72、千と五百
何か身体に異常を感じたらすぐに手を引くつもりで慎重に手を伸ばし、その掌が結界に触れた瞬間だった。確かにそこに目では捉え難いが、薄く透明な壁が存在するのだと認識する暇もなかった。
『・・・ひき・・・かえ・・・せ・・・。』
男性の声とも女性の声とも取れるような声が頭の中に響く。技能の思念伝達とは違う、どちらかと言うとセッテさんと会話をしている時に近い感覚だ。
「っ・・・。今のは・・・。」
慌てて結界から手を話し、隣のクロトに首ごと視線を向ける。
「なんや・・・。」
おそらく俺も同じ様な顔をしていただろう、驚きの表情を俺に向けていた。
「お前にも聞こえたか。」
「引き返せって言うとったな。」
引き返せ、か・・・。その声や意思に悪意は無かったように感じる。ひとまず身体が真っ黒焦げにならなかったのは一安心だ。
「どないする、イッスン。」
「そうだな・・・。素直に従っても良いとは思うが、理由ぐらいは聞いてみたいかな。」
「それはわいも聞いてみたいわ。ほな、もう一回触ってみよか。」
「会話は、出来る・・・よな。」
「そら、分からんわ。あちらさんの言葉は、取り敢えず理解できてるはずや。」
仰る通り。もう一度やってみるしかないか。軽く頷き合い、再び結界に向けて手を伸ばす。
結界の向こう側の骸骨が視界に入ると気が散るので目を閉じる。
『ひき・・・かえせ・・・うさぎたちよ・・・。』
おや。俺達を兎だと認識していらっしゃる。さてどうやって話し掛けるかな。セッテさんと話す時と同じ要領でやってみるか。
「引き返すのは構わないが、理由を知りたい。」
『まだ・・・たりない・・・。』
どうやら声は届いたらしい。
「足りない。何がや。わい等の力か、それとも何か特別な道具でも必要なんか。或いはもっと別の何か、か。」
俺の聞きたい事の大半を質問してくれた。会話の方法も同じ発想に至ったらしい。
『・・・ちから・・・が・・・まだ・・・たりない・・・。』
思ったよりはっきりとした答えが出たな。俺達の力が足りない、と。
「なるほど。・・・ただ、此処から感じる力は、全く敵わないって程じゃないように思えるが。それでも足りないと。」
『・・・げんざいは・・・わたしが・・・なんとか、おさえている・・・。』
そういう事か。何者かは分からないが、この声の主が元凶の力を抑え込んでいるから本来の力より小さく感じると。
『けっかい、で・・・ちから、も・・・しゃだん・・・されて、いる・・・。』
「なっ・・・。二重に壁があるって事かいな・・・。それでこれか。確かに足らん気がしてきたわ。」
同感だね。どうやらこれは素直に一度引き返した方が良さそうだな。
「会話が遠いのは、結界とその何かを抑え込むのに力の大半を使っている影響と考えて良いか。」
『・・・そのとおり、だ・・・。』
それ程の相手って事だよな。それ程知識がある訳ではないが、これだけの大技を維持しつつ俺達と会話をするという高等技術をやってのける事の出来る者が力の殆どをその相手に割いているって事だからな。
「そいつを抑え込むだけやったら、結界は無くてもええんちゃうか。そしたらもう少し楽になるんやないか。」
「それはぁ・・・どうかなぁ・・・。」
先程高い位置から中を覗いた時に気が付いたんだが、あまり深く考えないようにしていたんだよ。あまりにうんざりするような光景だったので見なかった事にしたんだけど。あれってやっぱり現実なんですよね。
「あぁ・・・なんとなく分かった気がするわ。ごっついのがぎょうさんおるんやな。」
「御名答。」
平均的な身長の骸骨の集団の中に、頭一つ飛び出ている個体もちらほら見えたが、それは生前の個体の体格差程度のものだろう。問題はそれ以外のものだろう。通常の個体の三倍程の巨体の骸骨の姿も確認できた。魔物のものと思しき骸骨の姿もあった。おそらく熊や馴鹿のものもあったように思える。考えたくもないが、骨にまでなってあの強さだったとしたら面倒くさい事この上ない。そして、問題は骸骨では無かったが、あの色合いがはっきりしないから判別は難しいが、あの大きな教会の半分程の巨大な石像のようなものが動き回っているのも見えた。始めは教会の装飾だと思ったんだけど・・・違った。
「そら、今はこの中にいてもらった方がええかもな。」
「俺もそう思うよ。」
今度来る時は皆で来るのが良いかもしれないな。おっと。未だ誰だか判明していないが、まだ聞きたい事があるんだった。質問に戻ろう。
「この結界は・・・あなたが張ったものか。」
『そう・・・だ・・・。』
「それは・・・ここの場所に誰も近付けない為にか。それとも、この大群を外に出さない為か。」
『・・・りょう・・・ほう・・・だ・・・。』
うん。予想通りの答えだ。
「・・・その割には、ちらほら結界から骸骨が出できてもうてるけど。それはええんか。」
「たぶんあの大き目の奴等を外に出さないようにしてるんじゃないか。」
クロトの指摘通り先程観察していた感じ、時折結界から染み出すように骸骨が出てきていた。中はまるで休日の若者の街のように骸骨がひしめき合っている。それに押し出されているのではないかと思われる。
これだけの規模の結界を維持するだけでもかなりの力を要するだろう。となるとあの大きな個体を中に留める為にある程度通常の個体は致し方ないとしたのだろう。言うなれば、完璧な結界を維持し続けるよりも、多少目の大きい網にした方が長い時間維持できると判断したのではないかと思われる。答えが合っているかは分からないが。
「そら確かにそのやばそうな奴等が、あの骸骨共と同じ行動をするとしたら・・・あかんね。」
「たぶん同じと考えるのが自然かな。生き物を無差別に襲う以外に何か世界に影響はあるのか。」
謎の声の主に尋ねる。
『・・・ふじょうな・・・りょういきが、ひろ・・・がって・・・しまう・・・。』
不浄な領域が広がる・・・か。言葉が途切れ途切れなので、正確に頭の中での変換が出来ているかは分からないが、概ねこんなところだろう。
「骸骨はそうじゃないっちゅう事ではないやろ。」
「それくらいは致し方ないって事なんだろ。出来るんならやってるさ。」
「こら・・・すまん。今のはわいが無神経やったわ。」
『・・・そとに、もれて・・・しまう・・・ものなら・・・ごく、しょう・・・きぼだ・・・。』
なるほど。現在の程度なら領域の拡大速度はごく小規模で済んでいるって事なのだろう。この状態になってどれくらいの時間が経過しているかは、今の所分からないが、それでもこの規模で済んでいるとするなら・・・かなりこの結界の効果があると思われる。
「・・・もしかして、あの骸骨は日の光に当たると・・・つまりこの不浄の領域から外に出ると、消滅したりするのか。」
『・・・・・・その、とおり・・・だ・・・。』
・・・ん。変な間があった様な気もするが。これはたぶん偏った知識による推察が当たっていた事に驚いた間だな。・・・まぁいいか。話を先に進めよう。
「つまり、領域が広がる可能性は・・・主に夜、で合っているか。」
『・・・そのとおり・・・だ・・・。』
それなら確かに拡大速度はかなり抑えられるな。あの骸骨には無軌道に徘徊する姿を見る限り、意思は無さそうだからな、自主的に領域を拡げようにとはしないはずだ。となると夜の間に意図せず領域を拡げてしまうのだろう。速度も獲物が近くにいなければかなり鈍そうに見えるしな。
「この不浄な地は、何か世界に影響はあるんか。今の所わい等には・・・影響は無さそうなんやけど。」
そう言われてみれば確かに、何か不都合な影響を受けている感覚はないな。・・・少し不用意にこの地に足を踏み入れてしまったかもしれない。この旅の目的地が目の前にあって逸ってしまったか。体調は整えたが、準備そのものが充分だったとは言い難い。反省しないとな。
「いや・・・骸骨達の行動範囲が広がるんだから、充分悪影響はあるだろ。」
「そうかもしれんが、この程度なら、ちょっと強い魔物なら問題なく戦えるんちゃうか。」
「弱い魔物が淘汰されちゃうだろ。大問題だろ。」
「食物連鎖が崩れてまう・・・か。大問題やね。」
・・・そういえば、この状態で普通にクロトと会話が出来てるな。目を閉じてるから姿は見えないけど、気配は感じる事は出来る。確かにそこにいる事は分かる。見えないがクロトの身振り手振りまでもが見えるようだ。そして謎の声の気配は・・・遠くの方に、今にも消えそうな小さな光の点みたいなものだと思われる。
「ま、つまり、結局は何時かはこの状態をなんとかしないとこの世界に未来はない、と。」
「・・・そういう事になりそうやね。」
放っておけば何時かは世界が全てこの白黒映画のように染まり滅びる・・・生き物のいない世界になってしまうのか。
「じゃぁそろそろ行くかね、クロト。」
「そうするとしようか、イッスン。」
「最後に一つ聞いておきたい。・・・この結界は後どれくらい持つ。」
俺達に残された時間を尋ねる。その答えによっては、既に詰みという可能性もある。それならば・・・今ここでこの声の主の提案を無視して無謀に近い賭けに出るしかない。
『・・・せん・・・ごひゃく・・・にち・・・。』
おそらくは一日単位での正確なものではないだろう。多少の前後はあるだろう。・・・千五百日か。およそ五年・・・いや、この世界ではおよそ二年半って所か。
「思ったより、あるようでない感じやね。」
俺も同じ感想だよ。我が家の森からここまで来るのにだって数日掛かった。前世の頃のように一日で世界を半周もできる程の移動手段は無さそうだからな。・・・今の所。
「だけど絶望的な残り時間でもなさそうに思うが。」
見積もりが甘くなければ良いんだが。まぁとにかく全く何も出来ない程ではなさそうで一安心か。楽観的でもいられないが。
「そうやね。一応今日までと同じ位はありそうやからな。そう考えると結構なんとかなるかもしれん・・・か。」
「何か・・・いい方法や助言はないかな。」
楽をしたい訳ではないが、あまり悠長な事を言っている場合でもないかもしれないからな。困った時の切り札ぐらいは持っておいても良いとは思う。
『・・・きずな・・・を、むすぶ・・・のだ・・・。より・・・おおく、の・・・ものたち・・・と・・・。」
絆を結ぶ・・・。なんとも曖昧な答えのようで、今までに自分の身に起きた事を思い出すと、心当たりもあるから、納得もいく。
「なるほど。絆が力になるっちゅう事やね。響きは悪くない・・・が。」
野生にあって、そう簡単にはいかないだろうな・・・と。
「ありがとう。出来るかどうか判らんが、やってみるよ。」
「ほな、そろそろお暇しようや。思いの外長居してしもうて、申し訳なかったな。」
確かに。何者かを押さえ込みつつ結界を張り、そのうえで俺達との会話をしていたんだ。声が途切れてしまう程の離れ業だったのだろう。それを結構な長話に突き合わせてしまった。悪い事をしてしまったな。
『・・・この、ような・・・こと、に・・・まき、こんで・・・しまって・・・すまない・・・うさぎたち、よ・・・。』
結局正体は分からずじまいだったが、謝罪をされてしまった。
「気にせんでええよ。・・・わいは、自由に動き回れるこの世界が気に入っとる。やから、やるだけやってみるわ。ごっつぅ強うなって帰って来るわ。」
「そうだな。俺もこの世界は気に入ってるからな。今の家族も大切だしな。それに・・・全力で生きるって最初に決めたからな。やれる事は全部やってみるさ。」
『・・・ありがとう・・・。』
「そいつは・・・そいつをやっつけた時まで取っといてくれ。」
「せやね。まだ世界は救ってへんからな。・・・ほな、またな。」
クロトのその言葉に合わせて俺は、結界から手を離し目を開けた。隣のクロトに視線を向けると、クロトと目が合った。
「そいじゃ、帰るか。」
「帰るまでが遠足やね。」
俺達は同時に結界を背にするように振り返った。
どれくらいの間話をしていたかは分からないが、それ程長い時間ではなかったと思う。それなのに、これか・・・。
「俺達、随分と人気者だな。出待ちの方が沢山だ。」
「そらしゃあないんちゃうか。兎は可愛いからなぁ。」
随分と周りを囲まれてしまっている。此処に来るまでの間に、目の間を通過しつつ置き去りにして来た骸骨もかなりの数になる。領域に侵入され俺達に気付いた骸骨達が、ゆっくりとではあるが追いかけて来たらしい。その挙げ句に、とてもじゃないが連携があるとは思えないが、それでも連鎖のようなものも存在するらしく、大量の骸骨に完全方位されつつある。魔物でも魔界獣でも魔族でもないが故に、この不死者達の気配は上手く掴む事が出来ない。
「思ったより長い距離を走って来とったんやなぁ・・・。」
何も考えずただひたすらにこの場所に向かって、なるべく最短距離を全速力だったからな。特に移動距離そのものを考えてはいなかった。
「思えば遠くに来たもんだ、ってやつだな。」
と余裕をかましているようではあるが、この数は正直面倒臭いな。さて、どうしたものか。
「どないする、イッスン。」
「蹴散らして道を作るしかないとは思うが・・・どうするかな。クロトはどうしたい。」
俺の間合いに入った骸骨の足を蹴り払って転倒させ拳を突き込んで止めを刺しながら答える。少なくとも俺達には多少なりとも骸骨達を蹴散らして進むしか選択肢はないのだが、その蹴散らす規模をどうしようかという相談である。
「そうやね・・・。わいの気持ちとしては、なるべく多く蹴散らして帰りたいかな。」
それは決して悪い提案ではないと感じる。この骸骨が不確実ではあるが、この世界を白黒に染めているらしいからな。ここで最大限撃破し、その進行をできる限り遅らせる為にも此処で可能な限り数を減らすのは良いかもしれない。微々たるものでしかないとは思うが。だがなぁ・・・もう少しちゃんとその数が、或いは分布のようなものが把握出来ると助かるんだけど。・・・あれ、そういえば、骸骨を数体蹴り飛ばした後に、セッテさんから新しい技能が取得が可能になった旨のお報せがあった気がしたな。決して無視した訳では無く、俺自身最終決戦に望むような気持ちだったが故に、現段階で新技能を増やして混乱するのを避ける意味合いが大きかったので後回しにしただけだ。で、だ。その新技能って、もしかして・・・。
技能取得画面を横目で除きながら骸骨を蹴り飛ばす。
「クロト。技能だ。新しい技能を今すぐ取得しろ。俺も取得する。」
「おう、分かっとる。わいも今気が付いたわ。」
骸骨の右腕を掴み、引き寄せ自身の右拳で撃ち貫きながら答えた。良かった、クロトもほぼ同時に条件を満たしていたようだな。
・・・それではセッテさん、お願いします。
『技能・不死者鑑定を取得しました。』
『技能・不死者感知を取得しました。』
ありがとうございます、セッテさん。『恐れ入ります。』ポイント自体は・・・流石に天文学的とまでは言わないが、かなりの量所持しているからな。特に逡巡する必要はない。欲しい技能は一通り取得済みだしな。勿論現在取得出来る技能の中での話でだが。セッテさん、Lvを最大にしてしまって下さい。『了解しました。』
急に感じる気配が増えて、少し酔ったような感覚になるが直ぐに立て直す。これで骸骨達の気配をちゃんと感じ取ることが出来るようになった。そして確かに後方の気配は結界に阻まれ、俺達を取り囲む数と比べてかなりの大群にも関わらず強く感じない事が確認できた。
「ぬぅ・・・。分かるようになったのはええけど、思ったより多いなぁ。」
クロトの言う通りだ。思っていたより大分多いな、というのが正直な感想だな。ごく一般的な骸骨の他に、それよりも少し強い気配もちらほら確認出来る。これはやっぱり本当に数を減らしておいた方が良さそうだな。一体づつ相手をするのは実に効率が悪いな。わかり易く言うと、凄く面倒くさい。なんとか一気に蹴散らす事は出来ないだろうか。広範囲の敵を吹っ飛ばすような技は、基本的に持ち合わせていないんだよなぁ・・・。何と言っても法術と魔法が不得意だからな。単純に巻き込むくらいの芸当は出来なくもないとは思うが、転倒させる位で撃破するには至らないだろうし・・・。
「仕方がない。クロト、蹴っ飛ばしてやるから、回転しながら浮け。」
「は。何やねん、急に何言うとるんや。」
うん。確かにこれだけでは解り難いか。クロトならなんとか汲み取ってくれるかなと思ったが、ちょいと唐突過ぎたか。
「ほれ、東方で不敗の黒兎。後から蹴っ飛ばしてやるから、竜巻でも何でも良いからそれを纏って顔を前にして浮け。」
ここまで言ったら、クロトの目が煌めいた。口角が上がっちゃった。良かったよ、俺が思い描いていた必殺技がちゃんと伝わったようでなによりだ。
「俺は蹴りの方が得意だから、本家とは違うけど、それは勘弁してくれ。」
威力を最大限にする為には、俺の場合は蹴りの方が良いと判断した。
「かまへんかまへん。わいだけじゃでけへん技や。・・・感謝するで、イッスン。」
「そいじゃ、準備しろ。その間少し時間を稼いでやるから。」
急に提案されて、それに使用できる技能を都合良く取得しているとは限らないからな。新たに取得する時間を俺が稼がないとな。
「すまんな。はな、少しの間頼むわ。なるべく早う準備する。」
クロトは結界の方へ少し下がり、結界を背に立ち技能取得画面を高速で繰り始めた。
「さて、骸骨共。少しの間俺に付き合って貰うぜ。」
二三度その場で小さく飛び体勢を整える。
この骸骨達の注意を俺の方にだけ向けさせるのは思いの外簡単で、個別の認識範囲に入ってしまえば勝手に此方に釣る事ができた。
「行動の規則が単純で助かるよ。」
目の前に近寄っては少し離れ、クロトとも距離を保つ。一旦、付近の骸骨達の気を引きクロトに近づかないようにする。個別に相手をしている間に別の個体がクロトの方に向かわないように。動きが鈍いので、注意が一度俺に向いてしまえばゆっくりと此方に向かって来る。その後俺の立ち位置を定め、そこに接近してきたものを一体づつ確実に相手をすれば良い。動きが鈍いとはいえ、数は少なくないから、ゆっくりしてもいられない。クロトにこの技を持ち掛けたのは俺だ。その責任は取らないとな。
足を前後に開いて、重心を下げる。程良く脱力して目を少し細める。深い呼吸を一つ。そして自分に言い聞かせる、思い出せ、と。お前も師範にならないかと言われた頃の事を。あの頃の多数を相手に立ち回る為の稽古を。確か、その話は俺に誰かを指導する才能はないと、丁重にお断りしたと思う。俺の記憶が確かなら・・・だが。本音を言えば、単純に自信がなかったんだと思う。その割には、この世界では弟子を取って、一緒に稽古をする事になるとは。不思議なものだな。・・・一番不思議なのは、転生したことだが。
ーー《白兎流合気術・白兎円舞陣》ーー
骸骨の振り下ろされる腕を掴み、その力を利用してひっくり返し大地に叩きつける。そのまま大地に落ちた骸骨の急所に突きや肘打ちを叩き込む。一つ撃破しては、次の骸骨の足元に滑り込み同じ事を繰り返す。最短距離で。最小限の力で。無駄なく。
一つ投げる度に身体が思い出す。あの頃の身体の動きを。あの頃の稽古の日々を。あの頃の感触を。師範方の教えを。共に稽古に臨んだ仲間達への感謝を。
奇しくも人の骨との手合わせで、倉庫の中にしまい込まれて埃を被っていたものをもう一度この手に取り戻す事ができた。まだ完全ではないが、そのきっかけを得た事は確信できる。勿論、合気に相手の止めを刺す技などない。あくまで合気は相手を制するものであり、致命の一撃を伴うのは此処が命懸けの戦場である為であり、俺の独断でしていることであり、本来の合気ではない事は許して欲しい。
何体の骸骨を投げ飛ばしたかは分からない。止めを刺す度にその場で灰と化して風に消えていってしまうので、その数を数える事ができない。それでも・・・一通り付近の骸骨達を薙ぎ払い、辺りを見渡す。そして散っていった亡骸に感謝の礼を一つ。
「待たせたな、イッスン。準備完了や。」
後方から妙に明るい声がする。そんなに嬉しいのか。ま、俺の方が発射台の役ではあるが、楽しみじゃないと言ったら嘘になる。
「そんなに待っていたつもりはないが・・・。」
そういえばどれくらいの時間が掛かっていたかは意識していなかった。
「・・・って、目の前にいた骸骨がおらんようになっとるやないか。」
「一応、クロトの邪魔にならないようにと思ってな。で、大丈夫なのか。もっと落ち着いて考えても良いんだぞ。」
「大丈夫や。」
「せっかくだから、慎重に選んだ方が良いんじゃないか。」
「これで問題無い。ほんまの事を言うと、前々からこんな事があったらええなと思って、考えてはいたんや。その技能の候補を片っ端から取得したった。」
嬉しそうに右手の親指を立てて拳を突き出した。満面の笑みで。
「そうか。・・・なら俺達の新技で此処を突破して帰ろうか。」
「ほな、いっちょやったりますか。」
全く、嬉しそうな顔しやがって。まぁ・・・きっと俺も同じような顔をしていたのではないかと思われる。
それじゃぁ、始めようか。




