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89、地元でも道を一本挟むと、知らない道が結構ある。

 前世の、俺が人間だった頃の話だ。たぶん俺だけではないとは思うが。就職して一人暮らしを始めるまでの二十数年間を実家のある地元で過ごした。だから久し振りに帰郷しても、慣れ親しんだ地元で道に迷うようなことはない。たとえしばらく見ないうちに、幾つかの建物が様相を変えてしまっていても。二十数年もそこで過ごしていたら、駅から実家までの間くらいは、目を瞑っていても大丈夫だろう。嗜んでいた武術の関係で、己の歩幅の感覚には多少なりとも自信がある。故に大袈裟ではなく歩けるだろう。流石に信号や横断歩道は無理があるが。そして躓いて転ぶくらいの事はあるだろうな。

 だがそんな地元でも、子供の頃から数え切れない程通った道も、その道を一つずらすだけで、普段曲がらない角を一つ曲がるだけで、意外と知らない景色に出会うものだ。まるで異世界にでも迷い込んだような気分になることもある。・・・現在は完全にその異世界に来てしまっているが。しかも俺は兎になってしまっていますが。

 知らない景色の道も地元だと道に迷うという不安にはならないが。子供の頃なら不安にもなったのかもしれないが、どちらに行けば駅か、あっちに行けば学校が、こっちに行けば商店街があるかがなんとなく分かるからだ。だから知らない道だと気が付いても殆ど何も気にしないで進んで行ける。そうすると意外とその先は行き止まりだったり、思いの外簡単に大通りに出られたりする。二十数年も暮らしていたのに、こんなにも知らない場所があったんだと驚いたものだ。うちの地元では流石に、こんな所にこんな店があったんだとはならなかったが。


 どうしてこんな話をしたのか。俺達の当面の目標は北の森を抜け、竜の住む山に向かう事。だが俺はある事に気が付いた。この森、俺達の住んでいる東の森と果実と虫系の魔物が多く生息する南の森は大体把握している。しかし、だ。西の森には殆ど足を踏み入れた事がない。なぜなら西の森はトウオウが通って来た魔界とつながる穴が開いている為、魔界獣が跋扈しているらしいとの情報の為、敢えて危険を冒す必要はないとの判断で、近付かない様にしていたからだ。

 しかし俺達は、自分で言うのも何だが、結構強くなったと思う。初めて魔界獣と対峙してから考えれば数倍、下手をすれば十数倍程成長したのではないかと思う。

 故に今ならば西の森を探索できるのではないかと考えた。同じ森の中なのに未だ俺達にとっては未開の地。北の森を目指すならば、西の森で怯んでいる場合ではないのではないかと考えた。トウオウの話によると、穴があまり大きくないので、その穴を身体の大きな強力な魔界獣は通過出来ないらしい。ならば現在西の森に生息している魔界獣は俺達にとってはあまり脅威ではないのではないかと考えた。勿論油断は禁物だが。

 色々理由を付けてはみたが、単純に自分の住んでいる森の中くらいある程度ちゃんと把握しておきたいと思っただけだ。もっと正直に言えば、たまには子供の頃の様な冒険や探検がしてみたいと思っただけだ。


 という訳で本日は、西の森に行ってみる事にした。俺、トウオウ、そしてヤクモの小隊で。魔界獣に詳しいトウオウと、俺の右腕たるヤクモの少数精鋭で。万が一の事を考えて、まずは俺達だけでの斥候のつもりである。

 ちなみにヤクモとモモカは出掛けた日の翌日の昼過ぎには帰宅していた。

「せっかくなんだから、もっとゆっくりしてくれば良かったのに。こんな機会はもうしばらくないかもしれないんだし。」

 と声を掛けると、ヤクモとモモカは顔を見合わせて笑っていた。・・・俺は何かおかしな事を言っただろうか。


 一応森の中心を避け南側から迂回するようにして西の森へ向かう。中心を避けた理由としては、北の森にも接近してしまう可能性があるから。おそらくこの面子なら特に問題なく対処は出来るとは思うが、それでも翡翠馴鹿級の魔物を相手にするのは面倒なのでそれを避けた形だ。魔界獣と遭遇する確率が極めて高い西の森に向かっているのだ。無駄な戦いを避け体力を温存する。どんな魔界獣に出くわすか分からないから慎重に。

「そんなに強そうなやつはいないはずだから、大丈夫だと思うよ。」

 トウオウは呑気な口調でそう言った。確かにそうかもしれないが、俺の性格だとこうなる。

「トウオウみたいなやつがいるかもしれないだろ。」

「ははは。それは盲点だったね。」

「トウオウ殿・・・笑い事ではありませんよ。もし本当にそんなものに遭遇したらどうするんですか。」

 ヤクモが眉間に皺を寄せている。トウオウの言う通り、西の森の方を探ってみても、強力な魔界獣の気配は今の所感じない。

「もしそうなったら、ボクが相手をするとしよう。」

「なんだか本当にそうなりそうだから、やめてくれ。」

 そう言いながら顔の前で手を振る。

「そうかい。それは残念だ。せっかくボクの強さを披露する良い機会だと思ったのに。」

「・・・それは少し見てみたい気もします。」

 それこそやめて欲しい。こんな森の中で魔王が力を披露したら碌な事にはならない。最悪森が無くなってしまうんじゃないのか。それは勘弁願いたい。まぁ、トウオウはある程度常識的ではあると信じたいが・・・魔王の常識が俺達のそれとは異なる可能性も大いにあるからな。

「ま、そうならないのが一番なんだけどな。」

「それは、その通りですね。」

 おそらくトウオウが戦うような事態にはならないとは思うが、それでも戦闘の一つや二つはあるものと想定しておく必要はあるだろうな。

「そうだね。ボクもそう思うよ。」

 きっと本心だろう。トウオウは出来る事なら戦闘には参加したくないと思っているだろうからな。少なくともこちらの世界では規格外の強さを有しているだろうからな。自分が介入して世界の均衡を崩してしまう事を望んではいないからな。叶うなら、最後の戦いであっても自分に出番が回って来ないのならそれが一番望ましいと考えているだろう。それはおそらくノインもそう思っているのではないかとおれは思っている。そして俺もそれで良いと思っている。

 そろそろ本日の目的地の西の森と区分けしても差し支えなさそうな領域が近付いてきた。


 西の森に近付くと共に少しづつ漂う気配に変化が出始める。

「この感じ・・・。少し似てるな。」

 俺はこの雰囲気を、気配を知っている。正確には似たものを感じたことがある。それも最近な。そう・・・あの王都の南側、何者かの声を聞いた結界のある、そして色のない世界で。あの無数の不死者達が徘徊していた場所に。

「確かに似ていますね。」

 ヤクモも同じ様に感じたらしい。あの場所よりもその気配は遥かに薄いが、確かに感じる。

「そうだねぇ。でも少し違うよ。あそこで感じたものより嫌な感じはしないだろう。」

 そう言われて、あらためて気配を探り直す。・・・確かに違う。あの場所で感じた・・・禍々しさというか、悪意のような負の力のようなものは感じない。どちらかと言うと、湿って少し重くなったような気配。

「・・・って事は、これは魔界の気配なのか。」

「その通りだよ、イッスンの。今感じているのは、魔界の魔力だね。」

 なるほど、つまり穴から漏れ出した魔界の魔力って事か。

「魔界はこんな魔力が満ちてるのか。」

 小さな穴からとはいえ此方の世界に溢れ出てくる程の魔力に。

「場所にもよるけど、大体そうだね。気が滅入るだろ。」

 確かに重苦しい魔力が四六時中充満していたらそんな気分にもなるだろうな。だが、だからこそ魔界の生物は此方の生物よりも強く生まれ育つのだろうなと妙な納得をしてしまう。

「生まれた時から感じてるなら、そう感じるものの方が珍しいんじゃないか。」

「それはそうかも。ボクって変り者なのかな。」

 嘘だろ・・・その自覚はなかったのか。ってそんな事はないだろうな。

「トウオウから聞いた魔界の話からだと、俺でもそう思うが。」

「えぇそうですね。私もそう思います。」

「ははは。ボクもそう思う。」

 そうでなければ魔界から出ようなんて考えたりしないだろうよ。しかしそのおかげで俺達は出会うことが出来たんだが。

「ところで、イッスンの。どうする。見ていくかい。」

「そうだなぁ・・・。」

 興味がないと言えば嘘になるが、敢えて近付いてみたいかと言われればそうでもない。どうするかな。

「敢えて危険な場所に近付く必要はないのではありませんか。」

 ヤクモの意見も最もだ。俺もそう思う。

「だからこそ正確な位置を把握しておいた方が良いんじゃないかと思うんだが。どうかな、ヤクモ。」

 今回はあくまで俺達の役目としては斥候だ。つまり何回はこの西の森に通う予定だからな。あらかじめその穴の位置を把握しておけば不用意に近寄らずに済むからな。

「確かにその通りですね。その方が良いかもしれませんね。」

「うん。ボクもそれが良いと思うよ。・・・じゃぁボクが先行しよう。」

「場所を覚えてるのか。」

「ははは。面白い冗談だね。そんな事ある訳ないじゃないか。ボクの方が魔界の気配を辿るのが得意だと思っただけさ。」

 別に冗談を言ったつもりはないんだが。トウオウぐらいの知力を持ち合わせていたらそれくらいは容易なんじゃないかと思うんだがなぁ。トウオウの能力値を覗き見た訳ではないが、己の能力値からの推察でもかなりの能力をお持ちなんじゃないかと思うのですが。それも魔王ともなれば、どれ程俺の想像の上を行っているのか・・・。俺でさえ技能の力を借りているとはいえ、自宅の場所くらいは正確に把握出来ているんだけど。俺としては・・・トウオウの方が冗談を言っているんじゃないかと思う訳で。

「それもそうだな。よろしく頼む。」

 此処は特にその件に関して掘り下げることもなく素直にトウオウの提案に乗っかる事にする。別にトウオウが言いたくない事を聞き出す必要など全くないしな。はっきり言ってそんな事は俺達にとってはどうでも良い事だ。

「任されたよ。」

 トウオウは外套を翻し、向かうべき方へと身体を向けた。その背中からは迷いがない様な雰囲気を感じ取れた。ま、道案内はトウオウに任せて、俺は辺りの警戒に多くの意識を割くとしようかね。どうやら先程トウオウが説明してくれた魔界の魔力の影響で、若干魔物や魔界獣の気配を捉えるのが難しくなっているみたいだからな。薄暗い靄が掛かっているような感覚だ。

「何やら景色は見えているのに、視界が悪くなっているような感覚です・・・。」

 ヤクモが上手く解説してくれた。

「確かに君達はそう感じるかもしれないね。ボクは君達よりは慣れているから、あまりそうは感じないけど。それでもボクも久し振りの感じだから、多少不快ではあるけどね。」

「・・・すまないな、俺の我儘に付き合わせちまって。」

 そうだよなぁ・・・。トウオウにとってはあまり思い出したくない雰囲気だろうからな。申し訳ない事をしてしまったかな。

「おっと。ボクの方こそ申し訳ない。そんなつもりで言ったんじゃないよ。気にしないでくれよ。」

「いや、俺の方も今のはあまり良くなかったな。すまん。」

 きっとお互いに別に特に気にはしていないだろうが。

「それよりも、だ。イッスンの。何か近付いているみたいだよ。おそらく魔界獣ではないみたいだけど。」

 そう言われて集中する。この距離なら本来ならすぐ気が付くはずなんだが、やはり少し感覚が鈍っているようだな。同じ色の中に紛れているような感じだ。気になる程の差ではないが、それでも相手によってはかなり厄介な事になるかもしれない。更に気を引き締めないとな。

「主殿、どうされますか。」

 これは完全に見つかってはいるみたいだ。巻くために動き回れば別の個体に見つかる可能性も高くなるだろうな。

「あちらさんには申し訳ないが、迎え討つしかないかな。」

 俺達を見つけてしまった自分の運の無さを恨んでくれ。何処の誰だか知らないが。

「かしこまりました。それでは此処は、私にお任せ下さい。」

 相手は一体。気配から察するにそれ程強い個体ではなさそうだ。ヤクモで問題なく対処できそうだな。

「あぁ、任せる。」

 俺はそう言って跳び上がり、近くの木の枝に退避する。ヤクモの邪魔になるといけないからな。・・・ヤクモならそこまでしなくて良いとは思うが、相手の視界に俺が入ると不必要に俺が的になる事も多いからな。


 ヤクモの正面に現れたのは・・・巨大な鼠か。尻尾がかなり大きく縦縞が入っている。・・・大地栗鼠。あいつ栗鼠なんだ・・・。それにしてはでかいな。猪位の大きさだぞ。きっと名前の通り地上で暮らしているんだろうな。あの巨体では木の上に登るのは難しそうだし、逆に危険そうだしな。しかし変わった魔物もいたもんだ。・・・角のある兎の方が変わってるか。それも二足歩行だしな。そういえば此処はファンタジー、だったな。

「お。止まった。」

 あの栗鼠、思ったより賢いな。てっきり何も考えずに正面から突っ込むものかと思っていたが、予想が外れた。

「流石にこの辺りの魔物は東や南の森の魔物よりは少し強そうだね。」

 さも当然のように俺とほぼ同じ高さまで退避しているトウオウがそう言った。ちなみに俺達は極力気配を消している。

「みたいだな。」

 ある程度の距離を保って対峙したのは、立ち回りとしては間違いないだろう。だけどヤクモが相手となるとそれは些か失敗なのではなかろうか。そこはヤクモの間合いだぞ。

「この魔力に当てられて生活できている魔物だからねぇ。」

 なるほど、納得だ。故にそれなりに知能は高いと。だけどなぁ、それが徒となる事もあるんだよなぁ。な、ヤクモ。

 ヤクモの植物捕縛が大地栗鼠を捕らえる。

「これは決まったかな。・・・おや。」

「へぇ、やるじゃないか。植物捕縛が完璧には決まらなかったか。」

 既のところで反応して完全に捕縛されるのは逃れたか。それでも勝負はあったと見て良いだろう。

 ヤクモは少しも動揺する素振りも見せずに冷静に次の一撃を繰り出す。風の刃が大地栗鼠の身体を両断する。それを確認して枝から飛び降りる。

「ご苦労さん。」

「いえ。このあたりの魔物は思っていたより強そうですね。さほど気になる程ではありませんが・・・。」

 そりゃヤクモに対処できない程の相手はこの森にそう多くはなさそうだが。たとえ北の森の強者でも一対一なら殆ど問題なく戦えるんじゃないかと思う。・・・未だに出会った事のない魔物も存在するので、はっきりしたことは言えないが。

「ヤクモはな。皆となるとそうもいかないだろ。」

「確かにそうですね・・・。ミナやロックなら問題ない程度かと思います。」

 俺もそう思う。探索には全員で来るか、それとも面子を厳選するか。それを決定する為にも今回の斥候をしっかりしないとな。

「そうだな。・・・じゃ、こいつを回収させて貰って、行こうか。」

 ほぼ右と左に別れてしまった大地栗鼠に手を合わせ一礼する。ヤクモも俺に合わせて静かに目を瞑り小さく頭を下げる。トウオウも小さく持っている角灯を掲げ祈りを捧げているような仕草をする。ヤクモもトウオウも俺の作法に倣っているようだ。悪い事ではないが、ヤクモやトウオウがそこまでしなくても良いような気もするが。


 その後は他の魔物に遭遇することもなく進む。相変わらず魔界の魔力の湿気が纏わり付くような感覚には慣れないが。

「そろそろだね。」

 トウオウの声に警戒の為に周囲を見渡していた視線をトウオウの方へ向ける。確かに先程より些か不快な魔力の気配が濃くなった様に感じる。

「こっちだね。・・・あった。あれだよ。」

 そこにあったのは、以前聞いたトウオウの話の通りの光景だった。森の木々の間に穴が開いている。地上から俺二羽分位の高さに。空間が破れているような印象か。不思議な光景だな。距離を取りつつ周り込みながら観察する。角度を変えると穴は見えなくなった。どうやら厚みも無ければ、どの角度から見ても穴が開いている様に見えたりもしないらしい。何と言うか・・・空間の表面が破れているように見えるという表現が一番しっくりくる。

 遠巻きではあるが、穴の中を覗いて見てもその奥に魔界の景色は見えなかった。見えるのは紫というか紺というか黒というか・・・。それが魔界の魔力の影響なのかは分からないが。

「魔界の方から見ても此方の世界の景色は見えなかったよ。」

 トウオウは俺の考えている事を察してそう言った。

「それなのに良くこの中に飛び込んだな。」

 この先が安全である保証もないのに、無事に通過して他の世界に行ける保証もないのに。それを勇気と呼ぶのか、それとも無謀と言うのか。その答えはきっと結果だけが知っている。

「それ程強く憧れていたのさ。だからボクは迷わず飛び込めた。」

 己の命と引き換えにしても外の世界に行きたかったのか。いや、そうじゃないな。魔界から抜け出したかったんだよな、きっと。トウオウにとって魔界は息苦し世界だったんだろうなぁ・・・。地獄の様だった訳ではなさそうなのが救いではあるが。勿論トウオウの話を聞く限りではあるが。

「それ程の事だったのですね・・・。私には想像も及びません。」

「そうだねぇ・・・。」

 トウオウは親友のアッシュを心ならずも裏切ってしまう結果になってしまったとしても、か。その機会を逃したらもう二度と同じ機会が訪れないかもしれないとしたら・・・俺ならどちらを選ぶだろうか。実際になってみないと分からないかもな。・・・俺の場合は迷っているうちにその機会を逃してしまいそうだ。こんな風に長い時間残っていると知っていたのなら、後回しにしてしっかり準備をしてからになるかもな。強い思いがあったとはいえ、迷いなく飛び込むことができたトウオウは凄いな。

「飛び込んでみて、良かったか。」

 我ながらつまらない質問をしたものだ。それでも、どんなにその答えが分かりきったものだったとしても、トウオウ自身の口からそれを聞いてみたいと思った。

「勿論さ。・・・灰猫の・・・アッシュのには悪い事をしてしまったけれどね。」

「まぁ、それは良いんじゃないか。再会出来て、謝ることも出来たんだから。」

「そうだね。まさか此方の世界で再会出来るとは思ってもいなかったよ。」

「きっと友とはそういうものなのでしょうね・・・。」

「よしてくれよ、ヤクモの。」

 ヤクモとしては至って真面目に言ったつもりだろう。トウオウとしてもあらためてそう言われると照れくさいだろうよ。

「・・・良し。この場所は覚えた。取り敢えず此処には余程の事がない限り近付かないって事で良いかな。」

「そうですね。私もその方が良いと思います。いつ此処から魔界獣が飛び出してくるか分かりませんし。」

「ボクも賛成だ。特別な用がないなら近付かない方が賢明だと思うよ。」

 どうやらヤクモとトウオウとも意見は一致したらしい。

「じゃ、そういう事で。行こうか。もう少しこの辺りを探索してから、帰るとするか。」

 その言葉を合図にこの場所を後にした。


「・・・そういえばさ、あの穴から何か出てくる時って、何か兆候みたいなものはあるのかな。」

 ふと思い浮かんだ質問をそのまま口にした。

「さあ・・・。申し訳ないが、ちゃんと観察していたことがないから、分からないね。」

「そりゃ・・・そうか。ちょっと気になっただけだ。気にしないでくれ。」

 そりゃぁそうだよな。トウオウは魔界の事に興味はあまり湧かないよな。出来る事なら思い出したくもないだろうし、関わりたくもないかもしれないよな。

「なあに、問題ないよ。イッスンの。」

「主殿・・・あれは、あの穴は何者かの住処でしょうか。」

 ヤクモが何かを発見したらしく、俺とトウオウに声を掛けた。此処は森ではあるが、その全てが平坦な訳ではない。大小様々な起伏もある。北の森の先に見える山や山脈程のものはないが、丘のように盛り上がっている箇所や、それがいつの時代の出来事かは見当もつかないが断層が隆起し段差が出来ている箇所もある。

 そんな土壁に空いた穴をヤクモが発見した。警戒を強めその穴の中の気配を探る。その壁に空いた穴は、熊でも容易に通れそうな程の大きさだ。確かに魔物が済むには適していそうな場所ではある。

「・・・結構深いな。かなり置くまで続いてるぞ。」

 気配を探る技能の他にも、空間を把握する技能も所得いているので、そんな事も可能ではある。・・・それにしても本当に思っていたよりかなり深いな。そして少なくとも何者かの気配は今の所感じない。

「イッスンの。これは何者かによって意図的に掘られたもののようだね。」

 なんですと。それを一体何処で判断したんだ、トウオウは。

「何でそう思うんだ。」

「・・・なぜって、見てご覧よ。大分風化してしまってはいるけど、入り口付近に明らかに意図的に並べられた岩や石があるじゃないか。これはあまりに不自然に思えるのだが。」

 そう言われて、あらためて穴の外側を観察する。確かに左右に四個づつ程、大きさの違う石が等間隔に置かれている。

「・・・こんな事をするのは、「人」だな。」

 という事は、此処は人工的に掘られた洞穴か洞窟か。何の為に・・・。祭壇か、良からぬ儀式でもしたのか、隠れ家か、それともどうしてそんな必要があったのかは理解できないが、迷宮のようなものか。


 俺は吸い寄せられる様にその入口の前まで行き、立ち止まる。光も届かず、その先には暗闇だけが続いているその穴の中を見つめながら・・・。

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