87、子供達と遊ぶと、いつの間にか本気になっていたりする。
早速翌日からトウオウ先生の戦術教室が始まった。無論学校のように部屋がある訳ではない。庭で開かれる、実践形式を旨とした青空教室だ。・・・それは良いのだが、その所為で大変な事になっている。
ジュウザが普段通り後先を考えずに正面から突っ込んで来る。相手をする此方としては対応しやすくてありがたい限りだが、心配にもなる。・・・おっと。あまり油断しているとジュウザの巨体の突進を真正面から受ける事になる。まぁ、真正面から受けるんだけどな。
「なんでお前は何時も正面から突っ込んで来るんだよっ。」
御自慢の大きな角の先を俺に向けて直進して来るのを右に躱し、低く構えたジュウザの首元に滑り込む。
「あれっ・・・。」
俺に避けられた事に驚いたのではないだろう。おそらく俺が大きく跳び上がるか、横に飛び退くかと予想していたからだろう。俺が自分の横に位置取りをした事に驚いたのだろう。・・・たぶん。これがもし自分の攻撃が躱された事に驚いたのだとするなら、後で説教だな。ま、俺がしなくてもヤクモかスーアンに説教されるだろうな。ヤクモは現在帰省中で不在ですが。
「あれ、じゃない。ジュウザ、もう少し考えて攻撃しろ。」
ジュウザの耳元で簡単にお説教をしながらジュウザと同じ方を向いて首を担ぐように手を廻す。そしてそのままジュウザを大地から引っこ抜く様に投げ飛ばす。
「白兎流格闘術・一本背負い。」
一本背負いとは全く違うが、それは相手が眼鏡蛇である事を加味してお許し願いたい。それに付け加え、眼鏡蛇を投げ飛ばす様はまさしく一本背負いと表現しても差し支えないのではないかと思う。
「ぎゃっ・・・。」と声を上げて仰向けに一文字に地面に叩き付けられたジュウザは何処か楽しげでもある。そんばジュウザを投げ飛ばした俺の真上から何かが近づいて来るのを察し、少し後方へと飛び退く。その直後、俺の立っていた場所に槍の先が突き刺さる。
「ミナか。」
危ない。後少し遅れていたら俺の串刺しが出来上がっていたところだ。俺の眼の前に大地に突き立てられた槍を挟んで向こう側に美しい白い槍の様なミナが音も無く着地する。ミナは素早く槍を引き抜き、今度はその槍を体制を低くして水平に俺の方へと突き出す。
槍を半歩左に避け、右手で槍の刃のすぐ下を掴む。そのまま引き込みながら下へと力の向きを逸らす。身体の向きを反転させながら左足で槍の柄を押し出す様に蹴り飛ばす。
「よいしょぉ。」
・・・何時の頃からだろう。一つ一つの動作に掛け声を必要とするようになったのは。何かを持ち上げるにしても、立ち上がるにしても。「よいしょ。」とか「どっこいしょ。」とか。若い頃はこんな事はなかったんだけどな。言わないと力が出せない訳でもないはずなんだけど。勿論声を出した方が力が出し易いのも確かだけど、それでも何をするにも声を出すようになったのは、やはり歳の所為という事なのだろうか。そして何より、今の自分がその必要がなさそうな程若い存在であるのにも関わらず、そうなってしまう事に少し驚く。もはや歳は関係なくなってしまっているのだろう。前世からの癖だな、これは。
ミナは先程のジュウザとは逆の軌道を辿り半月型の弧を描く。但しジュウザとは違い大地に叩き付けられる事もなく、器用に中空で身体を捻り華麗に着地した。体操選手のようだな・・・。
「とっさに良く反応するねぇ・・・。」
この状況を高い位置から眺めているトウオウが呟く。くそう、この状況を作り出したくせに呑気なものだな。後で覚えとけよ。
「のわっ・・・。」
余計な事を考えた隙を突くように何かが右側から俺に向かって飛んで来る。反射的に身体を逸らし、それを避けた。・・・つもりだった。
「しまっ・・・。」
完全に避けたつもりだったのだが・・・。避けきれず俺に向かって飛んできた何かが鼻先を掠め、左手首に絡み付いた。鎖・・・。
「サイかぁぁぁ・・・。」
左の手首に巻き付いた鎖はそこで勢いを失わず、そのまま俺を庭の端の壁まで連れ去りその壁に貼り付けた。俺は今、左腕だけで壁に吊るされている状態だ。運ばれてる最中、「やったぁ。」というサイの声が遠ざかって行くのを聞いた。確かに俺に命中させる事が出来たのはお見事だが、少し甘いな。もう二本くらい同時に飛んで来ていたら完全に拘束出来たかもしれないのに。これはかなり危なかったけど。
壁にぶら下がった俺に向けてハクとフタバが複数の魔法の水の玉を発射する。今回、トウオウの提案で安全面を考慮し、攻撃魔法は全て威力が無い水の玉で行う事になっている。火や風、土や雷等の攻撃魔法は防御以外での使用を禁止している。俺に命中するだけなら俺が怪我をするだけで済む。だがそれを避けた先に誰かがいて、流れ弾が当たってしまったら大事だからという判断である。・・・俺は怪我をしても良いと言っているように聞こえるが。俺だって現在の皆の魔法をまともに喰らってしまったら洒落にならないんだけどな。まぁいいさ。赤い人も言っていた。「当たらなければ、どうということもない。」と・・・。くそう、簡単に言ってくれるぜ。実際にやってみると、とんでもなく難しいのですが、大佐。
おっと。馬鹿な事を考えてる場合じゃぁない。早く抜け出さないと。
「そして・・・この拘束自体も大分甘いね。」
相手が俺じゃなく野生の魔物だったら特に問題はないのかもしれないが、残念だったね。俺は今日まで幸か不幸か、様々な魔物の肉を、命を戴いて生きてきた。その中にはあるんだよなぁ、君達と同じ系統の魔物の肉が。そう・・・蛇の類の肉もね。って事は、あるだなぁ、こういう拘束を抜ける為の能力が。まさか使い道があるとは思っていかったけどね。
「技能・脱力、軟体。」
使い道があるとは思っていなかったというのは少し大袈裟だったかもしれない。前世の俺が歩んできた道の中にも同じ様な心得があった。脱力による拘束から離脱する術も存在する。ま、勿論それは近接格闘の中での事だが。それでもこの鎖から逃れるには充分な技術だ。それに技能なる少し都合の良すぎる能力のおかげで確実にこなせる。おかげさまで何の苦も無く俺は囚われた左手首を鎖から引き抜く事が出来た。そしてすぐさま垂直に跳び上がり、複数の水弾を回避する。
「あれぇ・・・。逃げられちゃった。」
下の方からサイの残念そうな声がする。その声の方へと視線を向けようとした瞬間、俺の眼の前に可愛らしい熊の顔が現れた。
「ロックっ・・・。」
俺が上へ回避する事を読んでいたのか。我が弟子ながら素晴らしい判断だよ。本当に可愛いやつ。だが、今から俺に繰り出そうとしている一撃は可愛くない。
ロック自身が俺を追撃する為に跳び上がった勢いを乗せての左手の突き上げ。おいおい、勘弁してくれよ。こんなのを貰っちまったら、切り傷や打撲では済まないのですが。最近気付いたのだがロックはどうやら、どちらかと言えば左利きらしい。右と左の使い方に特に大きな差も感じない。両利きと言っても概ね間違いではないと思う。だがとっさの反応をする時はどちらかと言えば左を使う事が多いように思えるといった感じだ。だからなんだという事もないのだが。
「そうはさせない。」
俺は右足でロックの左の二の腕を押さえる。勢いは多少削ぐことが出来たが、ロックは構わず強引に腕に力を込め続けている。
「やるな、ロック。」
「・・・うん。」
ロックの一撃を受けてやりたい気持ちも無いでもないが、そういういう訳にもいかない。ロックの首を太腿で挟み込む様にロックの両肩に足を掛ける。ロックと目が合う。
「ちょっと痛いと思うが、我慢しろよ。・・・よいしょぉ。」
そのまま俺は背中側に仰け反りながら一回転しながら、ロックを両足で掴んで地上へ投げ飛ばす。
《白兎流格闘術・フランケンシュタイナー》
「にゅわ・・・。」
聞いたことのない珍しい言葉を発し、ロックはもと来た道を真っ直ぐ地上へと背中から落ちていく。加減はしたが、全く痛くないという事はないだろう。
「・・・嘘だぁ。」
地面に激突したロックの身体が俺の予想以上に跳ね返った。二度程まるでぬいぐるみみたいに跳弾を繰り返し着地した。あいつ、ひょっとして本当にぬいぐるみなんじゃないか。・・・なんてな。たぶん何かしらの技能だろうな。こういう時の為に何かしらの技能で衝撃を緩和したのだろう。やるじゃないか。しかしなぜだか良く分からないがロックも投げ飛ばされたのにも関わらず、嬉しそうにしている。・・・ま、大事がなくてなによりだ。ロックはここで戦線離脱の判定を貰っていた。
急に俺に影が掛かる。何事かと首を上に向けると、俺に向かって降って来ているものがあるのを視認する。
「ミナ。」
ミナ再び。そりゃそうだ。ただちょっと遠くへ飛ばしただけだもんな。あれで戦線離脱って事はないよな。勿論ジュウザもな。戦線離脱の判定はトウオウがしている。・・・厳正であるかはかなり怪しいが、いわゆる審判役はトウオウである。俺は数発水の玉を戴いたら負け判定になりそうなんだけどな。それに魔法以外の攻撃はかなり危険なんですけど、その辺りは蔑ろになっている気がするんだけどなぁ。だけど審判に抗議をしたら退場させられるのは俺の方だろうな、きっと。
「白蛇流槍術・六蛇突。」
なんですと。此処へ来て新技とは聞いてない。高速の六連突きか。その技術の高さも驚くが、それよりもその技を真下に向かって華てる事に驚愕する。・・・などと感心している場合じゃない。
ここで空中を蹴飛ばして方向を変える事も可能ではあるが、野生の魔物でそこまでの事をするものはいないだろう。そんな魔物が絶対に存在しないとは言い切れないが、少なくとも今の所出会った事はない。ま、相手の武器を掴んで投げるなんて芸当をやってくる奴もいないだろうけど。・・・それを言うなら、魔物は道具や武器は使わない、か。が、それでも俺はつまらないこだわりを持ったまま戦ってみようか。
「技能・放水。」
右の掌をミナの方へ突き出し、その掌から水を出す。相手に傷を負わせることは出来ないが、ちょっとした牽制くらいは可能だ。しかし・・・この放水、魔法じゃなくて技能なんだよな。この辺が意外と曖昧というかいい加減というか。
俺の発射した水がミナの顔を襲う。ミナは「きゃぁ。」と声を上げる。どうやら上手く怯んでくれたらしい。しかしこの技能、己の真上に向かって使用するのはあまりよろしくないらしい事を今学んだ。
威力の弱まった槍を掴み、先程と同じ様に引き寄せる。だが今回はそのまま真下へ真っ直ぐミナごと投げる。
「くぅっ・・・。」
ミナは自分の想定以上の落下速度に歯を食いしばる。ミナはそのまま一本の棒の様になって地面に突き刺さる。実際に突き刺さったのは槍だが。なんとか着地したミナは地面に突き刺さった槍を引き抜こうとしている。・・・が、思いの外深く突き刺さってしまった様で手間取っている。ミナ・・・それはあまりよろしくないね。ミナの引き抜こうとしている槍の柄の上に着地する。
「そういう時は一旦槍を諦めるのも戦術の一つだな。」
と言いながらミナの頭を軽く叩く。
「はい。ミナの、ここで負けだね。」
トウオウの声にミナは、しまったという表情をしながら「はい。」と返事をした。ミナは若干槍に拘り過ぎのようにも感じる。お気に入りなのは理解できるが。少なくともこの庭での訓練の時くらいは一度手放して戦う判断をしても良さそうなものだが。俺達の中にミナのお気に入りの槍をどうこうしようなんて考えないと思うんだが。今度別の武器でも渡してみようかな。そうしたら少しは選択肢が増えるかもしれないしな。・・・実際に製作するのはロックとフタバになるとは思うが。
「さて・・・次は誰にしようかなぁ。」
そう言って残りの子供達を見渡すと、楽しそうに緊張した。狙いを定め、走り出した直後だった。俺のやや前方の地面から四本の鎖が生えてきた。
「ハクの連鎖捕縛か。」
にしても絶妙だね。俺が動き出す瞬間を狙いすましていたな。完全に勢いを削がれた。しかも俺の真下じゃなくて進行方向にっていうのがいやらしい。つまり、素晴らしいって事だ。咄嗟に大地を蹴り飛ばして右に跳ぶ。なんとか俺に向かって伸びる鎖を直前で躱せた。
「あっぶな。」
初手は飼わせたが、まだ終わった訳じゃない。鎖の追尾が振り切れた訳じゃない。止まってたら捕まる。そういえばこの捕縛系の魔法の追尾の範囲をちゃんと検証したことはなかったな。こりゃ思った以上に大変だ。
「じゃあ、ボクはこっち側。」
サイか。厄介な連携だな。サイは魔法ではなく、念動力による鎖での直接攻撃に近い。魔法の追尾よりも不規則で軌道が読み辛い。こんなの最早野生の魔物でも何でもな。・・・だが魔界獣だと、ここまで精密ではないにしろ、こんな事もある。まぁ実際はま怪獣が複数体いたとしても、こんなにちゃんとした連携はないと思うが。
必死に跳んだり屈んだりしながら四方八方から俺に目掛けて飛んで来る鎖を躱しながら、少しづつこの鎖の操者に接近していく。なるべく意図的に接近しているとは気が付かれないように。鎖の猛攻のおかげでフタバの魔法とジュウザの攻撃の機会がないのは助かる。それでもサイとハクは流石血を分けた兄弟だ。その連携も見事なものだ。何かしらの技能で意思疎通を図っているのかもしれないが、言葉も交わさず阿吽の呼吸で互いの隙を埋めている。・・・つまり、敵に回すと厄介な事この上ない。
もういっそ少し距離を取って戦況を見守っているジュウザでも先に何とかしようかと横目でそのジュウザを見る。その行為が些か失敗だった。その所為で死角になった方向からの鎖に反応が遅れた。なんとか躱すことが出来たが、大きく体勢を崩してしまった。
「しまっ・・・。」
この瞬間を狙っていたのか、俺の周囲の地面から五六本の蔓が飛び出し俺に向かって伸びてきた。
「フタバぁっ・・・。」
鶴に絡め取られながらフタバの方へ視線を向けると、フタバにしては珍しく不敵に笑っていた。まさかフタバの策だったのか。だから敢えて参戦せずにこの機会を虎視眈々と狙いっていたという事か。フタバは始めからちゃんと参戦していたのか。完全にやられた。
「やったぁ、捕まえた。」
ジュウザが声を上げる。喜んでいるようだが・・・残念。実は俺、忍者なんだ。忍者って火遁や水遁以外にも色々と術が使えたりするんだなぁ。これくらいの捕縛術なら身体能力を駆使すれば脱出することも不可能ではないが、今回はいわゆる忍術ってやつを試させて貰うことにする。こんなにちゃんとした作戦を駆使する魔物と相対する機会は殆ど無いからな。
「ふはははははっ。残念だったな。俺はここだぞ、小僧共。」
浮遊して審判をしているトウオウの右側に腕組みをしながら立ち、皆に声を掛ける。子供達は一瞬何が起きたのか理解できず、左右に素早く首を振った後驚きの表情で俺とトウオウの方を見上げた。
「いつの間にそこに来たんだい、というよりどうやってあれから逃れたんだい、イッスンの。」
流石のトウオウも少し驚いた様子で南瓜の中の目だけを俺の方へと動かした。ただ言葉の抑揚があまりないので、本当に驚いているのかは不明だが。
「ふふふ。これぞ、白兎流忍術・変り身の術だ。」
本当は技能・忍術の変り身の術なのだが、これくらいのお茶目は許して貰いたい。そして初めて使ってみたが、概ね想定通りの術で良かった。まぁ色々と制限があるようなので使い所は考えないといけないが。身代わりにしたのは、前もってアイテムボックスからこっそり庭に配置しておいた俺よりも少し大き目の丸太。・・・本当に良かった。まさしく備えあれば憂いなし、だ。
「主、凄ぇぇ。」
ジュウザだけでなく他の子供達も一斉に歓声をあげた。それにしてもジュウザよ、なんでお前がそんなに嬉しそうなんだ。フタバは理解が追いつかず、何度も瞬きをしながら首を傾げているのに。
「おい、イッスンの。そんな技を何度も使われたら、今の子供達ではどうすることも出来ないぞ。」
「そうだな、これが連続で何度も使用できる術ならな。」
身代わりになる対象が効果範囲に幾つも存在しているなら、それも可能なのだが。
「おや。そうなのかい。」
「まぁな。仕掛けは秘密だけどな。どんな魔法だって無限に使い続けるのは無理だろう。いつかは必ず力尽きるってもんだろ。」
極論だけどな。ただ戦術としては持久戦で相手の持久力を上回れば勝機もあるってもんだ。
「聞いたかい。これはイッスンのをやっつけるまたとない機会みたいだよ、皆の衆。」
その言葉を聞いて子供達の顔つきが変わる。今一度集中し直したようだ。
「あ、トウオウ、お前。余計なことを言いやがって。」
このまま有耶無耶にして終わらせようと思っていたのに。しかし子供達の真剣な表情を見ると、それを蔑ろにする訳にもいかないなと俺も気を引き締め直す。ゆっくりと庭に着地し構える。
「さぁ、仕切り直しだよ。皆、頑張って。」
ところで、何でこんな事になっているかと言うとだ。今朝の話である。子供達に戦術を教える為に教室を開くという話になった。だから手伝って欲しいと。そこまでは良かったんだが・・・。
「イッスンの。君は分身が出来るんだろう。だから沢山分身して皆の相手をして欲しいんだけど。」
「・・・無理だな。」
「なんでさ。」
「分身は最大で三体だ。俺にはそれが限界だ。」
本体である俺自身を含めると最大で四。
「そうなのかい・・・。これは誤算だった。」
トウオウをがっかりさせて申し訳ないが、どこぞの渦巻系の忍者みたいに百体単位の分身は不可能だ。
「それにちゃんと制御できるのは二体が限界だ。それもかなりしんどいんだ。長くは持たない。」
分身体それぞれに俺の意識を通わせる事が出来るのは良いのだが、これがかなりしんどい。身体というよりも、それを全て制御しようとすると脳に大きな負担が掛かるみたいだと言う事が分かった。今の所限界まで使用した事はないから正確には分からないが、短期間の使用でも頭の中が熱くなるような感覚に襲われる。分身が一体だけなら、少し大変だが特に難しくもない。全く同じ行動をするだけなら負担も殆ど感じない。普段より早く疲労する程度の感じだ。だがこれが、分身が二体になるだけでかなり制御が難しくなる。それこそ先程言った様に脳が熱くなる。それが分身三体にもなると激しい頭痛に襲われる。痛みのあまりまともに目を開けていられない程だった。
子供達は「分身」というのがどういうものなのか、良く分からないみたいな顔をして話をしている俺達を見ていた。
「そうかい・・・。じゃぁ、どうしようかなぁ。」
「期待に添えなくてすまんな。」
「いやいや。ボクがちゃんと理解出来ていなかっただけさ、イッスンの。」
まぁ俺もいざという時の為に、せめて二体の分身を制御出来る様になっておきたい。頑張ろう。
「あ、そうだ。イッスンの、君が皆の相手をしてくれないか。」
「いや、だから・・・分身は無理だって。」
「そうじゃないよ。イッスンのが子供達を皆一辺に相手にしておくれよ。」
「なんですと。」
「皆を一度に相手にして、多数を相手にする戦い方を見せてあげて欲しいのさ。」
なるほど、そうきたか。だけど俺もそんなに得意な方じゃないんだけどな・・・。あの骸骨みたいに馬鹿みたいに多ければ一度に蹴散らすのは簡単なんだけど。
「・・・しょうがないなぁ。上手く出来るかは分からんが、やってみるか。」
トウオウの思惑を不意にしてしまった事への申し訳無さもあった。・・・それにジュウザやロック達の期待に満ちた眼差しを向けられると、どうにも無下に出来なくてな。
・・・これが今回大変な事になっている原因である。
仕切り直したとはいえ、ロックとミナを欠いた状態の子供達。残るはジュウザ、サイ、ハク、フタバと・・・サツキ。あれ、サツキは一体何処に。今の今まで姿も形も一切目にしていないけど。これもフタバの策なのか、それともサツキ自身の判断か。どちらにしても俺の思考の外側に行っていた事に感心する。思わぬ才能を知ることが出来て嬉しくもある。
だがこのサツキの才能のせいでこの後更に大変な騒ぎになったのだが・・・それはもう酷く疲れたので機会があれば後日語る事にしよう。
結局勝敗は、そのサツキの大活躍により、最後にサツキの渾身の体当たりを真正面から綺麗に貰い俺の負けとなる。勿論サツキだけではなくジュウザとサイが自分を犠牲にしてサツキの道を開いた事も大きな要因でもある。そしてなによりその策を立案したフタバの采配も見事だったと言わざるを得ない。いつの間にそんなに成長していたのかと嬉しくなる。・・・俺の方はちゃんと成長できているのだろうかと不安にもなるが、その辺はあまり気にしないようにしよう。
稽古の後、トウオウが俺にだけ聞こえる声で「ありがとう、イッスンの。」と言ってくれたのが嬉しかった。「力を大分押えて相手をしてくれたみたいだけど。」とも言っていたが。
「そんな事はないさ。戦術は間違いなく俺の思考の上を行ってたさ。」




