表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
48/63

第48話 フレイムリザード

「ファイヤークリスタル……かもしれません」


 黒い岩の裂け目の奥。

 赤く透き通る結晶が、ぼんやりと光っていた。


 骨田が腕輪を向ける。淡い光が結晶をなぞり、すぐに表示が浮かんだ。


【ファイヤークリスタル】


「当たりだ」

 骨田の声が少し弾む。


「よし。一個目だな。ばかとの、早くしまえよ」


 太野川の言う通りに黒いケースを開け、周囲を警戒しながら、ファイヤークリスタルを採取した。


 恐る恐る触った結晶は、まったく熱くなかった。


「この調子なら楽勝じゃん」

 脛比が額の汗を拭う。


「あと一個だね」

 骨田の頬が上がる。


 その時、骨田が少し離れた岩の裂け目を見て、足を止めた。


「……あそこ、もう一個あるかも」


「本当か?」

 太野川がすぐに反応する。


「さっさと採って帰ろうぜ」


「待ってください」

 真宮寺さんが止めた。


「さっきの結晶より、岩陰が多いです。先に周囲を確認してから行きましょう」


 確かに、黒い岩がいくつも重なっていて、影が濃い。地面がところどころ赤く光っている。


「慎重すぎだろ」

 太野川が不満そうに言う。


 その時だった。

 岩の表面が、ぬるりと動いた。


「ん?」


 最初は、熱で景色が揺れただけかと思った。

 でも違う。黒い岩だと思っていたものが、低く地面を這うように動いた。


「下がって!」

 真宮寺さんの声が飛ぶ。


 直後、赤黒い影が太野川の足元へ滑り込んだ。


「うおっ!?」

 太野川が慌てて後ろへ跳ぶ。


 その足元を、鋭い牙がかすめた。


 ガチンッ!


 硬い音が鳴る。


 岩の間から姿を現したのは、トカゲ型のモンスターだった。


 体長は一メートル半くらい。背中は黒い火山岩みたいにごつごつしていて、喉元が赤く光っている。長い尻尾の先から、じゅう、と薄い煙が上がっていた。


「フレイムリザードです!」

 真宮寺さんが剣を構える。


 そして、太野川が剣を抜いた、その直後。


 左の岩陰。

 右の裂け目。

 さらに二つの赤い光が動いた。


「三体いる!」

 骨田が声を上げる。


 フレイムリザードは、低い姿勢のまま俺たちを囲むように広がった。


 速い。

 しかも、地面すれすれに這うから見づらい。


 一体目が太野川へ飛びかかる。

 太野川は剣を振り下ろした。


 ガキンッ!


 刃は背中に当たったが、火山岩みたいな甲殻に弾かれる。


「硬っ!」


「背中は硬いです! 腹か喉元を狙ってください!」


「腹ったって、見えねぇよ!」


 フレイムリザードの尻尾が横に跳ねた。

 太野川は剣で受けるが、白い煙が上がる。


「熱っつ!」


 右では、脛比が別の一体を相手にしていた。


「このっ!」


 脛比が蹴りを入れたが、フレイムリザードは地面に張りつくように沈み、蹴りの下を抜けた。


「うわ、低っ!」


 脛比の足首へ噛みつく軌道だったが、かろうじて避けた。


「今度はこっち!?」

 骨田がワンドを構える。


「ストーンバレット!」


 石弾が飛ぶ。一発は背中に当たったが、フレイムリザードは止まらない。


 赤く光る口が、骨田の足元へ滑り込む。


 俺の体が勝手に動いて、一歩踏み出した瞬間、フレイムリザードが俺と骨田の間に入り込んだ。


 次の瞬間。


 クルッ!


「……え?」


 フレイムリザードの体が、なぜかくるりと回った。


 背中が下。

 赤く光る腹が上。


 まるで、鉄板の上でひっくり返されたトカゲみたいだった。


「今!」

 真宮寺さんが踏み込む。


 銀の剣が、露出した腹を斜めに裂いた。


 フレイムリザードの体がびくんと震え、そのまま黒い砂になって崩れる。


 静寂が、一瞬だけ落ちた。


「……今、ひっくり返った?」

 骨田が呟く。


 その間にも、残り二体が動く。


「来ます!」


 二体目が太野川へ。

 三体目が真宮寺さんへ。


 太野川は剣を構えるが、フレイムリザードはまた低く潜る。

 背中が硬く、剣が通りにくい。


「チッ、腹見せろ!」


 脛比が横から蹴りを狙う。

 でも、フレイムリザードは素早く体をひねり、尻尾で脛比を払った。


「うわっ!」


 脛比が跳ぶ。

 尻尾が岩に当たり、火花が散った。


 もう一体は、やっぱり真宮寺さんへ向かっていた。


 低く滑り込む。

 赤く光る口が、真宮寺さんの足首を狙う。


 真宮寺さんは剣を下へ向ける。

 けれど、フレイムリザードは剣先よりさらに低い。


 まずい。


 俺は反射的にフレイムリザードの横へ踏み出した。その結果、俺と真宮寺さんでフレイムリザードを挟む形になる。


 クルッ!


「ギャッ!?」


 フレイムリザードがひっくり返り、赤い腹が上を向く。


「また!?」

 太野川が叫ぶ。


「そこ!」

 真宮寺さんの剣が走る。


 二体目の腹が裂け、黒い砂になって崩れた。


 残り一体。


 それを見た最後のフレイムリザードが、ぎりぎりと喉を鳴らした。

 

 仲間を倒されて警戒しているのか、今度はすぐには飛び込んでこない。


 低い姿勢のまま、俺たちの周りを回る。


「……もしかして」

 骨田がぽつりと言う。


「羽賀登野との間に入ると、ひっくり返る?」


「そんなわけ……」


 言いかけてとまる。

 でも、二回も起きた。


「試す?」

 脛比が言う。


「そうだな。腹を見せないと倒しにくいし、ばかとのが咬まれてる間に喉切ってもいいな」


 太野川が剣を構え直す。


「ばかとのサマ、ちょっとこっち来い」


「何で俺を餌みたいに使おうとしてるんだよ!」


 そんなことを言っている間に、最後の一体が動いた。


 狙いは、真宮寺さんだった。

 フレイムリザードが一気に滑り込む。

 その横に俺がついていく。


 俺と真宮寺さんとで、フレイムリザードを挟む。


 クルッ!


「ギャッ!?」


 赤い腹が大きく震える。


「今だ!」


 太野川が剣を振る。

 刀身が露出した腹へ命中した。


 三体目のフレイムリザードも、黒い砂になって崩れた。


「俺様が倒したぜ」

 太野川が胸を張る。


「トカゲ返しじゃん」

 脛比が笑いをこらえながら言う。


「オセロみたいだったね」

 骨田が腕輪を見ながら言う。


 真宮寺さんが周囲を確認してから、赤い結晶を指した。


「今度こそ、採取しましょう」


 黒い岩の裂け目の奥。

 赤く透き通る結晶が、静かに光っている。


 俺たちは慎重に二つ目のファイヤークリスタルへ近づいた。


 骨田が腕輪を向け、表示が浮かぶ。


【ファイヤークリスタル】


「やった。二個目」

 骨田が得意げに笑う。


 黒いケースを開き、二個目のファイヤークリスタルをその中に収めた。


「よし!」

 太野川がガッツポーズをする。


「これでDランク査定だね」

 脛比も笑う。


「ボクが見つけたからね」

 骨田は得意げに胸を張った。


 俺は黒いケースの中の赤い結晶を見る。


 三回目の依頼。

 目標達成。


 これで、ステータスの再確認ができる。

 お笑い師というジョブが何なのか。

 少しでも分かるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ