85、実家に帰ると思い出す。
目線の先に生まれ育った森を見つけると、この世界では一月も留守にしていた訳でもないのに、なんだか久し振りに地元に帰って来たような懐かしさが込み上げてくる。共にこの帰路を駆け抜けてきた皆も小さく歓声をあげた。
森の入口まで辿り着き立ち止まる。森の木々の間を軽やかに吹き抜ける風が懐かしい香りを運びながら頬の髭を揺らす。一人暮らしを始めてから、初めて帰郷し地元の駅で電車を降りた時のような気分だ。些か大袈裟な気もするが、この世界での初めての遠出、旅だったのだから、そんな気分になっても仕方がないとも思う。
王都を出発してから、四日目の昼過ぎに到着した。流石に後の太閤殿下のように昼夜を問わずの強行軍ではなく、朝昼晩の三度の食事に夜は天幕を張りきちんと休息を取っての常識の範囲内での行軍ではあった。それでも俺の予想を遥かに上回る結果だった。これなら、それこそ昼夜を問わずの強行軍なら丸二日もあれば走破できるかもしれない。勿論、皆にかなりの無理を強いる事になってはしまうが。それも現段階では、という話だ。この先皆がもっと成長すれば・・・一日で辿り着く事も出来るかもしれない。ま、そんなのは超緊急事態でない限り実行しないが。そして子供達にはこの四日間・・・三日半はやはり結構きつかったようだ。子供達には無理をさせてしまったが、俺としてはこれから先の事を考えれば良い経験になったのではないかと思う。
「・・・さ、皆。まだ家に着いた訳じゃない。家に着くまで気を抜くなよ。ま、ここからはゆっくり歩いて行くけどな。」
そう声を掛けると、久々の地元に緊張しているのか、殆ど声も出さずに静かに頷いた。本音を言えば、今すぐにでも子供達に「良く頑張ったな。」と声を掛けてやりたいところだが、その気持ちを堪える。無事に家まで辿り着くまでが旅なのだと、俺達は幼き頃からそう教わって生きてきた。俺はとても大切な事だと思っている。だからこそ、自分にもそう言い聞かせる。
「・・・それにしても、不思議なものですね。この森に入ると、全てが分かる様な気がします。」
スーアンが自分の感覚を確かめるように静かに呟いた。
「そうだな。だからこそ気が緩み油断しがちだ。」
野生の魔物にとってそんな事はありえないかもしれないが・・・。それでも皆は既に野生を逸脱してしまっているからな。年には年を入れて、敢えて気を引き締めた。既に北側の強者の森以外なら脅威になる魔物はこの森には殆ど存在しなくなってはいたとしても。
「はい。」
スーアンはあらためて何かに気が付いた様に小さく目を開いてから、頭を下げた。
「ロック、サイ。サツキをちゃんと守ってやるんだぞ。」
サツキはノインの背中から降りて自分の足で森の地面を踏みしめている。
「うん。」「はい。」
一層気を引き締め直した返事をした。ちなみにフタバはミナの左肩に乗っている。
「ジュウザとハクは先頭を頼む。・・・焦らず、慎重にな。」
役目を与えられて緊張したのか、無言で力強く頷いて位置についた。
「・・・では、私は殿を。」
ヤクモはそう言って俺の了解を確認する前に列の最後尾へと滑る様に移動した。無論、俺がヤクモのその判断を否定する理由は何処にもないのだから問題はない。・・・それでも一応確認してくれた方が確実で、ありがたいのだが。ま、些細な事だ。特別な指示や頼み事がある時は、その都度伝えれば充分だ。それにしても優秀な臣だなとあらためて感心する。
「モモカは俺の左、スーアンは俺の右に。ミナは俺の前・・・いや、後ろに。」
初めての布陣での隊列だが、前からある構想の一つを試してみる。この森の中ではある程度余裕があるので試せる。油断している訳ではない。それでもここからは時間との勝負という面もあるので、試せる時に試しておきたいと思った結果、こういう隊列になった。
モモカ達も最後に今一度緊張をし直して、指示された位置へと素早く移動した。
「ボクはどうしたらいいかな、イッスンの。」
「私にも指示をしてくれたまえ、イッスンよ。」
思いもかけないトウオウとノインの言葉に驚く。彼等は基本的に、積極的に世界に関わる事を避けてきた。故にその提案には驚きが隠せなかった。
「ボクだって仲間・・・家族のつもりだ。ここからはボクもやるよ。勿論、必要な場合以外は手は出さないけど。」
「私もだ。私は主に結界や防壁になるが。それでも今までよりは迷いなく力を振るおうと考えている。」
その提案に胸が少し熱くなる。それと同時に、やはりそれ程の事態になっているのかと気が引き締まる。
「・・・分かった。トウオウは俺達と先頭の間に。ノインはヤクモと一緒に殿を。」
「了解したよ。」
「心得た。」
トウオウもノインも心做しか嬉しそうに与えられた位置に向かった。配置に付くノインを目で追うと、ヤクモが驚きと一緒にとても嬉しそうな笑顔でノインに頭を下げた。トウオウの方も若干ではあるが張り切っているように見える。後ろ姿なので定かではないが。トウオウの場合、正面から見てもはっきりと読み取るのは困難だが・・・。
ちなみに、サツキ達はミナ達とヤクモ達の間にいる。サツキにとっては初めての場所だ。不安と緊張で少し大変かなと思っていたのだが、ロックやサイが近くにいるおかげでそうでもなさそうだ。多少の緊張はしている様子だがそれよりも、初めて見るこの森の中を首を上下左右に振り、興味深そうに観察している。その分警戒が疎かになっているようにも感じるが、他の皆がいるので・・・それこそフタバやノインがいるので特に問題はないだろう。普段はちゃんと警戒するようにと注意喚起をするのは、家に帰ってからあらためてすれば良い。きっと俺がしなくても、ヤクモかスーアン辺りがしてくれるのではないかと思っている。
この森に外部から来た魔物にしてみれば、見分けのつかない景色が延々と続いている様に見えるだろう。すぐに自分の居場所を見失ってしまうだろう。だが俺達にしてみれば、生まれてから見続けてきた景色だ。それこそ皆で毎日のように走り回った場所だ。だからこそ、この景色に懐かしさと安心感を覚えるのだろう。全ての景色に見覚えがあるのだから。
「・・・全く、大袈裟だな。」
「どうかされましたか・・・。」
無意識に漏らしてしまった呟きにモモカが不思議そうに此方を覗き込んだ。
「いやぁ、なに。そんなに長い間離れていた訳でもないのに、なんだか凄く懐かしい気がしてな。」
腕を組み目線を上げ木々の葉を眺めながら、そう答えた。
「・・・分かるような気がします。私もなんだか久し振りに帰って来た様に感じます。」
モモカは優しく微笑み森の中を確かめる様に見渡しながら同意した。
「モモカもか。やっぱり俺は此処で生まれたんだなと思える場所だな・・・。」
この世界でもそんな場所がある事がなんだか嬉しく感じる。
「そうですね・・・。私も不思議と安心したような気持ちがあります。この森はそんなに危険の少ない場所でもないはずなんですが・・・。」
「故郷ってのは・・・自分が生まれ育った場所ってのはそういうもんさ、きっと。」
少し治安の悪い地元みたいだなと思ってみたりする。それでも嫌な思い出でもない限り、地元に帰って来ると少し安心したような気分になるものだ。
「はい。」
「・・・それこそ、ヤクモと住んでた住処に帰ったら、もっとそう感じるかもしれないな。」
「そうかもしれませんね。」
モモカはなんとなくそちらの方向へ視線を向けてた。・・・モモカにとっては家族と暮らした場所だ。良い思い出ばかりの場所でもないかもしれない。悪いことをしてしまったかもしれないな。
「・・・今度、兄上と一度行ってみようかと思います。」
どうやら俺の思い過ごしだったのかな。やはり、たとえどんな思い出があったとしても、モモカとヤクモにとっては家族と過ごした大切な場所なのだろう。モモカにとってそう思える場所で良かったと、心から思う。
「・・・それは、良いな。明日から五日間くらいはゆっくりしようと思ってるから、行ってくると良い。」
ここ数日の強行軍の疲れもある。この森での勘も取り戻す必要もある。そして何よりサツキにこの森をある程度知って貰わないといけないからな。これから強者の森を抜け、更にその先の竜の住む山に向かうのだから、準備はちゃんとしないとな。
「ありがとうございます。」
久し振りに兄妹水入らずで過ごすのも良いだろう。きっと貴重な時間になるだろうしな。
「スーアン達はどうする。親子だけで過ごせる機会はそう多くはないかもしれないぞ。」
「・・・そうですね。それも良いかもしれないですが、子供達は主様と一緒にいたがるのではないかと思います。」
・・・そう言われて嫌な気はしないが、せっかくの機会をそんな理由で不意にしなくてもと思わんでもないが。
「それに・・・私共の住処は、今の私共とっては狭すぎますね。」
おっと。それは盲点だったね。サイとハク以外はもはや同じ種の眼鏡蛇だったとは思えない程の多様な姿をしているからな。それこそ身体の大きさも含めて。
「そうかぁ・・・。そう言われれば、そうだな。皆俺より大きいもんな。それだと皆外で寝る事になっちゃうもんな。」
この大自然の中に暮らしていて、何処からが外という認識何だと思わんでもないが。ま、それも元人間の転生者である俺の感覚でしかないが。
「えぇ、そうですね。それに・・・子供達もサツキの面倒をちゃんと見なければという気持ちがあるようですし。私はそれで良いと思っております。」
確かにスーアンの言う通りだなと思う。新しい妹が出来たみたいな感じなんだろうな。それはロックもフタバも同じ様な感じだけどな。
「そうか、そうだな。俺もそう思うよ。」
「私共は、皆さんの事を家族と思っておりますので、問題ありません。」
そう言われて、鼻の奥がつんとする。歳の所為か涙脆くなっているみたいだ・・・。ちょっとした事で泣きそうになる事が増えた気がする。・・・おっと。俺はまだ一桁でした。
「そう言ってくれると、俺も嬉しいよ。」
極力平静を装ってそう答える。上手にいっていたかはかなり怪しいが。この世界に、俺にとっては血の繋がった家族は一切存在しない。そんな俺にも家族が出来たんだなと、大切なものが出来たのだと思うと、正直嬉しい。それも種族すら超越した家族が。
「これも、全て主様に出会えたおかげです。」
流石に「それは言い過ぎだ。」とも言えず、照れ隠しに鼻の頭を指で擦って微笑むだけだった。
久し振りの森の中は、出掛ける前と何も変わらず同じ姿をしている様に見えた。流石に草の一本、葉の一枚まで記憶している訳ではないので、些細な変化はあったとは思うが。この何時もと同じ景色を見ると、今この世界が置かれている状況が嘘のように思える。
先頭のジュウザ達を追いながら、歩き慣れた道を進む。遠くには俺達以外の魔物の気配も感じる。この感じも懐かしい。当り前だがその姿を視認する事は出来ない。つい先程までいた平原では、胡麻の粒みたいではあったが、気配を感じると同時にその姿を確認する事が出来た。俺達にしてみればそちらの方が違和感があった。姿はなるべく隠すもの、相手に見つからないように立ち回るものという習慣が身についているからな。
木々の間の獣道・・・魔物道を歩きながら見る景色で、我が家が近付いて来るのが分かる。一見変化の乏しい景色だが、この森出身の俺達にとっては、全て見覚えのある歩き慣れた道。正直、目を瞑ったままでも家まで辿り着ける自身がある。
「不思議なものだね、イッスンの。なんだかボクも懐かしく感じるよ。」
トウオウが身体ごと此方を向き、そう言った。そのまま器用に後ろ向きに飛び続けている。
「トウオウにしては珍しく、一所に留まって生活していたから、そう感じるのかもしれないな。・・・それにしても、トウオウがこの森を気に入ってくれてるみたいで、俺も嬉しいよ。」
トウオウの生きてきた時間の長さから見れば、俺達と出会ってから一緒に過ごした期間は本当に極僅かでしかないだろう。それにも関わらず、そう思ってくれるのは本当に嬉しく思う。但し、まるで俺達がこの森の主みたいな言いようはいかがなものかと反省する。
「当り前じゃないか。ボクにとっては初めての家族と出会えた場所だ。とても大切な場所だよ、この森は。」
後ろ向きのまま器用に上下動をして木々の枝を避けながら飛んでいる。後ろに目でも付いているのだろうか。・・・トウオウの場合、眼球が存在するのかさえ怪しいが。
「・・・そうか。なぁ、それなら魔界に帰ったら、もっと懐かしく感じたりするんじゃないか。」
「それはどうかなぁ・・・。魔界には良い思い出は殆どないからねぇ。懐かしさはあっても、今みたいに嬉しくはないと思うよ。」
別に他意はなかったが、無粋な事を聞いてしまったかな。思い出したく無い事を思い出させてしまったかもしれないな。
「いや・・・すまん。」
「気にしないでくれよ、イッスンの。悪い思い出だけでもないしね。」
「・・・アッシュと再会出来て良かったな。」
他に紡ぐ言葉が思い付かず、苦し紛れにそう言ってしまった。
「・・・そうだね。正直もう二度と会えないと思っていたから、素直に嬉しく思うよ。黙って此方の世界に来てしまった事に罪悪感があったんだ。それを直接謝罪出来ただけでも、ボクにとってはこの旅は良かったものだったと言えるよ。」
普段から早口な方ではないが、それにも増してゆっくりと、その出来事を細部まで思い出す様にそう言った。
「許して貰えたのか。」
実際に目の前で謝罪していたところを見てはいたが、その後も個別で別れて話をしていたからな。トウオウの事だからその際にも、俺達には聞かれたくない話もしただろうし、あらためて謝罪もしただろうしな。
「それはどうだろうねぇ。・・・ボクとしては、許して貰えなくても仕方がないと思っているからね。魔界での唯一の友を裏切ってしまったのだからね。」
俺が見た感じでは、空飛ぶ南瓜の魔王が無事だった事を確認して安心していたように感じたが。
「そうか・・・そうだな。俺も同じ状況なら、きっとトウオウと同じだな。」
「灰猫の・・・アッシュのを、貴様は謝り過ぎだと、更に怒らせてしまったみたいだったけど。」
「ははは。それは良かったじゃないか。」
あの孤高の灰猫の魔王殿は・・・いわゆるそういう系統というか、そういう属性をお持ちの方の御様子だったからな。
「何が良かったんだい、イッスンの。」
「ははは。それは、もう許しているって事さ。だから大丈夫だと、俺は思うぞ。」
トウオウには解り難い事かもしれないなぁ。そういう系統分けは知識として持ち合わせていないだろうからな。
「そうなのかい、イッスンの。良く分からないけど、イッスンのがそう言うんだから、きっとそうなんだろう。」
そう言って何かに満足したように笑いながら前を向いた。心做しか足取りが軽くなったように思える。・・・彼は常に浮遊しているが。そして足は初めから無いように思えるが。
「主、見えてきたよお。」
先頭のジュウザの元気な声がする。さて、彼は一体何を発見したのだろうか・・・なんてな。
ジュウザの声を聞き真っ直ぐと正面に視線を向ける。その先には・・・我等の御神木が見える。あの御尊顔を拝すると、帰って来たんだなと感じる。そんなつもりは毛頭なかったが、それでも二度と見る事が出来ないかもしれないと覚悟を決めて出掛けたのも確かだから、我が家の御神木を見る事が出来て安心感が身体を巡る。
子供達の足取りが少し早くなる。ミナだけは至って冷静な様子だが。フタバさえミナの肩から離れ、トウオウの隣まで前に出た。こんな感じだと、後でヤクモ殿のご指導がありそうだ。だが、子供達の気持ちは理解できる。それは大目に見てやってほしいと言っておこう。
我等が御神木を初めて見たサツキは、可愛らしい丸い目と口を大きく開けたまま歩いている。大きさに驚いているという訳でもないだろう。大きさだけで言うなら、この森の木々とそう変わりはしない。立っている場所とその姿が特殊なので美しく見えるくらいのものだ。ただ放つ神々しさを感じる事が出来ればこそ、サツキは呆気に取られているのだろう。
俺達が踏み固めて作り上げた道を辿り徐々に近付く。・・・そして遂に庭の入口の前まで辿り着く。子供達は一目散に家に飛び込むかと思ったが、そこは流石に待遠しそうにはしているものの、俺の到着を舞っている。ヤクモやスーアンの教えをちゃんと守っているって事だ。俺は別に気にはしていないのだが、そういう訳にもいかないのだろうな。ヤクモ達にしてみればけじめや礼儀は大切なのだという事は理解できる。それは俺も大切な事だと思う。故にやめてくれよとも言えない。
「皆、お疲れ様。・・・ほら、早くサツキに家の中を案内してやれ。」
歓喜の返事をして、サツキを促し庭の入口に飛び込む。口々に「ただいま。」と叫びながら。そんな彼等を目で追いながら、ゆっくりと庭の中へと入っていく。その後ろをヤクモ、スーアン、モモカ、ミナ、ノインと続く。トウオウは既に子供達と一緒に中へ飛び込んでいる。
「なんとかちゃんと到着したな。皆、大変だったろ。ご苦労さま。そして、ありがとうな。」
「勿体なお言葉です。」
と言いながらヤクモがそう言うと、それに合わせ皆も頭を下げた。その後に掛ける言葉が簡単に見つからないので、「あぁ。」とだけ返して庭の中央へ向かって歩き始める。するとその庭の中央辺りに子供達とトウオウが集まっている。何かあったのかと声を掛けようと思った時、サイが此方を振り返った。
「あるじぃ、ここになにかあるよぉ。」
「なんですと。」
悪い予感は全くしないものの、気にはなるので小走りにサイたちの方へと近付く。此処は仮にも簡易的とはいえ聖域だ。敵意や悪意のあるような魔物及びある程度の力を持たない、それこそこの付近に暮らしている魔物は侵入はおろか近付く事すらない。ならば俺達の留守中に何があったというのだろうか。
「・・・これは、銀胡桃だな。」
子供達が左右に別れ、その先に現れたものは・・・小さくはあるが山に形に積まれた銀胡桃だった。数にして二十数個。そしてその隣には、その銀胡桃の山よりほんの少し大き目の・・・金属の塊。
「主殿・・・これは一体・・・。」
明らかに誰かが意図的に此処に置いたのは間違いないだろう。そして、そんな事が可能なのは俺達以外に誰かいるとすれば、それは今回の旅で出会ったクロト達ぐらいだろう。
「きっと此処を使用した事に対する感謝の気持ちって事じゃないかな。」
そう・・・クロト達と出会う前に出会った者達。確かに良ければ使ってくれと言ったな。
「なるほど・・・。ブルートゥース殿達・・・ですね。」
「良かった。ちゃんと此処を発見できたんだな。役に立てたみたいで何よりだな。」
「えぇ、そうですね。しかし律儀な方ですね。」
「全くだな。」
「それはきっと食料などを進呈した事への礼も含まれているのではないかな、イッスンよ。」
「・・・あぁ、なるほどな。ま、せっかくの気持ちだ、ありがたく受け取っておこう。だいぶ先になっちゃうけど、次会った時に皆でお礼を言おうな。」
銀胡桃をこれだけ集めるのは俺達でも結構大変な作業だ。しかも見知らぬ森の中でとなると余計大変だっただろうに。もしかしたら何か銀胡桃を探し出すのに適した技能を取得している可能性もあるが。
「で、この金属の塊はなんだろうね。」
その青白く太陽光を反射する金属の塊を両手で抱え上げる。中身がぎっしり詰まっている事は分かるのに、見た目程重さを感じない不思議な感覚だった。勿論羽のように軽いなんてこともないが。
「魔導鉄鋼・・・だそうだ。」
鉱物鑑定で確認してみた結果である。図書館の図鑑に載っていた気がする。確か結構希少な鉱物と記載されていたような気がするけど・・・。鑑定の結果に表示されている内容にも同様の情報が記されている。しかし鉄鋼って既に・・・いや、この世界のものの名称に無粋な事を言うのはやめよう。全ての法則が前世の時と同じな訳ではないのだから。
「これが魔導鉄鋼・・・。図書館の図鑑で見ました。これが本物・・・。」
ハクは既に興味津々だ。
「じゃあこれはハクに預ける。ちゃんと調べて、それからロック達と何にするか考えよう。」
「はい、ありがとうございます。」
「但し、今日はサツキにこの家をちゃんと紹介する事。そしてちゃんと休む事。」
「はい。」
ハクは魔導鉄鋼を受け取ると大切そうにしまってから、既にサツキを連れて走り周っているジュウザ達に合流した。
「全く元気だねぇ、あいつ等は。」
思わず笑いながら、その姿を目で追う。
「今晩はぐっすり、ですね、きっと。」
スーアンも久し振りに心から安心した様な笑顔でそう言った。




