第23話 異世界リアル2
動画サイト 異世界リアル
通称、“ビリアル”。
配信の急上昇に、ある動画が上がっていた。
【勇者パーティにいたお笑い師が話題】
映像は、薬草採取の途中から始まっていた。
風に揺れる草原。
簡易保存ケースの中に、細い薬草が少しずつ増えていく。
<薬草採取か>
<初めての依頼だな>
<勇者の真宮寺ちゃんやっぱり立ち姿がいい>
<お笑い師もちゃんと採取してるの草>
その時、少女の手が止まる。
「……静かに」
<おっ>
<空気変わった>
<何かいるな>
カメラが足元を映す。
草の根元の土が、不自然にえぐれていた。
細い足跡がいくつも重なっている。
次の瞬間。
左右の草をかき分けるように、三体のゴブリンが飛び出してきた。
<ゴブリンきた>
<薬草採取中の不意打ちはいやだな>
<三体だけならまあって思うけど>
戦士が真っ先に叫ぶ。
「っ、来たぞ!」
武闘家も飛び出す。
魔法使いも杖を構える。
「三体だけだろ!」
「先にやる!」
「逃がさないよ!」
だが、その三体はこっちを見た瞬間、くるりと背を向けて走り出した。
<あっ>
<囮っぽい>
<追うな追うな>
戦士と武闘家が追う。
後衛も援護のためにその後を追っていく。
<こんなに分かりやすいのに>
<三人とも簡単に釣られすぎだろ>
<残されたの、お笑い師と勇者か>
風が吹く。
草が揺れる。
その揺れの中に、別の動きが混じった。
「――来ます」
前方。
横。
背後。
さらにもう一体。
四体。
しかも、二体は棍棒。二体は錆びたショートソード持ち。
<やっぱ囮だった>
<四体追加はえぐい>
<でも勇者なら楽勝だろ>
四体のゴブリンは、お笑い師ではなく、勇者へ向かって一気に走り出した。
<一点狙いかよ>
<なんであの子ばっかり>
<勇者ヘイトある?>
少女の剣が閃く。
一体目が一刀で砂になる。
だが、その隙に右後方の一体がショートソードを振り上げた。
<死角>
<まずい>
<間に合うか?>
その時、お笑い師が前に出る。
「ヒブシッ」
次の瞬間。
バシャ!
<なんだ今の音>
<斬られた?>
<軽すぎる音してて草>
ショートソードは横に走ったはずなのに、お笑い師は固まっている。
そこへ真横から火の玉が飛び、ゴブリンを飲み込んだ。
<助かった?>
<今の何だったんだ>
<切れてなーい?>
残る二体はすでに消えていた。
勇者がすぐにお笑い師の体へ手を伸ばす。
「羽賀登野さん、大丈夫ですか?」
<大丈夫か?>
<俺も触ってほしい>
<優しい>
服は切れていない。
血も出ていない。
「……あのショートソード、かなり錆びてたし」
「当たってなかったのか、効かなかったのか」
<本人も分かってない>
<当たってないわけないだろあの距離>
<マジで謎すぎる>
そこへ、三人組が戻ってくる。
「で? ばかとのはどうしたの?」
「庇ってくれました」
一瞬、空気が止まる。
<まあ、確かに庇ってた>
<お笑い師毎回前出るな>
<勇者ならゴブリン程度に庇う必要ないだろ>
お笑い師が困ったように言う。
「いや……なんか、体が勝手に」
<確かに早かった>
<でも本当なんだろうなこれ>
<本人が一番理解してない感ある>
勇者は少し目を伏せて、小さく言う。
「だから、庇わなくても平気だと言ったはずです」
<言い方やわらかいな>
<怒ってるというより心配してる感じ>
<勇者ちょっと赤いかも>
◇
映像は飛ぶ。
今度は岩場。
黒い石が顔をのぞかせる、ゴツゴツした地形。
風は吹いているのに、音だけがやけに少ない。
<ここから岩場か>
<ブラックオニキス探しに来たってよ>
<また嫌な空気だな>
岩陰の奥で、灰色の何かが動く。
ゆっくり立ち上がったのは、グレイウルフ。
しかも一体ではない。左、右、後ろ。三体。
<グレイウルフきた>
<新人でこれは重い>
<三体は面倒だな>
戦士が剣の柄に手をかける。
「別に三体ならやれるだろ。さっきのゴブリンでまたレベル上がったし」
<慢心>
<フラグ立てるな>
<でもまあ三人+勇者なら行けそう>
少女が静かに指示を出す。
「囲まれる前に一体ずつ処理します」
「太野川さん、正面」
「脛比さんは左」
「骨田さんは後方から援護。羽賀登野さんは無理に前へ出ないで」
<仕切りが自然すぎる>
<お笑い師名指しで止められてる>
<でもこれで正解だろ>
三体のグレイウルフが、じりじりと位置を変える。
そして一斉に動いた。
全部、勇者へ。
<また一点狙い>
<何で勇者だけなんだよ>
<ヘイト高すぎる>
一体目。
剣が閃き、首元を薙ぐ。
砂。
二体目。
右から飛びかかる。
お笑い師が、また前に出かける。
「伏せて」
勇者の短い声。
お笑い師が反射で体を落とす。
次の瞬間、氷槍が狼の胴を貫いた。
<判断はやっ>
<氷槍きれい>
<お笑い師言われた通り伏せれて偉い>
残る一体は岩陰へ回る。
戦士の斬撃をかわし、武闘家の声を置き去りにして、また勇者だけを見ている。
<うわこいつもか>
<完全に一点狙いだな>
<俺の推しの真里亞ちゃんだけ見てるのは一緒>
「右!」
お笑い師の叫び。
勇者が振り向く。
だが一瞬遅い。
グレイウルフの牙が迫る。
「ヘブシッ!!」
<出た>
<またお前か>
<回避か>
<もはや待ってた>
お笑い師の体が前に沈む。
そのままグレイウルフの軌道に入る。
ガッ!
<あっ>
<食われた?>
<ケツいった>
一瞬。
その一瞬で、何かが脱げた。
勇者の剣が横薙ぎに走る。
最後のグレイウルフが砂になる。
静寂。
そして次の瞬間、三人組が一斉に笑い出した。
<笑笑笑>
<確かにアリみたいだ>
<黒アンダーなのが余計ずるい>
黒いアンダーアーマー。
エルボーパッドとニーパッド。
上下のジャージだけがきれいに落ちていた。
<なんでジャージだけ脱げるんだよw>
<パッド残ってんの意味分からん>
<完全にコントの絵>
勇者はすぐ近くに立っていたが、少しだけ視線を逸らしている。
「……羽賀登野さん」
「な、何」
「回復魔法は?」
「……大丈夫。だと思う」
「早く着てください」
<よく笑わないな>
<確かに直視できない>
<顔が赤くなってかわいい>
お笑い師が慌ててジャージを着る。
「今のも、体が勝手に?」
「……たぶん」
<本人もひどい答えだと思ってそう>
<でも事実なんだろうな>
<ケツは大丈夫か>
少女は少しだけ黙ってから、短く言う。
「そうですか」
映像はそのまま続く。
後衛が岩陰を指さす。
「……ブラックオニキス、あるならあの辺っぽいね」
戦士が剣を肩に担ぐ。
「ここまで来て、何も持って帰らない方が損だろ」
勇者は岩場の奥を見たまま、静かに口を開いた。
「行くなら、今度は勝手に前へ出ないでください」
戦士が眉をひそめる。
でも勇者は答えない。
ただ、ほんの一瞬だけお笑い師を見る。
<今の絶対お笑い師に向けてだろ>
<名指ししないのが逆にいい>
風が吹く。
岩の隙間で低い音が鳴る。
第8パーティーは、さらに岩場の奥へ進んでいった。
コメントだけが、まだ流れ続けている。
<ゴブリンのとこ切られてなかったのか>
<やけに派手な音が鳴ってたけど>
<グレイウルフにも噛まれてるし>
<なぜジャージだけ脱げた>
<それより勇者が庇ってもらってちょっと嬉しそう?>




