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80、封印

 流石に年単位での久々の読書に思っていた以上に疲労していた様で、目を閉じた直後に眠りに落ちてしまった。肉体労働は無かったに等しいが、数年振りの、この世界で初めての頭脳労働に、張り切っていたり、興奮していたりとで、普段とは違う身体的機能を総動員していた事も手伝って、精神的な疲労が大きかったのだろう。次に目を開けたら天幕の出入り口の隙間から朝の光が差し込んでいた。外からはサイやジュウザの話し声が聞こえて来ていた。

「おはようございます。」

 俺が上半身を起こすと外に出る準備をしていたモモカが朝の挨拶をしてくれた。

「ん・・・おはよう・・・。」

 まだ目が覚めていない頭で挨拶を返した。


 外に出て軽く体操をして頭と身体を起こす。その後、体操の延長の様な稽古をロックとミナとしてから朝食をクロト達と一緒に摂る。

 朝食を済ませ出発の準備をする。準備と言っても、本日は特にする事もない。今日も同じ場所に宿泊するのは確実なので、現在の活動拠点の天幕はこのまま設置しておく。予定では後数日、かつて王都と呼ばれたこの町に滞在するつもりだから、その間は天幕は張りっぱなしになるだろう。この町にいる間は天幕も張らずにこの広場で野宿でも特に問題はなさそうだが。それでも俺やクロト、トウオウやアッシュ、ノインやコバ以外の皆は少し落ち着かない様子だし、特に子供達は此処まで慣れない環境の連続だからな。眠る時ぐらいなるべく安心出来る環境の方が良いのではないかと思う。・・・逆に子供達の方が適応力が高い可能性はあるが。ま、俺が寝る時に個室の方が落ち着くというのも大きな理由ではある。何にしても寝床は慣れ親しんでいる方がきちんと休めるってもんだ。


 町を取り囲む壁とは別に、町の一番奥に腰を据えている王城の周りにも城壁がある。これを見る限り、この世界にも防衛の概念はあったという事だ。つまり、戦争も。魔物対策という可能性もあるとは思うが・・・可能性としては低そうだ。なぜなら、おそらくだが町である以上魔物の襲撃は極めて少ないと考えられるからだ。何らかの理由で魔物の異常行動が発生しないとも限らないが。今の所、そういう事態があったという記録は見つけられなかったが。・・・それだけに限らず、詳しい記録は昨日訪れた図書館には無かった。英雄譚の様な綺羅びやかに装飾された物語や戦記物は幾つか見受けられたが。起きた事件そのものに嘘は無いだろうが、それでもかなり大袈裟に書かれていたような印象はあった。

 城壁があれば城門もある訳だが、その扉は町の出入り口同様その微かな痕跡を残すのみだった。

 開け放たれたその城門を潜り城の扉の前に立つ。城の扉の方は図書館と同系統の法じゅ・・・魔法が施されているのか、その形を留め、俺達の侵入を拒んでいる。城の扉は、分厚そうな木の板で出来ている。良く磨かれて渋い色をしている。その渋さがより重厚さを際立たせている。

「・・・でかいなぁ。ここからじゃ一番上が見えない。」

 首を九十度以上仰け反らせて見上げても、城特有の尖った屋根の先は見えない。兎の俺からすると尚更見るのは難しい。これ以上頑張って見ようとすれば、後方へ一回転してしまそうだ。

「・・・せやねぇ。たいしたもんやね、これだけのもんを作ってまうんやから。」

 俺の横に並び、同じ様な形で見上げているクロトも細い目を更に細くして屋根の切っ先を探している。

「一つお聞きしてもよろしいでしょうか。」

「ん。・・・なんだ。」

 声を掛けられそちらを向くと、眉間に皺を寄せたヤクモの顔がそこにあった。

「この・・・建物、は一体何なのでしょうか。」

 おっと。あらためてそう聞かれると答えに困る質問だな。魔物は基本的に家を作ったりはしないからな。作ると言っても、それは安全な寝床を確保するくらいの意味合いだろうからな。人種であってもその意味合いが大きいと言えばそうなんだが・・・。

「うぅん・・・。簡単に言えば、王様とその家族が住んでいた所・・・かな。」

 勿論それだけではないんだが、間違ってもいないはずだ。

「・・・そうですか。寝泊まりするだけの場所に、この様な大きさが必要なのでしょうか。」

 まあ、そうなるよな。寝るだけならこんなには必要は無いわな。

「それとも家族の数がとても多かったのでしょうか。」

 そうとも言える。そしてその家族に関わる者達も一緒に暮らしていたであろうとも言える。

「それはなぁ、ヤクモはん。ここは、この国の中心で、いろんな国の事を王様と一緒に決める場所やったんや。だから毎日沢山の人が来たから、大きんや。・・・たぶん。」

 その通りだと俺も思う。此処は政治の中心だった事は間違いない。魔物に政治と言ってもなぁ・・・。理解できないとは思わないが、政治をするという発想はないだろうからな。・・・政治をする魔物もなんか嫌だな。無論、政治そのものを否定するものではなく、自然の中にその身を置き生きている魔物が政治を考えて生きなくても良いんじゃないかと思うだけだ。今更俺が何を言っているのかという気もするが。

「なるほど、そういう事ですか・・・。ですが、それならば広くするだけで良かったのでは・・・。何もこんなに高くする必要はなかったのではありませんか。これでは自分は此処にいますと教えている様なものではありませんか。」

 くっ・・・流石ヤクモ、痛い所を突いてくる。

「教えているのさ。王様は此処にいるぞってな。」

「なぜそのような事を・・・。」

「それは・・・多くの者を率いる為や。此処が皆が安心して暮らせる場所やぞって。確かにヤクモはんの言う通り、外敵にも見つかり易くもあるけどな。」

 クロトは説明が上手いな。

「なるほど。それならばなんとなく理解できます。」

「それとな、多くの者を率いる為には威を示す必要もあったのさ。その象徴の意味もあったんじゃないかな、この大きさには。」

 クロトの説明に俺なりの補足を加える。

「威・・・ですか。なるほど、確かに王の威に付き従うもの達にとってはわかりやすいかもしれませんね。」

 必ずしもこれが正解とも思えないが、全てが間違いでもないだろう。権力者は得てしてその威を示す為に背の高い建物を作りがちではあるが。統治には必要な要素でもあるとも思う。

「じゃ、そろそろ中に入るとするか。」

「これは失礼しました。」

 ヤクモは申し訳なさそうに頭を下げた。「問題ないさ。気にするな。」と声を掛けて、解錠に取り掛かる。本当に気にしてはいないし、むしろこうやって疑問を口にしてくれる事の方が嬉しい。そのお陰で、俺達が当り前だと思っている事をあらためて考える機会を与えてくれる。実はこれって凄くありがたい事だ。前世でもなかなか得られる機会ではないからな。魔物の視点から人間・・・人種の事を眺めないと見えない事も沢山ある事をこの世界へ来て学んだ。これって実は凄く大きな収穫だと思っている。

 鍵は図書館より簡単に開ける事が出来た。分厚い扉は王の威厳を示す様な重厚な音を城内に響かせながらゆっくりと開いた。


 城内は図書館同様、誰も使わなくなってからそう長い時間が経過していない風景をそこに留めていた。灯りが点いていないのではっきりとそう断言はできないが。

「灯りを点けるかい。」

 トウオウが気を利かせて聞いてくれた。

「いや、全ての灯りを点ける必要はないだろう。ありがとう。」

「そうかい。何かあったら言ってくれ。」

 トウオウに礼を言いながら目的の場所に向けて進路を取る。なぜ一度も足を踏み入れた事のないこの場所で迷いなくそこを目指せるのか。これが不思議なもので・・・説明するのが難しいが、なんとなく分かるのだ。分かるというより、感じると言った方が正しいかもしれない。この場所を当り前のように行き交っていた者達はどうだっかは知る由もないが、俺達にしてみれば、「そこに何かありますよ。」と教えてくれている様なものだ。つまりそこに向かって、誰も何も疑うことなく足を向けているという事だ。

 取り敢えず最初は皆揃ってその場所に向かい、その場所の様子を伺ってから、それぞれの班に別れて行動しようという事になっている。・・・とは言ったものの、体育会系の皆は既に別行動をしているが。

 だが、今日はモモが此方に付いて来ている。そして可愛らしく先頭を歩いている。目に映る全てが新鮮で楽しいらしく、右に左に首を振りながら、首だけでなく進行方向も右に左に振れている。まるで少し前のジュウザを見ている様だ。・・・いや、以前よりは減ってはきたが、今でも充分に先頭を蛇行している。旅の間は先頭を警戒していてくれていたので、その溢れる好奇心をある程度封印していてくれてはいたようだが。それでも時折、興味の惹かれるものを視界に入れると集中が途切れていたが。

「・・・モモって、虎だよな。」

「・・・それがどないしてん。」

「あの縦縞、色合いが少し解り難いなぁ・・・って。大きくなったらくっきりしてくるのかな。」

 どうでもいい質問だ。その名が物語る様に桃色ではあるのだが。勿論、この色からその名をクロトが付けたのだろうが。縦縞もそれ以外の部分も桃色。その濃淡が曖昧で、今一はっきりしない。一瞬、視界がぼやけてしまっているのかと錯覚してしまう感じだ。ただの興味本位の答えがでなくてもいい質問だ。

「・・・おう、なんや。うちの可愛いモモちゃんの栄光の縦縞に文句があるんか。」

 クロトは眉毛と目を吊り上げて、腕を組み俺をやや下から見上げる様に睨み付ける。

「あぁん。こちとら鯨の頃からの横浜贔屓じゃ。」

 安い挑発に、俺も腕を組み額をクロトの額に近付け睨み返す。

「やるか・・・。」

「おい。貴様等、適当な理由を付けて殴り合おうとするのをやめろ。」

 俺が「やるか。」と返事をする前にアッシュが割って入った。その目は上弦の月みたいな形になっている。その頭上でトウオウが笑っている。

 俺達はお互いに苦笑いを交換して偽りの戦闘態勢を解く。

「ばれてもうたか。」

「そんなに分かり易かったかな。」

 クロトに出会うまで自分と同等の、同系統の能力を持った相手に巡り合わなかった。それも当然だ。二足歩行の生物にで一切出会わなかったのだから。つまりこれ以上ない稽古相手を見つけたのだ。クロトの方も当然同じ状況だから暇を見つけては、くだらない理由をくっつけて喧嘩を装って組手をしている。勿論、本来の目的に影響が出ない様に軽くではあるが。それが楽しくて、つい。

「そんなものは、やるべき事を済ませてからやれば良いのだ。故にじゃれ合ってないで、さっさと行くぞ。」

 返す言葉もない。俺もクロトもジュウザ達に負けない程子供だ。まだ片手で足りる位しか生きてないんだから仕方がない・・・と都合の良い時だけ同じ言い訳をする。

 先頭のモモが、自分の名前を呼ばれた事に反応して、此方を振り向き可愛らしい笑顔を向けていた。

 俺とクロトは何でもないよと笑顔で手を振り、先に進むように促した。そして皆でその後を付いて行く。


 城の中を迷いなく進んでいるとはいえ、構造自体はそれ程単純ではない。流石に人工物なだけはあり、通路が曲線で構成されてはいないが。それでも全く知らずに歩けば迷うだろう。似たような景色の続く曲がり角があちこちにある。そして目指す先は、敢えて封印を施した部屋だ。それが誰でも分かり易い場所にある訳もなく、許可のない者は近付く事も出来ないであろう奥まった場所にあるようだ。ま、一般の仕事の従事者は近付く必要もなかったとは思うが。

「あれ、そういえばトウオウ。この中に入った事があるのか。」

「封印の部屋には入ってないよ。」

「いや、そうじゃなくて。この城はちゃんと戸締まりはしてあるはずだろ。この城の中にそんな場所があるって、どうして知ってたんだ。」

「ああ、そういう事か。それはねぇ、この上の階の窓が幾つか開いていたんだよ。だからそこから失礼したのさ。」

「開いてた・・・。そんな事もあるか。この城自体に施されているのは、劣化や損傷を防ぐ魔法で、結界や封印じゃないもんな。」

「きっと戸締まりのし忘れか、それとも風や何かの影響か。或いは何かが中に取り残されていたか。」

 おっと。最後のやつは発想から抜けていたな。犬や猫の様な、この世界で言えば魔物が飼われていた可能性も大いにあるな。・・・ただこの町にはそんな魔物が取り残されていたという痕跡も見つけられてはいないが。

「なるほどな。納得した。どうやって中の状況を知る事が出来たのか気になっただけだ。」

「確かに。流石のボクも中に入らずに知る事は出来ないね。」

 やはり流石の魔王様でもそれは無理だったか。そんな事が出来ると言われても驚きはしないが。・・・いや、その事実を疑いはしないが、驚きはするかもな。

「って事は、上の階は少し荒れてるかもしれんっちゅう事か・・・。それは少し残念やね。」

 俺もそう思うが、それも已む無し。今目指す場所が現存しているだけでも俺達にとっては大変助かるというものだ。そこまで望むのは贅沢というものだ。

「それなんだけどねぇ・・・。ボクにしては珍しいんだけど、出る時に一通り全部閉めたんだよね。なんでそんな事をしたのか自分でも良く分からないんだけど・・・。その時はなんとなくそうした方が良いような気がしたんだよね。」

 それは何とも珍しい。世界に極力干渉をしないように気を配っているトウオウにしては極めて稀有な行動だな。それもかなり曖昧な理由で。・・・ま、そういう時は得てしてそういうものだが。そして同じ立場だったとして、俺にもなんとなくそうしてしまう感覚は理解出来る気がする。

「そうか。きっとその時は、それが最善だと思ったんだろ。」

「・・・きっとそうだね。そうだと思う。」

 完全とは言わないが、それでも感覚を共有出来る相手がいた事に少し安心した様に微笑んだ。・・・と、思う。トウオウの表情を読むのはとても難しい。

「ほんなら、トウオウはんに礼を言わんとな。そのお陰でこうして、この城が残っとるのかもしれんからなぁ。」

「そうだな。時間があったら上の階にも行ってみるか。」

「そうやね。必要なものはないかもしれんが、面白いものはあるかもしれんし。」

「貴様等、下は良いのか。」

 アッシュの言葉に俺とクロトは顔を見合わせる。

「地下なんかあるんか。」

「・・・何を言っているのだ、貴様は。先程下へ降りられそうな場所があったではないか。」

 なんですと。他愛も無い会話をしながらだが、結構注意深く観察しながら歩いていたつもりなのだが。

「それは何処やねん。」

「・・・この後ろの先だ。先程曲がる時に見なかったのか。」

 アッシュは呆れている事を溜息一つで意思表示してからそう言った。

「そ、そうやったか・・・。すまんな、アッシュ。」

 クロトの謝罪に合わせて俺も頭を下げる。完全に俺も見落としていた。いくら注意していても、迷いなく目的地に向かっている所為で、進行方向にしか視界が向いていなかった。

「えっと・・・。何処だ。」

 頭を上げてアッシュが親指で指し示した方向へと視線を向けてはみたが、そのアッシュの言う地下への入口は見当たらない。

「・・・此処から四つ目の角の先だ。」

 再び溜息をついてからそう教えてくれた。・・・嘘でしょ。曲がった先の構造までは流石に視認できる訳が無い。俺達が今向かっている場所のように、何かしら気配の様なものを感じ取る事が出来るのなら話は別だが。

 一応、俺にも出来ないかなと思い、意識を集中してみる。・・・出来ない。そんなに簡単に出来たら苦労しない。だが・・・確かに微かだが何かの気配を感じる。ここからだと砂粒よりは若干大きいかなというくらいの気配を。近付けばまた違って感じるのだろうとは思うが。

「確かに・・・言われてみればそんな気がするかもなぁ、ってくらいは感じる。これを簡単に察知できるのか・・・。凄いな、アッシュは。」

「何を言っているのだ、貴様は。」

「へっ・・・違うんか。わいもそうだと思ったんやけど。」

「この程度の場所ならある程度簡単に構造が理解出来るだろう。」

「でけへんわ。」

 同館だね。

「ははは。そんな事が出来るのはアッシュのだけだよ。たぶん何か特殊な技能でもあるんだろう。」

 あぁ。それなら納得だ。確かに、基本的に構造物や洞窟の中の探索をしてこなかったから、それに必要そうな技能は無意識に対象外にしていた可能性は高いな。今夜寝る前にでも少し調べてみようかな。・・・覚えていたら。

「ほんなら、帰りにちょいと覗いていくか。」

「そうだな。」

 ・・・覚えていたら。


 遂に目的の部屋の前に辿り着く。見るからに此処に何か特別な部屋がありますよと言わんばかりの綺羅びやかな装飾が施されているというような事は・・・全くなく、むしろ途中で見かけた他の部屋の扉より地味で、まるで倉庫の扉のようだった。

「此処で合ってるんよなぁ・・・。」

 気持ちは解る。だが間違いない事も解る。しかし此処まで来ると、敢えてこの場所には何もありませんよと言っているみたいで怪しくも思える。まぁ、これがこの国の気質だったのだろうな、きっと。

「間違いないだろう。封印がされてる。」

「せやね・・・って、これは・・・。」

 クロトが俺の方を向く。クロトと目を合わせてから頷く。

「これが、封印魔法か・・・。思っていたのとちょっと違ったな・・・。」

 クロトも「せやね。」と頷いた。その部屋の扉には特に何か特別な装飾はおろか錠前や鎖のような物も付けられてはいない。見た目だけで言うなら、何の変哲もない両開きの扉と言う以外他にない。

「これの何が問題なのだ。貴様等ならばこの程度の封印なら問題なく解けるだろう。」

 アッシュは決して機嫌が悪いのではない・・・という事がわかってきた。こういう喋り方なんだな。

「そうなんだよ。どちらかというと、その事の方が問題なんだよ。」

 そう・・・魔法の詳しい知識は昨日初めて得たばかりだ。それもかなり基礎的なものを。それにも関わらず、そんな俺達が理解できてしまう事が問題なのだ。

「どういう事だ。」

 当然の質問だな。

「そうだな・・・。おそらくこの結界なら、ヤクモやスーアン、モモカでも問題なく解除出来るだろうな。どうだ、ヤクモ。」

「は、はい・・・。問題無いと思います。」

 急に自分に話を振られて戸惑っていた。

「スーアンはどうかな。」

「可能かと思います。」

 普段通りの落ち着いた声で答える。その側にいるモモカに視線を移すと、モモカも静かに頷いた。

「だよな。それどころか、おそらくハクでも頑張れば結構簡単に解除出来るんじゃないかと思うんだよ。フタバに至っては、もしかしたら俺達より簡単に解除出来てしまうかもしれない。」

「だから、それの何処が問題なのだ。」

 今からこの結界なのか封印なのかは、はっきりしていないが、それを解除しようとしているのだから、それが出来ると言って何が問題なのだろうと思うだろうな。

「つまりなぁ、アッシュ。簡単過ぎるんや。こんなに簡単に解除出来る所が重要な場所かっちゅう心配をしてる所や。」

「・・・ほぅ。理解した。だが、この建物には他には無さそうだぞ。」

 それもそうなんだよなぁ・・・。最悪、重要なものは全て持ち出されている可能性もある。ま、それならそれまでだ。

「ははは。問題ないよ。昨日イッスンの達が読んだ様な事は、魔物や魔界獣、ボク達魔族にとっては殆ど意味の無い事なんだよ。」

「なんですと。」「なんやと。」

 見事に同時に反応した。

「ははは。良く考えてご覧よ。ヤクモのやスーアンの達が、他の魔物達がそんな事を考えて魔法を使っていると思うのかい。」

「あ。」「おぉ。」

 また同時に声を出してしまった。全く違う音ではあるが。

「そりゃそうだ。」

 トウオウの仰る通り。魔界獣や魔族を含め、俺達魔物はほぅ・・・魔法を使う時にあの本に書かれていたような事を考えて使用してはいない。本能で使っていると言っても過言ではない。

「じゃぁなんであんな本があったんやろ。」

「うぅん、どうなんだろうねぇ。たぶん人種はボク達に比べて、魔法を使うのが得意じゃなかったんじゃあないかな。」

 トウオウは半分冗談のつもりでもあったんだろうが、おそらくその答えは決して遠いものではないんじゃないかと思う。

「あぁ、なるほど。それはたぶん正解やね。」

 でなければ、人種が俺達と同じ様に魔法が使えたなら、あんな本を記す必要はなかっただろうからな。本に記すにしてももう少し別の内容になっていたに違いない。

「ほんじゃ、さっさと解除してまうか。・・・で、誰がやる。」

「なぁ・・・誰でも良いなら、ハクにやって貰っても良いかな、クロト。」

「お。ええんやないか。」

「って事で・・・ハク。せっかくだから、一緒にやってみないか。」

 スーアンの隣でモモと一緒に待っていたハクに声を掛けた。急に声を掛けられて驚いている。

「僕が・・・やって良いんですか。」

「勿論だ。こんな機会滅多にないから、どうかなと思って。」

 ハクは目を煌めかせて「はい。」と答えた。スーアンも美しく微笑んでいる。ハクの後ろに立っているミナも微笑んでいる。こう見るとやはり親子なのだなと再認識する。

「俺と・・・。」

「わいも一緒にやるから、大丈夫や。ゆっくりやってみような。」

 こうして俺達は、何の変哲もない扉に掛けられた魔法を解く作業に取り掛かった。

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