第49話 異世界リアル5
動画サイト 「異世界リアル」
通称“ビリアル“
【勇者パーティ、三回目の依頼】
動画の冒頭には、赤黒い岩場が映っている。
遠くには、黒い煙を上げるシクネ火山。
地面の裂け目からは、赤い光がぼんやり漏れていた。
画面の端には、いつものようにコメントが流れている。
《火山エリアきた》
《相変わらず暑そう》
《このパーティ、毎回なんか起きるから好き》
映像の中で、第8パーティが火山外縁部を進んでいく。
先頭気味に太野川。
少し横に脛比。
腕輪を確認する骨田。
周囲を警戒する真宮寺。
そして、少し後ろで妙に真面目な顔をしている羽賀登野。
《ばかとの普通に歩いてるだけなのに、何か期待する》
《前回のブラックウルフ戦から来ました》
《こいつら毎回絵面が強い》
やがて、岩陰からフレイムルースターが飛び出した。
赤いトサカ。
黒ずんだ羽。
全身に火の粉のような赤い光。
頭まで二メートル近い、巨大な雄鶏型モンスター。
「コケェエエッ!」
《デカすぎ》
《もはやニワトリじゃねえ》
《焼き鳥》
太野川が剣を抜き、正面から斬り込む。
フレイムルースターは短く跳び、赤く光る爪で太野川の肩を蹴った。
スケイルメイルから薄く煙が上がる。
《鎧なかったら危なかったな》
《太野川、今回は装備新調してる》
《普通に強い敵じゃん》
《これ、新人依頼で出るのか》
真宮寺が走る。
着地したフレイムルースターへ、氷の槍を放つ。
翼の付け根に突き刺さり、動きが崩れたところへ剣の一閃。
一体目が黒い砂になって崩れた。
《勇者ちゃんうま》
《動きが綺麗》
《真宮寺さんだけ別ゲーしてる》
だが、二体目が残っている。
フレイムルースターが胸を大きく膨らませた。
トサカが赤く光る。
画面越しでも、次に何かが来るのが分かった。
《なんか吐くぞ》
《避けろ避けろ》
真宮寺と羽賀登野の前に三人。
太野川、脛比、骨田が横へ飛ぶ。
真宮寺もすぐに距離を取った。
だが、羽賀登野だけが取り残されていた。
《あ》
《ばかとの!?》
《またか》
《何で棒立ちなんだよw》
《避けろって!》
「コケエエエエッ!」
赤い熱風が、真正面から夏を飲み込む。
画面が赤黒く染まり、火山灰が舞い上がる。
一瞬、姿が見えなくなった。
《直撃した》
《やばい》
《燃えた?》
《これ大丈夫なのか》
《勇者ちゃん叫んでる》
熱風が晴れる。
真っ黒なアフロ。
上半身裸。
下はトランクス一枚。
本人だけは、何も分かっていない顔をしていた。
コメント欄が爆発した。
《!?!?!?》
《誰!?》
《アフロwwwww》
《服どこいった》
《トランクスwww》
《熱風芸きた》
《一瞬で衣装チェンジ》
《笑わせにくるな》
《本人だけ真顔なのずるい》
《勇者ちゃんの顔www》
その直後、フレイムルースターが嘴を突き出す。
夏が驚いて右手を跳ね上げた。
ゴッ。
拳が、綺麗に顎を打ち上げる。
「コケェ!?」
《アッパー入ったw》
《綺麗なアッパーで草》
《顎打ち抜いてる》
《アフロはパンチ力上がるからな》
《技名:熱風アフロアッパー》
怯んだところへ、真宮寺が踏み込む。
剣が赤黒い空気を裂き、二体目のフレイムルースターも黒い砂になる。
《ばかとのが隙作って勇者が倒す流れ安定してきた》
《もうサポート職じゃん》
《お笑い師、支援職説》
フレイムルースターが砂になった後に、夏の姿は元に戻っていた。
白い髪。
ジャージ。
ブーツ。
夏自身は何が起きたか分からないまま、頭や服を確認している。
《戻ったw》
《一瞬だけなのかよ》
《何だったんだ今の》
《幻覚?》
《いやカメラに映ってる》
《瞬間芸じゃん》
《熱風を浴びたら黒アフロになる男》
映像は進む。
一つ目のファイヤークリスタルを採取した後、骨田が二つ目を見つける
赤黒い岩の裂け目。
そこに淡く光る赤い結晶。
だが、近づいた瞬間、岩の表面が動いた。
《いる》
《擬態してる》
《フレイムリザードだ》
現れたのは三体のフレイムリザード。
黒い火山岩のような背中。
赤く光る喉元と腹。
煙を上げる尾。
低い姿勢のまま、第8パーティを囲むように広がる。
《三体か》
《低くて見づらいな》
《背中硬そう》
太野川の剣が背中に当たる。
ガキンッ!
刃は弾かれた。
《硬っ》
《背中無理か》
《太野川の攻撃が通らない》
《腹狙いだけど、どうやって腹出すんだよ》
その答えは、すぐに映った。
一体が骨田の足元へ滑り込む。
赤く光る口が開く。
その瞬間、夏が一歩踏み出した。
フレイムリザードが、夏と骨田の間に入る。
クルッ。
背中が下。
赤い腹が上。
《は?》
《ひっくり返った》
《何で?》
《今何した?》
《腹見えたぞ》
真宮寺が即座に踏み込む。
露出した腹を斬る。
一体目が黒い砂になって崩れた。
《勇者ちゃん判断早い》
《今の連携やばい》
《いや連携なのか?》
二体目は真宮寺を狙った。
低く滑り込むフレイムリザード。
夏がまた動く。
夏と真宮寺の間に入った瞬間。
クルッ。
《またwww》
《二回目》
《条件確定じゃね?》
《夏と誰かの間に入るとひっくり返る?》
《オセロかよ》
《挟んだら返る》
《お笑い師の能力、意味不明すぎる》
真宮寺の剣が二体目を倒す。
残り一体。
今度は太野川たちも気づいている。
『ばかとのサマ、ちょっとこっち来い』
《使われ始めたw》
《でも有効なのが悪い》
最後の一体が真宮寺へ向かう。
夏が横へ踏み出す。
真宮寺と夏で、フレイムリザードを挟む形になる。
クルッ。
三回目も、ひっくり返った。
《完全にオセロ》
《三回目www》
《これスキルだろ》
《トカゲ返し確定》
《本人の顔が一番分かってないの好き》
太野川の剣が腹へ入る。
三体目も黒い砂になって崩れた。
戦闘終了。
画面には、火山灰の舞う岩場で立ち尽くす夏が映っていた。
本人は相変わらず、何が起きたか分かっていない顔をしている。
《この顔w》
《自分が一番困惑してる》
《スライム倒せないのにトカゲは返せる男》
《攻撃力ゼロの支援職》
《笑えるけど普通に助けてるんだよな》
《お笑い師、ハズレじゃなくね?》
映像の最後、二つ目のファイヤークリスタルが黒いケースに収まる。
コメント欄は、さらに流れ続けていた。
《第8パーティ三件目達成》
《熱風アフロアッパー》
《トカゲ返し》
《殺せないお笑い師、普通に強くなってきてない?》
動画はそこで終わった。
『熱風で黒アフロになるお笑い師』
『お笑い師、フレイムリザードをオセロみたいに返す』
『スライムを倒せない男、火山地帯で新芸を披露』
そして、その日のビリアルの急上昇には、黒アフロになった一瞬の夏が、何度も何度も切り抜かれて再生されていた。




