73、狂乱
おかしい・・・。俺の方に注意を引き付けた骸骨はあらかた投げ飛ばし大地に叩き付け、数を減らしたつもりだったんだが・・・。その要因は今の所全く分からないが、ゆっくりと俺達を取り囲む様に骸骨共が接近してくる。まぁ、これから数をできるだけ減らそうってんだ、此方の方が都合が良いとも言える。
「しれじゃあ、言ってみようか。・・・構えろ、クロトぉっ。」
クロトと立ち位置を入れ替え、今度は俺が結界の近くへと移動する。勿論、儀式に則ってそれっぽい台詞を叫びながら。俺とすれ違うクロトの顔は楽しそうだった。些か不謹慎な気もするが、その気持は俺にも分かる。
「ほな、始めるでぇ・・・。」
始めから決められていたかのように、配置に納まる。流石だな、良い位置取りだ。
「ついさっき取得した新技能のお披露目や。」
さてクロトはどうするつもりなのかな。俺の無茶振りにどう答えるつもりなのだろうか。以前から想定はしていたみたいな事は言ってはいたが。
「黒兎法術拳・竜巻旋風刃・纏。」
クロトを中心にしてその周りを法術の風が回り始める。その風に乗るようにして浮き上がる。そこまでは良いんだが・・・クロトさん、その後どうするおつもりなのでしょうか。そのままでは俺が蹴っ飛ばして前に飛ばしても、俺の想定していた技とは違うものになってしまいますよ。
「続いて、旋風圧縮。」
縦に細長い竜巻が圧縮されクロトの身体の周りに集まっていく。おぉ、首が外に出たまま風の塊みたいになったぞ。なんか蓑虫みたいだな。更に、どういう原理かは分からないが浮き続けている。この辺りは俺の知らない技能の類だろう。まさか旋風を圧縮する技能があるとは思わなかったよ。しかし兎大の蓑虫くらいの大きさではそれ程広範囲の骸骨を巻き込めるとは思えないんだけど・・・。きっと何かクロトには思惑があるのだろう。おそらく・・・たぶん・・・きっと・・・。
「で・・・こうやって、と。」
お、クロトの体勢が傾いていく。どうやってるのかは分からないが。そろそろ地面と平行になりそうだな。俺も助走をする為の距離を取る為に結界の方へと下がる。左の踵が結界に触れる。おっと、これ以上は距離が取れないか・・・。この距離では些か心許ない。だが問題無い。ほぼ垂直に近い結界を登れば良いだけだ。もう触れても声は聞こえない。となれば、見え難いただの壁に等しい。そしてそれは、俺にとってはただの地面の延長線に等しい。この期に及んで気が付いたが、この結界に阻まれないという可能性が完全に選択肢から漏れていたな。なぜ始めから侵入を拒否されると思っていたのだろうか。結界というものに先入観があったんだろうな。
「よっしゃ。じゃあそろそろ行くぞ、クロト。」
結界を駆け上りながらクロトを見ると、体勢が整ったであろう事が確認できた。眼下にクロトが映る位置で立ち止まる。
「よっしゃ、待たせたな。何時でもええで。」
クロトの両方の足の裏が此方を向いている。さて、あいつを蹴飛ばせば良いんだな。うぅん、しかし小さい的だなぁ。俺の足も同じくらいか、文句も言えない。それに俺から言い出した事だからな、やってみせるさ。
「じゃあ、始めようか。」
息を大きく一つ吸い込む。結界を一気に駆け降りる。大地に帰還したがそのまま走り続けて、稼いだ距離の分の加速度を上乗せしながらクロトへと接近する。
「流星黒兎拳・奥義。」
走りながら叫ぶ。単騎ではできない技だから、技の名前も複合にしてみた。此処だと判断し、大地を蹴り跳び上がる。
「超級兎王っ。」
クロトの小さい両足に向かって、そこに重なる様に自分の両足で此処までの距離で付けた勢いを乗せて蹴りつける。
そして同時に叫ぶ。共通認識の中から導き出した答えは見事に一致する。
「「電・影・弾っっっ・・・。」」
ーー《流星黒糖拳・奥義・超級兎王電影弾》ーー
俺に蹴り出された黒い兎の弾丸は、発射された直後に元の巨大竜巻の姿に戻った。なるほど圧縮を解除したのか。地面に平行な竜巻を初めて見たよ。俺達に向かって群がって来ていた骸骨達が竜巻に巻き込まれ、飛び散っている。奇しくも相手は不死者、技としてはまるで始めから決めていたかのようだ。但し・・・どの辺りに「電」の要素があるのか不明だが。俺が雷撃を追加しても良いんだが、それだといよいよ電影弾と言うよりは超電磁な感じになってしまいそうだ。
クロトを蹴り飛ばし発射台の役目を終えた俺は、蹴り飛ばした反動を利用して後方へ宙返り着地した。その際、右膝を付き、左腕を折り曲げ胸の前に、右腕は真っすぐ伸ばし、その両方の指先をやや上方へ向けるような姿勢を取ってしまった。さながら特撮の見得を切ってしまったような状況だ。後方で火薬の特効が爆発でもしていそうだよ。意図してこの姿勢になってはいないし、誰かに見られている訳ではないが、我ながら少し恥ずかしい。心なしか、骸骨達にも白い目で見られているような気がするよ。
気を取り直して顔を上げると、丁度クロトのの竜巻が元の大きさに戻る瞬間だった。その竜巻が前後に伸び、その後方部が俺の方へと迫って来る。その事を理解するまでにほんの少し時間が掛かった。
「・・・のわっ、やばっ。」
最早脊髄反射に近い反応だった。全力で左へ跳躍したのは、おそらく癖だろうな。我ながら良く反応できたと思う。まさか味方の攻撃が一番危険だったとは思わなかったよ。・・・自業自得の感が強いな。もう少し離れないとまだ危険かな。そして早く追いかけないと此処に取り残されてしまう。とは言っても相手は俺の速度を上乗せした弾丸だ。俺が全力で走っても簡単には追いつきそうもない。仕方がない。今まで使う機会がなく図らずも温存していた技能のお披露目といこうか。その場で一つ小さく跳び上がる。
「技能・高速。」
そう呟いて地面を蹴りつけて前方へと走り出す。この技能、実はかなり前から取得はしていた。快速の上位の技能と思われる。正直に言おう。この技能、別に隠していた訳ではない。これまでの間、快速の技能だけで充分事足りたからである。これを取得したのはこの旅に出でから。いざという時の為に保険のつもりで。取得したのは良いが、この旅で見かけるものや出来事が思いの外多く、試す機会がなかった。・・・というのは言い訳で、楽しくて忘れていたというのが本当のところだ。
「いやっ・・・こ、れはっ・・・。」
これ以上は、息が・・・できない。快速の時もそうだったが、俺の予想の上の速度が出る。という事は現段階では曲がる事もできない。自分の足なのに制御できない。できないが、明らかに快速より速い。先程まで離される一方だったクロトになんとか喰らいついていけているみたいだ。
凄まじい砂煙を上げながら、そして俺の車線上にいる骸骨を弾き飛ばしながら、直進する。駄目だ、俺の身体が持たない。徐々に速度を落としなんとか止まる。どちらにしてもクロトに近付き過ぎたら俺も電影弾に巻き込まれちゃうからな。っていうか、クロトの奴何処まで飛んで行くつもりなんだよ。・・・止まれないんじゃないだろうな。まさか、な・・・。
「今回はっ、これくらいにっ、しといたるわっ。」
なんだぁ、纏っていた竜巻を下に叩き付けたのか。前方から、それこそ台風並みの強風が灰色の砂塵と共に吹き付ける。なんとか両腕を顔を覆い目を細めてクロトを探す。あいつ、まだ空中に留まったまま何かをしようといているのか。
「せっかくや、爆発もおまけしたるわ。」
お得意の爆炎系の法術と思われる大きな球を自分の真下に放った。
「ちょっ・・・。」
この技の締めくくりとして、そうしたいのは理解できるが。これはまずい。クロトの方も俺が接近しているとは思っていないだろうから、仕方のない事ではあるが。それに俺が逆の立場なら、俺が弾丸の方だったならば、似たような事を考えただろう。
「よいしょぉっ・・・。」
最大出力近い力で垂直に跳び上がる。
「危なかった・・・。」
浮遊で上空で立ち止まり、満足気に決めの姿勢を取っているクロトを見下ろす。かなり派手にやったな。辺り一帯が骸骨達と一緒に吹き飛んだな。流石に大幅に地形が変わる程ではない様に調整はしていたみたいだ。一仕事を終え着地をしたクロトを確認して、辺りを見渡しながらゆっくりとそこへ降下していく。
「満足したか。」
俺の声が頭の上から聞こえ、少し驚いたような反応をし見上げ俺の方を見上げた。
「・・・大満足や。で、なんでそないなところにおるんや。」
「お前の爆発を避けたんだよ。」
「そらすまん。せやけど、これをやらん訳にもいかんやろ。」
「それはそうだな。不用意に近付いた俺が悪い。」
「にしても良くあの速度に付いて来られたなぁ。わいには無理やね。」
「初めての技能を使ってみた。」
「ぶっつけ本番でか。・・・イッスン、思ったより大胆やね。もっと慎重なやつやと思ってたんやけど。」
「普段はもう少し慎重に振る舞ってるつもりだ。今回はあんまり距離が離れるのはよろしくないと思ったからだ。」
「思ったよりは蹴散らせんかったなぁ。もう少し軌道修正ができたら良かったんやけど。」
確かに。今の一撃で・・・削れたのは全体のおよそ十分の一程度だろうか。あらためて気配を察知できるようになってみると、その数の多さに驚く。残りの期限が千五百日あるとはいえ、俺達が感じている以上に事態は深刻なのではないかという印象を受ける。
「さてクロト。帰る前に少し数を減らしたいと思う訳だが、どうしようか。」
簡易的な作戦会議を始める。此処から撤退をする前に・・・そのついでにこの不死者の数をできるだけ減らしたい。欲を言えば、半分か、それ以上・・・。
「そういえば・・・聞き忘れたな。」
不死者の数を半減させる為の算段をしながら、今一度周囲を見渡す。
「何をや。」
「いや、あの声の主が誰だったのかって事と・・・この骸骨共を勝手に無に帰してしまって良かったのかって事を、だ。」
そんな事があるのかどうかは知らないが、この不死者の絶対数が決まっていたり、数を減らすことで強力な個体が生まれやすくなったり、囚われた魂が正しく浮かばれないなんて事があったりしないかという不安が過った。声の主の正体に関しては、できれば知りたかったという程度ではあるが。
「確かに。既に幾らかやってもうたけどな。なんか不都合があったら大変やね。どないしようか。」
「ま、もしそんな事があるとしたら、さっき言ってたとは思うが。」
そんな重要な事があったのなら、止めて欲しいと伝えていたはずだ。
「・・・あの声の正体か。神様かなんかちゃうか。」
冗談混じりにクロトは笑う。
「俺もそう思う。」
その冗談に乗っかって笑う。この世界に神様なるものが存在するのならば、そんな事もあるだろう。先程結界内に見えた建造物が教会で合っているならば、神を祀る文化自体は存在していたのだろう。
「きっと偉い魔法使いかなんかやろ。どちらにしても、神様みたいなやつなんやろうな。」
そうだな。たった一人でこの世界の滅びを抑え込んでいるのだとするなら、それが何者であったとしても尊い存在なのは間違いないだろう。
「で、どないしよか。・・・まずは、やるかやらへんか、か。」
議題としてはそういう事になるな。だが俺の中では答えはほぼ決まっている。クロトの同意を得られるかはわからんが。そしてあまり迷っていられる状況でもない。
「俺としては・・・できる限り数を減らして帰りたいってのが本音だ。」
焼け石に水かもしれないが、それでもほんの少しでも滅びの時間を遅らせる事ができればと。無駄な抵抗かもしれないけど、俺の時自己満足かもしれないけれど。そのほんの少しの差が、最終局面では効いてくるかもしれないからな。あくまで可能性の話だが。
「ほんなら、やるっちゅう事やね。・・・ええんちゃうか。」
「そんな簡単に判断して良いのか。」
「かまへんかまへん。そうした方がええと思うんならやった方がええと思うで。後んなって、やっておけば良かったっちゅうのは、わいの性に合わん。」
クロトの前世での話は詳しく聞いた訳ではないが、それでも俺よりもその言葉に説得力があるように感じる。
「そうか・・・そうだな。やらずに後悔するより、やって後悔した方が良いか。」
クロトは優しい笑顔で頷く。
「ほな、決まりやね。ほんなら次はどうやって数を減らすか、やね。あんまり悩んでる暇はなさそうやけど。」
クロトの言う通り、またゆっくりとではあるが骸骨達が俺達に向かって集まって来ている。どういう仕組なのかは不明だが、今集まって来ているもの達の認識範囲に入った記憶はないんだがな。発生場所が一つならば、可能性としては全ての個体が統一意思のようなもので繋がってるみたいな事は考えられるが。依然として推察の域は出ないが。
「さっき上から見たんだけど、結構な数が集まってる場所が幾つかあった。そのうちの二つ三つをって感じかな。」
「うん、それでええんちゃうか。言うても帰りがけの駄賃やからな。」
「それは良いんだけど、ちょっと懸念材料が・・・。」
「なんやねん。」
「そのうちの一つに、だな。明らかに様子のおかしいのがいたんだよなぁ・・・。」
骸骨の集団の中に、二周り程の大きな影を見た。骸骨の中にあって白くもない影を。たぶん全身鎧を着用している個体と思われる。何やら大きい獲物を携えて、馬のようなものに騎乗しているものと思われる個体を。生前は騎士の類だったのか。
「そうかぁ・・・。そいつは厄介そうやね。どないする。無視するのも一つの手やけど。」
クロトの言う通りだと思う。無理をして強敵を相手にする必要もなければ、敢えて危険を犯す必要もないとは思う。
「だがなぁ。通常のより強力な個体だとするなら、放置するのもいかがなものかなと。」
多少なりとも数を減らそうといているのに、あの個体をこのまま野放しにしておいたら何の意味もない可能性もある。
「そうやね。わいもそいつはやっつけておいた方がええような気がする。」
どうやら同じ様な結論に至ったようだ。そのうえで今ここで撃破しておいた方が良いという判断になったのだろう。
「イッスン、他におらんのか、今叩いておいた方が良さそうなやつは。」
「軽く見渡した感じでは・・・あれだけ、かな。」
おそらく強力な個体はあの結界からはそう多く脱出はできないのだろう。その結界の網の目を擦り抜けたか、或いは丁度擦り抜けられてしまうくらいの個体だったか。
「ほんなら、最低でもそいつだけは、いてもうたろう。」
「だな。そうしよう。・・・あっちだ。」
顎と目線で指し示す。俺達の意見は一致した。なら決まりだ。
「あそこの集団か。ほな、ちゃちゃぁっとやっつけますか。」
「それは良いけど、まずは此奴等の相手だな。蹴散らしながら進むか。」
「よっしゃ。さっき時間稼ぎして貰うたからな。今回はちゃんと働くで。」
あれだけ骸骨を蹴散らしておいて随分と律儀なやつだ。そんな事気にしなくても良いのに。余程満足したのだろう。
「まぁそう言うなよ。一緒にやろうぜ・・・っていうか、俺にもやらせろ。どうせ今は俺達しか戦力がないんだし。」
「そやね。いっちょやったりますか。」
近寄って来た骸骨を掴んでは投げ飛ばしながら集団の方へと進んで行く。ここからは体力の配分も考えないとな。これから相手にしようといている個体の強さも計算できないし。倒すだけじゃなく、皆の所にちゃんと帰らないといけないからな。
「クロト、あんまり飛ばし過ぎるなよ。」
思う存分身体が動かせて多少興奮気味に暴れているクロトに声を掛ける。
「・・・おっと。すまん。楽しくてちょいと冷静さを欠いとった。」
「おう。家に帰るまでが遠足、だろ。」
片方の口角を少し上げてそう答えながら、投げ飛ばした骸骨に膝を落とす。
「せやね。」
と言いながら右の拳で骸骨を砕きながら答えた。
「・・・今一まだ気配の感覚が上手く掴めないな。」
徐々に近付いて来る白い集団を見ながら、自分の感覚と実際の目で確認できる数の誤差にもどかしさを覚える。そして思っていたより数が多い。
「そらしゃあないやろ。ついさっき取得した技能や。こういうのは慣れや。」
仰る通り。こういうのは慣れるしかない。今は気配があるという事が分かるだけでもありがたい。
「おぉ、見えてきた。・・・って、おい。」
接近してみて分かった。気配の強さは確かに他の骸骨に比べて強く感じるが・・・それよりもだ。あれはおいそれと手を出して良い相手ではなさそうだ。
「あれは・・・やばいんちゃうかぁ。わいは初めて見たわ。」
そうりゃそうだ。俺だって初めて見る。それこそ前世の記憶をどんなに探ってみても、思い当たる節は全く無いね。それがたとえ記憶の欠落していたとしてもだ。
「俺もだ。前世でもお目に掛かった事は無い、はずだ。」
骨の馬に跨った騎士。大分劣化してはいるものの馬もその騎士も鎧を纏っている。細長い騎士槍と盾を持っている。だが何より問題なのは・・・その騎士の頭が、首から上が無い事だ。いわゆる、首無騎士ってやつだな。
「これはやらなあかんよな・・・。あれだけならまだなんとかなりそうやけど。ちと数が多い気がするな。」
取り敢えず鑑定をしてみるか。・・・間違いなく首無騎士だな。ひとまずそれは良い。不死者にも種類がある事は分かった。だがそれ以上に驚くべき事実があった。
「こいつ・・・個体名があるぞ・・・。」
「なんやと・・・。名前付きなんて、わい等以外に出会った事ないんやけど。どれどれ・・・。」
その名前を見て更に驚きが増す。デュラハン・デ・ラ・マンチャ・・・だと。この世界にラ・マンチャなる土地があるのかとか、なぜこんな名前が付いているのかなど色々と疑問が湧いてくるが、それどころじゃない。
「これは・・・まずいかもしれないぞ、クロト。」
「そらどういう事や。この名前に何か問題でもあるんかいな。」
この名前に何か意味があるのだとすればだが。そして意味があるのだとすれば、この首無騎士はかなり危険な存在だと思う。クロトは読んだ事が無いのか。
「クロト、ドン・キホーテって知ってるか。」
「おぉ、名前くらいは知っとるけど・・・。それがどないしてん。」
やっぱりか。この世界にドン・キホーテが存在していたとは考え難いが・・・可能性が零でも無いかもしれない。全く同じ物語があったとか・・・これも可能性としては薄そうではある。
「セルバンテスが書いた物語なんだけど・・・。内容は・・・知らないよな・・・。」
ここで作者まではあんまり関係なかったか。本はあんまり読まない方だったか。
「そうやね、わいは読んだ事は無いな。わいは火村先生が好きやってん。」
おぉまさかここで推理小説が出てくるとは。
「有栖川有栖か・・・。面白いよな。ってそんな場合じゃない。」
「そうやった。わいが知ってるのは・・・風車に向かって戦いを挑んだって事くらいやね。」
大分序盤の場面だね。これも今はどうでも良い。が、それも今心配している材料の一つではある。
「そう・・・。ドン・キホーテの話を大雑把に説明するとだ・・・。」
大幅に省略し、この名前の意味する所の何が問題なのかを伝える為に物語の説明をする。
「つまり、ドン・キホーテってのは狂乱の騎士って事だ。」
酷く乱暴な説明で申し訳ないとは思うが、今はこれで勘弁してもらおう。
「ほぅそれで、それがどう繋がるんや。」
「ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。それが主人公の正式な・・・まぁ正式な名前だ。」
限られた時間で必要な事を伝えるにはこれが限界だ。心の中でセルバンテスに手を合わせ謝罪する。後でクロトに記憶にある限り正確に説明するので、それで許して下さい。
「本気か・・・。それってかなりやばいんちゃうか。」
「そうだな・・・。この名前があの首無騎士の特徴を現すものだったらな。」
そうでない事を願いたいが、おそらくそんな事はないだろうな。
「あいつは狂乱の騎士。おそらく見境なしに暴れるんじゃないか。あいつにとっては敵も味方も関係ない。」
俺達を敵と見定め向かって来てくれるなら、その方が楽だろうな。無差別に暴れまわる相手と戦うのはかなり難しい。特にそんな奴が大群の中にいるとなると尚更だ。
「・・・こら、大分気を引き締めんとあかんな。」
「そうだな。相当集中力を使いそうだな。」
どちらにしても現在、少数ではあるが接近してくる骸骨達を捌きながらの会話だ。あらためて体勢を整えるのは少し難しい。このまま行くしかない。なんとか呼吸を整えながら集中力を高めてゆく。
「イッスンは器用やね。わいも見習わないとな。」
俺の気配が変わったのを察したのか、クロトの気配も変わる。流石だと思うが、年長者からの助言を一つ。
「クロト、呼吸に気を付けると良いぞ。自分の集中しやすい呼吸方を見つけると良いぞ。」
「呼吸法・・・か。やってみるわ。ありがとな。」
「じゃあ、さっさと片付けて帰るぞ。」
「おうよ。」




