82、遅めの昼食
縮尺を縮めて紙に書き写しながら、クロトと情報交換をする。それと並行しハクに地図の読み方を説明する。そのうえで今後の自分達の旅の計画を薄っすらと思い描く。
地図の模写を終え、元の状態に戻す。上へと戻す際にはトウオウとフタバに協力して貰いながら俺が作業した。なるべく部屋に入って来た時の状態に戻すべく丁寧に。
その後、まだ手を付けていなかった本に目を通した。・・・が、特に目を引くものはなかった。クロトが担当した右側の棚にも目ぼしいものはなかった様子だった。他の皆は思い思いに本を読んでいたので、正面の本棚にはまだ手を付けていない箇所も多かったので、俺とクロとで引き続き左右に別れそれぞれの端から目を通してゆく。
「・・・へぇ。」
俺が開いたその本に書かれていたものは思いもかけなない内容だった。そしてそれは俺にとっても、俺達にとっても興味深い内容のものだった。
そこにはこの国が出来た頃の事が記されていた。この国の始祖、つまり初代の王が交わした盟約の話。その内容から察するに、俺の住んでいた森の北側に住んでいると思われる竜との盟約の話。
「ヤクモの言ってた事は、どうやら本当だったみたいだな。」
北側にある強者の森を抜けた更に北側にある山には竜が住んでいるらしいと聞いてはいた。実際にこの目で確かめた訳じゃないが、自分が成長するにつれて、感じ取れるものや範囲が大きく広くなるに従って、何か強い力を持つなにかが存在している事はなんとなく気が付いてはいた。それが竜である確証は何一つ無かったが・・・。
その竜との盟約の内容は・・・人の王と竜との同盟と言うよりは、どちらかと言えば不可侵条約のようだった。
「なるほどなぁ・・・。」
この事実が俺達にもたらしたものは、人と竜が盟約を結んでいたという事ではない。勿論、その事実は興味深くはあるが、重要なのはそこではない。ここで重要なのは、竜と人が交渉をしたという事実だ。つまり竜は話に応じる可能性があるという事だ。話の通じる相手であるという事だ。・・・ま、それが魔物相手でもそうであるのかは、実際に相対してみなければわからないが。それでも全く聞く耳を持たないという事もないのではないかと思う。この事実は今回のこの調査で得たものとしては、地図の次に重要なものではないかと思う。
「どないしてん。なんかええのがあったんか。」
俺が小さいなりにも良さげな反応をしたのを察して近付いて来る。
「ん。これは面白い事が書いてある。・・・どれくらい参考になるのかは未知数だが。」
一通り目を通したので、場所をクロトに譲る。
「そっちは何か合ったか。」
「あかん。・・・あかんっちゅう程でもないねんけど、役に立ちそうなもんは見当たらんかったわ。」
クロトは俺の譲った本に視線を落としながら首を振った。
「そうか・・・。」
ま、そう簡単に欲しい情報が手に入るなんていう都合の良い話はそうはない。俺は次の本へと手を伸ばす。
「確かにおもろいけど・・・これ、役にたつんか。」
クロトは読み終えたらしく、その本を元の位置に戻しながらそう言った。
「クロトの住んでた場所の近くには、そういうのは居なかったのか。」
「そうやなぁ・・・。東の方に強そうな気配は感じはするけど、どんなんがおるか行って確かめた事はないなぁ。」
そりゃぁそうだな。そこに強そうな存在が居ると知っていて近付く危険を敢えて犯す必要はないよな。
「確かに。俺もそれが正解だと思う。」
「やろ。で、なんでイッスンはこれがおもろいと思ったんや。」
「そこに出てきた竜が住んでる山って、俺達が住んでた森の北にあるんだよ。」
先程書き写した地図を出して、その場所を指し示しながら話す。
「おぉ。そら確かにおもろい話やけど。そらイッスンの方の話やないか。」
「書いてあるのはな。だけど重要なのはそこじゃない。」
「どういう事や。」
「重要なのは、魔物と交渉したっていう事実だ。」
そう言うとクロトは俺が言わんとした事を大凡理解したらしく、細い目を少し開いて此方を見た。
「竜だって魔物に分類されるはずだ。って事はだ・・・。」
「強そうな魔物は交渉が出来る。」
「そういう事になるな。あくまで可能性の話だけどな。」
「少なくとも「竜」は話が出来るっちゅう事やね。」
「な。面白いだろ。」
「せやね。これはやってみる価値はあるね。」
これでこれから先どうするべきかと思っていた俺達に、多少不確定要素ではあるが、やるべき事を、目的を一つ得る事ができた。
「そろそろ一通り見たかな。」
「せやね。・・・でも一応全部軽くでええから目を通しておきたいなぁ。」
慎重な考え方だが、俺も賛成だ。見逃したものの中に重要なものが記されたものがあっては意味が無い。無かったという事を証明すれば良いだけの事だ。それを証明する為に必要な量もそれ程残ってはいないのだから。
結果としては禁書庫と言うより、機密文書庫といった感じだった。まぁ此方が勝手に禁書庫と称していただけなのだが。
全ての本に目を通し終え原状復帰し、そろそろ部屋を出る旨をヤクモに伝える。一応忘れ物が無いかを確認し、部屋の外に出る。そして鍵を掛ける。
「・・・あ。」
「どないしてん。忘れもんか。」
鍵を掛けた所で思い出した。
「いや、そうじゃなくて・・・。封印どうしようかと思って。」
封印を解いたは良いが、再び封印を施す事までは考えていなかった。解く事に夢中になってしまっていて、そこが完全に抜け落ちていた。
「そうやった・・・。このままっちゅう訳にはいかんよなぁ。」
クロトも額に手を当てて上を向く。どうしようかね。少なくとも俺はその系統の技能は持ち合わせてはいない。
「主たま。さっきの、封印と、同じやつなら、あたち、できる。」
なんですと。魔法に関してはこの中ならフタバが一番得意そうではあるが。盲点だったよ。シロマルの能力は未知数だが。
「そうなのか。それなら頼めるか、フタバ。」
「あい。・・・もっと、凄いやつも、できる。」
それに関してはそんなに驚きではない。きっとそうだろうなと思うからだ。
「それはいかんぞ、フタバ。さっき見た封印と同じものにするんじゃ。」
シロマルがフタバを諭す。
「なんで。」
不満ではなく、純粋な疑問からの質問だ。不思議そうに首を傾けながらシロマルの方を見ている。
「元に戻すとは、そういう事じゃ。そういう練習だと思って、やってみるのじゃ。」
「あい。分かった、やってみる。」
素晴らしいな。シロマル老の御指導は実にありがたい。大切な事を優しく、そしてしっかりと教えてくれる。感謝を小さな会釈で伝える。シロマル老は長い眉毛と髭を微かに揺らしながら笑った。皺くちゃの顔は、どこが目でどこが鼻でどこが口なのか良く判らなくなっていた。眉毛と髭の形で笑っているのだろうと汲み取っている。
フタバが封印魔法を完了した頃、ヤクモがミナとモモを連れて現れた。フタバの封印魔法は、シロマル曰く、全く同じというわけでもなく、むしろ先程掛けられていたものの綻びを修正したものだとのことだった。その辺は間違ったものを習得するよりも正しいものを身に着けた方が良いとシロマルは言っていた。そういう教えも実にありがたい。感謝と尊敬の念に絶えない。シロマルは若者達の良き師になってくれるだろうな。彼自身がそれを望んでいるのかは分からないが。俺が親なら子供をこういう師の元で学んで欲しいと思うだろうな。
「お待たせしました。」
いつも通りのそよ風一つ起さない様な声と所作だ。先頭のモモが嬉しそうにクロトに駆け寄っていく。そのモモをクロトは抱き上げた。モモが満足そうでなによりである。
「いや、俺達の方こそ待たせた。」
「成果はありましたか。」
「ああ。それは後で、だな。」
「はい。・・・それでは、どうしますか。」
「取り敢えず・・・アッシュが見つけてくれた、地下に行ってみよう。」
良かった。ちゃんと覚えていた。・・・一度捉えた気配はそう簡単には逃さないだけだ。一度気になった違和感はずっと気になる様なものだ。
「せやね。たいしたものはないかもしれんけど、一応覗いてみたいな。せっかくやし。」
「だよな。」
感じ取れる気配だけで言うなら、クロトの言う通り特別なお宝が残されているとは考え難い。それでもやっぱり俺だって男の子だ。何歳になっても宝探しは心が踊るってもんだ。
「かしこまりました。」
ヤクモはそう言うと俺達の為に道を空けた。別に先導してくれても構わないのにな。律儀なやつだ。
「他に誰か合流するのか。」
もしそうなら、この通路の先まで行った所で少し待っていようかと思っている。
「いえ。此処を出る際に声を掛けて欲しいとの事でした。」
「了解だ。じゃ行こうか。」
取り敢えず本日の目的を達成し気が楽だ。この後は殆どただの探検に近い。余計に楽しくなってきた。おっと。期待し過ぎは禁物だ。
「・・・しかし、こんな微かな気配を察知するなんて凄いな、アッシュは。」
「せやろ。アッシュは凄いんや。」
「・・・ふん。なぜ貴様が自慢しているんだ。それにこれくらい慣れれば貴様等でも出来るようになるだろう。」
やはりアッシュは褒められ慣れていないのだろう。腕組みをしながらそっぽを向いてそう言った。その様子を見て、クロトとトウオウが肩を揺らしている。・・・トウオウの肩。正確には外套を、かな。
「何なら、フタバのならやろうと思えば出来るだろう。」
照れ隠しなのだろう、口調を少し強めてそう付け加えた。アッシュの言う通りだろうな。フタバは基本的に普段は魔物の気配察知に力を割いているからな。その能力を探索に振り分ければ簡単に出来るだろうな。
「主たま。やってみた方が、良いかな。」
何時もの直感なのだろうが、今回はモモの頭の上にいるフタバが首を俺の方へ向けた。
「それはフタバの判断に任せる。実際、フタバの警戒に助けられているのは確かだからな。」
そう返すと、可愛い眉間に小さい皺が酔った。・・・その顔も可愛いね。困らせてしまって些か心苦しいが、自分で判断できるようになって欲しいので、今回は悩んで貰おう。俺の頭の少し上でシロマルが「ふふ。」と微笑みながら俺を覗いていた。
「そう難しく考える必要はないぞ、フタバ。こういう時に試してみるのも良いのではないかと、私は思うぞ。」
モモの頭の上で首を左右に傾けているフタバにヤクモが優しくそう声を掛けた。なんだかよく分かっていいないのか、モモは楽しそうに笑っている。フタバの仕草が面白いのかもしれないな。・・・正解。そして可愛い。だからといって俺としてはその為にフタバを困らせたい訳ではない。
「・・・あい。ためしに、やってみる。」
おぉ。挑戦する方を選んだ。後でゆっくりやってみるという判断でも間違いではなかっただろう。それでも今試してみたいという好奇心が勝ったか。フタバが多少の助言はあったものの自分で考えて答えを出した事は素晴らしい。
「うむ。ならばそうしてみると良い。」
フタバはヤクモの言葉を聞いてから、小さく頷き挑戦を始めた。
「ヤクモ坊は良き先導であるな。良きかな。」
「これは・・・。恐れ入ります。」
シロマルの言葉にヤクモは頭を下げる。ヤクモを褒められると俺も誇らしい。
「できた。あたちにも、できた。」
どうやら無事成功したらしい。嬉しそうにしている。なによりである。ヤクモも「良かったな。」と声を掛けている。
「若き者が成長する姿を見るのは良いものだな。」
全く同感だ。生まれてから未だ片手で足りる程しか生きていない俺が言うのもどうかと思うが。まあ、シロマルにしてみれば、魔王や聖獣を除けば皆若き者だろうが。
「せやね。・・・ってわいが言うても説得力はないか。」
「そんな事はないさ。それを見て、俺達も成長すれば良いのさ。」
これは師範の教えでもあるが、自分と関わる全ての者が師なのだと。俺はそう教わって生きてきた。俺はそれを心掛けて生きてきたつもりではある。俺の生きる指針の大事な一つである。
「良き友を得られましたなぁ、殿。」
そう言って貰えるのは俺も嬉しいが、良き友に出会えたのは俺もだ。
「全くやね。わいには少し勿体ない気もするけどな。」
「そんな事はないさ。俺は少し騒がしいけど、良い弟ができた気分だよ。」
少し照れくさいが素直にそう思う。
「わいは頼れる格好良い兄貴ができた気分や。」
どうやら「兄妹」という点は共通しているみたいだ。兄・弟の順番も。
「随分と褒めるじゃないか。あんまり持ち上げてくれるなよ。」
「ええやんか。ほんまにそう思っとるんやから。」
その顔を見ると・・・どうやら冗談で言っている訳ではなさそうだ。ありがたい限りだね。
「なら、それに恥じないように良い兄貴でいないとな。」
「はは。今のままでも充分や。・・・でも、追いかけたくなる背中の兄貴でいてくれると嬉しい。」
「随分と難しい注文をしてくれる。ま、そう簡単には抜かせないけどな。」
「ほう。言うてくれるやないか。すぐに追い抜いてもええんやぞ。」
「・・・んん。やる・・・。」
「だから貴様等、それをやめろ。やるなら後でやれ。」
だんだんそういう古典芸能の様になって来てるな。アッシュがいないと成立しないが。ヤクモやギンカクでは放って置かれそうだしな。
「また駄目やった。・・・お、あれが地下に降りる階段やね。」
此処まで近付いてみてもやはりあまり特別な力を感じない。宝探しとは行きそうにないな・・・少し残念。おっと。まだそうと決まった訳ではないな。決めつけは良くない。不思議な力を秘めた道具だけが宝ではないからな。
流石に屋内の地下への通路、日の光が届く訳もなく、その階段を下った跡の通路の先は当然見通せない。魔物の気配も感じないので敢えて光を灯す事もないだろうという事で、トウオウの持つ角灯で照らして貰い、その灯りを頼りに進む。人種なら少し暗すぎると感じるのかもしれないが、俺達にしてみればそうでもない。猫やら梟やら南瓜やら蛇やら狐やら亀やら生まれながらに暗闇に強い者もいるし、俺を含む他のものは技能を取得しているので問題ない。・・・何かおかしい気もするが、まぁ良い。
通路と言う程の距離もなく、すぐに扉の前に辿り着いた。階段としても地下深くでもなく、地下一階というにも少し物足りない位しか潜っていない。
「封印や結界は・・・なさそうやね。」
扉を見渡しながらクロトはそう言った。確かにそのようだ。という事は俺の出番と言うことになるな。本日三度目の鍵開けの作業に取り掛かる。此処に掛かっているのは・・・扉に直接鍵穴が付いているものではなく、いわゆる南京錠の様なものだった。此処へ来て初めてお目に掛かる形状だ。・・・だからと言ってなんだというものでもない。技能の前では俺の技術や腕前も、そして経験もあまり意味が無い。少し味気ない気もするが、已む無し。泥棒になりたい訳でもないし。盗賊家業からも足を洗ったし。・・・開いた。
「何度見ても、お見事やね。」
「お恥ずかしい。・・・技能だけどな。」
「そう言うなや。実際助かっとるんやし。」
確かにそう言われると、そうだなとも思う。盗賊になった時に自動的に取得した技能だったが、まさかこんなに役に立つ日が来るとは思ってもいなかったよ。そう考えると取得しておいて損する技能などないのだろうな。・・・ただ占星術が役に立つ日が来るのだろうか、至極疑問だ。一応俺は星系の兎ではあるので、何かしらの恩恵を受けている可能性はあるが。
「・・・流石に暗いな。トウオウはん、お願いしてもええか。」
「構わないよ。灯りの類はボクの得意分野だからね。」
そう言って部屋を明るく照らした。トウオウがその分野が得意でなかったらどうするんだ。仮にも洋燈の魔王なのに。
照らし出された部屋は、先程の書庫の倍位の広さだった。
「思ったより何もあらへんな。」
宝物庫ではなさそうだ。いわゆる倉庫・・・武器庫に近いか。どちらにしても殆ど何も残っていない。この城を、この町を引き払う際に殆ど持ち出したのだろう。魔物のいる世界だ、武器や防具は必要だろう。数本ではあるが、槍や剣が立て掛けてあったり床に転がっていたりしている。既に殆ど朽ちてしまっていて、辛うじてその形を留めているだけだが。
それでも少しばかり宝物らしき物も残っていた。金でできているのだろう、それらは少し古ぼけているが当時の面影を留めていた。
「奥にそれらしい大きな箱があるな。」
いかにも宝箱ですみたいな箱が一つ。
「一応開けてみよか。」
「そうだな。」
冷静に考えて何か重要なものが入っているとは思えない。もしそうだったとするなら、あまりに管理が杜撰な気がする。それでも中身は確認したくなるのは性だろうな。
「鍵は・・・たぶんあるとは思うけど、そのまま開くんちゃうか。」
「俺もそう思う。たぶんそっと開けないと崩れるな。」
まぁそれでも構わないと言えばそれまでだが、それはそれで申し訳無さもある。どうしたものか。
「それでは・・・此処はこの爺が、現状保存の魔法を使うとしよう。殿、よろしいかな。」
「マル爺、そんな事出来るんか。頼むわ。」
「長く生きとると、そんな技能も・・・魔法もいたずらに取得してしまうのじゃ。」
なるほど。興味本位でかな。その気持ちは分からんでもない。
「終わったら解いてええからな。」
「心得ておりますじゃ。なるべく元の状態で、ですな。」
流石だな。俺達のつまらない拘りをちゃんと汲んでくれる。ありがたい限りだ。右手に持っている自分の身長より長い杖を振り魔法を放った。・・・と思う。攻撃の類の魔法ではないので視認し難い。どうやら問題なく効果を発揮したらしい。
「ありがとうな、マル爺。」
「珍しく役に立ちましたわい。」
そう言って満足気に笑った。俺も素直に感謝を伝え、クロトへ近寄る。
「ほな、開けるで。」
クロトは大分期待しているようだが・・・中身を見て落胆しないだろうか。俺だって宝箱を開けるのだから多少なりとも高揚するが。
クロトが蓋の部分に手を掛け持ち上げると、古い音をさせて開いた。やはり既に鍵はその機能を失っていたようだ。
「まぁ、そんな事だろうとは思ったが。」
「わい等には必要ないやつやねぇ・・・。」
ぎっしりではないが、金貨が沢山入っていた。この国の・・・この世界の通貨である。金で出来ているのだから、それなりに価値はあるだろうが、魔物である今の俺達には何の役にも立たない代物だ。金そのものに金属としての価値はあっても、貴金属としての価値は意味が無い。少なくとも今の所、貨幣としての価値もありそうもない。
「一応宝物庫っちゅう事か。」
「どうだろうなぁ・・・。国の倉庫、国庫だったんじゃないかな。宝物庫は他にあるのか、それともそういう文化はなかったか・・・。」
「宝物くらいはあったやろぉ、きっと。」
宝石やら王冠やらも存在はしていると思うが。そういった類のものは此処には保管されてはいない。
「で、どうする。これ持ってくか。」
「そうやねぇ・・・。記念に一つくらい拝借しても誰も怒らんとは思うけど。」
「必要はないわな。・・・ハク、いるか、これ。」
俺達とは全く別の理由で欲しいと思うかもしれないからな。
「そうですねぇ・・・。興味深くはあります。」
「そうか。じゃぁ二三枚貰っていこうか。」
利用価値を失ってしまっているのだから、特に問題はないだろう。窃盗をしているようで些か心苦しくもあるが。現実ではないが、何処ぞの世界では、勇者と称している者は不法侵入はなんのその。箪笥や引き出しは開け放題。樽を覗いたり、それどころか壺を破壊している。それに比べれば幾らか可愛げがある・・・と言い訳にしてみる。
三枚金貨を拾い上げ、二枚をハクへと渡す。
「ほな、わいも記念に貰っとこ。モモもいるか。」
そう聞かれたモモは「いる。」と元気良く返事をしていた。これは金貨が欲しいのではなく、クロトから何かが貰えることが嬉しいだけだな。それはそれで、可愛らしい。クロトは両手で適当に数枚掬い上げ、そのままアイテムボックスに放り込んだ。
「後でいっちゃん綺麗なやつ渡すな。」
「はいぃ。殿、ありがとう。」
モモは飛び跳ねて喜びを表現している。クロトはもういらないかと確認をしてから箱の蓋を閉めた。その後シロマルが魔法を解除した。
「他には・・・特に何もないよな。」
微かに感じ取れていた力は、おそらくあの装飾を施された小剣だ。儀式用なのか、微量の魔力を帯びているようだ。金だけで作られている訳ではなさそうなので、大分傷んでいる。儀式用が故に、武器としての機能もほとんどないと判断されて此処に置き去りにされてしまったのだろう。
それにしてもこんなに近くにあっても微かにしかその力を感じ取る事は出来ないのに、あの距離で瞬時に察知出来るアッシュはやはり凄いな。探索用に意識を切り替えていたとしても、そう簡単な話でもないと思う。
見るべきものも殆ど残っていない倉庫の探索に、そう時間は掛からない。早々に切り上げ部屋を出て、元通りに鍵を掛ける。
「腹減ったな。ちょっと遅くなったけど、昼飯にするか。」
お腹を擦りながら、皆と合流するべく城の入り口へ向けて移動を開始した。




