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第43話 退院

 体には特に問題ないということで、午前中には退院になった。


 病院の玄関を出ると、外の光がやけに眩しい。


「夏、本当に歩ける?」


 隣で小蓮が心配そうに顔を覗き込んでくる。


「大丈夫。調子がいいぐらいだ」


「変な薬を飲んだのに……調子がいいなんて」


 迎えに来た母さんが、同じことを言う。


「調子がいいなんて言われても、安心できないわよ」


 母さんは小さく息を吐いた。


「今日は、帰って休むこと。分かった?」


「分かったよ」


 三人で車に乗り込み、家に向かう。


 小蓮は、きっと疲れている。

 昨日の夜から、ずっと病院にいたはずだ。

 なのに、朝からずっと俺のことを気にしていた。

 

 病院には、小蓮が付き添ったみたいだけど、母さんにも心配させてしまった。


 父さんには、なんて言おうかと思っていると、ポケットの端末が震えた。


 画面には、東雲六華の名前。


『夏さん。大丈夫ですか?』


 短い文章だった。

 でも、心配しているのがはっきり分かる。


『さっき退院した。昨日は本当にありがとう』


 すぐに既読がついた。


『昨日は間に合ってよかったです』


 小蓮が、横から少しだけ画面を見た。


「六華?」


「ああ」


『体はだるくないですか? 頭痛や吐き気は? 変な感じは残っていませんか?』


 質問が一気に来た。


『頭痛も吐き気もない。むしろ調子いい』


『それならいいですけど。本当に、二人とも無事でよかったです』


 その一文を見て、実感が湧いてきた。


『心配かけた。ありがとう』


 送信すると、すぐに既読がついた。


『今度、何があったか話してください』


『分かった』


 そこで、やり取りは一度落ち着いた。


「心配されてるね」


 六華が言う。


「されてるな」


「夏は、心配されることばっかりしてるから」


「……反論できない」


 端末をしまおうとした、その時。

 また端末が震えた。


 今度は、真宮寺真里亞。


『羽賀登野さん。突然ですが、今夜時間は空いてますか?』


 今日は特に何もなかったはず。


『特にないけど』


 返すと、すぐに既読がついた。


『昨日、リカバリードラフトが完成して、母が飲みました。飲んだ後、すぐに顔色が良くなって、体はすっかり良くなりました』


 大きく目を見開いて、指が止まる。

 バックミラー越しに母さんが、俺の様子に気づいた。


「どうしたの?」


「真宮寺さんのお母さん……薬が効いたって」


 母さんの表情が、少しだけ変わった。


「そう。よかったわね」


「ああ」


 俺は画面をしばらく見つめた。


 リカバリードラフト。


 本当に効いたんだ。

 それを知って安心したけど、少しだけ胸の奥がチクリと痛んだ。


『よかったな。本当に』


 しばらくして、真宮寺さんから返事が来た。


『ありがとうございます。羽賀登野さんが譲ってくれたおかげです』


 それから、最初のメッセージの理由が届いた。


『それで、父から直接お礼を言いたいと頼まれました。予定がなければ、今夜、食事に来ていただけませんか』


「……食事?」


 思わず声に出る。


 母さんが首を傾げた。


「どうしたの?」


「お礼を兼ねて食事に来ないかって」


「今日?」


「今夜って書いてある」


 母さんは少しだけ眉を寄せた。


「夏、退院したばかりよ」


「分かってる。でも、明日はまた探索だし……」


「明日、異世界に行くつもりなの?」


「依頼があるし、パーティの一員だから」


 そう答えると、母さんは困ったように息を吐いた。


「本当は、今日一日、家でゆっくりしてもらいたいけど」


「……うん」


「でも、真宮寺さんのお母さんが良くなったんでしょう?」


「ああ」


「それなら、ちゃんとお礼を受けてきなさい。あなたも、気になっているんでしょう?」


 母さんにそう言われて、少しだけ言葉に詰まる。


 気になっている。

 たぶん、そうだ。


 真宮寺さんのお母さんが本当に良くなったのか。自分の目で確かめたい気持ちがあった。


「ただし、無理はしないこと。体調がおかしかったら、すぐに帰ってきなさい」


「分かった」


 母さんはまだ心配そうだったけれど、最後には小さく頷いた。


「なら、行ってきなさい」


「……ありがとう」


 俺は端末に文字を打つ。


『よろしくお願いします』


 送信すると、すぐに返事が来た。


『もちろんです。迎えを出します』


「迎え……」


 また少し緊張する。


 真宮寺家。

 俺とは別世界の人達。


 母さんが少しだけ笑った。


「緊張してる?」


「してない」


「顔に出てるわよ」


「……してる」


 正直に言うと、母さんは苦笑した。


「帰ったら、ちゃんと着替えなさい。さすがに病院帰りの格好では行けないでしょう」


「分かってるよ」



 家に帰ると、小蓮とリビングのソファに座った。


「夏。退院おめでとう」


「別にめでたいほど入院してないけどな」


「変な薬を飲んで倒れた人が、午前中に帰ってきたなら十分めでたいよ」


 小蓮はそう言って、少しだけ安心したように笑った。


「真宮寺さんの家族と食事ってどこで?」


「迎えが来るって」


「どんなところかね」


「さあ? なんかすごいところに行くのかな」


「そうだろうね」


 小蓮はそこで、にやりとした。


「じゃあ、ちゃんとした服を着て行かないとね」


「分かってるよ」


「本当に? 脱げない服にしてね」


「当たり前だろ!!」


 小蓮は肩を震わせて笑っていた。

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