79、喧騒
図書館から外に出ると、かつて王都と呼ばれたこの町の上に星空が覆い被さっていた。石造りの建物と樹木が絡み合った町並みが月明かりにてらされ、より一層幻想的に夜に浮かび上がっている。
サツキに「お腹がへった。」と声を掛けられるまで、食事をするのも忘れて読書に没頭していた。クロとの方も同じくモモに「お腹へった。」と声を掛けられていた。
限られた時間でできる限り情報を収集しようと必死になっていたと言えば聞こえが良いが・・・勿論それが嘘という訳でもないが、実際は乾いた大地を潤すように、滝のように文字を浴びて吸収していた感じだ。
朝が昼を過ぎ夜を迎えるまで様々な本を読み漁った割には、あまり重要な情報を得る事が出来なかった。歴史に関しても概ね予想通りではあったが、特に初期の部分は神話の趣が強く正直あまり役に立たなかった。一番最近のものと思われる記述も実際の出来事を元にはしているのだろうが、所々奇跡が起きたり神の予言があったりで歴史書としては大分不正確な印象だった。戦争や災害も記されてはいたが、正史というよりは演義の様相が強い。おそらくは歴史学者の為のものではなく、民衆に楽しんで大まかな歴史を学んでもらう為に書かれたものだったのだろう。魔法の本に関しても、結局は俺達が今まで法術と呼んでいたものの基礎的な知識が記されていたに留まり大きな発見は無かった。むしろ今の俺達の方が多くの知識や経験があると言ってもそんなに大袈裟ではない様に感じる内容のものだった。
その中でも図鑑の類は収穫だった。まだ見ぬ植物、まだ出会った事のない魔物、鉱石・・・。一つ一つの説明に関して言えば、鑑定の技能を持つ俺達からすれば多少物足りない内容だったが、それでも未発見のものの情報はこれからの事を考えると非常にありがたいものだった。これだけでもこの図書館に来た意味はあった。特にハクは俺達が「そろそろ終わりにしよう。」と声を掛けても、暫くの間気が付かない程熱心に本を読んでいた。初めて触れる「文字」という文化に動じることもなく、あれだけ集中出来るのは凄いなと感心する。文字が読める様になった事の驚きよりも、その文字から得られる情報の方がサイにとっては重要だったのだろう。好奇心の為せる業なのだろう。学びの本来の姿なのだろうな。素晴らしいことだ。
机の上に集められた本を元の位置に戻す。心の中で今この時まで本を残してくれた先人達に感謝しながら。本を持ち出す事も考えたが、クロトとも話し合った結果、やはり元の状態に戻すという判断をした。それが俺達に出来る先人達へ払える最大の敬意だと。
全てを元に戻し外に出て扉を閉める。開けた時と同じ手順で鍵を掛ける。
「・・・そういえば、トウオウ。」
「なんだい、イッスンの。」
鍵を掛けている時に、浮かんだ疑問を口にする。
「灯りを点けて貰った時のやつってさぁ・・・。あれって、その角灯にいる精霊に頼んだんだよな。それって洋燈の王たるトウオウ自身の力なのか。」
「あぁ、なるほど。灯りを点ける為に使ったのは間違いなくボクの力さ。ただ一度に全てを点けるのは・・・出来ない事もないけど、凄く難しいから、皆に少し助けて貰ったのさ。」
魔法の追尾機能みたいなものかな。
「難しいじゃなくて、面倒くさいの間違いじゃないか。」
「そうとも言うが、一応扱うのは火だからねぇ。」
「そういやそうだな。万全を期してくれたって事か。これは俺が無粋だったな。すまない。」
何と言っても此処は図書館だからな。万が一狙いを外したりしたら大惨事だ。そこまでちゃんと考えてくれていたのに、俺とした事が・・・。俺も所持している蝋燭を使用することも考えたが大事を取って却下したのに。何と言っても子供達がいるからな。信用していない訳ではないが、集中していたり興奮していたりすると周りが見えなくなる可能性はあるからな。・・・それに関しては俺も例外ではないが。特に今回は。
「其奴はな、一度に多くの的を狙うのは得意だが、小さな的に命中させるのは得意ではないのだ。」
アッシュが補足をする。つまり・・・多くの標的を一度に狙う事は出来るが、それを命中させるのはあまり得意ではないという事かな。
「大きければ命中させる事くらいは出来るけど、狙った場所の中心に当てるのは苦手なんだよ。」
「そうかぁ。なら今回は大変な事を気軽に頼んじゃったみたいだな。」
そうは言ってもあれだけの数の灯りを一度に狙えるだけでも驚愕だが。それにしても一つの大きさは的としてはかなり小さい部類だろう。結構な無理難題を振ってしまったと、今更ながら反省だ。
「なぁに、問題ないさ。たまには精霊達にも何かして貰わないと。ボクの魔力を吸収しているんだし。」
なんですと。それでトウオウは大丈夫なのか・・・などという心配は普段のトウオウを見る限り、全く必要はなさそうだ。
「其奴の魔力なら問題ないだろう。精霊に吸収される分より回復量の方がが多い。心配するだけ損だ。」
アッシュはどうやら俺の顔に書いてあった事を読み取ったのか、的確に俺の心の中の疑問に答えてくれた。しかしトウオウの事なのに、なぜ故アッシュの方が答えるのだろうか。・・・野暮だね。
「そうだな。仮にも魔王だったな。」
「ははは。魔界を逃げ出した魔王だけどねぇ。」
図書館を離れる前に一度振り返りその外観を見る。あらためて眺めると、やはり図書館らしいなあと感じる建物だ。西洋の図書館をこの目で見た記憶は殆ど無いが、物語に出てくる様な図書館の想像通りの外観だ。色も形も。なんだか本物が見られた様な気がして、なんだか嬉しさの様なものがある。
時間があったらまた来ようと、図書館を後にする。
すっかり日の落ちた町を、今日の寝床を定める為に中心に向かい歩く。
「ヤクモ、何か収穫があったか。」
月の光が淡く照らす町を歩きながら話をする。
「いえ・・・特には何も。申し訳ありません。」
「謝る必要はないだろう。俺の方だって欲しかった情報は殆ど得られなかったんだし。」
真面目なやつだ。今日一日を無駄にしたなどとは微塵も思わないが、それでも思ったよりも収穫が少なかったという結果は残念というより他ない。
「それよりも途中で何度か起きた出来事の方が気になってはいますが。」
識字と魔法の事だな。
「・・・それに関しては俺も驚きだよ。文字が読めるようになるのは、あの状況ならある程度想定内だったけど、魔法は完全に予想外だったなぁ。」
法術と魔法が世界標準規格に統一されるなんて事は全く考えていなかった。理が違うものだと思っていたからなぁ。ただ人種や魔族から見れば同じ様に見えるという事らしい。今まで別のものとして考えていたから、ありがたいとは思うが・・・。いや、もう言うまい。
「そうですか。私は正直法術と魔法の違いが理解できていなかったので、考え方が簡単になって助かりました。」
そうなるかぁ。多数の属性の法術や魔法を扱う事の出来る専門家のヤクモがそう言うのだから、もはや俺は受け入れるしかない。俺も早く慣れよう。
「それよりも・・・少し気になる事が・・・。」
「気になる事・・・。」
「はい・・・。気になるという程でもないのですが・・・。何と言うか、静か過ぎる気がするのです。」
ヤクモの言葉を聞きながら、町を見渡す。確かにその通りだ。かつてはこの町にも喧騒はあったはず。昼ともなれは多くの人々が行き交い、賑わったに違いない。日が沈んでからそんなには経っていないはずだから、真夜中という訳ではないはず。それにも関わらずその名残りも面影も感じられない程の静寂。たとえ真夜中であっても、これ程の町ならば眠らない場所の一つや二つあったに違いない。それが今はその一画が何処であったかも分からない。
「それが不快という訳ではないのですが・・・。少し不自然な気がするというか・・・。」
言わんとしている事は理解できる。俺達以外の魔物の気配が全く感じられない理由は分かるが、微かな虫の音も聞こえないのは確かに不自然な気がする。俺達の暮らしていた森の中でも、俺達のような小さな魔物を襲う大き目の虫・昆虫系の魔物の他に、いわゆる普通の虫や昆虫の類も存在はしていた。分類そのものは虫ではなく魔物だったのかもしれないが。その鳴き声は少なくとも聞こえていた。遠くの方であったとしても俺の耳には聞き取る事が出来た。だが此処ではこの兎である俺の耳にもその微かな音色も届かない。流石に全くの無音という訳でもない。風の音やその風に揺れる木々の葉の音、町の外周を流れる水の音、自然の音は聞こえる。つまり、生き物の気配がしないというのが一番近い表現か。
「そうだな。確かに少し静か過ぎる気がするな。ジュウザ達は普段通り騒がしいが。」
「えぇ、そうですね。この場所の気配は聖域に近い様に感じるのですが、それでもこの不自然さが気になります。」
それはそうかもしれないなぁ。今まで自然の中で暮らして来たんだからな。こんなに建築物に、不自然な物に囲まれていたら、居心地の悪さも覚えるってものだろう。それはヤクモに限らず、モモカやスーアン達他の皆も同じ様に感じているのだろう。
「それはたぶん・・・魔物が暮らす場所ではないからなんじゃないか。慣れない場所だから落ち着かないのかもしれないな。」
「・・・確かにそうかもしれませんね。」
「悪いな・・・。もう少しだけ付き合ってくれ。」
居心地自体はそんなに悪いものだとは感じてはいなさそうだが、それでも慣れない場所に長く留まるのも良くないかもしれないな。あまり長居をせずに、必要最低限の探索をしてこの場を離れた方が良いかもな・・・。子供達の方が早く慣れてしまうかもしれないが。
「いえ・・・おそらくは、大丈夫だと思います。・・・理由は説明しにくいですが、そんな予感がします。曖昧で申し訳ありませんが。」
ふぅむ。ヤクモの事だ、俺の意を汲む事はあっても、俺に合わせてつまらない嘘をついたりはしない。「あぁわかった。ありがとう。」と口角を上げて頷いた。
ヤクモの言う不自然な静けさの他にもう一つ不自然に思える事がある。
この町には無いのだ。勿論、この町にある全ての建物の中を調べた訳でもない。町の全ての場所を訪れた訳でもない。隅々まで隈なく調べて確かめた訳でもない。それでも不自然に思える。
町の通りを歩いていても、一つも見つからない。見つけたい訳でもないのだが、この町に入る時点である程度覚悟はしていたつもりだったんだが。この町の規模を見れば、此処に暮らしていた者達が少なくなかった事は・・・いやかなりの数の人種が暮らしていた事は明らかだろう。その痕跡そのものは眼の前に疑う術を持たない程確かにそこにある。その当時の様相とは違うものになってしまってはいるが、それでもその事実を見失う事はない。
それなのに只の一つも見つける事が出来ないのだ。・・・亡骸を。
先日、あれ程多くの骸骨達を目の当たりにしたのに。一度だけ、たった一人だけではあるが森の中でも出会った事があるにも関わらず。この町にはそれが一つも見当たらない。そこに亡骸があったのではなかろうかと思われる、そのままの状態の衣服や鎧の類などのものも含めて。もし仮にそれが屋外に放置されていたのだとして、風雨に晒され何処かへ拐われてしまった可能性はあるかもしれないが、只の一つもというのはどうも解せない。
そこから考えられる可能性としては・・・幾つか思いつくが、その中でも主要なものは三つ程だろうか。
まず一つ目は、この町の最後の瞬間にこの町に誰も存在していなかった。つまりこの場所を放棄し、どこか別の地へ移動した。避難と言うべきか、疎開と言うべきか。その行き着く先は・・・現在の状況を考えるなら、南のあの大きな教会に・・・か。
二つ目は何か人を襲う魔物又は魔界獣に襲われた。それもかなり強力な。彼等では為す術もない程の。肉は愚か骨さえも跡形もなく喰らい尽くされたか、消し飛ばされたか。
三つ目は街全体の全ての者が、何か得体の知れない現象に巻き込まれ消失した。多少荒唐無稽な話ではあるが、此処はファンタジー、そんな可能性が絶対にないとは言えない。
簡単に思い付くのはこれくらいだろうか。勿論これ以外の可能性も考えられるが、今は取り敢えず置いておこう。・・・でだ。
一つ目のこの町を放棄した可能性。どんなに全員でこの町を離れようと呼び掛けたとしても、どんなに熱心に説得を試みようとも、全ての者がそれに従うだろうか。何処の世界にも頑なに執着したり、老い先短いからと諦め、最後は生まれ育ったこの場所でと首を縦に振らぬ者がいたのではないかと思われる。たとえこの国の王の求心力が俺の想像を遥かに上回っていたとしても、そんな事が可能だったとは考え難い。勿論、只の一人も欠ける事無く付き従った可能性も零では無いが。
二つ目の可能性。・・・おそらくこれは違う。先程ヤクモが指摘した通り、弱くはあるが聖域に似た気配を感じる。この町を魔物が襲撃する可能性は極めて低いと思われる。なぜなら森を出て此処に至るまでの・・・文字通り道程でわかった事だが、消えかかった道ですら通常の魔物は近付くのを避けていた。それが町になれば尚更近付く事はなさそうに思われる。ましてやこの世界でも有数の規模だと思われるこの王都に不用意に近付く魔物がいただろうか。魔界獣の可能性も考えられなくはないが、この世界に出現する魔界獣は極少数だし、それ程強力なものが現れる可能性は極めて低い。魔族にしても、純粋な魔族の殆どはトウオウから聞いた話では、弱者に興味は無いという気質から考えても、むやみに襲うとは考え難い。そしてそんな魔族は此方の世界に逃れて来たりはしないだろう。
そしてなにより、もし何者かに襲われたのなら、ただ座してそれを受け入れたのでないなら、抵抗の一つもしたに違いない。だがこの町にはその痕跡は今の所一つも見当たらない。傷跡がない。争った形跡が見当たらない。むしろそれならば、砕け散った武器や防具の欠片が散乱していてもおかしくはない。もっと町並みが乱れているのではないだろうか。何か大きな力が加わり破壊された箇所などは見受けられない。そして此処で暮らしていた人達を全て跡形もなく喰らい尽くす魔物がいるとも考え難い。やはりこの可能性はかなり無理があるように思える。
そして三つ目の、何か不可解な力によって人種だけがこの場所から消失した可能性。可能性としては考えられなくもないが・・・。それでは、それは何時。それこそ朝だったのか、昼だったのか、夕方だったのか、夜だったのか。現在の町の状況から考えられる可能性は・・・夜、だろうか。もしそうでなかったとしたら、なぜ図書館の鍵は閉められていたのだろうか。町の入口の大きな扉も朽ちてなくなったしまってはいたが、その残骸を見るに閉められていたように思われた。そんな状態にあったとしたなら、それは夜間という事になる。だがはたしてそうだろうか。それでもどんな世界でも、どんな時代でも、全ての者が眠りに就くなんて事はおそらくないだろう。
故にどんな時間帯であったとしても、生活の途中で消失した事になる。だがそうではないように思う。明らかにこの場所を離れる事を決意し、準備を整えたのではないかと思える。意思を持ってこの地を後にしたと言われた方が納得がいく位には、生活感が消えている様に見える。やはり消失の可能性も極めて低い様に思われる。
その答えを知る事は出来るだろうか。一つ目と二つ目の可能性は何らかの記録が残っているかもしれない。明日探索する予定の城の中になら、或いは・・・というぐらいのものだが。もし万が一三つ目だったとしたら、そうだという答えを知る事は出来ないだろう。運良くその消失に巻き込まれずに済んだ誰かが、何処かに記録を残していない限り、突然の出来事を記す事は出来ないだろうから。
王城の前にある広場に天幕を張る。中央に噴水だったであろう大きな円形の建造物がある。流石に水は枯れその機能は失われているが。意図的に機能を停止させたか、それとも時間経過による劣化及び故障か。その姿は少し物悲しい。
寝床を確保するには困らない程、見渡す限り建造物が立ち並んではいるが、経年劣化による倒壊の可能性もある。寝ている間に壁や天井に押し潰されても困るので、広場に天幕を張り夜を過ごす事にした。広さは充分に確保できるし、夜空も綺麗だし。
食事をしながらそれぞれの班の今日あった出来事を話す。ジュウザは嬉しそうに稽古で覚えた事やキンカクがどれくらい凄いかという事を報告してくれた。ただ・・・興奮気味なのと、擬音が多くて要領を得なかった。目を輝かせて話す姿を見るだけで此方も楽しくなるので構わないが。
ロックに今日発見した武器の見本に描かれていた絵を見せ、今度はこんな感じの武器を作って欲しいという相談する。
此処でロックに見せたのは本そのものでは無く、紙に書き写したものだ。本は一冊たりとも図書館から持ち出してはいない。これは俺自信が書き写したものだ。
紙と書くものはクロトが提供してくれたものだ。俺達は・・・少なくとも俺は魔物にその文明を持ち込む事を躊躇っていた部分があるので、何かを書き記す為の道具の製作はしなかった。本音を言えばやってみたい気持ちもあった。本を読む事は好きだし、活字が好きだ。そこになければ、童話でも良いから、知っている話を自分で書く事も考えた。それでも魔物に生まれのならその本分を全うしたかったとも思っていた。俺が進んで文字を使ってしまったら、俺が何者であるかを皆に説明する必要が出てしまうとも思っていた。絶対に隠しておきたいとも思ってはいないが、それでも必要がないなら俺はこのままでいたいとも思っている。俺が転生者で前世が人間だったと事実を打ち明けても関係は変わらないかもしれないが。だが可能ならこのままで・・・魔物ままで、この世界に生まれた兎の俺のままで一生を全うしたいと願っている。・・・だからと言ってクロトの選択を否定しているつもりもない。自分の信念が優先されるべきだ。自分の命なのだから。それがあまりに自分勝手でない限り。
俺が武器の描かれていた本と睨み合いをしていると、クロトが声を掛けてくれた。自分で決めた事を自分で破ろうかどうかを悩んでいる旨を伝えると、「書き写したらええやん。」と簡単に言ってくれた。「その方法がない。」と伝えると、紙と書くものをアイテムボックスから取り出し渡してくれた。紙をわざわざ作ったのかと聞いたら、実演をして見せてくれた。種類は分からなかったが、薪程の大きさに切られた木材を取り出し、それを一瞬で紙に加工した。何の事はない、錬金術だ。紙を作るという発想が無かった分、なるほどと唸ってしまった。そして紙に書くための材料はどうするのかと思ったが、これも結構簡単に答えが出た。炭ならば、それこそ先程同様木材があればいくらでも手に入る。それを墨に加工するのは難しい事ではない。それこそ錬金術を使えば難しい工程は紙同様省略出来る。こんな使い方もあったかと感心する。
紙と書くための細い木の棒と墨汁の様なものを受け取ったは良いが、問題はそれだけではない。自慢ではないが俺には画力がない。画伯とまでは言わないが、茶化すには微妙な感じだ。つまり笑いにくいくらいには下手だ。文字はそれ程酷くはないが。するとクロトが「問題あらへん。そんなもん模写っちゅう技能を取得すればええねん。」と教えてくれた。・・・全く、何でもあるな技能ってやつは。言われるがまま模写の技能を取得する。流石に識字の様に大量の消費は無かった。全部で二千弱位だった。これで問題は全て解決した。
そこから一心不乱に可能な限り武器の絵を書き写した。途中からは、自分が絵が上手くなったような気がしてそれが楽しくなり、必要もないのに、絶対に製作する事はないだろうなという特殊な形をしたものまで書き写してしまっていた。
絵を書き写した紙をひとまとめにし、アイテムボックスへとしまい、使用した道具を返そうとしたのだが、幾らでも簡単に作れるから進呈すると言われた。俺の方も「そうか。」と納得し、ありがたく頂戴した。
クロトに何故この技能と道具が必要だったのかを尋ねた。別に責めている訳でも、批難している訳でもなく、単純な興味本位で。するとそれこそ錬金術で相手に見た事もないものの形を伝えるのに四苦八苦したからだと教えてくれた。納得の答えだ。俺にも心当たりがある。俺の場合は、木片を削り小さな模型の様な見本を作り伝えていた。・・・おかげで木工の技能が9まで上がってしまった。俺には絵を描くより、此方の方が向いていたのだと思う。だから後悔はしていない。・・・していない。正直模型作りは好きだから、嘘ではない。
そんな経緯で取得した武器の見本の絵をロックやハク達と見ながら、これはこんな大きさだとか、これはきっとこんな風に使うのだろうとか、今度これを作ってみようかとか、いろんな事を話した。ロックもこの絵に真剣に見入っていた。・・・良かった、興味の持てるものがあって。それが武器というのは少し不安な感じもしないでもないが、男の子だし健全と言えば聞こえは多少良くなるかな。言い訳がましい気もする。おそらくはもっと純粋で、自分の役目だと思っている事の延長線上にあることだから興味が出たのだとおもわれる。
月の一つが真上に来た頃、会話を切り上げそれぞれの寝床へと向かった。
明日は城の探索だ。今日以上の収穫はあるだろうか。
結果はどちらでも構わない。それよりも探検の方が楽しみだ。だから明日の為に早めに眠りに就こう。




