81、機密
こうして魔法の仕組みが目に見えるというのも不思議なものだ。今までそんな事を意識して過ごして来てはいないから、実に新鮮だ。トウオウやアッシュ曰く、魔物や魔族がその仕組を考えて魔法を使う事などないからそう感じるのだろうと。言われてみれば確かに同じ魔法を使うにしても、魔物が詠唱などはしないもんな。魔法の仕組みを考えて構成し放つなんて事はない。自分の使用できる魔法を本能的に使用しているだけ。だが人種はそれを分析し、ある程の規則性を見つけ出し、それを組み合わせて一定の効果を生み出せる様にした。そうする事で多くの者が同じ魔法を使える可能性を広げたのだろう。勿論、個々の適性もあったのだろうが。
俺とクロトとハクでその仕組を一つ一つ確かめながら封印を解いていく。解いてみて分かったが、やはり色々な要素が絡み合っているように見えて、実は簡単なものが組み合わさっているだけのものだった。だからこそ封印の魔法がこの程度の強度で良いのだろうかと感じてしまう。ただクロトと久し振りに肩に乗っかったハクと、「ああでもない、こうでもない。」と言いながらの作業は楽しかった。
無事に封印の解除に成功し、例によって扉に掛かった鍵を俺が開ける。扉を開くと目の前に暗闇の空間が現れる。建物の内側に設けられた部屋なので窓など存在しないのだから当然だ。
「おい、クロトの。この玉に触れてみろ。たぶんこの部屋の灯りが点くぞ。」
アッシュが入口の入ってすぐ右の位置に立っている、俺達兎の身長の倍くらいの高さの四角い柱の上に乗っている玉を顎で指し示しながらそう言った。
「なんやと。・・・これか。」
アッシュの指し示した玉を指差す。
「そうだ。・・・変に力を込めようとするんじゃないぞ。触るだけで良い。」
「なんでや。何かの装置なんやろ。触るだけでええんか。」
おそらく誰でも使える様なものでもないとは思うが。
「貴様が力なんぞ込めたら壊れる。貴様には加減というものがないからな。触るだけで充分だ。」
「えらい言われようやね。ま、言い返す事もでけへんけど。」
えらい言われようだが、俺もそう思う。俺もそう思うし、たぶん俺もそうだな。そんなん事を考えながら後ろに控えているヤクモに視線を向けると、何かを察したのか、眉間に皺を寄せて苦笑いをした。・・・やっぱりか。
「まあ、ええわい。とにかく触ればええんやな。ほな、触るで。準備はええか。」
そう言いながら、皆の顔を一周する。反対意見がないのを確認してから、おもむろにその柱をよじ登り始めた。
「なんでだよ。」
と言ってしまってから、まんまとクロトの策に嵌ってしまった事に気が付いた。
「いやぁ、助かるわぁ。」
満面の笑みで俺の方を見ながら一度最初の位置に戻って来てから、あらためて跳び上がり玉の上に着地した。
クロトがその玉に着地すると、何かしらの装置が起動したような音が小さく室内に響いた後、柔らかな灯りが室内を照らし出す。眼の前に浮かび上がったその室内は、紛れもなく書庫だった。
「どうやら当たりやったみたいやね。一安心や。」
玉の上に立ったまま部屋の中を確認してからそう言った。・・・しかし、本当に触れるだけで良いのか。それも手じゃなくても良いのか。どういう仕組になっているかは皆目見当もつかないが。そういえば、手は足が進化の過程で変化したものだったな。それは俺自身の体験で実証済みだったよ。故にどちらで触れても大差はないという事なのだろう。
「禁書庫なのは間違いないだろうが、当たりかどうかまでは分からんぞ。」
俺達の必要とする情報が得られるかは微妙なところだ。正直、俺達が必要とする情報や役に立つ情報がどんなものかも明確ではないから、どんなものがそういう情報なのかも難しくはある。どちらかと言えば俺の知りたいという欲でしかない気がしてきた。
「そらそうやね。禁書庫にまで大事にしまってある国家機密が必要な情報かは怪しいところやな。」
「ま、とにかく見てみるとするか。」
その部屋は十畳程の広さだろうか。昨日訪れた図書館に比べれば遥かに規模は小さい。左右と前方を囲む本棚は床から一段分は嵌殺しになっていて、その上部三段に本が立ち並んでいる。図書館の様に本が所狭しと犇めき合っているというより、綺麗に並んでいるという印象だ。その立ち並ぶ本はどれも立派な装丁がされていて、なにより大きい。俺がその上で寝転がれそうな程だ。そしてその大きな本のどれもが鎖で繋がれている。どうやら持ち出し禁止のようだ。そりゃそうだよな、そうでなければ封印までしている意味が無いよな。内容を書き写せば持ち出す事も可能だったとは思うが、きっと監視役が目を光らせていたのだろう。中央の台に一冊づつ持ってきて必要な項目を閲覧したのだろうな。
「・・・さて、どれにしようかな。」
背表紙には文字は書かれておらず、外側からでは何の本であるかは分からない。これは片っ端から開いて見るしかないかな。・・・開くと中から変なものが出てくる本があったりしないよな。
「なぁ、イッスン。一冊づつ此処に持ってきて読まんでもええよな。ちょいとお行儀が悪いかもしれんけど。」
「そうだな。先人達には悪いけど、そうさせて貰おう。一冊づつしか開けないなんていう特殊な魔法が掛かっている事も無さそうだしな。」
礼節を欠いてしまっているかもしれないが、世界を救う為だという言い訳をくっつけて許して貰う事にしよう。
「ほんなら・・・わいは右の端から見ていくかな。」
「・・・じゃぁ俺は、左からか。」
そう言って動き出そうとした俺達にギンカクが声を掛けた。
「殿。我々は建物の外におります。よろしいでしょうか。」
おっと。完全に忘れてた。
「おぉ、すまん。そうやったな。此処に残るんは誰や。あんあり広くないからなぁ・・・。どないしようか。」
アッシュとシロマル、フタバとハクとトウオウを残し他のものはそれぞれ城の中の探索と屋外で稽古する組とに別れて行動するという事を報告してくれた。俺達が封印の解除作業をしている最中に皆で決めたらしい。全く出来る臣下達だな。
「分かった。昨日よりは早く終わると思う。その頃に声を掛けるよ。」
「畏まりました。」
とヤクモはしなやかに頭を下げ、皆に「さあ行こう。」と促した。どうやら今日はスーアンやモモカ達は女子達で集まって行動するらしい。中庭でお茶でもするのだろうか。この城に中庭があるのかどうかは知らないが。そしておそらく彼女達はお茶は飲まない。
ヤクモ達の背中を簡単に見送ってから書庫の方へと向き直る。
「数はそう多くはない。分担すれば比較的早く終わるだろう。」
「・・・そうやとええな。」
「俺達に必要な情報はそう多くはないんじゃないか。クロト、お前禁術に興味あるのか。」
少なくとも俺はあんまり興味はない。その内容は大方、死者蘇生やら悪魔召喚やら超破壊やらのろくでもないものに違いない。それも未完成の欠陥魔法である可能性が高い。
「全く無いって言うたら、嘘やね。内容は興味はある。・・・っちゅうか、そんなもん此処にあるんか。」
完全に禁書庫という響きからの固定観念だ。勿論そんな書物が存在しているという確証は一つもない。
「この世界にはないかもしれないな。だがあるとすればこの部屋の中じゃないか。」
「ほな、あったら教えるわ。」
「おう。」
クロト同様、その内容には一応興味はある。そうして貰う事にしよう。
仕切り直して、今一度自分の担当箇所の中からどれを一番最初に選抜するかを吟味する。結局ほぼ全ての本に目を通すつもりでいるのだから、文字通り片っ端からでも問題ないのだが。どの道背表紙からではどんな内容なのかも分からないのだから。
「これじゃ何も分からないよなぁ・・・。これなら目録くらいあっても良さそうだけど。」
そんな事を考えながら中央の読書台の方を向いて、それらしきものがないか確認してみたが見当たらなかった。目録自体は存在思想ではあるが、それは別の場所に保管されているのだろ。
「・・・ん。」
仕方がないかと諦め視線を左の本棚に視線を戻すと、本棚の中にちょっとした違和感を発見する。本棚の特殊な仕組みに気が付いた訳ではない。そして絶対ではないが、そんな仕掛けはない。封印までして入室の制限をしているこの部屋に二重に仕掛けを作る意味はあまりない。
俺の発見したものとは・・・他の本と比べると背表紙が、いや背表紙だけでなく装丁が劣化している本だ。劣化と言ってもそんなに激しいものではないが、他の本より明らかに色が薄い。この劣化は経年によるものではなく、おそらく他の本より頻繁に閲覧された事を意味している。・・・と俺は推察した。その本が三冊程並んでいる。
他の本との微かな違いに興味を惹かれ手を伸ばす。自分の身長とそう大きくは変わらない本に多少手間取りながら本を開く。重さは俺自身の能力値が関係してるとは思うが特に問題はないのだが、やはりこの大きさは扱い難い。結局、立派な表紙と裏表紙を開いた形で本棚の下の壁に立て掛ける事にした。なるべく傷がこれ以上増えない様に細心の注意を払って。
「・・・なるほど、そういう事か。」
開いた本の内容に目を通し納得する。なぜこの本が他の本に比べ使用頻度が高かったのかを。
記録だ。この国の出来事と詳しい記録。出来事は天災や疫病などの災害、戦争や外交上のものが、淡々とその事実だけが記されている。それ以外に、人口、農業や工業の生産量などを含む詳しい数字が記されていた。勿論、国家予算の増減や国庫の貯蓄額も。記されている年代が今からどれ程前の事なのかは知る良しもないが、この国で記録を取り始めた頃からのものが詳細に記されていた。勿論、文化的な程度を見る限り極めて正確なものではないと思われるが。それが三冊分。三冊目は途中までだが、およそ二百六十年分、それも一月毎に。
「確かにこれは国家機密だな・・・。」
戦争も外交もあったのならば、こういう細かい数字は間違いなく国家機密だろうな。国民にどれ程正確に伝えられていたのだろうか。大なり小なり加減はしていただろうな。
「興味深いが・・・必要な情報じゃないな。」
だが内容を見てこの本の使用頻度が高った理由が分かった。そしてこの国の数字の上で見る比較的正確な歴史は知る事が出来た。興味深い内容ではあるが、今俺達の置かれている状況を好転させる為に必要な情報ではない。この世界が現在のような状況になってしまった原因等の内容も記されてはいないし。確かに今から一番近い過去の記録、この本で言う所の一番新しい記録の近辺には、その兆候のようなものも表れているように感じなくもないが、それも年月による誤差にも思える程度だ。
国家の記録の本を棚に戻し、別の本へと手を伸ばす。今度は最上段の一番端から順番に。
この国の成り立ちをなるべく正確に記した歴史書。付近の地域の資源の採取・採掘場所。主な魔物の狩猟場。農業と畜産の生産量や品種改良の実験結果。うぅん・・・どれもあまり必要な情報ではない。機密に近い内容なものである事は理解できるが。
「大体予想してはいたが・・・あまり収穫がないなぁ。」
ぼやきながら振り向き、対岸にいるクロトを見る。その視線に気付き、床に本を広げ胡座で腕組みをしながら睨み付けていた顔を上げて此方を見た。視線を合わせお互いに苦い顔を交換する。どうやらあちらも思ったような成果は上げられていない御様子だ。
「そっちはどうだ。」
一休みがてらクロトに歩み寄りながら声を掛ける。
「おもろいけど、情報としては駄目やね。法律、貨幣の作り方、他国との貨幣価値の事、王家の家系図・・・。」
残念そうな苦笑いで自分が目を通した本の大まかな内容を報告してくれた。俺の方も同じ様に自分が読んだものの報告をする。
「まぁしゃあないわな。確かに国家機密なんは間違いないねんけどな。」
「それが俺達に必要な情報ではないよなぁ・・・。内容自体は面白くはあるけどなぁ。」
「せやねぇ・・・。」
俺とクロトはほぼ同時に天井を見上げる。・・・ん。
「なんだあれ。」
「・・・何やろね。」
俺達は天井の中央に吊り下げられた長い筒の様なものを発見した。筒というより巻物か。それもかなりの大きさの。分厚いのではなく、一枚の紙としてかなりの大判なものが巻かれている・・・様に見える。下に引く為の紐らしきものがぶら下がっているのも。
「これは・・・きたかもな。」
「せやね。いっちゃん欲しかったやつかもしれんね。」
「引いてみるか、あの紐。」
「やるしかないやろ。」
あれが何であるかの予想はおそらく俺とクロとの中で一致している。その期待が漂う薄ら笑いで視線を合わせ頷く。俺達の気配が変化したのを察したのか、各々読んでいた本から視線を外し皆が此方を見た。その視線に気が付き、俺が指を上に向け皆の視線を上へと促す。
「あれは・・・なんですか。」
ハクが目一杯首を伸ばして天井のそれを見つめる。・・・ハクの場合、何処から何処までが首であるか判断し難くはあるが。
「何やろうねぇ。」
クロトは思わせ振りに笑いながらそう答える。
「これは盲点だったね。」
トウオウは一度その細長い巻物の様なものの周りをフタバと一緒に一回りしてから俺達の方へと降下してきた。そのついでにフタバは俺の頭の上に着地した。フタバも興味津々に見つめている。
「ハク。此方に来い。たぶんそっちは裏側だ。」
入って正面の本棚で本を読んでいたハクを手招きする。ハクは一度俺の方を見て「はい。」と返事をしてから、再び視線を上へ向けながら此方に向かって来た。そんなに気になるのか。俺達が嬉しそうにしているから尚更そう感じているのかもしれないな。・・・これで俺達の予想と違っていたら申し訳ないなぁ。
「アッシュ、悪いねんけどぉ、あれ引っ張ってくれ。」
「何故だ。なぜ吾輩がそんな事をしなければならんのだ。貴様が自分でやれば良いだろう。」
まぁアッシュならそう言うだろうな。
「まぁまぁ、そう言うなや。万が一の為にわいとイッスンが下で待機する為や。頼まれてくれんか。」
正直トウオウに頼んでも良かったんだけど、クロトに先を越された感じではある。勿論フタバでも構わなかったのだが、彼女だと力の加減を間違ってしまう可能性もあるので今回はご遠慮していただく事にした。あくまで俺の心の中で、だが。当のフタバは俺の頭の上で待機中である。
「こん中じゃアッシュが一番力加減が上手そうやから。な、だから頼むわ。」
「・・・ふん。」
どうやら満更でもなさそうにしている。その様子を見ているトウオウが笑いを堪えている。流石のトウオウもこの状況で吹き出してアッシュの機嫌を損ねるのは良くないと理解しているので必死だ。頼むからもう少しだけ堪えてくれよ。
「あの紐を引けば良いのだな。さっさと準備をしろ。」
高さは成人が何かしらの台のようなものに乗ってようやく届くらいの位置。無論俺達が精一杯手を伸ばしても到底届く訳もなく。
「礼を言うよ、アッシュ。」
「・・・ふん。いくぞ。」
アッシュは此方の了解を得る前に跳び上がった。流石猫の魔王、音も無くしなやかに、そして美しく。思わず溜息が漏れてしまいそうな程だ。完璧な加減で紐の前に止まりそれを掴む。込める力加減と速度も絶妙で、紐の擦れる音さえ聞こえない程自然に解けた。それを合図に紐に纏められていた巻物が開きながら降りてきた。その途中で俺とクロトは跳び上がり空中で開く巻物の下部を掴み、開く速度を調整する。なぜかアッシュの方が巻物が開きった後に、そして俺達よりも後に床に着地した。
「・・・やっぱりな。」
「予想道理やったな。」
開ききった大きな一枚の紙に描かれていたものが俺達の前に姿を現した。その描かれていたものが俺達の予想した通りだった事を確信した。俺は右手を開いたまま差し出す。それを見たクロトは意図を察し俺の右手を叩く。お互いに肉球なので気持ちの良い音はしなかったが、その力と勢いで気持ちは充分に伝わる。
「助かった。」
「せやね。それも思ったより広範囲やね。」
そう、これが知りたかった。これが一番知りたかった情報だと言っても決して大袈裟ではない。
「あるじ様、これは一体何ですか・・・。」
大きさの迫力に押されているのも多少あるだろうが、初めて見る物に思考が追いつかないのだろう。ハクの口が開きっぱなしになっている。
「ハク、これはな・・・地図だ。」
地図。これが世界の全てではないと思うが、それでも俺とクロトが思い描いていたよりもかなりの広範囲を示してくれている。事細かく文字が書き込まれている訳ではないが、山や川や森がきちんと書き込まれているのが嬉しい。はっきり言って俺達にとっては地名などは必要な情報ではない。それよりも何処に何があるかを知れる事の方が重要だ。
「ちず・・・。これは何が書いてあるんですか。」
絵を見ただけではそれが何を描いているものなのかは判断し辛いか。文字も絵も見たのは昨日が初めてなんだもんな。それで何もかも理解しろなんて言うのは無茶苦茶だ。ハクはまだ子供で吸収力が高いとはいえ。まぁ、ハクならば時間を掛けて考えれば自分で答えを見つける事も出来るだろう。だが今回はほんの少し、答えを出す為の助言をする。
「ハク。これは・・・何だと思う。」
アイテムボックスから棒を取り出し、それで地図の中央の少し上部に描かれている部分を指しながら質問する。
「何でしょうか・・・。」
やはりこれだけの情報では答えに辿り着くにはまだ時間が掛かってしまうか。色々な思考を巡らせているのだろうが、処理速度が追いついていないような表情をしている。頭の上のフタバとシロマルはなんとなく理解しているようだ。梟の叡智と年の功、恐るべし。
「じゃぁ聞き方を少し変えよう。これは・・・何処だど思う。」
「どこ・・・。」
と呟いた後に何かに気が付いたのか、目が大きく開く。
「・・・此処です。この場所、おうと、です。」
嬉しそうに声を少し高くして答えた。
「流石やね。自分でちゃんと答えに辿り着いたなぁ。」
クロトは腰に手を当てながら笑顔でそう言った。
「い、いえ・・・。殆どあるじ様が教えてくれました。」
ハクは照れ臭そうに首を振った。
「そんな事ないで。知らん事も多い中で、よう自分で答えを見つけた。たいしたもんや。」
俺の言いたい事をクロトが言ってくれた。今の俺の自慢の一つだ。ま、子供達は漏れなく自慢だが。
「と言う事は・・・じゃぁ、これは何だと思う。」
その王都の場所から左に描かれている黒く塗られた部分を指しながら聞く。どうやらこの世界の地図も前世同様北が上で描かれている。それはこの王都の下部に先日、俺とクロトが爆走日帰り旅行をした教会らしきものが描かれている事が示している。
「それは・・・もしかして、僕達が住んでいた森・・・ですか。」
「お。これは・・・。で、イッスン、答えは。」
「正解だ。流石ハク、良く分かったな。」
一つの正解を導き出した事でこの「地図」が何を描いているものなのかを理解したようだ。
「いえ・・・あるじ様の出した問が、僕に分かるものだっただけです。あるじ様が優しいんです。」
うぅん。泣いちゃいそうだよ。
「それもあるとは思うけど、ハクやんはちゃんと自分で考えて答えたんや。それは自信を持ってええとわいは思うで。」
「・・・はい。ありがとうございます、クロト様。」
「様はやめてくれ。クロトでええねんけど・・・。それやと逆に気ぃ使うやろうから、クロトさんで頼むわ。」
「しかし・・・あるじ様・・・良いのでしょうか。」
普段から礼儀正しいハクからしたらかなり敷居の高い要求かもしれないな。さて、どうしたものか。
「なぁ、クロト。それもちょっとギンカク達の手前、俺からはあまりお薦め出来ないな。」
「あぁ・・・そらそうかもしれん。」
「だからさ・・・クロト兄ちゃん位で手を打たないか。」
「それもええね。なぁ、ハクやん。どうや。」
「良いんでしょうか・・・。」
「ハク坊や。きっとその方が殿も喜ぶ。そうして貰えると儂も嬉しい。」
シロマルが優しくハクに語りかけた。その言葉に合わせて俺も頷く。クロトは期待に満ちた眼差しでハクを見つめている。
「・・・分かりました。そうさせて頂きます。クロト・・・お兄さん・・・。」
クロトは満面の笑みでハクの頭を撫でた。これはあれだな・・・お兄ちゃんって呼ばれてみたかったんだな。嬉しそうでなにより。
この地図、先程から言うように、かなりの範囲を網羅してある。この縮尺では細部まで描かれてはいないが、なによりこの範囲の広さがありがたい。まだこれからの事を決定してはいないが、それでも世界を周る事になるのはほぼ間違いないだろうからな。これからの度に大いに役に立ってくれる情報なのは間違いない。何としても欲しかった情報だ。これだけでもこの禁書庫に来た甲斐があった。確かに地図は国家機密。絶対にあるとは思っていたが、それでも予想していたより立派な地図だった。
先人達にあらためて感謝する。この場所を現存させてくれた先人達にも。この知識の結晶をありがたく拝借させて頂きます。勿論原本は元通りにしておきます。
・・・という事で、この地図の模写を始めようか。




