクールな性格っぽく、あまり俺へ近づいてくる事はなかった。
白いホーンラットの方は、すっかり無警戒で俺の膝の上に乗ったり、気付いたらベッドで眠る俺の横で寝ていたりしていたので、黒いホーンラットから呆れられているようだった。
その黒いホーンラットの方も、徐々に心を開いてくれたのか、気付くと俺の手が届く位置で毛繕いや寛ぐ姿を見せてくれるようになった。
「スキルの影響なのか、それともアカリが動物に好かれる質だからスキルがついたのか……」
向かいの牢の中でアレクがシリアスしてブツブツ呟いているが、俺の方はやっと触らせてもらえた黒いホーンラットを撫でるのに忙しい。
そのまま白と黒、両方のホーンラットを撫で回していると、アレクが唐突な問いを口にする。
「アカリと一緒に来た奴らがどうしているか知りたいか?」
ここで、別に……とクールに決めたいところだが、俺はそこまで達観した人間ではない。
だから、数秒悩んでから口から出た答えは──。
「…………少しだけ」
こうなる訳だ。
アレクはからかう事もましてや馬鹿にする事もなく、微笑んでクラスメイトの事を説明してくれた。
ほとんどの男子は前園を中心に「魔王を倒そう!」という感じで戦闘訓練をこなし、王女様や可愛いメイド達にチヤホヤされていい気分になっている。
ほぼ全員が戦闘系の能力に目覚めていて、程度の差はあるがヒャッハー状態にもなっている。
アレクによると特に目立っているのは前園──ではなく、チャラい系イケメン……でもなく、チャラくなりたいなんちゃって陽キャグループのリーダーである原田だそうだ。
何やらとても攻撃力の高いヤバいスキルを得たらしい。
そのスキルがどれくらい攻撃力が高いかと言うと、他のクラスメイトで防御が出来る系のスキルの奴でも防げなかったらしい。
矛と盾をぶつけたら、矛が盾をぶち壊したみたいな感じだろう。
もちろん全員が戦闘向きなスキルだった訳ではなく、支援系や物作り系のスキルを得たクラスメイトもいたそうだ。
女子はあまりに戦闘には積極的ではなく、一部を除いて後方支援を希望している……と。
これはほぼ筒抜けってやつじゃないかと、アレクの正体と城の防犯を気にしつつ、クラスメイトが皆元気そうなのは、まぁ良かった。
いくら関係性が薄かったとしても、知っている奴らが酷い目に遭うのは寝覚めが悪い。
俺が内心ホッとしていると、視界の端でアレクが居住まいを正したのが見える。
まだ何か情報があるのかと俺も背筋を伸ばしてアレクの次の言葉を待つ。
「アカリ。俺は今の王の兄の息子だ。王へちょっと色々言った結果、ここへ入れられた。勘違いして欲しくないのは、俺は別に王になりたい訳じゃなかった。ただ、異世界から無理矢理召喚した相手を戦わせるというのが、気に食わなかっただけだ」
「ちょ、待って……」
いきなり予想外過ぎる情報をぶっ込まれて、俺のツッコミも追いつかない。
しかし、アレクは待ってくれる気はないのか、そのまま言葉を続ける。
「結局、召喚が止められなかったからな。もう俺がここにいる意味もない。だから、出て行こうと思う。……アカリも一緒に来ないか」
「え?」
牢ってそんな自分の自由意志で出入り出来るものだっけ? と疑問が浮かび、間の抜けた声を洩らしてしまったが、すぐ理解した。
アレクはここから脱走する気だ。
これだけ情報が筒抜けになるぐらい人が潜り込めているなら、脱走の手引きも出来るだろう。
アレクの自信に溢れる表情からして、脱走が失敗する心配はないだろうが俺には即答出来なかった。
ここから出て、俺はどうする?
確かに特殊なスキルは持っているが、まだ全然使いこなせていない。
ただの口の悪いだけの高校生でしかない俺が、異世界で生きていけるのか。
ここにいる限りは、衣食住は保証されているんだ。わざわざ出なくても、と囁く後ろ向きな自分がいる。
そんな俺の心の動きなんてお見通しなのか、ニカッと快活に笑ったアレクが手を差し伸べるような仕草をして口を開く。
「一緒に行こう、アカリ。アカリに見せてやりたい物がたくさんあるんだ」
まったく裏の見えない、まるで少年のような無邪気な笑顔に俺は──。
「この二匹を連れてって良いのなら……」
最後のささやかな抵抗とばかりに、断られそうな提案をしてみたが……。
「っ、もちろん、構わないぞ」
ホッとしたように蕩けるような笑顔と共に受けられてしまい、色々取り繕うのを諦める。
一緒に来ないかと言われた瞬間、驚いたのもあるが、嬉々として跳ねた心臓。
最初から勝負は決まっていたのかもしれない。
しかし、俺を連れて脱走するとなると色々準備が増えて手間ではないかと思ったが、特にそれはないらしい。
悪戯っぽく笑ったアレクによると──。
「絶対に頷かせるつもりだったからな」
との事で。
やはり、最初から勝負は決まっていたようだ。
いつもありがとうございますm(_ _)m
アレクが少々重いというか、ウザいと思われないかが心配です。
ちなみにブロマンス目指してます(๑•̀ㅂ•́)و




