76、城と町で城下町。
「やっぱり、でっかいなぁ。」
腕組みをしながら城門を見上げる。人の身体の大きさを基準に建設されているのだから当然だ。その人の基準から見ても大きいと感じるのだろうから、兎の俺が受ける印象は更に大きい。均一の直方体の石を綺麗に積み重ねた城門だ。綺麗な弧を描き、その当時の職人の技術の高さを伺わせる。扉があった形跡は見受けられるが、おそらく木製だったのだろう、残念ながら朽ちてその姿を見ることは叶わなかった。ただ口を大きく開き何事もなく広大な城下町へと俺達を招き入れてくれるようだ。
その城下町を長い城壁が囲み、今もしっかりと守っている。その規模は昨日見た結界と同等かそれよりも大きいように見える。まさしく王都と呼ぶにふさわしい景観だ。扉の失われた城門から正面に見える城。その城は此処から見てもその姿は、この辺りを治めていた王が住んでいた事は間違い無さそうだ。故にその王城を含めたこの城下町を王都と呼んでも差し支えなさそうだ。
城壁の更に外側は、外敵の侵入を遮るためだろう、幅の広い水路がある。堀ってやつだな。長い時を経て、水は干上がっているものかと思ったが、今も尚何事もなかったみたいに水が流れている。その水は濁っているものかと思いきや、水底が覗ける程でもないが、透明度は決して低くない。小さくはあるが、魚が泳いでいるのも確認できた。これは・・・「人」がいなくなった影響か。自然の自浄作用が働いたのだろう。それはそれで何やら切ない・・・別に特に切なくはないか。俺、今兎だし。
注意はした。だが好奇心の塊のジュウザは目を輝かせながら前のめりで堀を覗き込み、結局落下した。なんとか連鎖捕縛でジュウザの大きな身体を捕まえ、最後はキンカクに協力して貰って引き上げた。サイはサツキやクロト、モモと一緒に笑い転げていたので、仕方なく俺が連鎖捕縛を遣った。予想の範疇内だったのでなんとか笑いを堪える事が出来た。スーアンは「まったくこの子は身体ばっかり大きくなって・・・。」と、実に母親らしい嘆きを呟きながら首を振っていた。引き上げられたジュウザは、本日も何かをする前から泥だらけである。
昨日、白黒の世界に日帰り出張から帰還した後、前日に野営した場所へと向かい、そこに再び天幕を張り寝床を確保した。二つの天幕の中央に火を炊き、その火を囲んで食事をした。そして白黒の世界での出来事を皆に伝えた。
骸骨などの不死者の事。大きな結界の事。その結界に触れた際に何者かと会話した事。そこで得た情報、この世界の残り時間の事。これから俺達がしなければならない事。帰り道で出会った狂乱の首無騎士の事。・・・そしてお互いの活躍の事。俺が電影弾の話を振ったのが発端だったのだが、この話が一番盛り上がってしまった。特に子供達は喜んでいた。
「しかし、絆・・・とは。一体どのようにすれば良いのでしょうか。些か曖昧な気もするのですが・・・。」
ヤクモの疑問も御尤も。その点については、俺もクロトもはっきりとした答えを落ちあわせてはいない。ほんの少し心当たりがあるといった程度だ。
「それはなぁ・・・わい等もようわからん。やけども、や。ちょっと皆も身に覚えがあるんちゃうか。」
「そうだな。今の話を聞いただけではあるが、吾輩もその筋が答えに近いのではないかと思う。」
胡座をかき腕組みをしたアッシュが片目だけを開けてそう言った。ヤクモやモモカ、ギンカクやキンカクもその話を聞いて頷いていた。
「主たまの、臣下、増やす?」
簡単に説明するなら、きっとそれが一番正解に近いと思われる。・・・が、だ。そんな簡単にはいかない。そしてこの魔物の世界でそれがはたして正解なのかは極めて疑問だ。
「フタバよ。それが理想的なのかもしれないが、なかなかそういう訳にはいかないのだよ。」
ノインのその言葉にフタバは「あい。それは、わかる。」と真剣に返事をしていた。・・・そうなんだよなぁ。あるんだよなぁ、食物連鎖。仲間を増やす事自体は可能だろうとは思う。力で従わせる事も不可能ではないだろうが・・・。それで良いとは思えないんだがな。色々と問題があるよなぁ、たぶん。
「今のところ、どうしたら良いか分からん。」
打開策が何も思いつかない。なぜなら情報が少ないからだ。俺達には知識が足りない。どうしたものか。トウオウやノインにその答えを聞いても明確な答えが返って来るとは思えない。今回に限り、トウオウもノインもその答えは持ち合わせてはいないだろうからな。
「どないしようか、イッスン。」
「どうしようかと言われてもなぁ・・・。俺達には情報が足りないと思うんだよ。」
「そうやね。・・・どっかに都合よく落ちてへんかなぁ、情報。」
「都合よく欲しい情報が落ちているかは分からないが、この世界の情報がありそうな場所には心当たりがあるんだが。」
そう言いながら、北へと視線を向ける。クロトは視線を追う。そして口の端を少し上げた。
「なぁるほどぉ。っちゅう事は、明日はあっちに行ってみるか。」
という事で、本日はこの城下町と城を探索し情報を集める為にやってきた。此処になら何かしら情報があるに違いないと思ったからだ。この城下町が、もしかしたらこの国がと言い換えても差し支えはないかもしれないが、機能していたのは遥か昔だから、その情報がどれ程残っているかは分からないが。
南方の白黒の領域の反対側、北部にある大きな城が見える場所を目指し此処まで来た。城に近付いていくと、周りを長い城壁が取り囲み、城下町がある事が分かった。その規模もかなりのものだと言う事も。城壁の外周を掘りが敷かれ、城塞都市である事を教えてくれた。ヤクモ達やギンカク達も驚いたような感心したような声を上げていた。
堀に掛かる石の橋を渡り城門の前に立ち、その城門を見上げている。これだけの時間を経て尚現存し、その機能を維持いているのを見ると、やはり当時の職人達の腕が確かなものだったと感じる。これだけの規模のものを造り上げるのにどれだけの人が関わり、どれだけの時間が掛かったのだろうか。頭が下がる。
城門を潜り城下町を見渡す。・・・兎の視点の高さだと建物の数が多く、その高さも相まって城下町の全貌を確認する事はできない。
「一度この上に登って全体を見てみるか。」
今潜った城門の方へ振り返り見上げる。
「そうやね。わいもこの町を眺めてみたい。」
「丁度あっちに階段があるから、行ってみよう。」
そう言ってゆっくりとそちらへ歩き出す。
「・・・殿。跳べば簡単に登れると思うのですが。」
ギンカクは不思議そうな表情で尋ねる。ギンカクのその疑問にちゃんと答えるのは難しいね。
「ははは。そうやねぇ。でもそれやと風情がない。せっかくの歴史あるこの場所を楽しもうやないか。まだ時間はたっぷりあるんや、そう慌てる事はないで、ギンカク。」
ま、そういう事だね。ギンカクに・・・ギンカクに限らず、俺以外の皆にその気持ちをすぐに理解するのは難しいかもしれないな。トウオウとアッシュは理解できるかもしれないが。
「・・・そういうものですか。」
複雑な表情をしているな。だがクロトと一緒に過ごしていればそのうち理解できるさ、きっと。
「気にするな、ギンカク殿。主殿も良く似たような事を仰る。」
ヤクモが穏やかな笑顔でギンカクに声を掛ける。まったくお互いに自分の右腕に迷惑を掛けているな。
階段を登り始めると、ジュウザとサイは普段通り我先にと先頭を陣取る。その後をモモが一生懸命に追いかけている。やはり規格が俺達にとっては些か大きい。・・・いや、関係があるのは、俺とクロトの兎や、ロックやモモ位なものか。眼鏡蛇勢は問題無さそうだし、その他は身体の大きさが適正に近い者、それ以外は誰かの頭や背中に乗る、又は飛んでいる。この状況だと不利なのは俺達なのでは・・・。当の俺達自信は特に不都合を感じてはいないのだが。しかし、ジュウザはどこでどう汚れるのか不明だが何時も泥だらけだな。この旅の間は先頭を守っていてくれていたので比較的汚れが少なかったが。
城壁の上まで登ると急に空が開けたような気分になる。やはり家屋の高さに思ったより閉塞感を覚えていたのだと感じた。今日も良い天気だ。
「外から見ても思ったが、やはりかなりの広さだな。」
城壁の縁に立ち街を眺める。この高さからなら町は一望できる。広さもだが、その造りもかなり立派だな。真正面には遠くからも良く見えたが、この町の象徴たる見事な王城が鎮座している。町中は住む者がいなくなってしまった所為で所々自然に飲み込まれてしまってはいる。それはそれで神秘的で美しくも見える。
「こらやっぱり、虱潰しって訳にはいかんな。」
当初からその予定ではあった。だがこの規模を見て、その予定は確定になった。本音を言えば、時間が許すなら全ての建物を調べたいところだが、そういう訳にもいかない。これを全て調べようと思ったら十日や二十日では足りそうもない。重要な施設、そこに情報があるのではないかと思われる施設を重点的に調べる方針で進める事にする。
「さて・・・トウオウ。この町は一通り見たんだろ。」
右上にいるトウオウに視線だけを向け、聞いた。
「そうだね。」
トウオウも視線だけを向けて答える。
「図書館はあるか。」
「それは・・・書物の沢山ある建物の事で合ってるかな。」
「そうだ。」
「それなら、たぶんあれだね。城の入口の左にある四角いやつだね。」
あれか。確かにそんな感じの建物だな。どれ程の書物が現存しているか。多少なりとも残っていてくれるとありがたいんだが。
「あるんか、図書館。そんならそこは決定やね。」
前もってこの町を探索する時間は五日と申し合わせてある。だから探索箇所をある程度限定する必要がある。
「他には・・・何処か調べた方が良さそうな所はあるか。城は調べるとして。」
「そうだねぇ・・・。城の中には何かしらの術で扉を封印してある部屋があった。・・・たぶん、この城だったと思う。」
俺とクロトは顔を見合わせ、頷く。
「そこも決定やね。」
「それ以外はどうしようかね。」
町を見渡せば、数カ所に他の建物とは違う造形の特徴的なものが見受けられる。おそらくは・・・教会、兵舎、闘技場、その他公共の施設といったところだろうか。その中には背の高いものもあるので、その影に隠れてここからでは確認できない箇所もあるが。
「そんなら、目立つやつだけでも周ってみるか。わいはあの兵舎みたいなのに行ってみたい。」
「そうするか。」
まるで集団旅行の主要な観光地だけを効率的に巡る道順のようだが、今回はそれが良さそうだ。
「取り敢えず今日は、図書館、だな。明日は城内。他はその後って事で良いかな。」
「おう。それでええで。言うて図書館が今日だけで済むとは思えんけどな。」
・・・俺もそうは思う。図書館と思われる建物の大きさを見ても、とてもじゃないが一日で、ましてや半日で読み切れてしまえる程の量ではなさそうだし。かと言って、あまり長い時間を一箇所に掛ける余裕もない。
「その気持ちは俺にも解るが、そこは我慢だな。」
「せやね。そのせいで重要な所を見逃す訳にもいかんからな。」
全くその通りだ。俺も、そしておそらくクロトも本が嫌いではない。いや、むしろ好きな方だろうから、入り浸りたい気持ちはあるが、今は封印だな。
「アッシュはどう思う。どこかお薦めの場所があったりせえへんか。」
アッシュは急に話を降られ少し驚いている。
「なぜ吾輩がこの町の事を知っていると思ったのだ。」
「そらぁ、あれや。アッシュはこの町に着いた時にあまり驚いた様子が無かったからや。たぶん何度か来たことがあるやろ。」
「流石だな。クロトのには何時も驚かされる。」
呆れた様な、感心した様な顔で、首を振っている。
「どうせお前の事や。軽く観察しただけで、後は何日か休息する為に滞在しただけやろ。」
出会ってからそれ程多くの時間を過ごしてはいないが、俺でもそうなんじゃないかと思うよ。
「どうしてそこまで分かるのだ・・・。」
今度は眉間に皺を寄せて不思議そうな顔をしている。その表情を見てトウオウが
「わいの予想やけどな。たぶんその頃は誰かさんを探す事が旅の目的だったんやろ。他の事にあまり興味が無かったっちゅうのと、文明を調べても、そこに探しとる誰かさんの痕跡はないやろうからな。」
そこまで聞くと、アッシュはついに天を仰いだ。
「アッシュの。悪かった。」
そしてトウオウは天を仰ぐアッシュに謝罪した。
「・・・その件はもう済んだ。」
「そうかい・・・そうだったね。」
彼らにしか分からない関係が少し羨ましくもある。今の俺にそういうものが全く無いとは思わないが、数百年単位の絆はないからな。
「・・・で、お薦めの場所はないんか。」
おっと。俺もクロトの質問を忘れてしまうところだったよ。
「そうだな。クロトのが言うように、あの兵舎と思われる場所と・・・あの円形の大きな建物だな。あれが何なのかは吾輩にはわからんが。」
「なるほど。分かった。ありがとうな、アッシュ。そこには必ず行ってみよう。ええか、イッスン。」
円形の建造物はおそらく闘技場か劇場だろうな。どちらにしてもそこは俺も興味がある。
「勿論だ。じゃあ、大まかにはそれで決まりだな。」
「そやね。ほな、いこか。」
その呼び掛けを合図に俺達は登ってきた階段を下り始めた。
そのまま町の中心の方へと向かっても良かったのだが、申し合わせた様に最初に潜った城門の位置まで戻って来た。そこから真北に真っ直ぐに伸びる大通り。かつては多くの人々が行き交っていたのだろうが、現在はその面影さえ見て取る事はできない。木造の家屋は家主を失いその殆どが朽ち果て倒壊している。石鎚りの建造物も蔦に絡まれ、草に囲まれているものも少なくない。町の中を縦横無尽に張り巡らせてある道も、驚異的な生命力を誇る樹木によって数こそそれ程多くはないが塞がれている。耳が長く長命な森の民が住んでいたと言われても違和感がないと思えるような景色だ。これが失われた古の遺跡だと紹介されたら信じてしまいそうだ。・・・あながち間違いではなさそうでもあるが。
確かに人の暮らしはそこにあったのだろうとは思う。それを失った町を見ても、不思議と寂しさや悲しさを感じない。俺が魔物になってしまった所為なのか、それともこの世界の人類に出会った事がないから実感が湧かないのか。眼の前の光景があまりに前世とかけ離れすぎていて理解が追いつかないからなのか。
「どうかされましたか、主様。」
なんとも言えない表情をしていたのだろう、スーアンが声を掛けた。
「・・・いや、何でもない。何でもない事が自分で少し不思議だっただけさ。」
「それは・・・確かに主様にしては珍しいですね。普段は子供達程ではないですが、色々なものに感動されている様に見受けられましたが。」
この世界で経験する事は、前世で経験してきた事とはまるで違う。だからこそ見るものの殆どが新鮮で、記憶の中にあるものがこの世界に存在する事も驚きで。・・・ただ、そんなに正確に分析されると少し恥ずかしいな。
「俺って、普段そんなに燥いでるかな。」
照れ隠しに鼻の頭を指で掻く癖が出る。
「そうですね。何時も楽しそうにしていらっしゃいます。」
母親の慈愛に満ちた表情で笑っている。
「・・・まぁ、それは勘弁してくれよ。俺はミナ達よりも年下なんだから、って事で。」
「・・・そういえばそうでしたねぇ。普段はその事を忘れてしまいますね。不思議なものです。」
目を少し大きくして、そのすぐ後に楽しそうに微笑んだ。
「子供達より年下の主で不安にならないのか。俺は何時でも替わってやるぞ。」
「御冗談を。それこそご勘弁下さい・・・主様。」
スーアンは両手を胸の前で組み祈るような仕草で小さくお辞儀をした。俺が思うにスーアンが主でも特に問題はなさそうだが。
「そうか・・・それは残念。でも俺が主にふさわしくないと思ったら何時でも替わるからな。何時でも言ってくれ。」
「畏まりました。もしそんな時がありましたら、必ず。」
そんな時が決して訪れないと確信しているような目で俺を見ながらそう言った。
「じゃぁ、それまで頑張ってみるとしますか。」
「ほんならぼちぼち最初の目的地、図書館に行くとしますか。」
多種多様な魔物の集まった奇妙な群がゆっくりと大通りを進む。城壁の上から確認した場所を目指す。
当然だが、人の気配など微塵も無い。それどころか俺達以外の魔物の気配も全く感じない。それでも森の中に唐突に現れた開かれた空間にある古代都市の様な景色に、無機質な冷たさを覚えない。木々の、草木の、草花の、緑の生命力が不思議なぬくもりを与えてくれている。その緑を日の光が美しく照らし、この世界に迫る危機など存在などしないのではないかと錯覚させる。ようやくこの場所をちゃんと感じる事ができて来たようだ。だが仮に人の暮らしが此処にあった時代に同じこの町を見て、同じ様に感動する事ができただろうか。もし俺が人として存在していたら、或いは。今と同じ兎だったとしたら、どう感じるのだろう。そんな事を想像しながら、この世界の文明の歴史の中を歩く。
ハクは文明の集合体みたいな「町」に終始感嘆の息を漏らしながら首を右に左に動かしている。ロックは建物の角や路地の端に駆け寄り視線を下に向け、普段通りの観察活動をしている。フタバはいつの間にか俺の頭の上に立ち、「あれは・・・、これは・・・。」と自分の頭の中の梟の叡智の情との確認作業をしながら呟いている。他の皆も各々初めて見るものにそれぞれの想いと思考を巡らせているようだ。
それに引き換えクロト側の面々は落ち着いたもので、殿であるクロトとモモを除き、静かに歩みを進めている。実に対照的だ。おそらくは興味が無いのではなく、楽しみ方が分からないのと初めての場所に警戒を緩めていないのだろう。やはり俺達に比べ武闘派なのだろうな。そして子供が少ない事も少なからず影響しているのかな。・・・確かに俺達の方は落ち着きのないやつが多いからなぁ。特に・・・敢えて誰とは言わないが。
「しかし、立派なもんやね・・・。」
通りに並ぶ建物の上部を眺めならがそう呟いた。
「途方もない時間と労力の結晶、だな。」
足元に規則正しく敷き詰められた石畳を見つめながら歩みを進める。
「機械もないんやもんなぁ。大変やったやろうなぁ。」
「大変だったとは思うが。この世界には法術があるんだぞ。」
そう、この世界には法術がある。魔界には魔法もある。前世との大きな違いの一つだ。
「おぉ。そうやったね。すっかり忘れとったわ。」
意外と法術を攻撃や防御以外に使う発想が乏しい。特に俺達みたいに知識が偏っていると尚の事。
「技能もあるしな。・・・ま、技能は特技や適正みたいなものではあるかと思うけどな。」
「そうやね・・・。どうも今一慣れへんよな。集めるのは少し楽しいけどな。」
「はは。そうだな。組み合わせとか考えたりするのも楽しいよな。」
お互い男の子だからな。そういうのは決して嫌いではない。だがクロトの言う通りこの技能の制度には釈然としない部分が今でもある。この技能があるから今までこの世界で生き抜いて来られたのも、疑いようのない事実ではあるが。
「あれは・・・何かの店やったのかなぁ。この通りにはどんな店が並んでたんやろうなぁ。」
見えるはずもない過去の情景を探すみたいに、細い目を更に細めて通りを見つめている。
「見てみたかったか、クロト。」
「うぅん、どうやろうねぇ・・・。ただ、皆で買い物してみたかったなぁと思うてな。きっと楽しいやろうなと。わい、そういうの行った記憶が殆どないねん。」
おっと。これはあまりに無神経な質問をしてしまったな。この次に掛ける言葉を思い付かない。
「おおっと。すまん、イッスン。変な感じにしてしもうたね。わいは今ちゃんと幸せや。ただ仲間達とあれが欲しい、これが欲しいって騒げたら楽しそうやと、純粋にそう思っただけや。だから気にせんでええよ。」
「わかった。そうする。・・・これからも、そうする。」
逆に気を使わせてしまった。前世の時間で換算するなら倍以上も生きてきたであろうのに、なんとも情けない先輩だな。
「・・・わいは今の言葉が一番嬉しい。ありがとうな。」
本当に嬉しそうに満面の笑みを俺に向けた。
「・・・礼を言われる様な事じゃないさ。」
鼻の奥が何だかつんとしたので、そっぽを向きながらそう返した。それが俺の精一杯の抵抗。
そこから暫くの間、会話が途切れた。それは不快な沈黙ではなく・・・。
本日の目的地の扉の前に立つ。その扉は何かしらの法術が施されているのだろう、微かにその気配を感じ取る。それは封印の類ではなく、おそらくこの扉を含むこの図書館であろう建物の保存をするような耐久を補助するようなものと思われる。その証拠に扉が木造にも関わらず、現存している。数百年もの時を経ても尚。今の所その仕組や方法は全く理解できないが、素晴らしい技術だな。
「これなら、中も大分期待出来るな。」
「楽しみやね。」
さて、この扉は素直に開いてくれるだろうか。
俺とクロトは左右に分かれ、両開きの大きな扉のそれぞれに手を掛ける。




