78、魔法
館内の中央に二列に並んだ長机の上に、棚から適当に抜粋してきた数冊の本を広げ、そこに書かれているものが文字があるであろうものが、全く読めない事を再確認中である。
取り敢えず館内を探索する為に、俺とクロトとハクの三班。そして、この類にあまり興味がなさそうな面子の班に分かれた。後者の班も二班あり、ジュウザやキンカク達の武闘派とサイやキスケなどの町や建造物の方に興味のある者達に分かれて、それぞれに館外を見物している。・・・ジュウザ達の方は広い場所で稽古をしているようだが。町を不必要に損傷・破壊をしないように言ってはおいたが、些か不安ではある。とはいえ、ジュウザの巨体でこの中を動き回られても困るのも確かだが。
サイとキスケを上に乗せたレッドン達は、図書館の扉の造りや彫り込まれた文様などを楽しそうに観察している。
ロックは一番下の段の本を手に取る事もなく背表紙だけを幾つか眺めた後、自分には必要ないと判断したのか、ジュウザ達の方へと合流した。
ヤクモは単独で町を探索すると言ってこの場を離れた。モモカはモモにねだられてジュウザ達との稽古へ同行した。
俺はフタバとトウオウ。クロトはギンカクとアッシュ。サイはスーアンとミナ。この三班で図書館内を探索したのだが・・・。
人規格で作られているので、俺にとってはかなり背の高い机の上に本を開いて置き、同じく同規格で作られた椅子の上に立ち、その開かれた頁を眺め、眉間に皺を寄せている。机の向かい側でもクロトが同様の姿勢で低く唸っている。それもそのはずだ。俺もクロトもお互いに視線の先にあるものは、紙の上に糸屑が規則正しく並んでいる様にしか見えないものだからだ。それが文字である事は間違いないと認識出来るのに、全く読める気がしない。まるでいきなり見知らぬ外国に放り出された様な気分だ。・・・ここはファンタジー、異世界だった。
「・・・こらぁ、あかんね。なんもわからん。」
クロトは額に手を当てて天井を仰ぎ見ている。
「俺もこれは誤算だったぜ。」
まさか転生者の俺達が文字を読む事が出来ないとは思わなかった。認識が甘かったと言わざるを得ない。だがなぁ・・・納得もいかない部分もあるんだよなぁ。自分の能力を見る時は文字が読めるんだよなぁ・・・。仕組みが良く分からない。
「なぁ、アッシュや、シロ爺は読めへんのか。」
隣の椅子の上に立つアッシュと、いつの間にか音も無くクロトの頭上にいるシロマルに尋ねる。
「吾輩には読めんな。」
「申し訳ないのぉ、殿。わしにもわからん。」
「そうなんかぁ・・・。」
そう言って今一度天井を仰ぎ見る。
「おい、言っておくが、吾輩は文字が読めぬ訳ではないぞ。この文字は読めんというだけだ。」
「わしは・・・文字というものがあるという事は、知識としてはあるが、実際に目にするのは初めてじゃ。」
そう言いながらシロマルは初めて見る文字を興味深そうに眺めている。
「こらぁ、困ったねぇ・・・。」
今度は机に両手を突き、開いた本に覆い被さるようにしながら、読めない文字を睨みつけている。
「トウオウは読めないのか。」
今度は俺が南瓜の方の魔王に聞いてみる。
「・・・読めないねぇ。」
「興味があると思ったんだけど・・・無理かぁ。」
トウオウなら或いは、と思ったんだが。世の中は・・・異世界はそんなに甘くないらしい。
「確かに興味はあるけど、それを自力で読み解く事が出来る程の材料には、今まで出会わなかったよ。」
・・・納得だな。それが出来るようになるとすれば、今からって事だな。それもどれ程の時間を要する事になるか・・・。
「あたちも、少ししか、読めない。」
なんですと。頭の上のフタバから思いも寄らない言葉は聞こえた。
「フタバ、読めるのか。」
「読めるのも、ある。でも、意味は、分からない。」
あぁ、つまり・・・読める文字はある。だが文章が読める程ではない。と、いった感じかな。
「そうか。・・・でも凄いなフタバ。」
「凄いのは、梟の叡智。」
なるほど。だがそれでも凄いな。恐るべし梟の叡智。
「しかし、なんで梟の叡智があると、文字が読めるんだ。」
「それはなぁ、イッスン殿。梟の中には、人種と共に暮らしていた者もいたからじゃよ、おそらく。」
そういう事か。飼われていたのか、契約していたのか。その個体が、その昔得た知識か・・・。それでも書物を読み解くまでの知識はない、か。
「これは・・・本格的に詰み、かなぁ。」
クロトと同じ天井を見つめる。
「せっかく苦労して扉を開けたのになぁ・・・。まさか字が読めんとは思わんかったなぁ。どないしようか・・・。」
「鍵を開けたのは俺だけどな・・・。」
実際は構造自体そんなに複雑なものではなかったので、そんなに苦労はしていないのだが。っとまぁ、冗談はさておき。どうしたものか。字が読めるようになる技能は取得できたりしないものかね、セッテさん。・・・世の中は、異世界はそんなに都合良くはないかぁ。
『取得条件を満たしています。取得可能です。技能・識字の取得を推奨します。』
嘘ぉ・・・。苦し紛れの冗談のつもりだったのに。いつの間にその条件を満たしていたのだろうか。そしてその条件は何だったのだろうか。今はそれは置いておく事にしよう。とにかくまずはその技能の取得だ。
『技能・識字を取得しますか。』
迷う理由など微塵もない。お願いします。
『技能・識字を取得しました。』
「ぐぅっっ・・・。」
身体が発光するような事は無かったが、頭に激しい痛みが走る。脳に痛覚があるとは思えないが、それでも脳に何かが突き刺さるような痛みを感じる。視界が白く染まる様な感覚。その後、徐々に視界が回復し、柔らかい灯りの図書館の景色が戻ってくる。
『技能・識字の取得により、従者に技能・識字の効果が共有されました。』
なんですと。ありがたいが、そんなに都合の良い事があって良いのか。・・・いや、それもそのはずだ。技能を取得する為のSPが60万近く減ったよ。膨大だな。どんな技能でも、多くても四桁。しかもそんな技能は数える程しかない。勿論今現在は、だが。そう考えるとかなり重要な技能だったのだと言える。文明の発展を技能で補おうというのだから、当然といえば当然か。それにしても、助かったよ、セッテさん。
『恐れ入ります。また何かありましたら、お声をお掛け下さい。』
ありがとう。・・・それにしても、機能を向上させたとはいえ随分と会話が流暢になったなぁ、セッテさん。自分の事でもないのに何だか少し嬉しい。転生者特典の特殊な機能ではあるが、共に成長出来ているみたいで。
俺は視界が回復したのを確認し、あらためて机の上に開かれた本に視線を落とす。
これもまた不思議な感覚だ。記憶に無い見知らぬ文字なのに読めるし、意味が理解できる。奇妙なものだな。だが、読める。読めるぞ。文字の列を目で追いながら、感動が込み上げて来るのを感じる。
「これは・・・どうやら農業に関する本みたいだな。芋を育てるのに適した土地や、種を蒔く時期に付いて書いてあるな。」
興奮で声が少し上ずってしまう。しかし一年中大きな気候の変動が無いように思えるこの世界で、育ちやすい土地はともかく種を蒔く時期に大きな差があるのだろうか。機構に関しては緯度によって寒暖の差はありそうではあるが。緯度と経度という概念が存在するかは分からないが。
「なぬ。おい、イッスン、読めるんか。」
「あぁ、読める。読めるぞ。たった今読めるようになった。」
「なんでや。なんでいきなり読めるようになるんや・・・あぁそうか。」
お。自分で気が付いた。
「58万ちょっと持ってかれるぞ。・・・それから少し頭に痛みがあるぞ。」
先輩の助言だ。ほんの一瞬だけの先輩の。
「おう、ありがとうな。心構えが出来るわ。」
やはり迷う事なく取得を選択している。当然だな。文字が読めるようになるのなら、そこに甚大な代償が伴わない限り取得を選択するだろうな。
「あるじ様、すごい。あたちも、読めるように、なった。」
フタバも普段以上に高い声で喜びを表現している。
「なにぃ。そら一体どういう事や。」
「んん。それは・・・取得してからのお楽しみ、かな。なぁ、トウオウ。」
「そうだね。せっかくだからボクも何か一冊くらい読んでみるかな。」
そう言って奥の方へとゆっくりと飛んで行った。
「そうかぁ。んなら、わいもいっちょやってみるかな。」
おそらく大凡の事を察したようだ。椅子の上に立ったまま腰に手を当て、何かと呟くように対話を始めた。・・・俺も皆からあんな風に見えている時があるのだろうか。この姿を指摘された事は無いが、多少は気にした方が良いかもな。皆に見られて困る程の醜態を晒しているとは思わないが、ほんの少しだけ変なやつに見える。客観的に見ると分かることもある。
机の対岸からの小さな呻きを聞き流しながら、今頁が開かれているものとは別の本を開く。これはどうやら料理の事に付いて書かれている本の様だ。内容は理解できるし、料理の完成形は想像できるが、不思議な事にあまり美味しそうに感じない。これはたぶん俺が魔物だからだろう。
「あの辺りの棚は、食に関するものが集まってたのかな・・・。」
俺が担当した箇所から持ってきたのでこうなったのだろう。違う棚から持ってきたつもりだったんだが、結構な広範囲を占めていたのだろう。偶然かもしれないが。それでもある程度種類別に分類して並べられているとは思うが。
「・・・で、此方は、と。」
もう一冊は、木材に関するもののようだ。建築に向いた木材はこれ、家具に向いたものはこれ、食器に向いたものはこれみたいな事が書かれているようだ。あくまでなんとなく視線を滑らせて読み取った情報から判断しているだけだが。
対面のクロト達から低くて小さい感嘆が上がる。識字が取得できたようだな。・・・いや、もしかしたら別の技能かもしれない。かもしれないが、その効果が極めて近いものを取得した事は間違いなさそうだ。
「おぉ、ほんまに読めるようになった。」
嬉しそうに歓声を上げながら眼の前に開かれた本をめくっている。
「・・・クロト。図書館では、お静かに・・・だ。」
俺達しかいないのだから、気にする必要などないが、読めるようになって嬉しいのは理解できるが。一応図書館では騒がないのが基本という事で。
「おっと・・・そうやったね。こらいかんわ。嬉しくて、つい燥いでしもうた。」
笑顔でそう言って、今一度開いた頁に視線を向けた。騒いでいても問題は無いだろうが、今日までこの本達を残してくれた先人達への経緯も込めて。そしてやはりこの図書館の持つ雰囲気に騒がしいものは似つかわしくない。自然と落ち着いた気持ちになる。
「・・・興味深くはあるが、今はこれじゃない。ちょっと別のを探してくるかな。」
時間が無限にあればゆっくりと様々なものに目を通したいところだが、我慢だ。今は歴史や地図、魔物や植物の図鑑、欲を言えば法術に関するものがあればと思っている。明日はトウオウの言っていた城内の封印の施された部屋に向かう予定だからな。なるべく重要度の高いと思われる情報を先に集めてしまいたい。全てが予定通りに運ぶとは限らないしな。目指す部屋が財宝の保管された宝物庫だったりしたら、今の俺達にとってはあまり意味のあるものではない可能性もあるからな。
「フタバも好きなものを探しに行ってみたらどうだ。」
俺が今必要としている情報とフタバの興味のある事は違うだろうし。こんな機会はこれから先何回あるか分からないからな。
「あい。」
フタバは高い音の返事をして俺の頭から奥の本棚の列へと飛び立った。そのフタバと入れ替わりでトウオウが奥から姿を表した。その左手には五冊の本が積まれている。どうやって本棚から引く抜いたのかは不明だが器用なものだ。
「随分と欲張ったな。大漁じゃないか。」
「目移りするから、取り敢えず気になるものを全部持ってきた。」
気持ちは良く解る。俺もそうなりかねない。気をつけないと・・・。今は厳選して、時間に余裕が有れば他のものをという形にしないと大変な事になる。
「なぁトウオウ。ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・。」
満足気に机の上に選抜してきた本達を横一列に並べ、どれから手を付けようかと吟味しているトウオウに声を掛ける。
「ん、なんだい。」
目線を本に向けたまま返事をする。
「さっき灯りを点けてくれたのは・・・魔法か。その前に何か呟いてただろ。あれって・・・呪文か何かか。決まった文言みたいなものが存在するのか。」
魔法を使用するのに呪文の詠唱が必要なのだろうか。俺達も少なくはあるが「魔法」も使うことが出来る。だがその際に呪文の詠唱を必要とした記憶はない。ならば何故という疑問が湧いたので聞いてみた。
「おぁ、あれか。あれはそういうものじゃないね。あれはこの角灯に宿っている精霊に感嘆なお願いをしただけだよ。」
「なんですと。その角灯、精霊が宿っているのか。」
「んん、まあねぇ・・・。旅をしている途中で、弱った精霊に出会ってね。その時に勝手にこの角灯に住み着いたんだよ。」
「なるほど。意図したものではないって事か。」
「そうだね。それも三体程ね。ボクから漏れる力で住心地が良いらしくてね。住まわせて上げてる替わりに時々力を貸して貰っているのさ。」
「へぇ。それは面白いな。」
世界に積極的に干渉しなように心がけているトウオウからしてみれば、あまり望ましい結果ではないのかもしれないが、結果的に助けられたのだから、決して悪い事ではないと思う。敢えて追い出したりしないのも、自然の成り行きに任せる辺りがトウオウらしいなと感じる。
トウオウが広げているお店の商品に視線を移す。トウオウが選んだ本がどんなものなのか、正直気になる。表紙に書かれている題名で内容を推測する。・・・建築、紀行文、小説らしき題名のものが二冊、そして人形の図鑑、かな。一番意外なのはやはり人形か。トウオウは人形に興味があるのか。それとも全く知り得ないものだから選んだのか。どちらにせよ知らない事を知ろうとする、知っていく事はとても楽しい事だよな。
「その紀行の本、後で俺も読みたい。」
「わかったよ。じゃあ先に読んでしまおうかな。」
「いやいや、せっかくだから好きな順番で読んでくれ。俺も今から読みたいやつを探してくるから、大丈夫だ。」
「そうかい。じゃあそうさせて貰うよ。さて、どれにしようかなぁ・・・。」
とても贅沢な悩みに挑んでいるトウオウを横目に、最初の三冊を抱え席を離れる。
手早く持っている三冊を元の位置に間違いが無いように丁寧に戻し、本棚巡りを開始する。
背表紙に書かれている題名を頼りに、その本棚に収められている本の分類を推察しながら本棚の谷を歩いて行く。図書館に足を踏み入れた時の状態が嘘のように文字が飛び込んでくる。読めることが嬉しくて、本の題名の意味を読み飛ばしてしまいそうになる。一つ一つを吟味する程の余裕は無いが、どうしても確認したくもなってしまったりもする。久しく味わっていないが、部屋の片付けをしている時に読み始めてしまう漫画のように、目的を奪われてしまそうになる。
「これだから、本は良くないね。」
最高の時間泥棒だ。図書館もだが、本屋も俺にとっては魔の館に等しかった。見つけると素通りも出来ない。入って手ぶらで出てこられた試しがない。
「今は我慢、我慢だ・・・。」
欲望を無理矢理押し込める。大袈裟に言えば、あながち大袈裟でもないが、世界の命運が懸かっているのだからと、自身に言い聞かせ、興味を振り切って別の谷へと足を向ける。勿論上段の本の背表紙もなるべく見落とさない様に気を配りながら。この世界に来てから一番の集中力を発揮していたんじゃないかと思う。
ここは違う、ここは時間があればと足早に本棚を巡る。
「・・・ここだ。」
どうやらこの棚はお目当ての本が並べられているようだ。・・・まずは歴史。国の名前はともかく、創世記的な題名が付いている本の番号の振ってあるものを数冊発見。全部で六冊。・・・出来る事なら全部に目を通したいところだが、どうしたものか。もう少し簡単に記されたものでも構わないのだが・・・。おそらく児童書の様なものは存在していないだろうな。少なくともこの棚には含まれたはいなさそうだな。「一」と振られた最初の巻であろうものと、おそらくその当時一番最近の歴史が記されているであろう「六」と振られた巻を本棚から抜き取る。歴史の繋がりに大きな空白を生んでしまうが些か心苦しいが、今は已む無し。一時的にアイテムボックスに丁寧にしまう。丁寧にしまう事にあまり意味はないが、なんとなく放り込むのは躊躇われるから。
毛皮はあっても髪は無いが、後ろ髪を引かれつつ次へと向かう。次は・・・武器や鎧等のいわゆる武具に関するものが並んでいる。勿論専門家ではないが、偏った知識を標準装備している俺にとっては特別必要という訳でもないか。・・・いや、あの上から三段目にある武器見本図鑑。浮遊を使って近付き背表紙に書かれた題名に惹かれ手を伸ばす。床に戻りその場で手に持ったまま本を開く。
「・・・うん。これは悪くない。」
武器の形状が分かり易く描かれていて、その武器の簡単な説明が添えられている。本当に基礎的な見本といった感じだが、初心者にも理解しやすい。・・・と思われる。俺に基礎の基礎位の知識があるからそう感じるのかもしれないが。全く知識のない皆には難しく思うかもしれない。それでもロックの武器作りの参考になるかもしれない。俺の作って欲しいと思っているものを説明するにも、この絵が実に便利な気がする。・・・確保だぁ。そっとアイテムボックスに入れた。そしてぇ、次だぁ。
そこから幾つかの本棚を巡るが、取り敢えず俺が必要と思っている系統のものは見つからなかった。勿論興味深そうな題名は幾つも俺の視線の動きを奪っていたが。心を鬼に・・・いや修羅にして視線を引き千切って先に進めて行った。だがとある棚で目が留まる。
「魔法・・・基礎、だと・・・。」
魔法。俺達魔物が使うのは法術。魔界獣や魔族が使うのが魔法。人種が使うのは・・・魔法だというのか。これは一体どういう事だ。人種は魔界出身なのか。その可能性は低そうだが。慌ててその棚の本の背表紙を端から確認していく。魔法という表記と法術という表記が存在するのではないかという可能性。だがそうでは無かった。少なくともこの棚には一冊も「法術」の表記を含んだ本は存在していなかった。対面や裏側の付近の棚も駆け足ではあるが確認して回る。それでも結果は覆らなかった。魔法に関する本は裏表を含んで四箇所。その両隣は別の物事に関する書籍の棚だった。魔法と法術関連の書籍が離れた位置に保管されているとは考え難い。可能性として零ではないが・・・これだけ綺麗に分かり易く整理されているこの図書館で、そんな事があるだろうか。これは俺だけで考えても答えが出そうもない。この件に関して何かしらの答えを持っていそうな相手に聞いてみるのが一番だろう。
並んだ二冊を片手に一冊づつ掴み、図書館などでは本来緊急時を除いて許されない行為だが、兎の本領を発揮して皆が待つ長机の並ぶ中央へと跳んで帰る。
「おい、クロト。これを見てくれ。」
クロトの横に並び机の上に今掴んで持ってきた「魔法基礎」と書かれた本を置く。
「なんやぁ、図書館ではお静かに、やなかったんか・・・って、これ・・・。」
題名を見てクロトは俺と同じ疑問に辿り着いたようだ。そして目を見開き驚きの表情を俺に向ける。
「どう思う。」
「どう思う、言われてもなぁ・・・。わいには分からん。」
まぁ・・・そうだよな。
「トウオウ、アッシュ。これをどう思う。」
まずは魔界出身の魔王達に聞いてみる。
「どう・・・とは、どういう事だ。吾輩には質問の意図が分からんが。」
「・・・あぁ、そういう事か。それはねアッシュの。彼等魔物は本来魔法は使えないんだよ。」
本を読むのを一時中断して此方の質問に答えてくれた。
「何を言っているんだ、トウオウの。此奴等は魔法を使っているではないか。」
確かに知らなければ第三者からは同じに見えるだろうな。
「そう見えるだろう。でも違うんだよ、アッシュの。彼等魔物の使うものは、法術と言うのさ。ボク達からすれば同じに見えるけれどね。」
「・・・つまり、似て非なるものという事か。」
「それはどうだろうねぇ。呼び名の違う同じ原理のものかもしれないよ。」
・・・なんですと。その発想はなかった。始めに違うものと提示されていたからなぁ。これは一体どういう事なのだろう。
「まぁ、魔界の法術で魔法ということなんだろう、きっと。」
「それならば、此奴等の使うものは、魔物の使う法術なのだから魔法で良いではないか。」
おっと。それは言い得て妙だな。
「その考えで概ね間違ってはいないぞ、アッシュよ。」
いつの間にか図書館の中に入って来ていたノインがそう言った。共に来ていたコバも「そうだな。」と同意した。
『条件を満たしました。法術と魔法の規格の統一が可能です。規格を「魔法」に統一しますか。』
なんですと。まさかそんな事が起ころうとは思ってもみなかった。クロトと目が合う。どうやら同じ報告を受けたらしい。お互いに何とも言えない困惑した表情をしていた。・・・お願いします、セッテさん。
『承認しました。法術と魔法の規格を統一しました。以後技能の名称は魔法となります。』
・・・釈然としない。釈然としないが、世界統一規格になったことは正直ありがたい。
俺達はどうやら魔法が使えるらしい。やはりここはファンタジー。




