83、黒は東に、白は西に。
城の書庫と倉庫を調べ終えた俺達は、その後の三日間を各々自由に過ごした。広範囲の王都を色々と巡り、観光のような事をしたり、再び図書館へ行き読みきれなかった本に目を通したり。楽しかったのは間違いないが、充実していたかと言われると、良く分からない。そう感じるのは、おそらくこの世界に転生してから一日たりとも不充実だったと感じる日がないからだろう。そう考えると、何とも贅沢な日々を過ごせているのだなと思う。日々どうやって過ごすかというより、どう生きるかという事に重点を置いているからなのかもしれない。前世の生活に大きな不満を抱いていた記憶はないが、それでもどんな風に日々を過ごしていたのかなと思わずにはいられない。まぁ、つまり生きるのって実はこんなにも大変な事だったのだなと実感しているって事だ。
町の観光は、流石に隅々までという訳にもゆかず、主要な観光地だけを巡る団体の観光旅行のようだった。町の東にある円形の闘技場、その近くにある広場を囲むように立ち並ぶ商店街だったと思われる町並み、町の南東側には野外劇場だったと思われる建造物、図書館近くの教会と思われる背の高い建造物、兵舎及び訓練所と思われる場所・・・。どうやらこの町には屋内の歌劇場や道場の様なものや共同浴場等はないようだった。・・・それこそ全てを見て回れた訳ではないので断言は出来ないが。
闘技場では、その場所の持つ雰囲気の所為か戦士気質のギンカクやキンカクは何やら少し高揚していたような様子だった。俺とクロトも少なからず感じるものがあり、ロックやミナも交え軽く手合わせをした。・・・軽く、のつもりだった。この手合わせの後、モモカとアッシュにやり過ぎだと説教され、参加者全員で平伏して謝罪した。
しかし何歳になっても泥だらけになって遊ぶのは楽しい。この世界に来て、生き抜く為に泥だらけになることも多いが、それとはやはり意味が違う。汚れることを気にしないで思う存分動き回るのは気分が良い。特にクロトは実に満足そうに笑っていた。「こうやって遊んでみたかったんや。」と呟いて俺に向けた笑顔には、何の所為かは分からないが・・・何時もより煌めく瞳があった。俺はそれだけでモモカとアッシュには申し訳ないが、説教された甲斐があった。ちゃんと反省もしているので許して欲しいと思う。・・・また同じ様なことをしてしまう可能性は捨て切れないが。
野外劇場と思われる場所ではモモカの即興の単独公演が一晩開催された。モモカの歌声に俺達もクロト達も皆、酔いしれ、そして癒やされた。モモカの星空劇場は月と星の灯りが、純白の歌姫を神秘的に浮かび上がらせていた。美しい歌声とも相まって一夜の夢とはこういう事を表す言葉だったのではないかと感じてしまう程だった。聖獣の麒麟と青龍も夢見心地で聞き入ってしまったと最大級の賛辞を送っていた。それに付け加え珍しく、あのアッシュが「見事なものだな。」と褒めていた。
俺とクロトで歌ってくれと拝み倒した手前、俺達も二三曲づつ歌った。兎になる前には考えられないが、今は技能なる些か清く正しくない様な気のする能力のお陰で大恥をかかずに済んだ。流石劇場として建設されているだけあって、歌声がよく響き、歌っていて実に気持ちが良かった。これに加えて観客達の反応を直に浴びると、こんな俺がおこがましいが、歌手になりたいと思う気持ちが少し解った。俺達の他にもフタバとモモも歌を披露した。とても楽しそうに歌うその姿と歌声にモモカとは別の癒やしを貰った。
クロト達と話し合った結果、それぞれ自分達の住処に一度帰還し、そこを起点として俺は西方をクロトは東方を巡りながら己を鍛えようと決めた。地図を手に入れたのでそれを元に動くのであれば、多少なりとも土地勘がある方がお互いに良いだろうという事でまとまった。しかし手に入れた地図も実に限定的な範囲で世界の全てという訳でもないのだが。なぜなら大元の地図にも端っこが描かれていない。つまり海が描かれていなかった。故に此処がこの世界の唯一の大陸なのか、そうでないのかも知る事は出来なかった。その地図に記されていない世界に他の国が存在していたであろう記述は様々な資料にも多く見られた。つまり世界は地図だけが全てでない事だけは確かなようだ。だが世界の規模は全く分からないと言って差し支えないだろう。その先の世界は俺自身がこの目で見て、旅をして描けば良い・・・と格好良く言ってみた。今の所、測量等の地図製作に必要そうな技能は殆ど取得してはいませんが。
「いやぁ、この数日間、楽しかったわぁ・・・。」
天幕の前の広場に寝転がり夜空を見上げながらクロトがそう言った。
「俺もだ。今までで一番色んな事が一辺に起きたしな。」
クロトの隣に足を投げ出して座り、メントグローブの枝を咥えながら答える。
「せやねぇ・・・。流石のわいでも少し追いつかんぐらい、色んな事があったもんなぁ。」
同感だね。俺もここ数日で起きた事、知り得た情報を整理するには時間が必要だと思う。セッテさんの対応から、この世界に俺以外の転生者がいる事は予想できていたが、まさかその転生者と出会う事ができるとは思ってはいなかった。その相手がよもや俺と同じ兎になっているとは思ってもいなかった。きっと俺と違い、もっと強そうな獅子や虎の魔物なんじゃないかと思っていた。正直俺と同じ兎であった事は嬉しくも思うが、獅子や虎であってくれた方がこの先の事を考えると良かったかもしれないと思わなくもない。
「クロト、兎で良かったか・・・。」
「うぅん・・・どうやろね。もっと強そうな魔物の方が楽やったとは思うけど。・・・イッスンは不満なんか、兎。」
「今は兎で良かったと思うけど、最初はどうしたものかと思ったさ。」
今となってはの笑い話を煙と一緒に夜空へ吐き出す。
「そうやねぇ。大変やったね、お互いに。思い付く魔法も一っつも使えへんし。わいも寝床でのたうち回ったわ。」
「他の魔物は魔法使うし、やたらに襲われるし。」
最初の頃は本当に大変だった。良くもまぁ今まで生きて来られたものだ。それも遠い昔の様に感じる。
「せやね。・・・そんでも初めてLvが上がった時は驚いたわ。」
「俺もだ。最初に散々思い付く限りの事を試してみて、何も起きないと思ってたから、余計な。」
「わかるわぁ。そんな事があればええなと思っとったのに、実際に起きたらめっちゃ混乱したわ。」
「でも、そのお陰で今日まで生きて来られた。」
「そうやね・・・って、ちょいと端折り過ぎな気もするけど。」
確かにその通りだが、その話は既に夜通し語り合った。それで充分だし、それ以上の事もない。勿論語り切れていない部分や語り忘れている部分もあるとは幾らでもあるとは思うが。
「それはまた次の機会に、だな。」
「そうやね。その時には話したい事も沢山増えてるやろうしな。」
お互いに目も合わせず同じ星空を見つめながら納得する。
「・・・あ。そうだ。クロト、これ・・・。こんなものを見つけたんだけど、知ってたか。」
そういえば森の中で発見したもので、クロトに見せていないものがあった事を思い出した。本来なら特に興味がなければ敢えてお報せする程の事でもないのだが、相手がクロトならば話は別だ。それこそ特にクロトならば。
「これ、なんだか分かるか。」
アイテムボックスからそれを数本取り出しクロトへ手渡す。クロトは上半身を持ち上げそれを受け取り眺める。
「これは・・・唐辛子か、獅子唐か。」
どちらも唐辛子ではある。
「ほぼ正解。でもただの唐辛子じゃないんだな。ちゃんと調べてみろ。」
「何やねん、一体。まぁええわ。・・・って、おい。これは・・・。」
俺に促され行った鑑定の結果を見たクロトは俺を見た。
「なんでこんなものがこの世界にあるんや。」
「どうやら奇跡的に殆ど同じものに進化の過程で辿り着いたらしい。」
「あぁ、なるほどぉ・・・。でもなんで名前が万願寺唐辛子やねん。」
「俺達にとっては万願寺唐辛子だよって事らしい。たぶんちゃんとした名前を付けたやつがいないからじゃないかな。図書館で見た図鑑にも乗ってなかったし。」
「ははぁん、そういう事か。人種には発見されていなかったやつって事か。・・・興味がなかったんかな。」
「それはどうだろうな。俺が発見したのもうちの森の中だからな。魔物の森って言ってもおかしくない場所だからな。」
「隈なく調べるにはちょいと危険っちゅう事やね。」
「あぁ。人種の入った形跡は殆ど発見出来なかった。それに万願寺唐辛子として完成に近付いたのはつい最近かもしれない。」
それも百年単位での最近かもしれないが。
「そうかもしれんね。でもおもろいもんやね。」
「だろ。・・・それ、持ってけ。」
「ええんか。」
「勿論だ。上手くすれば増やせるかもしれないしな。俺は森でまた収穫すれば良い。群生地も発見したし。」
それにクロトにとっては俺よりも故郷に近いものの味だろうしな。
「ありがとうな。これは何よりの土産を貰ってしもうたな。」
とても穏やかな顔で手元の万願寺を眺めながら微笑んだ。
「・・・せっかくだ。手持ちの六割くらいやるよ。箱の口をあけろよ。」
「それは・・・嬉しいけど、悪いわ。」
「気にすんな。俺はまた収穫出来る。でも栽培出来るかは分からないだろ。それに俺よりは故郷の味だろ、万願寺。」
「わかったわ。ほんなら遠慮なく貰っておくわ。この礼は必ずする。」
そう言ってクロトはアイテムボックスの口を開いた。
「楽しみにしておくよ。でも本当に気にしなくて良いからな。」
その開いた箱の入口に無数の万願寺を放り込みながらそう答えた。
「二年後、楽しみにしとってくれ。」
二年後。話し合って決めた期日。明日から丁度二年間・・・何をすべきかは半分程定まってはいないが、それぞれに活動し再びここに集い再会する約束をした。
二年。この世界では一年が六百四十八日。二年で千二百九十六日。南の結界で聞いた謎の声の言葉を信じるのならば、世界の期限はおよそ千五百日。二百日程余裕があるが・・・あくまで「およそ」だ。その「およそ」の誤差が百日前後あるとも限らない。それを考慮して二年という期限を決めた。
明日から丁度二年後、世界の何処にいたとしてもこの場所に向かう。たとえこの世界の裏側にいたとしても移動に百日は掛からないと踏んでいるのだが。というより、その辺りを計算して行動するので大丈夫・・・だと思う。仮にも世界の命運が掛かっているのだから行動範囲の調整は慎重にするし、せざるを得ない。調整を間違い間に合いませんでしたなどというお粗末な結果では洒落にもならないし、悔やんでも悔やみきれない。経過日数に関しては、多少不本意ではあるが能力値の画面で確認できる。この際俺が不本意であるかどうかなどどうでも良い話だ。更に、セッテさんにその日になったらお報せして欲しいという事をお願いし、了承を得た。確認を怠るつもりはないが念には念を入れて。身勝手な願いで申し訳無いですが、よろしくお願いします。『こちらこそ。』何時も苦労を掛けます。『これが私の役目です。問題ありません。』それでもさ。ありがとう。『恐れ入ります。』
最後の夜に話も尽きそうもなかったが、明日から始まる世界の命運を背負う旅の為に万全を期そうと、切り上げお互いの天幕へと入った。定位置に納まった皆を見ながら既に寝息を立てている子達を起さぬように自分の寝床へ向かう。ゆっくりと腰を下ろし一息つき寝転がろうとした。
「もうよろしいのですか。」
技能でもないにも関わらず俺以外には聞こえないのではないかと思われる声でヤクモが話しかけてきた。実際他の皆には聞こうとしなければ聞き取ることは難しいだろう。
「あぁ。」
「今夜は語り明かすものと思っていました。」
これがただの出会いで、またいつかどこかで会おうと約束し別れるだけなら、そのいつかが本当にいつになるか分からないから、この別れを惜しんでそうしただろう。
「明日からは、けっこう大変な日々になるだろうからな。」
「そうですね。・・・それでも今日くらいはよろしかったのでは。」
ヤクモの心遣いは嬉しいが、明日から始まる日々にいい加減な覚悟で望んでは意味が無い。
「昨日までに充分に語り合ったさ。」
「そうですか。余計な事を言いました。」
暗闇の中でも礼儀正しく頭を下げる姿が見えるようだ。
「そんな事はないさ。ありがとうな、ヤクモ。」
「いえ・・・。主殿はご自分に厳しですね。」
ヤクモからだとそう見えるのかもしれないな。俺としてはそんなつもりもないんだが。
「なに、出だしぐらいはきちんとしようと思っただけさ。」
「・・・そういう事にしておきます。」
自分自身を厳しく律しているつもりはないが、子供達の悪い見本にならぬよう気を付けているつもりではある。できているかは甚だ疑問ではあるが。
「楽しみは二年後に・・・全部が終わった後に取っておくよ。」
「それは、良いですね。」
「ヤクモも、ギンカク達に沢山土産話を用意しておかないとな。」
「そうですね、そうしましょう。」
おそらくは此方から探さなくても面白い話が山程仕入れられるだろう。その話をずらりと店に並べて披露すれば良いだけだ。
「さ、明日からは忙しくなる。今日はもう寝よう。」
焦るつもりはないが、約千三百日あるとはいえあまり無駄には過ごせない。前世でいえば三年強、学生時代とそう変わらない。過ごしてみればあっという間だろう。
「はい。おやすみなさいませ。」
「おやすみ、ヤクモ。」
明日からの事を思えば緊張の一つもして眠るまでに少し時間が必要かなと思ったが、思っていたよりも素直に眠りに就く事が出来た。
天幕を片付け、皆で朝食を食べた。それぞれに別れを惜しみ、また会おうと声を掛け合っていた。泣き出しそうなモモを無言で頭を撫でてロックが慰めていた姿が印象的だった。
その後この町の入口へ向かった。入ってきた門を潜り外へ出る。そのまま真っ直ぐに道なりに南へと歩く。そして道が東西へと交差する所で立ち止まる。
「ほんなら、二年後にまた会おうっちゅう事やね。」
「そうだな。・・・合流場所は、ここにするか。それとも町にするか。」
俺としてはどちらでも構わないと思っている。どちらで合流したとしても体勢を万全に整えてからと考えれば、一度町に拠点を置く事になるだろうと思っているからだ。
「そうやねぇ・・・。せっかくやから、初めて会うたこの辺りがええんちゃうか。」
「・・・それもいいな。そうするか。」
皆にもそれで構わないかと振り返り確認すると、微笑みながら頷いていた。
「満場一致って事で良さそうだ。」
「よっしゃ。それじゃ・・・二年後、この場所で。」
「おう。どちらが先に到着しても、合流するまでこの場で待つ。」
「そいで、十日待っても合流出来ない場合は、各自で判断する・・・でええんよな。」
「それで良い。」
おそらく接近すればお互いに気配の様なものを感じ取る事が出来るだろうから、二三日余計に待つくらいのことはあるかもしれなが。それこそクロト達と出会う前にノインとコバはお互いに気配を察していた様子だったので、概ね問題はないと思っている。
「・・・なぁ、イッスン。今更やけど、あらためてわいと友達になってくれへんか。」
「・・・は。」
「いや、だからぁ・・・。」
「俺はもう友達だと思ってるけど。・・・まぁ、どちらかって言えば弟みたいな感じだけど。」
「・・・そうか。そうやったかぁ。・・・ありがとうな。」
あらためて言葉にされると若干の気恥ずかしさはある。ただし嘘を言っているつもりは一切ないが。
「だからと言って、義兄弟ってのも違う気がするよな。」
「なんでや。ええやんか。」
「兄の様に思ってくれるのは嬉しいけど、俺としてはクロトとは友でありたい。」
正直な気持ちを口にした。
「それなら、わいもそれでええ。いや、それがええ。」
「んん・・・じゃあせっかくだから、何か盟約みたいな事をしておくか。友であるって事以外に、同じ目的の為にみたいな。」
友とは契約でも盟約でもない。それでもなにか確かな絆の様な、この先頑張る為の目標みたいなものが欲しいんじゃないかと感じたので提案してみた。意外とこういう事が最後の一踏ん張りをする為の支えになったりするものだ。
「それ、ええな。そんならわいは、同盟がええな。」
なんでだよと言い掛けて気が付いた。
「そういえば、そうだったな。お前の好きな同盟も世界の秩序を守る為の同盟だったな。」
クロトは笑顔で大きく頷いた。
「じゃぁ・・・同盟にするか。」
名目など大きな問題じゃない。気持ちの問題だ。これでクロトの気持ちが少しでも明るいものに、楽なものになるならそれが一番良い。
「ほんなら、名前はどないしようか・・・。」
クロトはそう言って腕を組み楽しそうに悩み始めた。
「いや・・・俺はシャッフ・・・。」
「それはあかん。」
同盟だけに同名でも良いんじゃないかと思ったんだが、高速で却下された。
「だめかぁ。」
「すまんな。それはわいにとっては特別なんや。だから同じ名前は・・・。我儘言うてすまんな。」
「いや俺の方こそ安易に提案して申し訳ない。・・・じゃぁどうしようかな。」
兎同盟や白黒同盟も悪くはないと思うが、これだと俺とクロトだけの同盟に感じてしまう。ヤクモやギンカク達は特に気にしたりしないのだろうが、俺は気になる。クロトはどうなのだろうか。・・・おそらく俺と同じ様な名前はすぐにでも浮かぶだろう。そのうえで悩んでいるところをみると似たような感覚で悩んでいるのだろうと思われる。
「せやねぇ・・・。せっかくやから、皆も一緒みたいなやつがええと思うんやけど・・・。」
どうやら考えている事は同じで間違いなさそうだ。
「・・・魔物同盟じゃ、ノインやコバは含まれても魔族のトウオウとアッシュがなぁ・・・。」
「良いんじゃないかな、イッスンの。」
唐突に頭の上から声がした。
「どうしてだ。」
まさか、ボク達は傍観者だから含まなくて良いなんて言うつもりじゃないだろうな。そんな理由なら即座に却下だ。
「魔物の魔も魔族の魔も同じ意味なのだろう。おそらく魔法の魔とも同じ意味なのだろう。更につい最近だがボク達は法術と魔法が統一されて全て魔法になった。と、すればボク達は皆魔法を使うものという事になるんじゃないか。だからボクは魔物同盟が適当だと思うな。」
この場合の適当は適して当たるの意だろう。にしても漢字という文字を知らないであろうのにこの理解力の高さ。何時もながら驚かされる。
「・・・仰るとおりだな。」
「全く貴様は・・・。そこまで頭が回るくせに、やる事が馬鹿っぽい。気に入らん。」
アッシュはトウオウを褒めているのか貶しているのか・・・。ちゃんと認めていることは確かだ。
「どうかな、クロト。」
「・・・わいもええと思う。」
一度大きく息を吸い込んでから、頷きながら笑顔でそう答えた。
「なら・・・決まりだな。」
俺は右手を差し出す。
「おうよ。」
俺の差し出した右手をクロトは右手で握る。
「これで今日から俺達は、世界を救う、魔物同盟だ。」
俺がそう言葉を発した瞬間、握手をした俺達を中心に光が溢れる。
・・・そうきたか。
『盟が結ばれました。特殊技能・魔物同盟を取得しました。』
・・・ですか。効果等は後程確認させて頂きます。『是、肯定します。』
「完全に盲点やったわぁ・・・。」
光が収束し握手を交わしたままお互いの姿を確認する。クロトの言う通り、この可能性を完全に失念していた。
「俺もだ。まさかクロトと俺でこうなるとは思っていなかったよ。」
「そうやね。合併でもすればあるとは思っとったけど。」
「・・・でもこれで、少し希望というか、やるべき事が見えた気がするな。」
「・・・せやね。」
これで世界を巡る理由と目的がある程度明確になった。
「俺は・・・取り敢えず、竜に会いに行ってみるとするかな。」
「わいは、東にいるらしいでかい魔物を探してみるわ。」
仲間になって貰うのではなく、同盟を結ぶ。たった今出来たばかりの、魔物同盟の盟友になって貰う。勿論、願わくばだが。少なくとも今回手に入れた情報では竜種とは交渉・・・会話ぐらいは出来そうだ。やってみる価値はありそうだ。命懸けの賭けになるかもしれないが・・・。それでもどの道世界の命運を背負っているんだ、初めから命懸けだ。
俺達は今一度右手に力を込めてから、その手を解いた。
「じゃぁ・・・今度こそ、二年後に、やね。」
「あぁ。二年後にまたここで会おう。元気でな。」
「おっさんもな。」
そう言って同時に踵を返す。そのままゆっくり東西へと別れてゆく。振り返ることもなく皆の元へ向かう。振り返る必要など全く無い。何の保証もないのに、二年後に必ず再開できると確信できるから。
皆が待つ中央を通り今から向かう西側を見つめながら先頭に進み出て立ち止まる。目を閉じ、儀式のように深呼吸を一つする。そしてゆっくりと目を開く。
「さあ、世界を救う為の二年間を、ここから始めようか。」




